株式会社NTTぷららが運営する映像配信サービスの「ひかりTV」は、11月10日よりHDR/HLG(Hybrid Log Gamma)に対応した4K-IP放送の生中継を開始した。第一弾は、11月10日から13日の4日間、東京ドームで開催された、野球「侍ジャパン強化試合」(対メキシコ/対オランダ)の4試合。本中継は「ひかりTV」の「ひかりTVチャンネル 4K(104Ch)」にてIP放送された。「ひかりTV」では昨年(2015年11月)より、HDR対応4K-VOD作品の提供を開始している。それに加え2016年10月24日より、HLG方式によるHDR対応4K-IP放送を開始した。

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昨年のInterBEEの会場では、スカパーJSATが実証実験として、HLG方式のHDR映像を衛星経由でライブ伝送しソニー社製の民生用ディスプレイに再現したが、今回のように商用の光回線を通じた放送サービスでHDR/HLGの生中継を行ったのは、世界初となる(NTTぷらら社調べ)。

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HDRにはPQとHLGという2つの伝送方式が存在する。PQ(Perceptual Quantizer)方式には、HDR-10、Dolby Visionなどがあり、ディスプレイに依存する。対して、NHK/BBCが共同開発したHLG方式は、従来と同様にカメラ側に依存するため、生放送にも対応できる、放送向きの方式といえる。信号を受信機によって分けて用意することなく、HDR/HLG対応ディスプレイにはHDRで、HDR/HLG非対応のディスプレイには、従来のSDR(スタンダードダイナミックレンジ)で表示させることができる特長を持つ。

HDR/HLG対応の民生用テレビとして現在、「ひかりTVチャンネル 4K」で放送しているHDR対応番組を視聴できるのは、東芝製(東芝映像ソリューション)の4KレグザZ20Xシリーズのみである。本モデルシリーズは、10月に東芝がリリースした最新ファームウェアを搭載(ファームアップ)することで、ひかりTVのHLG方式放送に対応する。

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中継車から配信までのシステムフローを説明するNTTぷらら 技術本部 部長の宮里系一郎氏

今回の「侍ジャパン強化試合」の生中継の現場では、球場内に設置された7台のSONY HDC-4300で撮影(S-Log)され、中継車でライブプロダクションが行われた。4KもHDも同じカメラオペレーションのこと。ひかりTV-4K用のソースはコントリビューションエンコーダでH.264方式で圧縮され、ほかのエンコードソースと一緒に束ねて、NTTのネットワークサービス「IP回線」経由で有明データセンターへ伝送される。データセンターにて、本サービス用のHDR対応HEVCストリーミングフォーマットにエンコードし、送出設備からエンドユーザへ配信する。4K放送の送信ビットレートは約30Mbpsで映像ビットレートは25Mbps。中継車からのソースはHDにダウンコンバートされ、HDサービス(Ch102)のほうでもIP放送で生中継された。

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10日および11日の試合は、実サービスを通して、HDRとSDR放送をサイド-バイ-サイドで視聴できる場がNTTぷらら社内に設けられた。会場には、2台の東芝製4Kレグザ50 Z20Xを並べ、実際の生放送でSDRとHDRモードの違いを体験できた。中継現地では、視聴者側と同じ環境を揃え、ディスプレイを通して実際の見え方を確認しながら、撮影側の調整をその場で行っているとのこと。NTTぷらら社からは、6名の番組制作スタッフが現場に出動しており、運用の様子を逐次、視聴会へ伝えてくれた。

SDRとHDRの映像表現について、視覚、特に光覚は人によって違いはあるだろうが、今回の野球中継では、HDRの明るい部分の階調を意識している絵作りを感じた。一方、SDR側のディスプレイでは、HDR側と比較すると、赤や緑といった色が暗く、全体的に沈んだ色彩で映し出された。HDR側のディスプレイには、「ひかりTV 4K」ロゴやスコア表といったオーバーレイされたオンエアグラフィックスが、非常に明るく、エッジがはっきりと表示されていた。

また選手達のユニフォームのディテールが、色のコントラストのおかげで、フィールド全体に引いたシーンでも、細かい違いが視認できるまでに表現されていた。現場スタッフからは、通常よりカメラの絞りを1つ開放しても白飛びがなく、ユニフォーム素材の質感の違いや縦じま模様がよく見える、という声が入る。ジャパンのユニフォームの白を、きれいに出すために調整をしている、という。また、メキシコチームの選手ヘルメットは黒に近い紺色なので、黒光りとして(黒として)見えないよう、その場にいれば判る色の違いを精確に表現できるように、駆使している。

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「HLGの性能を満たせる絵を撮りつつ、SDRでは、いかに従来のLUT(ルックアップテーブル)に収められるかという、技術要素としてはチャレンジがある」と語る、NTTぷらら 技術本部 ネットワーク管理部チーフエンジニアの土井猛氏

今回の東京ドームという屋内では、人工芝生という反射光がひどくなる角度やポジションが発生する。シーンによって自動調整するような仕組みは成されないため、現場でのカメラオペレーションは更なるテクニックが要求されることかと思う。中継では、記者会見シーンといった、事前に収録して編集されたカットもはさまれていた。背景が白ベースのスタジオセットにおいて、ライティングも、HDRを意識したものを今後検討するべき、という説明もあった。中継車内は4K対応のシステムで運用されており、インスタントリプレイやスローモーション時はSDR信号で送出されているとのことだったが、今回の視聴会で使用された東芝製ディスプレイを通して観た場合、違和感は全くなかった。

今回の視聴会で使われた4KレグザZ20Xシリーズには、映像処理エンジン「4KレグザエンジンHDR PRO」が搭載され、映像のエリアごとに画素単位で適切な超解像処理を実施する機能や、「アドバンスドHDR復元プロ」という色域復元処理を行う機能に加え、コンテンツに適した映像を再現するための様々な画質調整を自動で行える技術が備わっている。これらディスプレイ自身の映像処理技術のおかげで、今回のSDR側での再現でも、またHDR側でスローモーション時のSDRの切り替えにおいても、画質アップ能力を発揮してくれたに違いない。

今回の初HDR中継となった「侍ジャパン強化試合」は、生中継後に同チャンネルで再放送を予定しているほか、HDR対応4K-VOD作品として提供を予定している。尚、「ひかりTV」サービスは、11月16日から千葉・幕張メッセで開催される国際放送機器展「Inter BEE 2016」において、NTTグループ3社の展示ブースでHLG方式対応装置を用いた動態展示が行われる(ホール6/No.6509)ほか、エレメンタルテクノロジーズ社の展示ブースで、HDR/HLG対応番組コンテンツとして展示協力をする(ホール7/7307)。

(ザッカメッカ)