txt:安藤幸央 構成:編集部
Google I/Oは、情報のインプットとアウトプットに注力した開発者向けのイベント
Google I/O 基調講演会場。3方向全面を埋め尽くしたつなぎ目の無い没入感のあるプロジェクター映像。1万ルーメンクラスのプロジェクターが左右に20台ずつ、2万ルーメンクラスのプロジェクターが正面に6台。それぞれ半数は障害発生時のバックアップとして待機用の機材という考え尽くされた機材構成であった
2015年5月28日から29日の2日間、Googleの開発者向けカンファレンス「Google I/O 2015」が米国サンフランシスコのモスコーンセンターにて開催された。I/Oは映像信号などと同じ、インプットとアウトプットを示しており、情報のインプットとアウトプットに注力した開発者向けのイベントで、世界各国から6,000人を超える参加者を集めた。早朝から長蛇の列で人気の基調講演では、驚くような将来のことは言及せず、今すぐ使えるもの、すぐに使えるようになることを堅実に紹介するという流れであった。
今年の特徴としては、大量のデータからルールを見いだし、人間でなければ判別が難しいような事柄を機械学習によってサービスの様々なところに活かされていることが各所で言及されていた。さらにテクノロジー側が“状況を読む”いわゆる空気を読むような働きをする事や、単なる見た目だけではなく、豊かな体験や使い心地の重要さとしてのデザインにフォーカスが絞られた内容であった。今回は特にPRONEWS読者向けに映像に関してのトピックを幾つか紹介していこう。
Google Jump登場。機材から配信まで考えたパノラマ動画の新標準
Google Jump用の専用リグ。GoPro HERO4を16台搭載。音声収録にはZoomのH2nを利用
基調講演の目玉の一つに「JUMP」と名前のついた、オープン仕様のパノラマ映像ソリューションの紹介があった。ここで紹介されたのは半ば強引とも思えるGoPro HERO4(4Kで15fpsの撮影)を16台搭載したリグである。JUMP Cameraと呼ばれるカメラは360度、立体視用の映像コンテンツを撮影できる機材で、リグの図面や制作方法なども一般に公開される予定。この機材で撮影した動画を自動スティッチ(繋ぎ合わせ)するJump Assemblerと呼ばれるツールも提供され、最終的にはYouTubeに用意されている360Videoコーナーで再生できるようにするというものだ。次に紹介するダンボールとスマートフォンで作られたヘッドマウントディスプレイでの視聴が想定されている。全方向で立体視表示でき、360度全方位パノラマ、かつ映像を繋ぎ合わせた分を差し引いても全部で4Kテレビ5台分の解像度の映像となる。
リグを上部から眺めたもの、GoProを縦に16台配置する
iPhoneにも対応したGoogle Cardboardの本気と、VR映像コンテンツの重要度
新バージョンのGoogle Cardboard。ほぼ組み立て済みで、収納箱から出すだけですぐに使える
昨年発表された、ダンボールで作られたVR眼鏡Google Cardboardは、設計図や作り方などが誰でも利用できるよう一般公開されたおかげで、コピー品や派生品、他メーカーからも、良い意味で類似品が大量に作られ、世界中に広がった。昨年の段階では有志によるサイドプロジェクトだったものが、今年はGoogle全体で本腰を入れて来た感がみてとれる。
最初のバージョンと比べると、サイズが大きくなり、6インチサイズのスマートフォンに対応し、AndroidのみならずiPhone用のアプリ、SDKも用意された。また、教育分野での応用も考慮され、Expeditionsと呼ばれるツールを先生がタブレット端末で利用し、先生が映像の切り替えなどをコントロールすると教室にいる生徒全員の見ているCardboard映像が一気に切り替わる仕組みだ。授業の中で、世界中に広がった遺跡や、宇宙コンテンツ、海中コンテンツなどを活用することが出来るのだ。
映像酔い防止のためのガイドラインやコンテンツ作成の為の指針
従来の映像コンテンツを流用しただけのものは、あまりVR向きではなく、ちょっとした揺れやブレで映像酔いする。普通の映像や立体視の映像などでも、手ぶれする映像だと酔いやすいのではないだろうか?
その一方、ステディカムで揺れを抑えた映像の視野を計算した滑らかな映像だと酔わずに見続けられる。映像酔いの主な原因は三半規管が体の移動を感じていない時に、激しい動きの視覚情報を得てしまうというそれらの不一致によるもので、特に映像方向の軸が、ねじれる映像、悪路を走る車のような予測できない揺れた映像などが顕著に酔う。
VR用のコンテンツはそれらをふまえ、作り方を工夫することで、だいぶ解決すると考えられている。まだ圧倒的にコンテンツ制作のノウハウが足りておらず、VR関連の専門家を集めたプロダクションが設立されたりしている。Googleも今回、指針やガイドラインを示してきており、少しずつ見やすいVRコンテンツが拡充していくと考えられる。
■Designing for Google Cardboard(Cardboard向けのコンテンツ制作について[英語])
http://www.google.com/design/spec-vr/designing-for-google-cardboard/
映像のプロの眼、バーチャルリアリティに古くから関わって来た人の眼からすると、まだまだCardboardのクオリティは貧弱にしか思えないかもしれない。けれども何より安価で手軽に使い始められること、多くの台数を確保しやすいこと、日進月歩のスマートフォン技術が応用されていることから、これからものすごいスピードで進化し、ごく一般的に体験できるタイプの映像体験になることが期待される。
Googleが提唱するVR 10の法則は下記のとおりだ。
- 位置指定はマウスカーソルではなく十字線(レクチル)で表現
- 立体UIにおける奥行き方向の配置と眼精疲労を考慮
- 急激にカメラを動かすことなく一定速度で
- カメラが地面に設置してあるような安定した感覚を保持
- 頭の動きに応じた素早い映像追従
- 注視したり選択したりする方向を光で案内
- 大きさ(小ささ)をうまく調整
- 空間を表現する3Dオーディオの活用
- 視線方向への手がかりを用意する
- コンテンツは美しく魅せること
ATAPによるパノラマ映像
HELPのメイキング映像
Googleが考えているモバイル映像を再定義する「没入形のコンテンツ」の一つが、Google I/Oの展示会場でお披露目された。ATAP(Advanced Technology and Projects)と呼ばれる、Googleの研究機関による成果発表の一つで、「HELP」とタイトルのついたパノラマ映像の作成には、英国の著名プロダクションThe Millが協力した。映像は、映画ワイルド・スピードなどを手がける台湾出身の映画監督Justin Lin氏らが13ヶ月をかけたもの。
VFXスーパーバイザーは、ハリー・ポッターの特殊効果を手がけるGawain Liddiard氏。ブルースクリーン背景の実写撮影とCG映像をバランスよく組み合わせた短編映像作品である。撮影にはMillスティッチと呼ばれるRED EPIC DRAGONを4台搭載した特殊な360度カメラリグと映像制作のためのパイプラインといった新技術が盛りだくさんの構成である。なんとこのシステムではリアルタイムスティッチによりパノラマ映像が撮影時にその場で確認できるのだ。
総括
一眼レフカメラとブームマイクを搭載した取材用のリグでフットワークよく取材するメディアのカメラマン
今回のGoogle I/O 2015、そのほかの映像系の話題は、以下のとおり。
- 容量無制限のオンラインストレージGoogle Photosでは、写真だけではなく動画にも対応
1080pまでの動画の保存が無制限。それ以上の動画は1080pにサイズ縮小されて保存- AndroidスマートフォンによるYouTube再生もオフライン再生に対応
また会場では、一眼レフカメラや、スマートフォンを用いて現地リポートするカメラマンの姿も多くみられた。単なる検索と広告の企業と思われていたGoogleが、映像やコンテンツの世界にも進出し、ネットと親和性の高い先進的な技術を用いたコンテンツを扱い始めた印象のGoogle I/O 2015であった。