txt:小林譲 構成:編集部

前回のVidConレポートにてAdobeの“Project Rush”などの話題を取り上げたが、AdobeはこのコンベンションにてPremiere ProのセミナーもYouTuber向けに開催されていた。今回はこのセミナーから見えてきたAdobeの展望を、開発者の独占インタビューも交えてお伝えしたい。

エッセンシャルパネルを使った自己ブランディング

YouTuberといえば、編集をする際にポスプロなどには頼らず自ら全てをこなす「一人完結型」が基本だろう。とはいえ、中には「編集は出来ても、音声ミックスやタイトルまでは上手には出来ない」と思っている人も多いのではないか。

ビデオプロダクトマネージャーBronwyn Lewis氏が開いたセミナーでは、そんな人へ向けて編集を手助けするPremiere Proの「エッセンシャルグラフィック」と「エッセンシャルサウンド」の2つの機能を取り上げていた。この2つの機能を活用する事で、時間や予算に制約がある場合でも自分の作品に一定のクオリティと付加価値をつけることができるとの事だ。

エッセンシャルグラフィックの機能では、ゼロからテロップなどをデザインする事も可能だが、Adobe Stockと呼ばれる素材ストックサービスにもアクセスが可能だ。タイトルのテンプレートを大量に試すことができる上、無料配布のものも多い。つまり時間がない時でも、モーショングラフィックを高いレベルにまで引き上げられるのだ。

エッセンシャルグラフィックからAdobe Stockの豊富なタイトルプリセットを覗ける

また、エッセンシャルサウンドでは音声の自動解析により、ノイズ除去やBGMのバランスを整えることが簡単にできる。最新機能のオートダッキングを使えば、音楽のボリュームを会話のある際に自動的に下げてくれるなど、通常なら時間のかかる作業をワンクリックで行える。

オーディオダッキングで自動でオーディオキーフレームが生成される

これらはAdobe Senseiと呼ばれるAdobe独自のAIを使ってできた機能で、もちろん今後リリース予定のProject Rushでも標準搭載される予定だ。いわゆる「プリセット感」が嫌いな人でも、ゼロから作るよりはテンプレートを改良していった方がはるかに完成までのスピードは上がるだろう。

Project Rushでもテンプレートを使って素早いタイトル入れが可能に。ベータ版はこちらから申し込みが可能

Adobeが考える映像編集の未来について、セミナー後にBronwyn氏に話を聞くことが出来た。

タイトルなどをオシャレに作りたくても、After Effects が難しくて尻込みする人も多いと思います。まずはテンプレートを使うことから徐々に慣れていくのも一つの手だと思います。テンプレートを作ってくれるデザイナーと共同作業する事もで仲間が増える事もあるでしょう。

スタイリッシュなグラフィックを使う事で、自分のブランディングを確立することがYouTuberでも大事だと考えます。色や世界観に一貫性を作り、誰が見ても「あの人のタイトルだ」といったように認識してもらえるようになるでしょう。Premiere ProでもRushでも、ユーザーが億劫に感じる繰り返しタスクを少しでも減らすこと、不必要なクリック数を減らすことを最重要課題と考えています。

編集アプリ内の様々な機能のオートメーション化を進めているとの事だが、インタビューの最後に筆者の機能リクエストをひとつ聞いてもらった。

――メタデータの活用をもっと簡単に出来ないでしょうか。膨大な量の素材の中で、いわゆる「お気に入り」などを作ってフィルタリングする機能をもっと前面に出して欲しいです。ある程度なら今でもメタデータ入力や検索フォルダを使って実現可能ですが、あまり直感的ではないと思います。

FCPXの様なタグ付け機能のようなことですか?

――そうですね。そのまま真似しろ、というよりAdobeなりの視点で考えてもらいたいです。顔認識や映像の自動解析は(重くなりそうだし)あまり欲しくないですが。

あくまでもユーザーが打ち込んだマーカーやタグによって素材を素早く見つけたりする機能ですね。わかりました。

手間のかかりがちな編集作業の効率を上げ、クリエイターはあくまでも作品の内容そのものに時間を注げるようアシストするのが我々の役目だ、とBronwyn氏は最後に語ってくれた。

筆者は幾度も機能リクエストをAdobeに直接投げかけたことがあるが、その多くは実際に新機能として搭載されたことがある。もちろん他の多くの意見を集約してのことだろうが、個人レベルのリクエストも熱心にノートに書き留めてくれている姿にAdobeのユーザーに対する姿勢を感じた。

WRITER PROFILE

小林譲

小林譲

CHOCOLATE Inc.に所属。 イギリスにて幼少期を過ごし、現地で映像を学ぶ。WEB・TV・映画とジャンルを問わず国内外で活動中。