txt:宏哉 構成:編集部

映像制作でのポータブルSSD活用術

映像制作の現場でのストレージデバイスとして、SSDの活用は当たり前になっている。

編集用PCのシステムドライブのSSD化から始まり、現在は映像データの保存や作業用のドライブをSSDで構成しているユーザーは多いだろう。さらに、SSDは収録の現場でも一次記録メディアとして利用されるようになりつつある。

今回、デザインは変わらないが、前モデルより速度が約2倍高速化した「サンディスク エクストリーム プロ ポータブルSSD」をお借りして、撮影現場や編集プロセスでの使い勝手を検証してみた。

サンディスク エクストリーム プロ ポータブルSSD

サンディスク エクストリーム プロ ポータブルSSDは、NVMeを採用したストレージソリューションで、その転送速度は読取り/書込み速度ともに2000MB/秒のスペックを謳う。インターフェイスはUSB 3.2 Gen 2×2対応のType-C規格となっている。

付属のUSBはType-AとType-Cの2種類

筐体にはアルミニウムを採用することで放熱性を高め、またIP55の防滴性と防塵性をもつ。最大2メートルの落下耐性を備え衝撃と振動に強い高耐久モデルとなっている。サイズは約110mm×57mm×10mmとコンパクトで重量も約77gと軽量だ。

本体の厚みは10mm

転送速度計測

簡単にスペックを確認したところで、早速実機を使ってテストをしてみた。まずは転送速度の確認だ。スペック上は2000MB/秒と高速な転送レートを謳っているが、実際にはどうだろうか?

サンディスク エクストリーム プロ ポータブルSSDのスペックを発揮するには、USB 3.2 Gen 2×2対応のUSB Type-Cポートが必要になる。残念ながら、私は対応するPCデバイスを持っていなかったため、PCもお借りしてのテストとなった。

USB 3.2 Gen 2×2 対応のPCをお借りしてテスト

PCは、AMD Ryzen 9 3900XT搭載のモデル。マザーボードにASRock X570 Phantom Gaming Xを使い、メモリは64GB搭載だ。そこに、ラトックシステムUSB3.2 Gen2x2 PCI Expressボード“RS-PEU32-C1A”をインストールしテストした。

なおシステムSSDは、PCIe Gen4 x4を利用したウエスタンデジタルのNVMe SSD WD_BLACK SN850をRAID 0構成で実装しており、その転送速度は読出し12500MB/秒・書込み6250MB/秒と爆速を計測。転送速度テストの受け皿としては申し分ない性能を備えていた。

まずは、定番のベンチマークツールCrystalDiskMarkを使ってサンディスク エクストリーム プロ ポータブルSSDの転送速度を測定する。結果は読出し約2050MB/秒・書込み約2060MB/秒という期待以上の性能を確認できた。

サンディスク エクストリーム プロ ポータブルSSDの転送速度ベンチマーク

次に、実際のデータファイルの転送を行ってみる。今回お借りしたサンディスク エクストリーム プロ ポータブルSSDは2TBモデルだったので、動画ファイルを2TB分詰め込みWindows標準のファイル管理ツールであるエクスプローラを使ってPCのシステムドライブにコピーした。

ラトックシステムUSB3.2 Gen2x2 PCI Expressボード“RS-PEU32-C1A”をインストールした環境でベンチマークテスト

コピー時の転送速度は、平均1000MB/秒(1GB/秒)。約2TBのファイルをコピーするのに30分で完了した。ベンチマーク程の速度は出なかったが、これはコピーに使ったエクスプローラの性能などが関係しているかもしれない。高速コピー対応のユーティリティーソフトを使うなどすれば、実効速度は向上する可能性がある。

転送速度は平均1GB/秒を終始維持。大変安定した転送が可能

このテストで驚いたのは転送速度が安定して1GB/秒を保ち続けたことだ。テスト前の予想では、最初にベンチマーク相当の高速度が出て、その後、発熱によるサーマルスロットリングが発生して転送速度が抑制され急激に遅延…というのを思い描いていたのだが、全く速度は低下せず2TBものファイルをコピーし続けた。コピー開始時に表示される「残り時間」で見事に処理を終えたので、実際の作業を考えた場合でも作業時間を正しく予想できる。作業効率を考えないといけない仕事では有り難い性能だと実感した。

シリコンシェルが上質な手触りを演出

2TBを30分でコピーした直後のサンディスク エクストリーム プロ ポータブルSSD本体の発熱だが、シリコンシェルに覆われた黒い部分はほんのりと温かい程度、一方オレンジ色のアルミ部分はかなり発熱しており、しっかりとヒートシンクとして機能して放熱している事が確認できた。

特徴的なデザインとなっているカラビナループ

動画カメラとの連携

最初にも述べたように、SSDを現場での一次記録メディアとして活用する機器が少しずつだが増え始めている。特に、USB Type-C端子接続で汎用のSSDをそのまま利用できる機種は、メディアコストがリーズナブルになり、さらに転送速度などの点からもバックアップやデータの受け渡しなどに有利だ。

今回のテストでは、外付けSSDが利用できるBlackmagic Pocket Cinema Camera 4K(以下:BMPCC4K) を使って、サンディスク エクストリーム プロ ポータブルSSDとの連携をテストした。

SSDの取付はスマホホルダーと小型の自由雲台を使用

まずBMPCC4KへのSSDへの設置は、汎用のスマホホルダーを利用した。スマホ撮影用途のホルダーであれば1/4インチネジが切ってあるものが多いので、それを活用し自由雲台を併用してカメラの上に固定した。あとは、付属のUSB Type-Cケーブルを使ってサンディスク エクストリーム プロ ポータブルSSDとBMPCC4Kを接続するだけである。

BMPCC4KとはUSB Type-Cで接続

写真では分かりやすいように、USBケーブルが大きく外に飛び出した形にしてあるが、実際の現場での運用では、ケーブルが引っかかったりコネクタが抜けるなどの恐れがあるので、しっかりとケーブリングや養生は行いたい。

サンディスク エクストリーム プロ ポータブルSSDとBMPCC4Kの組み合わせ

ケーブルで両者を接続し、BMPCC4Kの電源を入れればサンディスク エクストリーム プロ ポータブルSSDは自動的に認識される。メニュー画面から[収録タブ]を開いて[収録に使用するカード]の項目に「外付けドライブ」として現れる。フォーマット画面を呼び出せば、残量や記録可能時間を確認できる。

USB接続のSSDは[外付けドライブ]を選択

外付けドライブとして認識

今回のテストでは、BMPCC4Kユーザーなら積極的に活用する事になるであろう、Blackmagic RAWの固定ビットレート3:1、解像度は4K DCI(4096×2160)60fpsで運用した。Blackmagic RAWはRAWファイルでありながらビットレートが抑えられている事が特徴の1つであり、4K DCI 30fpsであれば135MB/秒ほどしか必要としない。60fpsの場合はこの倍のビットレートだと考えられるが、それでも270MB/秒の転送帯域があれば十分だ。そのため、BMPCC4Kと連携して使うサンディスク エクストリーム プロ ポータブルSSDは十二分な性能を有しており、安心して利用できる。

なお、Blackmagic RAW固定ビットレート3:1の4K DCI 60fpsの記録形式でサンディスク エクストリーム プロ ポータブルSSDの2TBを利用すると、約123分の収録が行えた。2TBで2時間、1TBで1時間と覚えておくと分かりやすい。

さて実際の使用感だが、驚くほどに快適だ。誤解を恐れずに言うと、メディアの存在を感じさせない。どういう意味か説明すると、例えばSDXCカードなどを使ったカメラの場合、多少なりともメディアへのアクセスタイムが発生する、カメラ起動時のメディアの認識から、録画開始のタイムラグ、録画停止時の書込みラグ、再生モードへの切り替わりラグなど「今、メディアにアクセスしているな」というのを感じるのが日常だ。しかし、サンディスク エクストリーム プロ ポータブルSSDとBMPCC4Kとの連携ではそれを感じさせない。

まず、起動時だがBMPCC4K自体の起動が2秒ほど掛かる。液晶画面の各キャラクター表示が整うと起動完了で、それが2秒ほどなのだが、そうして起動した瞬間に録画ボタンを押すと、早速録画が開始される。カメラが起動して、メディアアクセスをして…というロスがないので、素早く録画を行えるのだ。これはドキュメンタリー撮影などには大変に有り難い。今撮りたい!というのを確実に拾ってくれる。放送用のENGカメラも起動は速いが、それ以上の速度で録画をスタートできると思って良い。

録画停止も録画ボタンを押せば直ぐに止まる。停止後のバッファの書込みなども発生しないので、瞬時に止まる。そして、すぐに次の録画開始を行える。録画を止めた瞬間に、急に欲しい動きが発生するというのは、ドキュメンタリーやバラエティなどではよくある。そうした状況にもなんなく対応できるほどのレスポンスだった。

スライダーでのシーク再生も引っかかりなくスムーズ

そして、再生モードへの移行も瞬時に行え、再生やシークも大変にスムーズで4K DCI 60fpsのRAWデータを扱っている感覚は全くない。

このように、BMPCC4Kとサンディスク エクストリーム プロ ポータブルSSDの連携はシームレスであり、メディアの存在を感じる瞬間がないのだ。

さらに、連続100分ほどの録画テストなども行ったが、途中で止まってしまうこともなく、安定して長時間の収録に対応できた。舞台やイベント撮影など、長時間収録になりがちな撮影案件にも対応できるということだ。

Video Assist 12GのUSB Type-Cコネクタは下部にある

もう一つ追加のテストを行っている。それは、Blackmagic Video Assist 12Gとの連携テストだ。Video Assist 12GにはUSB Type-C拡張ポートが搭載されており、外付けのSSDなどを収録に利用できるようになっている。またBlackmagic RAWでの収録も可能で、SIGMA fp、Panasonic EVA1、Canon EOS C300 MK IIなどBlackmagic RAW対応のカメラと組み合わせる事で、Blackmagic Design製のカメラ以外でもBlackmagic RAW収録を可能にしてしまう。

サンディスク エクストリーム プロ ポータブルSSDとVideo Assist 12GとDC-GH5の組み合わせ

筆者の手元には上記のカメラがないため、Panasonic DC-GH5とVideo Assist 12Gを使って、ProResコーデックでサンディスク エクストリーム プロ ポータブルSSDに収録するテストを行った。セットアップは、GH5とVideo Assist 12GをHDMIで接続し、Video Assist 12GのUSB Type-Cポートにサンディスク エクストリーム プロ ポータブルSSDを繋ぐだけ。Video Assist 12GのGUIまわりはBMPCC4Kと大体同じなので、記録メディアの指定やフォーマットなどの作業もすぐに行えた。

コーデックの設定はProRes HQとし、解像度はHD 1080 59.94iで収録を行った。サンディスク エクストリーム プロ ポータブルSSD 2TBでの収録可能時間は約1200分(20時間)となり、数日分のロケをSSD 1つでこなすことができてしまう。

ProRes HQ 1080 59.94iをSSD 2TBで約1200分(20時間)収録可能

もちろん4Kでの収録も可能なので、GH5の4K出力をProResで記録することもできる。GH5はカメラ本体にUSB Type-C端子があるのだが、外部メディアに直接記録する機能は備わっていないので、Video Assist 12Gを経由することでサンディスク エクストリーム プロ ポータブルSSDなどの外部メディアに記録できるようになるのは魅力的だ。

カメラ映像の録画は、Video Assist 12G本体のGUI上のRECボタンのほか、HDMI信号に重畳されているRECトリガーやタイムコードなどとも連携するので、カメラ本体の録画ボタンを押せば、連動してVideo Assist 12G側の録画もスタートする。

まとめ

今回は、サンディスク エクストリーム プロ ポータブルSSDを映像制作の現場で試用した。

昨今、カメラ収録自体はコーデックの進化で必ずしも高ビットレートを要せずとも高画質で記録できるようになった。一方で、4Kなど高解像度フォーマットでの1~2時間程度の収録は日常茶飯事なので、つまりは大容量ファイルのコピーやバックアップも頻繁に行う必要がある。その点で、USB 3.2 Gen 2×2に対応し、読出し/書込み速度ともに2000MB/秒以上をマークするサンディスク エクストリーム プロ ポータブルSSDは、大容量のデータを取り扱う映像制作の現場には最適だ。

手持ちスタイルだと77gと軽量なサンディスク エクストリーム プロ ポータブルSSDはありがたい!

また、カメラ収録で一次記録メディアとしてのサンディスク エクストリーム プロ ポータブルSSDも小型で重量77gという軽量さが魅力的だ。手持ち撮影をする事も多いカメラは少しでも軽量化を図りたい。77gであればカメラにクリップオンしても重量増加はほとんど気にならない重さだった。

SDXCなどのカードメディアも大容量化が進み、4K映像などを記録する大容量メディアとしてはSSDと肩を並べるようになったが、やはり転送速度などは圧倒的な差がありSSDに軍配が上がる。特に100GB単位やTB単位の大容量ファイルの転送では所要時間に大きな差が出る。映像制作の現場で行いたいことは、データのコピーではなく映像を編集することなので、よりクリエイティブな作業に時間を割きたいのが本音だ。そのため、毎日のように大量の映像データを取り扱う映像制作の現場では、転送時間は業務効率化の柱の1つだろう。

収録後、編集のためのデータ転送も高速で快適

高速転送可能な小型軽量のSSDメディアを、収録からポスプロ、そして最後はアーカイブにまで活用できれば、スマートなストレージマネジメントが可能になり、よりクリエイティブに専念できる環境が構築できる。

サンディスク エクストリーム プロ ポータブルSSDを映像制作の現場で活用することは、その答えのひとつになるだろう。

WRITER PROFILE

宏哉

宏哉

のべ100ヶ国の海外ロケを担当。テレビのスポーツ中継から、イベントのネット配信、ドローン空撮など幅広い分野で映像と戯れる。