NHK技研公開2009~テレビの進化は止まらない

去る5月21日から24日、東京都世田谷区のNHK放送技術研究所(NHK技研)において「技研公開2009」が開催された。その模様をフォトレポートで紹介していこう。

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1958年に技研が開発した国産のカラーカメラ1号機NHK1型カラーカメラ。3本のイメージオルシコンという撮像管が使われている

今年で63回目となる技研公開の今年のテーマは、「テレビの進化は止まらない」で、「放送をもっと身近に、未来の技術」、「クローズアップ地デジ」「放送の未来」、「豊かなサービス」、「制作の高度化」などいくつかのゾーンに別れ、研究成果37項目あまりが展示された。

NHK技研は、1930 年6月に設立され、戦後の1950年4月、放送法などの電波三法が成立。戦前の無線電信法が廃止され、新しく特殊法人日本放送協会と電波監理委員会が生まれた。これにより技術研究がNHKの業務として明確に位置づけられ、現在に至っている。こうした歴史的経緯もあり、展示の内容はかなり高度なものが多いのだが、一般の人たちにもわかり易いよう、展示の内容や方法など様々な工夫がされている。筆者が始めて技研公開を訪れたころは、大学の研究室のような趣であったが、一昨年から「Laboちゃん」なるイメージキャラクターまで登場するなど、老若男女を問わず様々な人たちに積極的にアッピールする姿勢が感じられた。これは、数年前に問題になった受信料不払いに対する施策のひとつなのであろうか。

NHK技研では、BBC、RAI、IRT、EBUといったヨーロッパ公共放送の研究機関との連携やITU、ABU、EBU、SMPTE、AES、ISO/IEC、ARIBといった標準化機関への参加なども行っているが、技研公開ではほとんど触れていない。こういう地味な活動も重要な社会貢献であり、技研公開は一般の人たちに知ってもらう良い機会ではないかと思うのは、大きなお世話であろうか。

ちなみに、2006年から渋谷のNHK放送センターで一般公開されるようになった「番組技術展」は、現場の創意工夫から生まれた技術やアイディアをもとに開発されたシステムや機材を紹介する場であり、技研公開のように基礎技術や将来的な放送技術の展示とは異なる。

一般来場者に人気のある体験型展示

取材日が土曜日だったということもあり、スーパーハイビジョンや3Dなど実際に試聴できる体験型展示はどこも行列ができていた。技術的な内容ももちろんだが、やはり百聞は一見にしかず、一目見て納得できるわかりやすさには説得力がある。

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スーパーハイビジョン(SHV)多チャンネル衛星伝送実験。入り口にあった2.4mパラボラアンテナで、札幌からの映像を広帯域衛星(きずな=WINDS)経由で受信。アップリンク28GHz、ダウンリンク18GHz

SHVの多チャンネル衛星伝送実験の受信システム。伝送はAVC/H.264方式を採用し、広帯域変復調器により250Mbaud伝送が可能。

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NICT鹿島宇宙技術センターおよび超高速インターネット衛星「きずな」を経由して会場で生中継

インテグラル立体テレビ。フル解像度スーパーハイビジョン映像技術を適用したもので、裸眼での立体視が可能

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スーパーハイビジョンシアター。画素数7680×4320、22.2chの音声による臨場感あふれる画像を披露

スーパーハイビジョン用広ダイナミックレンジプロジェクター。ビクターとの共同開発によるフル解像度表示が可能なプロジェクター

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3300万画素3板式カラーカメラ。ディスプレーはダウンコンバータによる2kの映像だったが、その高精細には目を見張るものがある

3300万画素3板式カラーカメラと新たに開発されたCCU、光波長多重伝送装置

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月周回衛星「かぐや」からの月世界ハイビジョンカメラ映像。地球のダイヤモンドリングや月から見た地球の映像などを披露

FTTHによる新たなケーブルテレビシステム、オーバーレイネットワークによる放送配信システムなど、一般には難しいと思われるテーマでも社会人や大学生などが熱心に聞き入る姿が見られた

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高精細映像システム。4kの映像信号をリアルタイムでJPEG2000に変換するコーデックシステムの紹介

JPEG2000により、HD-SDIに圧縮して4kの映像を記録・再生することが可能

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スーパーハイビジョンへのアップコンバート技術

映像の高精細化技術により、SDやHD、4kの映像を高品質に変換

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スーパーハイビジョン用に開発された890万画素のCMOS素子を採用したハイビジョン単板カメラ

ハイビジョン単板カメラ。パナソニックとの共同開発。1920×1080iをHD-SDIで出力可能。写真はPLマウントだが、Fマウントやフォーサーズ規格のマウントもある

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ビクターと共同開発された4kカメラで、スーパーハイビジョン用に開発された890万画素のCMOS素子を採用している。3840×2160の4k画像をHD-SDI Dual Lnk×4またはDVI Single Link×4で出力。レンズマウントはFまたはPLマウント。画素補完技術により、1600TV本以上の解像度を実現している

アクシビジョンカメラ。カラー映像と同時に距離情報を実時間で検出できるハイビジョンカメラ。3D合成やブルーバックなど背景色なしのクロマキーなどに応用可能

まだまだ続くNHKの基礎研究力の凄さ

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シリコンマイク。マイクエレメントに半導体プロセスを適用して製作した超小型・高信頼性マイク

後方からの雑音を抑圧する狭指向性マイクロホン。3つのマイクエレメントを搭載し、後方からの音声を打ち消すことで、低周波数帯域まで優れた指向性をもつ

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120GHz伝送帯無線伝送システム。6chのHD-SDI信号の伝送が可能で、現在約3kmまでの伝送実験に成功している

120GHz伝送帯無線伝送システムのアンテナとカメラ。送信側は近距離伝送のためか、パラボラは装着されていなかった

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多人数同時視線測定装置。同時に5人までの視線を測定することが可能。画面に注視点のデータをオーバーレイ表示することができる

Javaデータ放送とホームネットワークの連携により、高度な放送サービスを実現

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800MHz帯移動中継システム。現行の800MHz帯FPU帯域をMIMO-OFDM伝送方式を採用することで、高画質・高信頼性化を図った

インンテグラル立体像の静止画像ディスプレー

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103インチ高精細プラズマディスプレー。スーパーハイビジョンの家庭用ディスプレーとして開発しているもので、3840×2160の画素を実現した

フレキシブル有機ELディスプレー。5.8インチ、画像数213×120の試作品で、大画面化や高精細化に向けて開発が進められている

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ポスター展示のコーナーは、主に基礎研究を専門に紹介している。さすがに人影はまばらになるが、その分ディープな質疑が展開されていた

冷陰極HARP撮像版。月明かり程度の明るさでもノイズの少ない鮮明な映像を得ることが可能

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映像伝送のためのIPネットワーク技術。遅延変動のないIPパケット中継装置やトラフィックに適応する中継伝送装置

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編集部

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。