Vol.22 最軽量最高性能のライカ判デジタルスチルカメラ「ライカM11」発売![オタク社長の機材買ってみた]

既報の通り、ライカカメラ社(Leica Camera AG、本社:ドイツ・ウェッツラー、以下ライカ)は、2022年1月13日23時、M型カメラの最新機種「ライカM11」を発表した。

Vol.21 最軽量最高性能のライカ判デジタルスチルカメラ「ライカM11」発売![オタク社長の機材買ってみた]
ついに発表された「ライカM11」

同社によれば「ライカM11」は、伝統的なレンジファインダーカメラの要素と最先端のカメラ技術が融合した最新機種で、さまざまなニーズへ柔軟に対応するカメラだ。新たな特長として挙げられるのは、独自のトリプルレゾリューションテクノロジー(3段階解像度読みだし)を採用した撮像素子、より広いISO感度域、SDカードスロットおよび内蔵メモリーのデュアルメモリー仕様、大容量バッテリー、さらに直感的で使いやすいメニュー構成など、ライカMシステム史上もっとも柔軟性に富み、デジタル撮影において新定番となるカメラに仕上がっている、としている。

また「ライカM11」はアルミ軍艦部を採用したブラックペイントと従来の真鍮製のシルバークロームの2色が用意され、ブラックペイントで約530g(バッテリー含む)と、従来機「ライカM10-R」の約660gより130gも軽いのが特徴だ。なお、シルバークロームは約640g(バッテリー含む)で、従来機より若干(約20g)軽い重量になる。

言うまでも無く、今のフルサイズセンサーの別名はライカ判サイズセンサー。即ちライカカメラ用のフィルムサイズが元になっている。その中でもMシリーズはまさにかつてフィルムカメラ時代にライカ判フィルムを確立させたシリーズであり、スタンダードの中のスタンダードなカメラだ。

2022年1月21日の発売に先立ち、ライカプロフェッショナルストア東京にて、タッチ&トライの機会を得たので、今回はそこでの実機写真を交えつつ、この最軽量最高性能のスチルカメラをご紹介したい。

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発表に伴い、ライカプロフェッショナルストア東京にて、タッチ&トライ会が開催された。急拡大するコロナ禍に対応し、厳密に少人数で、複数回に分けたイベントとなった

最強のトリプルレゾリューションテクノロジー(3段階解像度読みだし)センサー

「ライカM11」の要といえるのが、トリプルレゾリューションテクノロジー(3段階解像度読みだし)を取り入れた35mmフルサイズ裏面照射型CMOSセンサーだ。この撮像素子は、JPEGだけでなくDNG(RAW)でも60MP、36MP、18MPの3種類から記録画素数を選ぶことが可能となっている。

従来のカメラでも当然に同じセンサーからの複数画素読み出しが可能な機材も多かったが、「ライカM11」においては、3段階どの記録画素数でも撮像素子の全域を使ってRAW段階からの撮影読み出しができる。

最高画素数の60MPではきわめて高精細に美しく描き出し、ライカの最新のアポレンズの光学性能を存分に引き出し、一方、36MPや18MPでは、カメラの高速性能を十分に活用し、連写時の持続性が向上すること、そしてファイルサイズを小さくできること、なによりもダイナミックレンジが大きく取れること、等の特徴を備えている。

本イベントに先立ち映像での本カメラ紹介に置いて、ライカの上級副社長 技術・オペレーション担当であるステファン・ダニエルは下記のように語った。

ステファン・ダニエル氏:「ライカM11」のセンサーでの複数解像度対応は、一度高画素で撮影してからエンジンでピクセル減数する方式では無く、新しく開発した、センサーユニットからの読み出し段階で複数のピクセルをまとめて読み出す方式を採っています。そのため、6030万画素の時は高精細に取れるだけでなく、他の二つの低画素モードの時には(画素あたりの受光量を増やし)高いダイナミックレンジで撮影できるのが特徴です。

これにより、RAWにおいても、今までは1種類のフルサイズ全画素読み出ししか記録できなかったものが、低画素撮影時にはそれぞれの画素数のRAWファイルがフルセンサーサイズで記録できます。

同氏のこうした発言からは本カメラのセンサーにおける自信のほどが窺える。 なお、本センサーは6030万画素という膨大な画素数を持つ裏面照射型センサーであり、暗所にも強い特徴を持つ。素晴らしいセンサーを搭載したハイエンドカメラと言えるだろう。 実機のセンサー周囲を確認すると、非常に薄く、余分なパーツを廃して作られており、徹底的な軽量化と高性能を両立させようという意思が強く窺える。

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センサー周りを開けると、非常にシンプル且つ全てのパーツが薄い事がわかる。細かい突起の一つ一つを廃して130gの軽量化がなされていることがわかる

画質を支える画像処理エンジン「LEICA MAESTRO III(ライカ・マエストロ・スリー)」

また、画質を支える画像処理エンジンには「LEICA MAESTRO III(ライカ・マエストロ・スリー)」を採用しているのも特徴だ。 このエンジンの採用により、ISO感度の設定範囲はISO64からISO50000、画像記録時の色深度は14bit、ダイナミックレンジは最大15ストップという最大6030万画素の膨大なデータを瞬時に処理し、美しく記録することに成功している。

さらに大きな特徴として、ついに電子シャッターにも対応したことが上げられる。最高1/16000秒の高速シャッターを実現する電子シャッターにより、明るいシーンでもNDフィルターを使わずに絞り開放での撮影が可能となったという。

こうした膨大なデータを収録するためにSDカード部分も刷新され、UHS-IIが推奨となった。 また非常に変わった「ライカM11」ならではの特性として、64GBの内蔵メモリーも搭載していることが挙げられる。これにより、M型カメラとしては初めて、SDカードと内蔵メモリーという異なる記録媒体へ同時に画像データを記録することが可能になったという。そうしたバックアップ的な要素だけでなく、何らかのトラブルでSDカードが使えない場面でも緊急的に内蔵メモリーに収録が出来るのは魅力的だ。ダブルスロットを用意するスペースのない超小型な「ライカM11」でどうやってプロの求める信頼性を確保するのか、という疑問に答える工夫と言えるだろう。

さらに、バッテリー容量は1800mAhと、従来よりも容量が64%アップしている。同時にカメラ全体の消費電力も抑えているため、一度の充電でより長時間撮影することができる。インターフェースは新たに汎用性が高いUSB Type-Cに対応。USB接続によるバッテリーを充電も可能で、市販別売りの多くのUSB Type-C対応の充電器が使用できる、という。

なんと言っても使いやすい、ユーザーフレンドリーなデザイン!

「ライカM11」は、一見、先代の「ライカM10-R」と同じようなデザインに見えつつも、実は大幅にデザインの工夫もされ、本体下部のベースプレートを廃すなどしてブラックペイント版で130gの軽量化を図ったほか、本体背面には高精細230万ドットの新タッチパネル液晶モニターを搭載。モニターの左右にファンクションキーをはじめとする操作ボタンを配置するという「ライカM11」独特のレイアウトを取り入れている。また、そのメニュー構成では「ライカSL2」シリーズや「ライカQ2」で定評のあるユーザーインターフェースを採用し、同社製品のユーザーなら全ての製品が直感的に使いやすい工夫がなされている。

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先代の「ライカM10」と「ライカM11」の比較。同じ印象ながら明らかに整理されているデザインだ

また、当日確認は出来なかったが、iPhoneをはじめとするスマートフォン連動性も高まっているという。 さらには、伝統的な真鍮軍艦部へのシルバークロームと、アルミニウムボディへのブラックペイントとの2色を用意し、そのどちらも選択できるようになっているのも特徴だ。特に何度も繰り返すが、後者のブラックペイント判の重量は前作「ライカM10-R」より130gも軽量化され、手に持ってはっきりとその重さの違いがわかるほどに仕上がっている。

Vol.21 最軽量最高性能のライカ判デジタルスチルカメラ「ライカM11」発売![オタク社長の機材買ってみた]
従来と同じ真鍮製のシルバークロームで実測20g、ブラックペイントだと実測130gの軽量化がなされていた。持ってわかる驚くほどの軽さ!

ベースプレートを廃したことで、バッテリーアクセスやSDカードアクセスは容易になり、プロフェッショナル向けのユーザーインタフェイスになったと言えるだろう。ベースプレートが必要な向きにはアクセサリーとして新デザインを採用したハンドグリップが推奨されていた。このハンドグリップは、従来のベースプレート的な意味合いを意識してか、装着したままでもバッテリーやSDカードの交換が可能なほか、雲台を取り付けるアルカスイス互換のプレートの役目も果たす。三脚運用や精密な撮影には大いに活躍しそうなアクセサリと言える。

動画機能は付いていないものの。大いにアリなカメラでは?

PRONEWS読者としては残念なことにこの「ライカM11」はスチル撮影機能のみでムービー撮影機能は付いていないが、トリプルレゾリューションテクノロジー(3段階解像度読みだし)などは映像の世界にもすぐにも降りてきそうな技術であり、非常に期待が持てる。また、本カメラ単体としても当然に素晴らしいカメラであり、その軽量さを生かして、広報写真用にと言うだけでなく、ビューファインダー代わりに、あるいはロケハンにと大活躍しそうなカメラだと言えるだろう。

もちろん、動画ユーザーとして欲を言えば、ファームアップや次期バージョンで、少しでもいいから映像が撮れるようになってくれるとうれしいものだ。あまりに小型な本体からの放熱性能を考えれば15秒や30秒程度でもいい。短編動画は今やスチルの拡張として広くネットで使われている。スチルカメラとしてのストイックさを求めるあまりにそうした「スチルの拡張としての動画」まで排除してしまうのはあまりにもったいない。マイクがない以上録音は無理にしても、せっかくのRAW撮影機能を生かした連番RAW等でも十分と言えるので、おそらくちょっとしたバージョンアップ、バリエーション対応で対応可能なはずだ。

先々代の「M(typ240)」がそのバリエーションで「ライカSL」や「ライカQ2」などの動画対応シリーズを産み出してきた事を考えると、決して夢物語では無いはずだ。「M(typ240)」ではその重量から動画機能が理不尽にもネットなどで叩かれてしまうという悲劇があったが、あれから9年たち、短時間の動画がスチル的に使われる場面は非常に増えてきた。また、スマホの普及もあり、今のユーザーは廃熱機構さえ搭載しなければ動画機能で重量増にならないことは誰もが理解している。動くスチルとしての短時間撮影機能付きの「ライカM11」のバリエーションに大いに期待してしまうのは私だけであろうか。

とはいえ、あまりに画期的な「ライカM11」。その重量と携帯性、使用感の良さが、動画が撮れないという我々動画屋から見た問題点を吹っ飛ばしてしまうあまりに魅力的なカメラだ。 Mレンズはオプションのマウント変換アダプタを通じて動画に強いSLシリーズで運用できるので、「ライカSL2」あたりを併用すればまったく損にはならないだろう。 お値段はブラックペイント、シルバークローム共に1,188,000円。 たとえ動画機能が付いていなくとも動画ユーザーの購入検討に値する、大変に夢のあるカメラだと言える。

WRITER PROFILE

手塚一佳

手塚一佳

デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。