ブラックマジックデザインCEOのグラント・ペティ氏

ブラックマジックデザインがトップランナーである理由

Blackmagic Design CEOインタビュー説明写真

NAB Show 2022出展ブースの中で最大コマ数を誇り、毎度大きな衝撃を与えてくれるのがブラックマジックデザイン(以下:BMD)だ。今回は、BMDを率いるCEO グラント・ペティ氏に話を訊いた。実にPRONEWSでは4年ぶりの登場となる。いち早くオンラインの発表会へ移行するなど転換の速さやBMDに流れる社内哲学など含め、この二年間の動向も交えながら、気になるBMDの思い描くクラウド運用の未来に迫った。

――3年ぶりのNAB開催となりました。まずは感想を教えてください。展示会に参加する重要性をどう考えていますか?

グラント氏:

開催までどうなるのかと心配していましたが、会場は盛況で、すごくハッピーです。やはり展示会で、多くのお客さんと対話は良いですね。直接ユーザーの方に耳を傾けることは、大きな意味があります。ユーザーの声には多様性があり大変参考になります。
対話の方法は色々ありますが、例えばオンラインでの会話は、大きな声の人、つまり主張の強い人の意見が耳に入りやすくなります。また展示会では、想定していないお客さんに出会うサプライズもあります。
普段あまりミーティングしないようなシャイな人や一般のお客さんと話して、色々な方向に話が進み、新しい方向性が見えてくる。会話が次のイノベーションにつながることもあります。この偶然性を生む体験は、展示会の現場でしか生まれないことです。オンラインでも顧客訪問でもできない、なかなか貴重なことです。

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――なるほど。展示会への出展の重要性はわかります。その一方でBMDは、いち早くオンラインでの新製品発表会に取り組んでこられました。その中核をなす映像配信機材の製品化に近年力をいれていらしゃるかと思いますが、商品化するスピード感に驚いています。

グラント氏:

実際の製品製造プロセスの最適化が重要だと考えています。かつて日本のトヨタの製造技術をかなり勉強し、そこから学んだことがたくさんありました。
多くの工場での問題点は、マネジメント部門の人材が過剰なことです。指示する側での混乱が起き、どうしても判断に時間がかかってしまいます。急務なのに判断が遅くなるという本末転倒なことに陥りがちです。
BMDでは、マネジメント側スタッフは最小人数にとどめ、多くのエンジニアを採用しています。それによって早く決断し、早く工場で製造し、新製品を同時進行で開発しています。我々のスピード感の秘密はそこにあるのです。

――具体的なエンジニア数はどれくらいなのでしょうか?

グラント氏:

社員数は約3,000人です。その中でエンジニアが何人か?ということはわからないです(笑)。

――映像業界に限らず、半導体が世界的に今不足していています。そんな中でBMDは製品を順当にデリバリーされていています。社内で調達の仕組みに特徴的なものがあるのでしょうか?

グラント氏:

まず、大事なポイントが2つあります。一つは、工場を自社所有し経営していることです。パーツが必要であればできるだけ早い段階で調達し、もしパーツ不足があっても柔軟に対応できます。あと豊富な新製品リリースも経験値として活かされています。
もう一つ重要なポイントは、新製品や新しいデザインを施すときは、新しいパーツを積極的に使用します。自動車産業だと、どうしても定番の部品を旧来のコンピューターや仕組みで生産されています。
新しいパーツを使えば、他の企業は使用してないため供給も安定します。例えばアップル社の戦略もそうですね。我々も常に新しい部品を使用し、部品の安定供給をしています。

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――部品管理や出荷管理は社内でしっかりとコントロールされているのですね。そのシステムをCEOが自らつくっていると聞きました。

グラント氏:

社内のシステムは、自分でコードを書き、プログラミングしています。毎日午前二時までコードを書いていますよ(笑)。現在、社内に優秀なエンジニアが多くいますから、彼らが開発を進めてくれます。私はただコードを書くか、新しいアイデアを思いついて製品を作るかしかない。さらにパンデミックでやることがないから、毎日コードを書いているのですよ(笑)。

――面白いお話ですね(笑)。パンデミックの間、スタッフは在宅勤務だったのですか?

グラント氏:

パンデミック中はほぼ自宅からの作業となりました。エンジニアリングは自宅からも可能でしたので、柔軟に対応していました。幸い、会社的にもパンデミックの影響を受ける事もなかったので、政府から補助金をもらう必要もなかったですし、社員を雇用止めすることもなかったです。
例えば、会社の中にレストランがあるのですが、長い間キッチンを閉鎖していましたが、誰一人やめさせていません。誰も欠けることなく、パンデミックを終えられたのは、誇りに思っています。

歴史を変えるクラウド実用元年

今年のNAB Showで感じた一番大きな出来事は、ここ数年の中で大きな変革期と実感したことだ。これまでの映像制作の歴史は、フィルムに始まり、ビデオテープを経て、ファイルベースなった。これまでローカルデータだった、ファイルがクラウド上に点在し、距離、空間を超え、複数人で同時共有可能になる。まさに今回の発表は映像業界の大きな潮目となった。

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――誰も欠けることなくパンデミックを乗り切ってこられたのは素晴らしいお話ですね。そんな中でようやく展示会でお会いできて、そして大きな発表もありました。一番気になるのがクラウドについてです。今回は時代の潮目で、映像業界の常識が大きく変わると思うのです。「クラウド」で行こうと思いついたきっかけを教えてください。

グラント氏:

このプロジェクトに関しては、パンデミック前から構想はありましたが、かなり長い時間をかけて開発しました。DaVinci Resolve(以下:DaVinci)の中にFusionやFairlightなどが集約されています。その中でシームレスにコラボレーションする必要がありました。そこで最初はローカルのストレージで、同じイントラネットなど敷地内でもコラボレーションに取り組みました。さらに遠隔でできないのか?ということになりました。
クラウドに取り組むことになるのですが、その中でソリューションを色々と考えました。クラウド上にファイルを何でもかんでも置くと、結構コストがかかり、現実ではない結論に至りました。もう一度シンプルに考えて「メール」に行きつきました。メールは、どこかにサーバーがあって、各人が好きなメールアプリを使用し、アクセスしてメールを書いたりして使用します。この仕組みで出来ないかと考えたのが今回のクラウドのサービスです。
その「メール」の仕組みの発想から行きついたのがDropboxを活用することでした。Dropboxのセットアップは極めて簡単ですので誰でも簡単に始められます。Dropboxで同期することで、世界中の複数のユニット間の多くのユーザーがファイルにアクセスして使用することができます。やや遅い回線のインターネット接続でも問題なくアクセスができて、クリエイションの妨げになりません。
どなたでも同じプロジェクトにアクセスして同時にコラボレーションが今回できるようになったということです。

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テクノロジーを超えた先にあるブラックマジックデザイン社のソリューション

NAB Show 2022ではパワーワードとして他社も「クラウド」を上げていた。一般的に「クラウド」は、テクノロジーだ。しかしブラックマジックデザイン社が考える「クラウド」は、テクノロジーを超えた部分があり、映像制作の在り方を大きく変えていくだろう。大袈裟だが、思想的、哲学的なところまで及ぶ驚きがあった。

――今回のソリューションを見て、「クラウド」が映像業界でもいよいよ実用段階に来たなと思いました。BMDは前人未到な技術をいち早く市場に問いかけ、スタンダードにしてきた実績も多いですからね。また歴史を動かしたと思いました。

グラント氏:

そのようにとらえていただくのはありがたいです。新製品を発表する場合、やはりその製品がいかに世の中に響くか?どのような未来をもたらすか?と事前に考えます。例えば、ATEM Miniの場合をあげましょう。ATEM Miniを購入した若い映像制作の学生たちが、自らYouTube配信で収益を得て、卒業時にはその先生より稼いでいることもあります。そういう話を耳にすると、「うまくいったな!」と感じますね。
今回、「クラウド」に取り組み、その一つのゴールを紹介します。例えばYouTubeでカラーグレーディングのチュートリアルをアップした人が、評判を呼び、世界中からコラボレーションの依頼が舞い込むことになる。十分起こりうるでしょう。
YouTubeに自分の知識をアップロードして、大きなプロジェクトに関わる可能性もあります。さらにプロジェクトが終了して挨拶すると、14歳の子供だったりするかもしれない。こういう未来が実現可能ならば、「クラウド」は成功だったと思えますね。このような結果をゴールとして思い描いています。

――時間、空間、物理的などいろんな制限がなくなりますね。ましてや国や年齢とか場所も関係なくなりますね。

グラント氏:

そうですね。国籍や年齢の制限がどんどんなくなって、新しいつながりが醸成されることが理想でもあります。その仕事をする人がポストプロダクションの人かもしれないし、学校の人かもしれないし、それは関係なくなりつつあります。
もっと言えば国籍さえも関係なくなってきます。まさに世界もそのように変化しています。クラウドによるコラボレーションもその一つというわけです。
文化と文化がうまく融合し化学反応すること、もしくはそのギャップから、いろいろ新しいものが生まれます。失敗もたくさん生まれますが、そこから何かしら新しい価値や学びが生まれます。今回リリースさせていただいた新製品が皆さんの一助になれば幸いです。

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――なるほど、発表されたCloud Storeのデザインがかっこいいデザインですね。ラックマウント型を希望するユーザーも多いと思います。

グラント氏:

はい、ラックマウントについては、もちろん考えています。Cloud Storeのデザインにはこだわりがあります。
購入していただく層で一番多いのが、ポストプロダクションだと思います。ポストプロダクションは海外も含めて、クールなデザインのところが増えています。BMDのHPに掲載されているイメージが、ポストプロダクションの一つの理想形なのです。
一般的にネットワークストレージは、動作音が、うるさかったりとか不格好だったりするのがほとんどですので、そこを解消しました。Cloud Storeは部屋に置いてもカッコよく映えますし、何よりも性能に関しても、静音声や放熱性など自信を持っておすすめします。
実は、ロケなど屋外での使用のことも考えています。持ち運びのできるハンドルを装着することができます。ロケでもポスプロでも使え、どっちにもフィットするデザインを考えました。

――ではDaVinciのことについてお聞きします。これまで無料提供もされていますが、今後、サブスクリプション(以下:サブスク)は考えていないのですか?

グラント氏:

サブスクに関してはやる予定はないですね。サブスクを全否定するというわけではないですよ。例えば、マニアックな基盤設計のソフトウェアとかは、サブスクを導入しないと採算が取れない場合はありだと思います。
この映像業界において、コンテンツ制作するクリタイター向けのソフトウェアのサブスクは必要ないと思っています。一生懸命映像制作に打ち込んで、そのプロジェクトが一年後終了し、アクセスできなくなる。それは結局クリエイターたちの成果を無にすることになりますし、自分の考えとしても間違っていると思うので、それは絶対にやりません。
Netflixなどのようにコンテンツを享受しているわけではなく、クリエイターたちが頑張って製作したプロジェクトにアクセスできなくなるのは筋が違う気がします。映像製作業界でソフトウェアのサブスクは大いに違和感があります。

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――確かに映像製作側と、コンテンツを受け取る側は違いますよね。

グラント氏:

もちろん、利益を否定するわけではないですよ。BMD製品にはパネルや周辺機器などもあり、収益を上げています。もちろん儲かることは企業成長としては良いと思っています。ただ、サブスクリプションなど、間違った方法で儲けることは避けたいですね。

――映像制作側のクリエイターにとっては心強いお言葉ですね。最後に日本の放送業界、クリエイター、ブラックマジックデザインユーザーに一言お願いします。

グラント氏:

日本の皆さん、いつもBMDをご利用いただきありがとうございます。私は日本のファンです。かつて、シンガポールのポストプロダクションで働いていました。日本の仕事でそのデザインのすばらしさ、細部へのこだわりにすごく感銘を受けました。CM映像などを代表するように日本のディテールへのこだわりが、今回のクラウドそしてコラボレーションによって、さらに世界に広がっていけばいいなと考えていています。
国によって色々な得意、不得意があると思いますから、例えば、日本、アメリカとかヨーロッパが一丸となって、クリエイターたちが相互にコラボレーションすることできっと素敵なことが起こるはずです。

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。