txt:手塚一佳 構成:編集部

Leica SLシステムリブートイベント開催!

高レベルでスチルカメラとムービーカメラを融合させたマルチロールカメラは、DSMCの例を挙げるまでもなく需要が高い。その中でもLeica SLは天下のLeicaのスチル性能と、DCI 4K24Pの本格的な動画撮影機能を両立させた理想的なマルチロール機の一つといえる。

そんなLeica SLに注力した製品発表やパーティー、そしてLeica SLのワークショップなど、一連のLeica SLのリブートイベントが月島にあるスタジオギアにて開かれた。今回は、このイベントのレポートをお送りしたい。

月島スタジオギアでイベントは開かれた。私事だが筆者が昔住んでいた建物なので大変に地元感がある

APO-Summicron-SL f2/75mm ASPH.発売、および同90mm発表

まずは、ドイツからこの一連のイベントのために来日したライカ本社スタッフの中から、プロフェッショナルシステムのプロダクトマネージメント長Stephan Schulz氏と、Leica SLのプロダクトマネージャーであるSteffen Skopp氏のお二人に今回の新作レンズなどを説明していただいた。

Leica SLを産みだしたStephan Schulz氏とSteffen Skopp氏

――今回のイベントの目玉はSL開発者的には何でしょうか?

Skopp氏:それは、もちろん新型レンズです。今回は1/28発売の75㎜(APO-Summicron-SL f2/75mm ASPH.)と、2月に発売予定の90mm(APO-Summicron-SL f2/90mm ASPH.)の2本をドイツから持ってまいりました。

――(しばらく触りまくってから)…これは素晴らしいレンズですね。

Schulz氏:ありがとうございます。既存のズームレンズの焦点距離範囲内のレンズですが、単焦点として独立させた意味はあると思います。特にAFの速さは特筆です。

――新しいレンズ群の売りはAFということでしょうか?

Schulz氏:それはもちろん、非常に大きいポイントです。しかし最大の売りは、すべてが高レベルで完成されている、という点です。速くて正確なAF、コンパクトなサイズ、最高レベルの光学システム。そのすべてが非常に高いレベルです。

――実売が楽しみです。

Skopp氏:75mmは日本ではもう発売されていますから、ぜひ手に取ってみてください。90mmも2月には発売の予定です。

新作のAPO-Summicron-SL f2/75mm ASPH.と2月に発売予定の同90mm

――例えば日本では、Mマウントのアポズミクロンシリーズなどのほうが画質が高い、という人と、SLレンズ群のほうが画質が高いという人が論争を起こしていたりなんかしますが…。

Schulz氏:それはSLとMのレンズのファクトシートを見ていただければわかる通りなんですが(笑)。当然SLのほうがサイズ制限もなくまたハイテク機能も使えるために高性能です。しかしもちろんこれはMマウントレンズが性能が低いというわけではありません。あの大きさとフルマニュアルという制約の中で最高に素晴らしい画質を出しています。SLマウントレンズとは全く大きさが違いますから。

――では、このLeica CLと比べると…

Skopp氏:わはは!いえいえ、Leica CLはあくまでもハイアマチュア向けですから!もちろんそれも素晴らしいカメラですが、Leica SLと並べて語るものではありません。ターゲットが異なります。

――SLレンズのシネマ利用はどうお考えでしょうか?

Schulz氏:シネマ、というのは非常にハイレベルなのでLeica SLの範囲外ですが、Leica SLシステムのカバーするムービー利用ということでお話ししましょう。ムービー利用では短焦点レンズはお勧めできると思います。また、今度発売される16-35mmのSL用ズームレンズは使いやすいと思います。

Skopp氏:新型の16-35mmはインナーズームなので長さが変わりません。4月以降に発売の予定ですからご期待ください。

――Leica SL標準ズームの24-90mmのズーム動作時における光量変化の問題なども?例えばムービーに適合した標準ズーム24-90mmの新モデルを出すとかのご予定は?

Schulz氏:その問題はすでに把握しており、ファームでの対応の予定がありますのでお待ちください。プロシステムですから、我々はしっかりとサポートをしてゆきますのでご安心ください。

ライカカメラジャパン小池氏:(横から)ちなみに手塚さんすっかり忘れているようですが、Leica SLはHDMIから10bit出ます。それをATOMOSさんやBMDさんの収録機でLog収録してもらえれば、だいぶ利用方法が広がるはずですよー!

――あー!そういえばそんな機能もありましたね!標準撮影があまりに綺麗で使ってませんでした。今度使いますね!

小池氏:お願いします。せっかく私が以前のInterBEEでご紹介したんですから!

4月以降発売予定のLeica SL用16-35mmズームレンズも試作機が置かれていた

――ムービー利用ということであれば、何かムービー利用でのおすすめの運用方法などはありますか?

Schulz氏:うーーん。私たちとしては…。

Skopp氏:うーーん。できれば自由に使ってほしいのですよね。本当に素晴らしいシステムなので、私たちで利用方法を指定したくないのです。

――なるほど。でも、例えばRIGをLeicaで出すとか?LeicaらしいおしゃれなRIGが欲しいんです!(力説)

Schulz氏:いやあ、それはやはり無理ですよ!もちろん、例えばLockCircleのCageのようなクールなRIGの例もありますので、そういったサードパーティやフレームをご利用いただければ、と思います。

――Leica SLはムービーカメラにしては非常に軽量で決して高くはないのですよね。ちなみに、利用場所の制限などは?例えば防水防塵とか?

Schulz氏:まず防塵は置いておいて、防水については、これは敢えて基準を公表していません。それはレンズ交換式というSLの仕組みと、非常に長い間品質を保証するLeicaという会社の特性によるものです。

パッキンにほこりがちょっと引っかかっただけでどうしても水は入りますから、私たちはそれを基準を超えたと言いたくはないのです。しかし、もちろん一般的なプロ用カメラの防滴基準は軽く超えています。これもM型と比較して優れたところですね。

Skopp氏:嵐とかはちょっと…。

Schulz氏:そうそう。台風のような嵐とかは無理ですが、そうでなければ大丈夫です。もちろんできるだけ濡れないようにしてくださいね。レンズ交換部分とかはどうしても完全ではないのです。

――あーー。私は友人たちとの話題で調子に乗って、SLを片手で持ちながら滝を登って釣りをしたんですが、レンズ交換時のセンサーについたしぶきをそこにいる小池さんにメンテしてもらっただけで、全く問題なしでした!

両氏:わはははははは(少し困った顔で)。

ライカ銀座店のパーティーでのテストショット

同会場でライカ銀座店のユーザーパーティーも開かれた。今回のイベント全体のテーマはLeica SLのリブートであり、そのため、Leica SLユーザ-を中心とした客層が招待され、ライカストア系パーティーでのいつものM型ライカのファンを中心にした客層とは少し毛色が異なるイベントとなった。

ボサノバの生演奏の中、Leica SLの絵がチョコレートに描かれたケーキが切り分けられ、大変に印象深いイベントであった。スタジオでのイベントと言うこともあり、各種レンズに直接触る機会があったので、それをレポートしたい。

まず、驚いたのが、スタジオに新作レンズ群のみならず、シネレンズまでもが用意されていたことだ。

これは、同イベントにライカプロフェッショナルストア東京も参加しているためだ。通常、シネレンズは個別にプレゼンをするものであって、なかなかこういうイベントではシネレンズに触れないため、大変にいい機会となったのでは無いだろうか?

中でもMacro Summilux-C 65mmをちゃんとしたスタジオセットとモデルを用意した状態で触れたのは大変に良い経験であった。撮影した映像をお見せするので、是非参考にして欲しい。とてもLeica SLのようなスチルカメラで撮ったとは思えないような画像になっている。

Macro Summilux-C 65mmをPLマウントアダプタを付けて実写してみた。素晴らしい、の一言。S35向きのレンズだがフルサイズでもさほどケられない

また、新作レンズ群ももちろんテストをしてみた。まずは、新作のAPO-Summicron-SL f2/75mm ASPH.を試してみた。非常に軽量でコンパクトなレンズであり、Leica SLは重い、という印象が覆った。使用感としてはマイクロフォーサーズシステムの最上位機種を使っているかのような感覚だ。それでいて撮れる絵はフルサイズの最高品位なのだから、本当に素晴らしい。AFは若干迷うところもあったが、50mmのようなゆっくりした感じでは無く、かなりきびきびと動く。AFも充分に実用的だと感じた。

撮れた絵は…現物を見て欲しい。jpeg一発撮りで全く破綻が無い。隅々まで歪みが無く、髪の毛の一本一本まできちんと描写されている。ボケも綺麗ですっきりとかすんでゆく。明るい肌の色の美しさは、まさにLeicaだ。

次に、APO-Summicron SL f2/90mm ASPH.のテストをしてみた。これも非常に軽量で、大変にクリアな感じだ。コントラストが強く描かれ、陰影のある絵には大変に向いている。AFも的確で、決めたい場所にびしっと瞬間で決まる。非常に完成度が高いレンズだ。ギリギリの暗部も捉えてみたがjpeg一発撮りでも充分に解像している。

標準ズームの24-9mmのテレ端と同じ焦点距離ではあるが、撮れる絵は全く別物だ。もちろん標準ズームの24-90mmの絵もミラーレス一眼の枠を越えたクオリティなのだが、それをさらに越えた「撮っただけでゲイジュツ」というぶっ飛んだクオリティだ。

さらに、M型スチルカメラ用の新型レンズLeica THAMBAR M f2.2/90mmも試せた。これは前玉の中央にペイントがあるソフトフォーカス専用のレンズで、Leicaとしては動画への需要があるのでは無いかということでもあった。たしかにこの立体的なソフトフォーカスはデジタル処理では難しい。元々のTHAMBARレンズは1935年生産と古いレンズであるが、それを今回Mマウント用に作り直し「復刻版オールドレンズ」という体裁で出してきたのがこのレンズだ。古い設計と新しい材料、現行マウントという素晴らしいレンズだといえる。大変幻想的な絵が得られる不思議なレンズであった。

オールドレンズは、マウントからセンサーまでの間に光が散ってしまいパープルフリンジなどが出ることがあるが、Leicaレンズは元からカメラ内乱反射や光軸の乱れに気を使った設計となっているためそうした現象が起きにくい。まして、新しく作られたTHAMBAR Mは、当然にそうした心配なく撮影することが出来る。高い価値のあるレンズだと思う。

Leica THAMBAR M f2.2/90mm

総括

今回のイベントを通じてLeica SLシステムのますますの可能性を感じざるを得ない。ご紹介したSLレンズ群は先日発売されたハイアマチュア向けAPS-CサイズセンサーミラーレスカメラのLeica CLにも装着することが出来る。ライカと言えばMマウントという向きも多いだろうが、本来のライカカメラとは、常に最先端の機能をシンプルなシステムにインティグレーとするカメラであるはずだ。そう考えた時、まさしくこのSLシリーズは極めてライカらしいシステムと言えるだろう。もちろん得られる絵も、超高性能な光学系を生かした、低光量でもハイコントラストなライカらしい素晴らしいものだ。

その、ライカらしい絵を動画で得られるのだから、本当に素晴らしい。スチルとしては高額なカメラなので敬遠する向きもあるだろうが、動画カメラと考えるとそう高くは無い。興味がある読者諸賢には、この機会に是非、試して頂ければと思う。

WRITER PROFILE

手塚一佳

手塚一佳

デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。