txt: 金戸聡和(マリモレコーズ) 構成:編集部

色管理のワークフローを飛躍的に進化させた「IS-mini」

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カラーマネージメントの常識を変えた、大人気のIS-mini。Log収録での必需品に

2013年の夏に発売された富士フイルムの「IS-mini」は新しいワークフローを現場にもたらしてくれた。カラーグレーディングが必要な制作環境において飛躍的な効率化を実現させることができる。あらゆるカメラのLog映像に対し、あらゆるLUTを充てることができるこの小さなデバイスは、あまりにも強力で頼もしい一台だ。発売から1年以上が経った今もその人気は衰えるところを知らず、数々の新しいシネマカメラが登場するたびに活躍の場を増やしていると言っていいだろう。堅牢で小型、さらにはアウトプットの信頼性の高さや、さまざまなワークフローへの汎用性も相まって、いまでは色管理を考えるうえではなくてはならない機材となった。

http://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2015/01/Fujifilm_02_02.jpg 新しくなった「IS-mini MANAGER Plus+」。3月31日まで無償でアップデートできる
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そしてこの度、IS-miniをコントロールするアプリケーション「IS-mini Manager」に「IS-mini MANAGER Plus+」という機能が新しく追加された。追加されたというよりは、ソフトウェアそのものがメジャーアップデートされたというのが正しい表現かもしれない。今のところ、現在のIS-miniユーザーとこれからの新規購入者に対し、2015年の3月31日まで無償でアップデートできるキャンペーンが実施中だ(その後のアップデートにかかる金額は未定)。ただ、金額云々というより、新しくなったUIや機能があまりにも素晴らしいので、ここで改めてIS-miniの魅力を伝えられたと思う。

Log収録による可能性と課題

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最近ではLogで収録できるカメラも増え、グレーディングを行う機会が著しく増えてきている。しかし、各カメラメーカーがセンサーに合った独自のLogを作っており、S-LogやCanon Log、BMD FILMなど、各々のLogの特性を理解しなければならないため、少々撮影の難易度は上がっていると感じる。もちろん「色」は作品のコンセプトに直結するため、納品までスタッフがその映像の「色」を共有できるワークフローを構築する必要性があり、プリプロ、現場、そしてポスプロまで常に「色」に対する意識を強く持ち続けなければならない。

http://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2015/01/Fujifilm_02_03_02.jpg Logからカラーグレーディングを行い、求める色を得るまでには技術が必要だ
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Rec.709のようなコントラスト比の高いビデオガンマとは違い、Logガンマはセンサーの持つダイナミックレンジをより生かせる特徴を持っており、暗部から明部まで細かな階調を表現が可能だ。例えば、C300のCanon Logの場合、8bit Logの表現能力は10bitと同等とも言われている。しかし、Log収録の映像そのものは彩度の低い映像となり、そのままでは使用できないような素材である。そのためそのLogから色を引き出すカラーグレーディングには「技術」が必要とされ、問題を抱えることがよくあるのだ。

LUTによるワークフローの効率化

色に対する意識は人それぞれ異なり、撮影された彩度の低いLog映像を見ただけでは、最終納品の映像の色を想像・共有することが難しい。そこで必要とされるのがいわゆるビューイングLUTと呼ばれる変換LUTだ。もともとLUTは709変換というイメージを持つ人も多いだろうが、最近は単純な変換という意味だけではなく、Log映像を最終的な仕上げに近い色合いに変換するものだ。「ビューイング」という形容詞は、あくまでも「その場での」という意味合いで、実際は細部にわたるカラーグレーディングがポストプロダクションで行われる。ただし、この時のLUTは非常に大切であり、目的とする最終形のイメージを共有することから全てがスタートするといってもいいだろう。

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IS-miniがあればビューイングLUTを簡単に出すことができる。現場でのあたりには持って来いだ

IS-miniの素晴らしいところは、瞬時にこのLUTを生成することができる点だ。あらゆるカメラのLog映像に対して、ニーズに合った色変換・色調整を行える。更には接続も驚くほど簡単で、カメラからのSDI信号を入力し出力をモニターに接続、そしてコントロールするパソコンにUSBを繋げば、リアルタイムでカメラの捉える色を編集できる。別口のUSBからも給電が可能で、その機動力は非常に高い。更に編集したLUTは際限なく保存でき、当然ポストプロダクションにおいても流用することが可能だ。IS-mini自身のメモリにもLUTを一つ保存させられるため、パソコンがなくてもLUT BOXとして使えるというのも大きな魅力だろう。「リアルタイム」「機動性の高さ」そして「簡単」という特徴が、色編集のワークフローを大きく変えたということだ。

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機動力の高さや小型サイズが魅力のIS-mini。4台用意すれば4Kにも対応する

新しい機能を搭載した「IS-mini MANAGER Plus+」

そんなIS-miniが2014年12月に機能を追加し、IS-mini MANAGER Plus+として生まれ変わった。これにより色表現の可能性が飛躍的に拡大することになるだろう。肌色の微調整などでも有効な、特定の色を調整できるVector編集機能が追加されたり、新しいカメラに対応したり、書き出すLUTの対応ソフトウェアの数なども格段に増えた。必要かつ十分なソフトウェアとして進化したというのが正直な感想だ。

http://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2015/01/Fujifilm_02_06.jpg 今回のアップデートでは、Vector編集機能の追加や、トーンカーブ調整の強化など、飛躍的に使いやすくなった
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LUTの書き出し形式の数が増え、Adobe Premiere ProやAfter Effectsにも対応したのはうれしい

具体的に記しておこう。追加された対応カメラは、AMIRAやBlackmagic Production Cinema Camera 4K、VARICAM 35、EPIC DRAGON、そしてSony α7Sなどなど、新たに登場したカメラが続々とシステムに組み込まれた。各カメラには約1,000個に及ぶ種類のLUTが用意されており、富士フイルムが培ってきた数々のフィルムルックのエミュレーションも簡単に行えるというのも素晴らしい。

また、IS-miniと連携できるグレーディング用コントローラーの種類も追加され、Tangent element Tk、Kb、Tangent Waveといった他社製のUSB接続コントローラーが使用できるようになった。これまでマウスやトラックパッドで行っていた操作がより精密に行えるようになり、ポスプロと同じ環境で色の追い込みが出来るようになっている。そして更に注目したい機能として、書き出すLUTもDaVinci ResolveだけでなくPremiere ProやAfter EffectsといったAdobe製品にも対応し、NUKEやFlame、FilmMasterなどあらゆるグリッドサイズのプラットフォームで「ネイティブ」に使えるものを選択できるようになった。


UIも従来のIS-mini MANAGERに比べ、より直感的で使いやすさが向上しているなど、全体的なバランスが強化され、ライブグレーディングソフトウェアとしての一面も持つまでになったと言っていいだろう。

「IS-mini MANAGER Plus+」のアクティベート

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ダウンロードの鍵は“IS-mini”だ。ネット環境下でアクティベート・ディアクティベートすることで、PC間でライセンスを移行することが可能

まずホーム画面を見てみると、「Software Setting」や「Color Correction」などの項目がある。IS-mini MANAGER PLUS+のアクティベートをするには、ホーム画面の「Software Setting」内の「MANAGE Plus+ License」から行う。意外とわかりにくいので、注意してみるといいだろう。ライセンス解除のキーはIS-mini本体に埋め込まれており、ネットにさえ繋がっていれば特にシリアル番号などを打ち込む必要はない。

さらに、一度ディアクティベートを行えば、異なるパソコンで再びアクティベートが簡単にできるようになるため、所有する複数台のパソコンでの使用も可能だ。現場ではMacBook Pro、ポスプロではWindowsなど、使用するパソコンが異なったとしても一台のIS-miniで「IS-mini MANAGER Plus+」を導入できるため、現場と同じ環境をすぐに構築できる。

なお、ライセンスの引越しに手間がかかると富士フイルムの開発者にフィードバックしたところ、次のバージョンからはIS-mini本体にもライセンスを埋め込むことが可能になるように検討しているとのこと。


LUTの選択方法

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各カメラに対応したプリセットはダウンロードをする必要がある
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各カメラに対応したLUTはデフォルト設定に入っておらず、ネットに繋げた状態で、必要に応じて各カメラのLUTセットをダウンロードすることになる。現場でダウンロードができない場合もあるため、撮影前に必ず使用するカメラのLUTデータのダウンロードを行っておこう。先述の通り、一つのカメラに対して1,000程度ものLUTが用意されているため、ある程度の絞り込みが必要になる。

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たとえLUTが1,000個あっても、フィルタリングがしっかりしているため、自分の求めるものへ簡単に行き着ける
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絞り込みのUIも非常にわかりやすい。「mode」「Color Temp」「Rendering」「Film Look」「Gamma」という項目から欲しいものを選んでいくだけだ。「mode」では撮影しているカメラのLogを選び、「Color Temp」でホワイトバランス設定を選ぶ。ダイナミックレンジの圧縮や諧調変換など、出力に適した色作りの設定を「Rendering」で選択。Sony系のカラースペースになる「Rec.709 Emulation」や上映用プリントフィルム調の「Universal FUJIFILM Print」などをまず選択することから始まるが、通常の編集におけるオススメの設定は、グレートーンが整っているACESに準拠したカラースペースの「AMPAS RRT」だ。

そして次に、「FILM LOOK」を選択し、どのようなトーンにするかを決定する。FILM LOOKには、ETERNAなどの富士フイルムが培ったフィルムの特性を生かしたエミュレーションが用意されている。どれを選んでいいかわからないときは全部を選択した状態にしていて、画をみながら決めればいいだろう。

最後にガンマを設定するのだが、このガンマは、モニター2.2などのガンマとは違うため注意が必要だ。このガンマは画作りに対する黒の締り具合の調整となる。フィルムエミュレーションのガンマは、DCIプロジェクターで視聴する設定が基本になっているため、そのままテレビに戻すと黒が潰れすぎてしまうのだ。そのため、ガンマを調整し視聴環境に適した黒を表現することとなる。

ガンマ設定は0.7~1.0まであり、1.0が硬調のシネマルック、0.8がテレビルック、0.7が軟調とそれぞれに適した数値があるため、最終的な出力形式を考慮して選択するといいだろう。このようにフィルターをかけることで希望のLUTへ絞り込むことができる。あとは選択肢として残ったLUTを一つずつモニターで確認し、自分の求めるものを探すだけだ。

微調整もあらゆるアプローチで行える

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LUTを選択したら、「Lift/Gamma/Gain」「Offset/Slope/Power」「Vector」により調整を行うが、パラメーターも大きく、マウスであっても微調整ができるのは嬉しい
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お気に入りのLUTを見つけたら、そこから更にハイライト・中間・シャドウを意味する「Lift/Gamma/Gain」での調整や、カーブそのもののシェイプを変える「Offset/Slope/Power」による調整、そして色相環による「Vector」調整など、必要に応じてコントラストや彩度などを細かくいじることが可能だ。あらゆる試行錯誤の中で作成したLUTはいくつでも「Keep Look」でセーブが行え、リスト化することできる。作成した数々のLUTを簡単に呼び出して異なるLUTと比較することがすぐにできるのが有難い。

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新機能のVectorにより、特定色の調整が可能になり、現場での調整域が広がった
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作ったLUTにはコメントを残して、さらにリストを保存することもできる

またリストそのものもXMLファイルとして保存できるため、シーンごとなどに分けてのLUT候補を整理できる。「Save to Flash」を押せばIS-miniのメモリに保存ができ、パソコンをつながなくてもその編集結果をモニターに出力することが可能だ。また「Export to other LUT」ではDaVinci ResolveやAdobe製品、Autodesk製品などの各種ポストプロダクションのソフトウェアに対応したLUTを書き出せる。更には各LUTにコメントを追加できたり、調整した編集を別のLUTに充てることができたりと、編集スタイルを選ばない柔軟な設計は、現場での作業を効率化させてくれる。

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実際にIS-miniで作ったLUTをAdobe After Effectsにインポートすると、再現もバッチリで出力の強化を実感した
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各カメラセンサーを再計測した「Camera IDT Info」

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IDT Informationのグラフは、富士フイルムの技術がつまっている。これだけでもありがたい

UIの中央上部には、選択したカメラLogに対する「Camera IDT Information」という情報が表示される。このグラフはカメラメーカーから公表されているダイナミックレンジなどのスペックに対し、実際に富士フイルムが一台ずつ再計測を行い、各センサーのLog特性をまとめたものである。各カメラスペックは実際の公表値よりもズレが見られるなど、一概にスペック通りではいかないことが多いため、再計測を行い、客観的に統一化したということだ。

実はこの再計測された数値が非常に重要であり、撮影段階でカメラマンにとって非常に有効なツールになりえる。このLogカーブは横軸が明るさ・露光量のスケール、縦軸が10bitの出力、通称コードバリュー(CV)を指し、白飛び・黒潰れのクリップポイントをCVの数値により確認をすることができるのだ。CV値のminは黒潰れ、maxは白飛びを表した数値である。PMW-F55・S-Log2のグラフを例にすると、maxの数値は933であり、10bitの最大値である1023よりも手前でクリップしていることがわかる。黒も91以下は全て漆黒として表現される。また18%とは18%グレーのことで、この値を見れば、ウェーブフォームなどと照らし合わせて本当の適正露出を狙うことができる。

総括

進化を続けるIS-miniの魅力は書ききれない。デジタルシネマの撮影が拡大するに従って、ますます需要が高まる作品のカラーマネージメント。おそらくIS-miniを一度使うと手放せなくなる。ということで、更なる「応用編」を引き続きお伝えしたい。

次回は、IS-mini MANAGER Plus+の最大の機能である「連結機能」を紹介する。あらゆるモニターをキャリブレーションし、そのプロファイルとLUTを掛け合わせてしまうという驚異的な機能だ。現場での使用感や具体的なワークフローなども交えられたらと思うので、是非とも楽しみにしていただきたい。

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。