オートデスクは5月18日、東京・秋葉原にあるUDX THEATERでイベント「Autodesk After NAB 2012」を開催した。Autodesk After NABは、米国のラスベガスで開催されたNABの発表内容を日本で紹介する、毎年行われているイベントだ。今年は「NAB 2012レポート」「Flame Premium 2013デモ・プレゼンテーション」「Smoke 2013デモ・プレゼンテーション」「”新しいSmokeへの期待”パネルディスカッション」の4つのアジェンダが行われた。特に大幅な価格改定を実現したことや中身も大きな変革を遂げているSmoke 2013が初公開されるということもあり、定員170名の会場は満席。立ち見も出るほど盛況だったイベントの様子を紹介しよう。
Flame PremiumとSmokeの新バージョンで盛り上がったオートデスクブース
会場は満席の状態。SmokeやFlame Premiumへの期待の高さが伺える
最初のセッションでは、NABのオートデスクブースの様子から紹介が行われた。オートデスク本社のプロダクトマーケティングマネージャーのマーク・ハマカー氏がスクリーンに映し出されるスライドを使いながらNABの様子を紹介した。
「今回のNABはオートデスクが話題をかっさらった感じで、オートデスクブースに行かなければどうするという感じでした」と注目度の高さをこのような表現で紹介した。発表されて以来、初めてFlame Premium 2013のデモを公開したことや、今までとはガラッと変わったユーザインターフェースを刷新したSmoke 2013に注目が集まり、オートデスクブースは立ってようやく入るぐらいに混雑したという。
TV Technology誌のSTAR Award、VideoMakerのSpotlight Award、POST magazine誌のPost Picks、CGWのSilver Edge Awardなどを受賞した
次に紹介したのはNAB期間中に250人のVIPや大きな影響力を持つ人たちが集まって行われたSmokeのプレス発表会の様子だ。ハリウッドの監督に来てもらって話をしてもらうなど、Smokeに対しての期待と興奮に満ちた状況であったという。早速、POST MAGAZINE誌ではPost Picks、TV Technology誌ではSTAR Awardといったアワードを受賞。POST MAGAZINE誌の「全部がこれに入っている。エディタのみなさんがずっと何年も待っていたスーパーアプリケーション」、Media ComposerやFinal Cut Pro、After Effectsなどのエディターとして有名なウォルタービスカルビー氏の「ポストプロダクションの世界がまったく変わってしまった」といったコメントも紹介した。
クリエイティブの機能でいくつか重要な機能が盛り込まれていたり、リライティングの機能が強化されたAutodesk Flame Premium 2013
4月16日に行われたFlame誕生20周年記念イベントの様子も紹介した。1992年のNABで初めてFlameの技術が紹介されて以来、どのような歴史を遂げてきたのか、それを使ってどういう素晴らしい作品が作られてきたのか?ということを200名を超えるビジュアルエフェクトの専門家が集まって会場で祝福することが行われたという。
ポジションマップを活用して実写映像に3D形状をコンポジティングを行うデモ
続いてオートデスクの鳥羽浩行氏によるAutodesk Flame Premium 2013のデモが行われた。実際にコマーシャル制作の工程を元に、トラッキングや実写に3Dモデルの合成などFlameの優位性や注目の機能を紹介して注目を集めていた。
Smoke 2013が国内で初公開
新しくなったSmoke 2013のインタフェース。馴染みを感じるインタフェースだ
2つ目のアジェンダは本イベントの最大の見どころと言っていいSmoke 2013のデモ・プレゼンテーションだ。ハマカー氏から、Smoke 2013の紹介から行われた。まず最初に新しいSmokeを開発するにあたり、もっと使いやすい敷居の低いものにしたかったということで、エディターの作業環境の問題点をリサーチしたという。その結果の紹介から始まった。
エディターの悩みで多いのは「時間」で、レンダリングやフィニッシングなど個別の作業に時間がかかるという結果が出たという。その原因は、エディターは編集だけでなく、多数のアプリケーションを使ってグラフィックス、カラーコレクション、コンポジットなどなど多数の作業をしなければならない。そのため、あちらこちらにいったりきたりすることのプロセスの複雑さやファイルのやり取りに時間をとられたりして、プロジェクトの完成を遅延させていると問題点を紹介した。こうした問題を解決するために、Smoke 2013をリリースしたという。
Smokeを使えばエディターがカラーコレクション、キーイング、レタッチ、ロトスコーピング、タイトル作成、ビジュアルエフェクトなどほとんどの作業を1つのSmokeの中だけでできる、編集とフィニッシング間を1本のアプリケーションに統合することでシームレスなワークフローが可能になるとアピールをした。
ThunderboltストレージとIOを搭載する最新世代のiMacやMacBook Proといったシステムで動作が可能だ
ハマカー氏は改めて、Smoke 2013には4つのポイントがあることを紹介した。1つがトラックベースのユーザインターフェースに生まれ変わって直感的に使えるようになったこと。Smoke 2013のインタフェースは、Macアプリケーションらしいルックアットフィーになっている。そして、新しくなったけれども馴染みのある感じがするインタフェース。Final Cut ProやアビッドのMedia Composerなどを使い慣れた人であれば、直感的に「こうすればああなる」というのがわかるだろう。ビンも誰もが想像しているようなものにドロー、イメージシーケンスをブラウジングできて、メタデータを確認することができる。そしてドラッグ&ドロップで、必要なメディアを持ってくることができるという。
2つ目はシステム要件の見直しだ。Mac Proだけではなくて、MacBook ProやiMacでも使いたいという声に応えてシステム要件を広げたという。RGB444に加えて、ワークフローを全部ProResでしたいというならば、それもできるようになっているという。
タイムライン内の強力なノードベースのコンポジティング機能を実現するConnectFXを搭載
3つ目は素晴らしいクリエイティブツールを搭載していること。3Dコンポジティングを実現するActionや非常にハイエンドなエフェクトのツールを、使いなれたエディトリアルの環境の中でも使うことが可能だ。例えば、Color Warperと呼ばれるカラーコレクションのツールが搭載されていて、Smoke中のFXの環境でこれを使えることができる。カラーコレクション、コンポジティングなど、それぞれ別のアプリケーションにいく必要がなく作業が可能だという。
4つ目はConnectFXと呼ばれるノードベースのコンポジティングをタイムライン中で使える機能だ。コンポジティング環境の中に3DのビジュアルエフェクトのツールのコアとなるActionがついている。特にこのConnectFXについては、Smoke 2013の中でも重点として開発を進めたという。続いて、Smokeもオートデスクの鳥羽氏によるデモが行われた。Smoke 2013が日本で初めて公開されたデモで、大いに注目を集めていた。
Smokeへの期待を語るパネルディスカッション
左から、DVJ BUZZ TV石川幸宏氏、QVCジャパン 編集チームリーダー 千葉栄美子氏、フレイム 北田能士氏、ハイトゥーン・プロダクツ・リミテッド代表取締役 本多秀正氏、Lab.751 CTO 本間研次氏の4人
最後のアジェンダは、本誌のPRONEWS Loungeでもお馴染みのDVJ BUZZ TVの石川幸宏氏がモデレータのパネルディスカッション「新しいSmokeへの期待」だ。パネリストは、テレビ通販専門チャンネルのQVCジャパン 編集チームリーダー 千葉栄美子氏、CGプロダクションのフレイム 北田能士氏、制作会社のハイトゥーン・プロダクツ・リミテッド代表取締役 本多秀正氏、ビジュアルデザインラボのLab.751 CTO 本間研次氏の4人で進められた。ここではそのディスカッションの一部を紹介しよう。まず最初にパネリストの自己紹介から行われた。本間氏はオートデスクのパワーユーザーだ。自己紹介と共に早速Smokeの印象をこう語った。
本間氏:ずっとフリーで仕事をしていたときは、Inferno、Flame、Flintというところを使っていたのですが、自分たちの会社を設立するにあたって導入するソフトとしてはこれらのソフトはなかなか手が出せない。そこで、Smokeをとりあえず選んでみました。しかし、今までワンカットずつ細かい合成をやってきたものですから、タイムラインベースというとオフラインのレベルではないかとずっと頭に引っかかっていたものがありました。とにかくSmokeを1年半使ってみてみると、良いところがわかってきました。そこでSmoke 2013の登場です。凄くよくできていると思いますが、チェンジにもほどがあるというぐらいの感じを受けました。
石川氏はSmokeの価格と機能について意見を聞いた。本多氏と本間氏はこう答えた。
本多氏:Final Cut Studioは14万8,000円です。安すぎるのではないかと思っていました。ほかのアビッドとかそのへんと比べても、もう少し高くてもよかったのではないかと思いました。Smokeはこの機能で50万円と、ものすごく安く感じます。
今年5月からSmokeの2012バージョンを導入して使っていますが、CM制作とか映画本体の制作をやっているわけではないので、オーバースペック的なところはかなりあるかなと思います。基本的な編集の部分はだいぶ戸惑っている部分があります。いわゆるFinal Cut的やアビッド的なものではないので、そこがネックになっています。中に入ってカラーコレクションやActionなどそういったものは魅力的なのですけれども、基本的な編集の部分がどうもとっつきにくい感じがします。そこが、Smoke 2013でどのように変わっているのかに注目をしています。今日のデモを見たところ、今のFinal CutのワークフローをSmokeに置き換えることももしかしたら可能なのかな?と、期待をしています。
本間氏:操作性は何を主体にやっていくかによると思うのですが、タイムラインが中心になったということで僕はぞっとしていました。でも今日のデモを見て安心しました。あと、これならばファーストエディティングということから、最終フィニッシュまで、そこのライン上ですべて完結できるというのはある種魅力的です。ある種と言ったのは、最終フィニッシュをやりたいのだけれども、オフライン的なところからいけちゃうよね、という話もきっとでてくるのではないか?その線引きをしっかりさせないといけない。オフラインもオンラインも一人で統括するというやり方もできるし、たぶんオフライン、カラーリング、コンポジティングで分けることもできてしまいそうです。なので、今までとやり方がかなり変わるかな?というふうに思っています
あとは、うちの場合はポスプロというよりは制作機能も持っているので、いわゆる”ポスト””ポスト”はしていないのですが、ポスプロは結構大変ですよね。どういう立ち位置にするのか?あまりにもちょっと価格が安いので、ちょっと戸惑うのではないかな?と思います。
このコメントに対して、「映像制作全体のコストは厳しい状況。ある意味、フィットした製品をオートデスクさんが出してきた」と石川氏。話題はポストFinal Cut Proに移った。「去年のFinal Cut Pro Xの発表に大きくプロ業界の人たちが意識が変わった。Final Cut Pro 7の次に何を選んだらいいのか?」と石川氏。Final Cutユーザーから見たSmokeというものを本多氏に質問した。
本多氏:Final Cutをずっと毎日何年も使っているわけですが、冷静に考えて、Final Cut Pro 7で今の仕事は成立しています。別にずっとそれを使えばいい。確かに、あんなことになっちゃいましたが、ソフトは購入済みで、すでに持っているわけですから。しかし、ウチは今回2人女性のデザイナーを採用して、これから映像に関して教えていきます。Final Cut Pro 7は確かに教えやすいし、覚えやすいのでいいけれども、もう販売されていないソフトです。新しいスタッフに何を教えていったらいいか、というときにこのSmokeの今のタイミングというのはすごくぴったりです。
ここ最近の映像業界にFinal Cut Pro Xに賛否が起きているが、石川氏はこのタイミングでSmokeが発表されたことについて「Smoke2013というのが、こういう形ででてきたというのはなんか意味のあるものに感じるのは僕だけではないと思う」とコメント。本多氏は、ポストFinal Cut Proについてこう続けた。
本多氏:Final Cut Pro Xがあのようになったので、今後はソフトを開発している会社がどこを見て開発をしているのかをきちんと見極めないといけないなと思いました。アビッドはもともとノンリニア編集機の設計開発を行っている会社なんだからやめないだろう。アドビも現在チャンスだから今後も積極的に開発をしていくだろう。もう1社がオートデスクですが、今までハイエンドの製品ばかりの敷居の高い会社じゃないですか。交わることはまずなかったのですが、気がついたら2段階値段を下げてSmokeが選択肢に入ってきました。どうも本気らしいなと見受けられます。これだったら、導入してもいいかなと思いました。
石川氏は、番組チャンネルで商品を販売しているというビジネスの視点でSmokeのようなツールが出てきたことをどう思われるかと質問した。通販番組制作をされている千葉氏は、大量生産に耐えうるスピード、レスポンスをSmokeへ期待していると答えた。
千葉氏:私どもの放送は24時間すべて自社制作を行っています。その中の商品を説明するインサートビデオは、ベンダーさんと呼ばれる商品を卸して下さる問屋やメーカーから納品されてきます。現在ファイルベースには対応できないこともあり、HDのテープ納品というメディアの制限をさせてもらっています。すると、私どもはまだSD放送を行っているのにHDのタイトルセーフティの中にドンと文字を入れられてしまうことがあります。こうなると、こちらでスクイーズしたり、画面の中で再構成をしなければなりません。あと、入ってはいけない言葉が入っている場合は作り直さなければいけません。こうした作業が多いのが現状です。そこで、例えば渡されたものをこちらで文字を打ち直せたり、画を動かせたりしたら良いのにと思うことがあります。
また、商品カットの引きと寄りを機械的につなぐことも商品の数だけ淡々とやります。番組宣伝も自社制作しています。そういう簡単な仕事から、ある程度きれいなもの、素敵なものを作りたい、という相反することも自社ですべてやっています。この他にも、社内でイーコマースの部門もあれば、営業の部門もあって、ファイルのやり取りがとても煩雑です。ベンダーさんからチェックしたいのでDVDを焼いてくれといわれることもあります。編集そのものよりもファイルを変換、コピーして渡す、DVDをエンコードして焼くといったことが凄く多い。これらの作業を一つの環境で行えたらどんなにいいだろうと思っています。
石川氏は最後にSmoke 2013の気になるポイントを質問した。北田氏と本間氏はこう答えた。
北田氏:打ち合わせの時に言われて衝撃だったのが、3DのデータをFBXで持ち込んだときに、どれぐらい描画できるの?といったっときに「少なくてもMayaよりは軽い」みたいなことをおっしゃられて、これはちょっとぐっときましたね。
あと、丸10年以上前に自分たちが見ていたのはInfernoであり、Infernoを通したポスプロに憧れました。ずっとポスプロの世界を夢を見てきて、一足飛びにはいけない、なんなら一個アプリケーションをはさむ、そのアプリケーションも売っていないとか。すさまじい領域で生きてきて頑張ってきて、今やっと同じ土俵が来たなと。あの時に夢を見たものが今やっと同じ土俵にきて、同じ言語で話せるかもしれない。楽しみですね。
本間氏:僕ずっと上の機械を使っていたわけだけれども、下とか上とか自分では思っていないのだけれども、やっぱり速度の問題とか、上を知っていれば下は気になる。だけれども、どんな機材でも終わらなかった仕事は1本もありません。ただし、SmokeだけはBatchがないの?そこから入ってきました。それでやっと名前すら違うけれども、ConnectFXを搭載されたことに注目したいし、それよりかトータルバランスがいいんじゃないかな?でもSmokeもツールです。結局はツールを使う”オペレータの腕”や”クリエイターの技量”ありきということで、締めたいと思います。
ここ最近の映像業界の話題というと、4K対応のカメラといった撮影機材が多く、編集関連の話題はあまり盛り上がっていなかった。そこに機能刷新と価格の見直しというのを行ったSmokeの発表というのは、久々の編集関連のホットなニュースだ。Smoke 2013は映像業界の小中規模のプロダクションワークフローをどのように変える存在になるのか?9月の発売が楽しみだ。