ついに日本での開催だ。ヨコハマ・みなとみらいにSIGGRAPH(シーグラフ)がやってきた。第2回の開催となるSIGGRAPH ASIA 2009(シーグラフアジア2009)が、12月16日から4日間にわたってパシフィコ横浜の展示ホールA・Bと会議センターを使用して開催された。
SIGGRAPH ASIA 2009展示会場となったパシフィコ横浜 展示ホール。このホールの半分を利用して、ExhibitionやArt Gallary、Emarging Technologyの展示が行われた。
SIGGRAPHは毎年、8月上旬に米国で行われているコンピュータグラフィックスの国際学会&展示会だ。2009年は米ニューオリンズで開催され、そのレポートは8月に紹介した。このSIGGRAPHのアジア地域版にあたるものがSIGGRAPH ASIAであり、2008年にシンガポールで初開催となった。
以下に示すように今回のSIGGRAPH ASIAも、基本的に米国本家と同様の構成となっている。技術発表と教育関連事例紹介、作品展示、映像フェスティバルに、展示会が加わる構成だ。これらのプログラムのうち、日本開催ならではの取り組みとして追加されたのが、デジタル屋台だ。科学者やアーティスト、学校・企業向けに1×2メートルの極小ブースを貸し出し、作品やプロトタイプをアピールできるようにしていた。
SIGGRAPH ASIA 2009のプログラム
■技術発表と教育関連事例紹介■
1)Course Program:チュートリアルセッション
2)Technical Paper:技術論文発表
3)Sketch:斬新なアイデアやノウハウを紹介
4)Poster:アイデア初期段階や部分的な技術などを紹介
5)Educators Program:教育事例の紹介やワークショップ
■作品展示■
6)Emerging Technology:インタラクティブ技術やロボティクスなどさまざまな新技術展示
7)Art Gallary:国際的なアート展示
8)Digital Bazaar(デジタル屋台):アイデアや作品展示を通じて情報交換
■映像フェスティバル■
9)Computer Animation Festival:コンピュータアニメーション作品上映
10)Electronic Theater:コンピュータアニメーション優秀作品上映
■リクルート■
11)Job Fair:企業のリクルート活動
■CG関連機器展■
12)Exhibition:機器展
Exhibition会場の一角に設けられたTech Talkコーナー。Pixer Animationの映画『Up』(邦題:カールおじさんの空飛ぶ家)のメイキングは英語のみであったが、Tech Talkコーナーの外まで聴講者が溢れた。
SIGGRAPHは国際学会の位置づけであることから、これまでは英語での発表が行われてきた。これは、昨年初開催のSIGGRAPH ASIA 2008でも同様だ。今回、日本開催にあたり、一部で日本語も使うバイリンガルセッションが加わった。基調講演にあたるFuture Speakersでは同時通訳を採用したほか、Papersなどでは英語通訳を組み合わせる取り組みもなされた。こうした取り組みはSIGGRAPHとしても初めてのことだが、英語セッション/コミュニケーションに慣れていない日本人向けのカスタマイズと言える。
せっかくの同時通訳の取り組みだったが、同通レシーバーの受け渡し・返却には混乱が生じた。同通レシーバーは、参加証との引き換えで借り、返却時に参加証を引き取る方法で貸与されたのだが、Future Speakersなどのプログラムが終わると、参加証引き取りのための長い列が生じ、最後の人が返し終わるころには15分以上が過ぎているという状況だった。今後の同通レシーバー貸し出し方法に課題を残した。
会場には、韓国、中国、台湾、シンガポール、インドなどアジア圏からの来場者だけでなく、欧米諸国からの来場者も多数訪れた。4日間の会期中に会場を訪れた参加者は、50カ国・約6,500人であったという。アジア地域版という枠を越えて、実に国際色豊かな国際学会だったと言えるだろう。開催規模も、昨年シンガポールで開催された時は約3,200人であったことを考えれば、約2倍となる。
筆者は昨年のSIGGRAPH ASIAに参加していないが、展示会場や論文発表会場のいずれの状況を見ても、参加者不足でスカスカした感じは感じられなかった。むしろ、今年の混み具合は充分に10,000人を越えていると思ったほどだった。何人かの昨年参加者にも話を聞いてみたが、同じような印象をもったようだ。入場者数が多めに感じる展示会が多いなか、6,500人という数字が控え目に映るほど盛り上がっていたということの証かもしれない。
さて、次は、SIGGRAPH ASIAのExhibitionでのトピックを見ていこう。
各社のGPUレンダリングの取り組みが加速
今回のSIGGRAPH ASIA 2009では、各社のGPUレンダリングの取り組みが加速していた。
まず、NVIDIAが独RTT(Realtime Technology)とともにデモしたのは、NVIDIA Quadro Plexを使用して4K解像度による車体デザインのビジュアライゼーションだ。車体のCADモデルをリアルタイムにレイトレーシングでレンダリングして見せていた。ボディの色や背景を変更しながらデザインレビューとして活用されていることをデモしていた。
ダイキン工業がデモを行っていた米studio|gpuのリアルタイムGPUレンダリングシステムMachStudio Proは、今回初出展。ATI TechnologyのグラフィックスアクセラレータFireProV8750と組み合わせる形でシステム構築される。Maya、3ds Max、FBX、Rhinoなど3DCGソフトウェアのレンダリング処理をGPUで処理する。ブースでは2K解像度200万ポリゴンの車モデルのビジュアライゼーションが12秒で終わったとし、フルCG制作におけるトライ&チェック作業の効率化部分での利用を訴えた。
Inter BEEでH.264コーデック変換製品CodecSysを出展していたフィックスターズが、SIGGRAPH ASIAに初出展。今回は、ライトトランスポートエンタテインメントが現在開発中のグローバルイルミネーションレンダラーLucilleを出展した。現在、3ds Max用のプラグインとして動作。今後はOpen CLを活用したGPUコンピューティング処理を実装していくという。協力会社とともに映画製作におけるレンダリング処理をテストしながら開発を続けている。現在は、クアッドコア環境でMental Rayに比べて8~10倍高速に描画処理が行える段階にあり、より高速化とともに、各種3Dソフトウェアへの対応を図っていくという。製品発売まではまだ時間がかかりそうだが、国産レンダラーとして楽しみな存在になりそうだ。
アドビの次世代Premiere ProはGPU活用で再生高速化
GPUコンピューティングという意味では、NVIDIAブースでは、アドビ システムズの次世代Adobe Premiere Proのテクノロジープレビューも行われた。Mac OS X 10.6 Snow Leopardを搭載したMac ProにNVIDIA製グラフィックスアクセラレーターQuadro FX 4800 for Macを挿入し、フルHDストリーム9本を同時再生するデモを行った。現在はトランジションやエフェクトなどでGPUを活用しているが、次世代Premiere ProではGPUコンピューティングを活用するAdobe Mercury Playback Engineにより、ビデオ再生面のスムース化を図っていく。
Adobe Mercury Playback Engineは、64bitネイティブ、マルチコア環境に最適化した画像処理エンジン。デモでは、フルHD映像を使用した背景に、ピクチャinピクチャで8枚のフルHD映像を載せて同時再生していた。Adobe Mercury Playback Engineを使用しないと、8コアのCPUがすべて80~90%の処理を行うのに対し、活用するとCPU負荷が20%程度まで軽減することが見て取れた。
ナックがステレオスコピック3Dバーチャルセット
ナックイメージテクノロジーは、モーションキャプチャシステムMAC3D Systemと朋栄のバーチャルスタジオシステムEasysetを組み合わせて、世界初のステレオスコピック3Dバーチャルスタジオシステムを構築した。ブースでは、デモンストレーターの女性の手の甲にマーカーを設置し、その動作に合わせて位置をキャプチャしながら、バーチャルセットのプレゼンテーション資料を表示させるデモを行った。収録にはソニーXDCAM EXカムコーダーPMW-EX3を2台設置した3Dリグを使用していた。Inter BEEではソニーが3Dライブ収録をデモしたが、今回のナックの取り組みは、バーチャルスタジオもステレオスコピック3D環境が整い始めたことを感じさせるものとなった。
クレッセントがカラーグレーディングシステムを出展
クレッセントは、3DCG関連製品やバーチャルリアリティ関連製品を一堂に集めた出展を行った。その中で注目を集めたのは、Noomeo製ハンドヘルド3DスキャナOptiNum Colorと、MARQUISE TECHNOLOGIES製デジタルインタメディエイト&カラーグレーディングシステムMIST(Media Ingest Stream Transcode)だ。
OptiNum Colorは、トリガーとLED照明×2、測距用赤色レーザー×2を持つ小型のハンディ3Dスキャナ。レーザーで物体とスキャナの間隔を測定しながら写真ベースのスキャニングを行うことで、テクスチャも同時にキャプチャできる。Noomeoの担当者がクレッセントに披露したスキャニングデータのなかには、車1台をスキャニングしたものもあったそうで、使い方次第ではかなり大きな物体もスキャニングできそうだ。エンターテインメント分野だけでなく、工業用にも提案していく考えだ。
MIST(写真下)は、ビデオ入出力カードBlufish444 Lust/Epockと組み合わせて構成。ビデオ入力からカラーグレーディング、トランスコード、テープ転送まで対応する多機能なシステム。RED Digital CinemaのアクセラレータRED Rocketを併用することでR3Dファイルのリアルタイム再生やカラーコレクションに対応できる。確認用モニタにアストロデザイン製フルHD 3D液晶モニタを使用していたが、ステレオスコピック3Dにも対応できるように、現在開発を続けているという。
ソニーが新4Kデータプロジェクターを出展
ソニーマーケティングが4K SXRDデータプロジェクターSRX-T420を出展した。Inter BEE でスイート展示したデジタルシネマプロジェクターSRX-R320を汎用に使用できるようにした製品。従来製品のデジタルシネマプロジェクターSRX-R220に比べて、高さ方向に約半分のサイズにまで小型化した。SRX-R220の大きさを知っていれば、かなり小型化した印象だが、それでも2小間のブースに置かれたSRX-T420は大迫力だった。現在はステレオスコピック3D投影に対応していないが、今後RealDの3Dデジタルシネマシステムを加えることで実現する予定だ(対応時期未定)。
会議センター メインホール(写真下)では、SRX-R220が設置されていた。このシネマプロジェクターは、Feature SpeakersプログラムやElectronic Theater上映に使用された。
オートデスクが事例紹介イベントAutodesk Day開催
オートデスクはSIGGRAPH ASIA 2009にブース出展を行わなかった。Courseプログラムのみの内容だった初日16日に、会議センターでユーザー事例紹介イベントAutodesk Dayを併催した。事前登録500人の定員で実施されたが、満員の盛況振りだった。Maya、3ds Max、Softimageのオートデスク3DCGツール3製品の紹介と、日本HPワークステーョンZシリーズのプレゼンテーションの後、フルCG映画『よなよなペンギン』のメイキング、ゲーム『Final Fantasy XIII』のリアルタイム カットシーンのメイキングが紹介された。
筆者が参加した時間にはフルCG映画『よなよなペンギン』(りんたろう監督、マッドハウス製作)のメイキングが行われていた。日本のDynamo PicturesとフランスのDef2Shot、タイのImageMaxが制作プロダクションとして参加したこの映画は、セルアニメの制作手法を採り入れ、絵本的な柔らかい描写を実現するためのワークフローを構築。1枚のセルアニメ上のキャラクター動作が完結していることをヒントに、秒8フレームそれぞれでブラーのない1枚絵として成立させることによって、アニメーションを制作したことを明らかにしていた。
SIGGRAPH ASIA 2009は内容の濃い4日間だった。アジア版という感じはなく、米国本家のSIGGRAPHがそのままヨコハマにやってきたという印象だ。次回のSIGGRAPH ASIA 2010は韓国ソウルで、2010年12月15~18日に行われる。
txt:秋山謙一