90年代後半より日本の音楽映像シーンを最前線で目撃し続けたライター、林永子(a.k.aスナック永子)が、映像の現場を牽引するプロフェッショナルにインタビューを行う連載がスタート。

記念すべき第1回のゲストは、林永子とは同世代のベテラン撮影監督、奥口睦氏。映像視聴のプラットフォームの移行や、撮影機材の目まぐるしい進化など、約30年間の変遷とともにキャリアを振り返る。

撮影スタジオからスチールカメラマンへ

――撮影監督を目指した経緯から教えてください。

地元山形の高校を出て、仙台の舞台演出などを学ぶ専門学校に行きました。就職活動の時期にスタジオ109の部長さんと繋がりがある先生から、東京の撮影スタジオで求人が出ていると連絡をもらったんです。「交通費も出してくれると言ってくれているし、よかったら一度見学に行ってみないか」と。

僕らの世代は就職氷河期でやりたかったライブ系の仕事の求人もぜんぜんなくて、撮影スタジオなんて未知の世界だけど働くなら現場職が良いなと思っていましたし、タダで東京に行けるし、見学に行ってみました。地下にある大きなスタジオに車を入れて撮影している現場を間近にみて、衝撃を受けたのを覚えています。

――たまたまスタジオマンに。

一応入社試験も受けて、無事スタジオで働くこととなりました。当時の109は名だたるカメラマン、例えば繰上和美さん、上田義彦さん、坂田栄一郎さんなど、巨匠がいつも来ていて、大規模な広告の撮影をされていました。いつもテレビや雑誌で見ていた有名な俳優やモデルを被写体に撮影し、見たこともない大きなカメラを自在に操る。カメラケースの中には武器のように数台のボディと何本もレンズが入っていたり。

「カメラマンってかっこいい!」ってしびれちゃって(笑)。それでカメラマンになろうと決めました。僕はカメラ未経験でしたが、先輩や同僚は写真学校の出身者が多かったので、写真を始めるならどのカメラを買えばいいか、アドバイスをもらうところから入った記憶があります。

――まったく未知数だったんですね。

そう、何も知らなかった。撮影の仕事があることはふんわり理解していても、カメラマンと役者が対等にやりあって撮影しているなんて思ってもみなかった。広告以外にも、ファションフォトで活躍していた鶴田直樹さんや、音楽ビジュアルを多数手がけていたアートディレクターの信藤三雄さんのスチールの現場に加え、武藤眞志監督などはMVの撮影もしていました。

1990年代後半のMVは、過渡期だからこそ実験的で、CMではあまり見ないシフトレンズの使い方をしたり、ライティングも大胆で、とても新鮮でした。

――その後、スタジオ109の先輩である内田将ニさんのアシスタントを務められました。

内田さんはスタジオに在籍しながら、すでにカメラマンとして活動されていた憧れの先輩でした。専属アシスタントを探しているタイミングで誘っていただきアシスタントをさせてもらうことになりました。2000年代初頭からは、内田さんもMVなどのムービーを撮影するようになり、改めて映像の現場に興味を持ちました。

――当時の撮影現場は圧倒的に撮影時間が長く、体力勝負の時代でした。

海外ロケとかもう荷物が多くて大騒ぎで。4×5や8×10の大判カメラは一度バラバラに分解して手持ちできるサイズのバッグに入れ直して機内に持ち込んだり、トラブル対策のバックアップで6×7の中判も持って行く。ホテルに戻ったらバスルームに目張りをして即席の暗室を作ってフィルムチェンジしたりと、物理的にも大変でしたね。

――そして2002年、29歳で独立。最初は、雑誌やCDジャケット、アー写を撮るスチールカメラマンとして活動されていたそうですが、初めてムービー撮影をしたのは?

アートディレクターの牧鉄馬さんからの依頼で、THE BABYSTARS「オレンジ」のCDジャケットの中面の写真と同時に撮影したMVが初ムービーでした。16mmカメラで、河川敷の道にクレーンを入れて、ワンカット撮影でした。当初はカメラを振ったことなんかなかったので、動きに対応するのが下手くそでした(笑)。以降は、月3、4本ほどMVを撮影していました。

2000年代以降の撮影機材史

――2000年代半ばに入るとMVのバジェットが低下し、同時にデジタル化が進み、撮影機材もアップデートされていきました。

35mmや16mmのフィルムで撮るMVは稀になりました。低バジェットの場合はパナソニックVARICAMやDVX100C、ソニーCineAltaなどで撮影するようになりました。ビデオでも24Pで撮れるようになったのは良くなったけれど、やはりフィルムのようなルックにはなかなかならない。どこまでクオリティを上げられるか試行錯誤した時期でした。

Red digital Cinema社のRed ONE。現在は、ニコン傘下の企業

そして数年後には、デジタルシネマカメラのRED ONEが登場しました。島田大介監督が「4Kで撮ると、編集で寄り引きできるから、1度試したい」とのことで、灼熱の中田島砂丘で撮影したんですが、熱に弱くてオーバーヒートで全然動かなくなったり(笑)。ボディに冷えピタを貼ったり、スポットクーラーで冷風を当てまくった記憶があります。

――最初は信頼性がなかった。

なかったですね。それでも、RAWで撮れて、35mmのセンサーがついていて、シネマレンズをそのまま使えて、被写界深度、35mmカメラのボケ感などを表現できるとなれば使ってみたいですよね。期待する一方で、ワークフローが確立されていなかったのでトラブルやリスクもあった。ポスプロの方々も混乱したと思います。
僕自身は、スチール機材もフィルムからデジタルに移行する中で、RAWファイルを扱うようになっていて、ネガみたいなものだという感覚があったからそこまで違和感はありませんでしたが、最初はムービーの方のRAWはどう扱うのが正解なのか探り探りで、DITといつも相談しながら撮影していました。

ARRI ALEXA 35

でもRED ONEが登場して世の中が変わったと思います。照明機材もLED系の機材がどんどん進化しています。コストパフォーマンスも自由度もあがってきていると感じます。現在は、ALEXA 35か、レゾが欲しい時はRED V-RAPTOR-をよく使っています。

チャレンジングな代表作と最新作

――奥口さんが撮影されたMVの中で、最もチャレンジングな代表作は?

10年以上前ですが、全編ドローンで撮影したOK Go「I won’t let you down」MVですかね。監督の関和亮さんから、OK GoのMVは毎回ワンカットなので、まずワンカットは絶対で、カメラワークは初めは引っ張り、途中でクレーンアップして俯瞰になって、クレーンダウンして、またしばらく引っ張り、どんどん移動していって、最後には1000人位の人がマスゲームしている大俯瞰を撮る方法ない?と相談されました(笑)。

その話が来た少し前に、たまたま、どこかの球場のコンサートの収録でワイヤーカムの代わりにドローンを使用したっていう映像を見せてもらっていたんです。ワークがめちゃくちゃ安定していたので、ドローンでやればいけそうだなと、その映像を見せてくれたドローン屋さんに相談したところ、「機体が飛ぶルートはマップにピンを設定すればGPSでその通りに飛ぶよ」と。高さもプログラムしておけばそこに行くという話で、これは楽勝なのではと思いながらテストしてみたら、全然そうならなくて…、うわー、こりゃ終わったかもとゾっとしました(笑)。

――それは風でずれるとか?

いえ、ピンの精度がそこまで厳密な動きを再現できるものではなかっただけだと思います。結局、キレッキレのラジヘリのパイロットが来てくれて、人力のアナログで制御していただきました(笑)。パイロットがドローンを目視できるようにタイヤドリーに乗ってもらって、特機部がそのドリーを引っ張って、カメラが上がったり下がったりするタイミングはトランシーバーで僕が指示しながら。大人数の出演者の振付を担当した振付稼業:airmanの鬼の結束力も含めて、バンドメンバー、スタッフの人力と熱量で完成させた作品です!

――最近の作品についてはいかがですか。

サカナクション「怪獣」MVです。演出もセットもキャストも素晴らしく楽しかったです。監督は田中裕介さん。どこかにありそうなリアルな地下通路のセットにあの手、この手で、主人公を懐柔しようとする多くのキャラクターが登場します。メインのカメラはRED V-RAPTOR8K VVを使用しています。レンズはAtlas Mercury 1.5x FF Anamorphic。少し不安定なワークにしたくてDJI Ronin 2で撮影しています。後半、壁が動き出して一郎君が挟まれるシーンはカメラをなるべくコンパクトにしたかったのでボディはSony FX3、レンズはIron Glass MKII Anamorphic flare PL feetにしました。メインカメラ、アナモレンズとの相性が良かったと思います。

――最後に、今興味がある機材や、今後やりたいことについて聞かせてください。

すでにいろいろと使われていますが、LAOWA 24mm Macro Pro2beやDZOFilm X-Tract などの通称虫の目レンズにはまっています。シズルを撮るときなどに使っています。普段は人物を撮ることがほとんどですが、繊細なディティールを追求するシズル撮影も好きなんです。あとは、ロボットアームをもっとカジュアルに使えるといいなと。コスト的にも、設置する場所も、なかなかハードルが高いと思いますが、海外のメイキングを見ると車に乗せて撮影したりしているので楽しそうだなと(笑)。僕はいろいろな装置を作る「仕掛け屋さん」を尊敬していて、仕掛け屋さんと一緒に何か新しい撮影装置を作れたりしたら面白そうですね!

WRITER PROFILE

林永子

林永子

映像ライター、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。「スナック永子」やMV監督のストリーミングサイト等にて映像カルチャーを支援。