第18回 3D & バーチャルリアリティ展が6月23~25日の3日間、東京ビッグサイト東1ホールで開催された。このコンベンションは、これまで産業用バーチャルリアリティ展(IVR)として行われてきたもの。今年から、ステレオスコピック3D(S3D)関連分野についても出展範囲を広げ、略称のIVRは残しつつ展示会名称を変更した。
今年のIVR 2010だが、展示スペースは昨年より狭くなった印象だ。展示ホールの長辺方向1/4ほどをパネルで仕切り、実際の展示スペースは3/4ホールほどしかない。しかし、会場内の雰囲気は昨年までとは大きく異なるものとなった。これまでは、「産業用」としてのバーチャルリアリティ(VR)に力を入れて来たことから、開発向けや研究向けのシミュレーション分野でのVR表示に関するものが多かった。例えば、車の実寸大の表示であったり、没入感を得られる操縦シミュレーターであったりといったものだ。近年、こうした分野で活用が広がって来ていたのがS3Dであり、裸眼立体ディスプレイやフレームシーケンシャル方式3D対応ディスプレイなどを使用して、奥行き感を正しく表現しようという方向になって来ていた。
このように、IVRではこれまでもS3D関連を扱って来たが、今年から展示会名称を変更してS3D分野を推し出したことで、出展社や来場者にも変化が出て来たようだ。S3D分野を推し出した初年度ということもあり、まず気付くのは、S3D収録に関するブース出展が登場したことだ。シミュレーションの表示部分のS3D利用だけでなく、S3Dコンテンツを作るための収録部分にも焦点が当たり始めた。
この変化は、来場者にも変化を与えた。これまでは「産業用」として、社内の研究開発者やCADデザイナーといった参加者が多かったが、S3Dを推し出したことでエンターテインメント分野全般から来場したようだ。IVRは毎年取材しているが、今年ほど、通路で擦れ違うのも、製品に近づくのも大変だというほどの混み具合は、過去に経験がないほどだった。
S3D収録関連ソリューションの関心高まる
●ソニービジネスソリューション
ソニービジネスソリューションは、収録から視差調整、表示までの取り組みを紹介。コンパクトなHDC-P1を使用して収録し、マルチイメージプロセッサーMPE-200による視差調整、業務用3D対応液晶モニターLMD-4251TD(42型)/LMD-2451TD(24型)によるプレビュー、4KプロジェクターSRX-Tシリーズを活用した3D上映システムによるプロジェクション環境を提案。S3Dコンテンツをしっかり作り込めるトータルソリューションを構築できることを示した。
●パナソニック
パナソニックは、3Dプロダクションシステムとして、一体型2眼式3DカメラレコーダーAG-3DA1と3D LCDビデオモニターBT-3DL2550を出展。AG-3DA1の出力をBT-3DL2550に表示してデモしていた。ソニービジネスソリューションも同様だが、今回IVR 2010にはビデオスイッチャー関連の展示はしなかった。パナソニックの3Dプロダクションシステムのラインアップされている3D対応デジタルミキサーAG-HMX100についてたずねたところ、同時期に東京・池袋で開催されたケーブルテレビショーのスイート展示で紹介していると話していた。
●レッドローバー
レッドローバーはS3D制作向けに3D平行式リグとS3D対応モニタ環境を出展した。平行式リグは、マイクロカメラに対応するS100から、ハンディカムコーダー用のS200、中型カムコーダー用のS300を出展。肩乗せカムコーダー用のS500の出展は行わなかった。これらの平行式リグのなかで最新モデルとなるのがS100だ。現在、調整機能の精度を追い込んでいる段階とのことで、参考出展という扱いだった。8月頃には発売したい考えのようだが、これが発売されると、手のひらサイズのHDカメラヘッドによるS3D撮影がより手軽に行えるものとなりそうだ。
●シネマックス
シネマックスはレッドローバーブースに出展協力。3D多角度撮影装置CMX-XY SLIDER 100X64Yを出展した。CMX-XY SLIDERは、直角に交わる2本のレールブロックを使用して、スムースに前後左右に移動できるスライダー。3Dリグを載せたまま、左右90cm、前後50cmの移動が可能。最大搭載重量は15kg。展示では、レッドローバー製S200平行リグを取り付けてデモしていた。
●アストロデザイン
アストロデザインもS3D関連製品を出展した。S3D関連製品として提案したのは、左右レンズ一体型3DカメラSHVC-03SG。光学10倍ズームを内蔵し、コンバージェンスポイントの調整も可能。このカメラの3D収録機器として提案したのは、2K SSDレコーダーHR-7502。デュアルSDIによる3D収録に対応し、ソリッドステートドライブに記録できる。映像反転機能を搭載し、円偏光方式を採用した24型フルHD3DモニタSM-3324も出展した。このほか、新たに3DコンポーザーVC-7062を開発中。VC-7062を使用して各種3D表示方式に変換でき、HDMIで民生3D対応ハイビジョンテレビを使用したモニタリングも可能にするという。
●ナックイメージテクノロジー
ナックイメージテクノロジーは、S3D収録のリグ調整に不可欠な視差調整用チャートを展示した。DSC Laboratoriesが開発したS3D視差調整用チャートFairburn 3-Dは、2台のカメラのレンズ間距離、高さズレ、回転ズレを検出できる。コンバージェンスポイントに設置して使用するもので、A2サイズぐらいの大きさだ。グレースケールやカラーチャートの機能も持っているので、視差調整と同時に左右のカラーバランス調整も可能なことが特徴だ。「R」「L」の文字が大きく入っているので、映像の冒頭に収録しておくことで、ミラーリグを使用した時の反転映像も判別しやすくなるという。
●アスク
アスクはエヌジーシーと共同ブース出展を行った。西華産業がRED ONEとELEMENT製3Dリグの出展協力を行い、S3D収録におけるビデオアシストとしてQTAKE HDのデモを行った。各社がS3D収録製品を展示するなか、視差調整に加えて、ビデオ収録機能や、グリーンバックの切り抜きや背景との簡易合成をすばやく行ってプレビューできることをアピールした。S3D表示の確認用にZALMAN TECH製24型3D対応液晶ディスプレイを活用。収録段階のプレビュー段階では、PC用モニタ環境も簡易的に使用できることを示した。
S3D編集や表示部分への対応も進む
●日本ビクター
日本ビクターは、4K対応ソリューションを中心に紹介。4K2K(3,840×2,160)・60Pで撮影できる高精細カメラKY-F4000とD-ILA方式を採用した4K2KプロジェクターDLA-SH7NLを展示したほか、3D関連ソリューションとして業務用フルハイビジョン3D液晶モニターGD-463D10と業務用3DイメージプロセッサーをIF-2D3D1を展示した。IF-2D3D1は、2D映像から3D映像にリアルタイムで変換する製品で、急速に利用が増えてきていると言う。視差調整、立体感の強さ、エンボス効果を60段階に調整でき、シーケンシャル表示またはアナグリフで確認することができる。
●Too
Tooはレッドローバーブースに出展協力。AJA Video Systems製KONA 3カード、CINEFORM製Neo3DソフトウェアをFinal Cut Proと組み合わせ、ローコストなS3D編集環境を構築できることをアピールした。KONA 3の最新ドライバーがSDI 2系統同時出力できるようになり、S3D制作が可能になった。Neo3Dにより、左右それぞれの映像をCINEFORMコーデックにトランスコード。さらに、1つの映像としてまとめることで、Final Cut Proなどで利用可能にする。Neo3Dで、変更した結果はFinal Cut Proに反映する仕組み。モニタ環境には、デュアルSDI入力に対応しており、フルHD解像度・実フレームレートでの表示が可能なレッドローバー製True 3Diを推奨していた。
●エヌジーシー
エヌジーシーは、S3D収録/再生環境として、Abekas製デジタルビデオプロダクションサーバーAbekas Miraの活用を提案した。3RUの筐体に、SATA-2ディスクドライブをRAID6で搭載。マスターとしても利用可能な10ビットJPEG 2000を使用し、4CH独立のビデオ入出力が可能になっている。このことを利用し、S3D撮影における同時収録/同時再生や、収録映像の9pinコントロールによる同時出力が可能なことをアピールした。
S3Dを活用したコンテンツへの取り組みも
●ナックイメージテクノロジー
ナックイメージテクノロジーは、東通と朋栄の機材協力のもと、S3Dを活用したコンテンツ制作への取り組みも紹介した。グリーンバックの背景でブース説明を行った女性をCGの背景と組み合わせ、さらにマーカーを付けて動く別の人物の動きをキャプチャしてリアルタイムに3Dモデルのロボットに適用。ブース説明員とCGのロボットが対話しながら出展説明を行うデモを行った。ハーフミラー式3Dリグにはソニー製XDCAM EX PMW-EX3を同架し、TRANSVIDEO製3Dモニタも同架することで視差確認できるようにしていた。人物の動きは、MotionAnalysis社Raptorを使用してモーションキャプチャ。このデータを使用してリアルタイム3次元動作解析システムMAC 3D Systemで解析し、3DCGのロボットに適用していた。さらに、朋栄が取り扱うバーチャルスタジオBrainstormと組み合わせることで、S3D対応バーチャルセットを実現した。
●クレッセント
クレッセントは、インタラクティブ3Dアプリケーション開発プラットフォーム3DVIA Virtoolsを使用した3Dインタラクティブデジタルサイネージを出展した。これは、次世代イメージベース シーケンシャル3Dスキャニングシステム4D VIEW SOLUTIONSを組み合わせて実現したもの。4D VIEW SOLUTIONSは、16台のカメラを使用して死角なくモデルを収録。画像解析技術で3Dメッシュとテクスチャを作成し、3Dメッシュ上にテクスチャを張り付けた3Dモデルを出力した。衣装を変更しながら同じ動きで複数回撮影。Virtoolsを使用して、この複数の3Dモデルをリアルタイムにリモコン操作で切り替えることで、3Dモデルの一連の動作中に、視点を変えながら衣装だけを変えらるようにしていた。
ビジュアライゼーション向け新製品もデモ
●エーキューブ
エーキューブはATI Technologies製グラフィックカードのラインアップを出展。HDディスプレイを縦置きに3面使用して横3240×横1920ピクセルの大型ディスプレイとして活用できることを示した。RealVizが製品プロモーション用に制作したフルCG映像を使用して、フルピクセル表示でリアルタイムに映像表示できることをアピールした。3面のストレッチ表示に使用したグラフィックカードはFire Pro V8800だ。DisplayPortを4基持ち、1枚のカードで4画面表示まで対応できる。また、マルチカードにより最大6面のディスプレイで3Dアクセラレーションも可能になる。ブースではFirePro V7800を2枚と、シンクロナイゼーションモジュールのFirePro S400とを組み合わせGenLockした6画面表示もデモした。
●ソリッドレイ研究所
ソリッドレイ研究所は3面インタラクティブ3Dシアター「3Dハンド」を出展。6分間のデモに、ブースを半周するほどの列が出来た。3Dハンドは、ソリッドレイのVR空間構築・体験ツール「オメガスペース」に、赤外線エミッタと3次元位置センサーLIBERTY LATUS、3次元グローブCyberGrove II Wirelessを組み合わせて実現。3面表示に使用したのは、1024×768ピクセルのXGA解像度で、フレームシーケンシャル方式のS3D表示が可能な単板DLP小型プロジェクタSight 3Dだ。ソリッドレイ研究所は、S3D表示は大きさが認識しやすいように1mのものは1mに表示することがポイントとして、原寸大の表示にこだわりを見せた。この原寸大の表示に加え、3Dハンドではインタラクティブ性を追加。手の動きやジェスチャーに合わせて、3面プロジェクション投影された映像の拡大縮小や、複数のサムネール画像から取捨選択したりすることができる。
●ボーンデジタル
ボーンデジタルは2009年秋から取り扱いを始めた次世代リアルタイム・ビジュアライゼーションツールVREDをデモした。VREDは、独PI-VRが開発し、独nVIZ UGが販売するソフトウェアで、CADデータや3Dデータをもとに条件を変えながら表示して評価おこなうためのビジュアライゼーション向け製品だ。NVIDIAやATI TechnologiesのGPUを用いてOpenGLレンダリングを活用するか、CPU処理によりリアルタイムNURBSレイトレーシングを行うかを選択できる。ビジュアライゼーションが必要な現場においては、レイトレーシングのクオリティの高さとレンダリング速度の速さが評価されているという。3D汎用アニメーションデータとして活用されているAutodesk FBXファイルフォーマットのインポート/アウトポートに対応していることもポイントで、最新バージョンではFBXのアニメーションデータにも対応している。
●ダイキン工業
ダイキン工業は、studio|gpuのリアルタイムレンダリングシステムMachStudio Proをデモした。MachStudio Proは、Maya、3ds Max、FBX、Rhinoなど3DCGソフトウェアのレンダリング処理を、ATI Technologies製グラフィックスカードを使用してGPU処理をおこなうことで高速化する。2K解像度の200万ポリゴンの画像が、わずか数秒でレンダリングし終わると紹介し、トライ&チェックを繰り返す時間を増やすことがクオリティの向上につながるとアピールした。