私が映像業界に入ったのは、元々は表方…いわゆる映される側でした。その後、映す側になり現在に至るのですが、映画業界・テレビ業界・演劇・プロモーションビデオ・ネット配信…といった業界横断的な視点から執筆というオファーを受けました。ちょうど、機材や現場のアレコレについて普段からいろいろと疑問に思っていたこともあり、”Hack & Tips(ハック・アンド・ティップス)”というタイトルで、新連載させていただくことになりました。
近年、プロとアマチュアの所有機材の垣根は限りなく取り払われてきています。”カメラ女子”なる人々の出現やSNSや動画デバイスの普及など、写真のみならず動画や編集などの領域まで、一般的な個人ユーザーが幅広く楽しめる時代になってきています。しかし、その機材の使い方や選び方は”現場的に理にかなっている”でしょうか?
“高価”な機材を使いこなしてこその”価値”
友人の撮影した動画を見せてもらった時のことである。その友人はカメラオタクでもあり、機材の購入には予算に糸目をつけない。あるとき、友人は娘の幼稚園の運動会に高価な一眼レフに望遠を付けてフル装備で向かったのである。その時撮影した映像を見せてもらった。そこには、ある意味では正解だが、ある意味では間違っている”作品”が出来上がっていた。「被写界深度が極端に浅く」「丁寧なピント送り」で撮影されていたのは、”愛娘が一生懸命走っている姿がとても美しくおさめられた””親の愛情たっぷり”の、思わず顔がほころぶような素敵な映像であった。
しかし、友人は「何か足りないんですよね、一回見ればそれで満足してしまう映像なんですよ…」と言う。確かに彼の撮影方法は、明るいレンズを手にしたら必ずやってみたくなる、いわゆる”プロっぽい映像”ではあった。しかし、肝心なフレーム内の情報が全く無いのである。徒競走での娘の順位もわからず、徒競走かどうかもわからない。さらに「いつ・どこで・誰が・何を」という活動情報の前後のシーンがないのだ。もし、友人と全く関わりのない他人がこの映像を観ても、「女の子が一生懸命走る映像」という情報しか得ることができないだろう。細かいことを言うときりがないが、その映像には”撮影する事”に終始していて”見せる”ことを前提にしていなかったのである。もちろん、パパビデオとしてはとても優秀な愛情満載の作品である。しかし友人は、もう一段上の”表現”という扉を開きたかった。
手段と目的のバランス
いろんな定義があると思うが、プロアマの差は、「成果物に対して対価が生じること」である。「対価が生じる」ということは、それなりの目的を果たさなければいけない。映画だと興行収入、テレビだと視聴率などがその例だが、きな臭い話ではなく”観る側の満足度”がもっとも重要なポイントになってくる。
そこで、数々の現場を経てきたプロフェッショナルな人々から、経験を元にしたHack & Tipsを披露してもらい、こういった記事にしてみなさんと共有することにより、一段上の”観る人に伝わる表現”のヒントになればと考えたのである。
- 幾度の現場を経て完成された”知恵””知見”
- ひらめきや思いつきでできた”秘訣””裏技”
- 同じ業界でありながら、慣習やメソッドが違うためになかなか共有されにくい”情報”
時には目からうろこ、時には後でジワジワ来るような先人の知恵こそがHack & Tips。単純に、機材の使い方だけではなく、その「枯れたHack & Tips」が生まれた背景を探ることにより、さらに有意義なアイディアや使用法につながっていく…そういった頓智のきいた情報をみなさんと共有し、更にそれを各自の現場や使用環境にフィードバックしていくことは出来ないか?
長々と書きましたが、撮影現場で照明の脚にテニスボールを履かせた人間に何かを学ぼう!(なぜなのか?は次回以降!)というのが、このHack & Tipsです。次回より、具体的な内容を披露していきます。そういうわけで、みなさんよろしく!