txt:尾上泰夫 構成:編集部

ATEM Miniシリーズの違い

ATEM Mini(左上)、ATEM Mini PRO ISO(左下)、ATEM Mini Pro(右)

ATEM MiniATEM Mini Pro(以下:Pro)、ATEM Mini PRO ISO(以下:ISO)と、矢継ぎ早に登場したATEM Miniの兄弟達で、ラインナップは充実してきた。一見すると、ボタンの数や印字されている製品名の違いだけだが、価格は2倍、3倍ほど違う。

初めてスイッチャーを触る方には、どれを選べば良いのか迷うところだろう。ATEM Miniは、カジュアルなソーシャルネットワークのためのデバイスとして登場した。個人の方も、プロの方も重宝する便利ツールとして認識されてきたと思う。

登場以来、いくつかの現場でATEM Miniを使用した感触から、筆者の独断と偏見で使い分けの提案をしてみたいと思う。しかし、これはあくまでも私の使い方であって、一つの事例としての意見である。「自分の場合は違う!」という諸兄もおられることを理解している。こんな、考え方もあるという情報として参考にしていただけたらと思う。

一言で表現すると。

  • ATEM Miniは「スイッチできるキャプチャーデバイス」
  • PROは「スイッチできる配信エンコーダー」
  • ISOは「スイッチできるパラレル・ルックの収録機」

それぞれの機種を現場での使用感や特筆すべき部分を紹介しよう。

ATEM Mini PRO ISOの場合:スイッチングとパラレル・ルックの収録

前回ではISOの全入力記録について記したが、4入力で収まる現場には重宝することだろう。これにカメラ本体での記録を組み合わせるとバックアップとしても安心だと思う。特に同社のBMPCC(ポケットシネマカメラ)を利用する場合はカメラ側へもタイムコードが送られて記録するので、撮影後にRAWデータとの同期も簡単にできるのはありがたい。

記録されたファイルを見ると、Blackmagic RAWのフォルダができているのを確認できると思う。そこにコピーして入れておけば、簡単だと思う。

気をつけたいのは、エンコーダー品質が配信設定と同じという点だ。つまり、70Mbpsなどの高品質記録をしたい時には、配信は別の機器で実施する必要がある。残念ながらプロの現場的には実績の乏しい方法なのと、素材が4本で収まることもないので、まだ本番では使ったことはない。収録方式がVBR(バリアブルビットレート)というのも、慣れていないのかもしれない。

ATEM Mini Proの場合:スイッチングと配信エンコーダーが特長

筆者的には今日までに一番多くの現場を共にした機種だ。YouTubeなどへLAN経由で配信する単独のエンコーダーやTeams、Webex、zoomなどの会議システムに別のスイッチャーからのプログラムアウトをパソコンへ送り込むUSBキャプチャーデバイスとしての利用、またはプログラムの収録として活用している。

その中から、エンコーダーや収録機として利用した学会の配信の現場の例を紹介しよう。6カ所の講演室で同時に様々な発表が行われる現場で、その講演ごとに異なるイベントとして配信のストリームキーを入れ替え、ふた絵を切り替える運用が必要だった。

ご存知のようにATEM Miniはメディアプールからメディアプレーヤーに静止画を入れ替えたり、ストリームキーを変える作業は、同じネットワークに繋がるパソコンでATEM Software Contlolから実行する必要がある。今回、会場でカメラと演者パソコンを切り替える操作と、音声の管理は若手のスタッフにお願いした。

しかし、配信の管理やふた絵の切り替えなどを各所で行うことは、慣れないスタッフにはさすがに無理があるので、ネットワークで繋がった会場のスタッフ控え室にコントロールの卓を置き、遠隔で各会場のATEM Miniの面倒を筆者が行うことになった。

基本的には配信を開始して、講演が始まる前に収録を開始する。次に表示していたふた絵を、講演の間に終了のふた絵に切り替える。講演が終われば収録を停止して、配信も停止。休憩中に、次の配信イベントへストリームキーを変えて配信先を変える。

この操作を6会場で、講演時間が微妙に変わるところを合わせて延々、粛々と行った。結果的に2日間、数多くの講演を無事に安定して配信、収録することができた。

プリセットされた配信先が少なすぎると相談を受けたが、以下のファイルを管理者権限で書き換えれば、独自に項目を追加することができる。

下記の場所にある「Streaming.xml」を編集すればよい(Macの場合)。

/ライブラリ/Application Support/Blackmagic Design/Switchers/Streaming.xml

Windows 10だと、以下にある。

C:\Program Files (x86)\Blackmagic Design\Blackmagic ATEM Switchers\ATEM Software Control\Streaming.xml

さて、現場は大規模な遠隔会議と番組として、ウェビナーへのクローズ配信の例も紹介しよう。この現場ではATEM Mini ProがUSBでパソコンのカメラクラスとして接続し、会議システムの優先表示として閲覧してもらう画面を提供する。

HDMIでモニター出力のマルチビュー表示を確認できること、パソコンに送り込む音声レベルを目視確認できることは大変重宝する。しかも、別にパソコンなどを繋いでおかなくてもcautionのふた絵(しばらくお待ち下さいetc)を持っておけるので、緊急時に独立して速やかに蓋をして上流の対策をできる環境は安心感もある。

さらに、ATEM Miniのスイッチャーとしての機能を活用して、演者側のミーティングに接続しておく方法もある。フロアDを映すカメラ入力を入れておくと、本線リターンへ割り込んで手書きのカンペや手の合図などの制作コミュニケーションが簡単に取れる。プログラム本線にPinPでフロアDをカメラで映して、指で出番のカウントを伝える際に重宝している。

ここで注意しておきたいことは、USB Type-C TO Type-Aのケーブルの品質と、パソコンのUSBポートとの相性である。ATEM MiniはUSB2.0で、たいていのパソコンと問題なく認識される。

ATEM Mini Pro、ISOに関してはUSB 3.1 Gen1である。ここで、お使いのパソコンのどのポートがGen2(10Mbps)で、どれがGen1(5Mbps)なのかを確認しておく必要がある。せっかくの高性能なUSB Gen2でも、認識しなかったり、不安定な動作を経験されたら、そのUSBポートを確認し、Gen1のポートへ差し替えることをお勧めする。

また、USBケーブルの品質にも敏感なので、充電にしか使えないようなケーブルは要注意だ。認識問題でお困りのときには、ケーブルを変えて試してみることをお勧めする。

ATEM Miniの場合:手軽にスイッチング

シンプルなだけに安定した働きをする。ATEM MiniでもUSB2.0接続のパソコンでカメラクラスを利用して遠隔会議システムに利用するパターンが多かった。遠隔会議システムに接続して簡単にソースを切り替えられる便利さは、番組のライブプログラムのリターンだけではないのだ。リモート先の演者が手元カメラに切り替えたい、他の書画カメラなどを利用したい、数人のカメラを切り替えたいなどの要望を簡単に実現できる。ATEM Miniのソーシャルスイッチャーとして、発言者が自ら好きなカメラを選べるのが最も光る場面ではないだろうか。

変則的な使い方だが、筆者はATEM Miniの下にATEM Mini ProをHDMIで繋ぎ、7入力、2MEのスイッチャーとしてコスパの良い運用もしている。

ご要望のシーンに最も似合い、コストパフォーマンスの良いATEM Miniを選んで欲しいものだ。

おのりん(こと 尾上泰夫)|プロフィール
映像に関わり47年。テレビの報道取材がフィルムからビデオに替わった初期のテレビで、報道、スポーツニュースをカメラマンとして過ごす。その後、制作に興味を持ち旅番組の演出を担当。さらにモータースポーツの中継番組からメーカーのプロモーション映像、大型展示映像などを手がける。インターネットでのIP動画配信でカジュアルな映像機器がもたらす動画の可能性を感じて、より小型でシンプルなシステムを啓蒙してコンテンツホルダー向けのコンサルティングや、発信する組織、個人に向けた動画の学校を主宰している。

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txt:尾上泰夫 構成:編集部


Vol.01 [ATEM WORLD] Vol.03