今回はNikon ZRが取り扱うR3D NEについて取り上げたい。
R3Dはシネマカメラで実績のあるREDシネマカメラで利用されているデータ形式だ。R3D NEは一部機能では劣るものの、これまでのIPP2機能が使え、さらに使用者層に合わせて利便性を高めたものだ。
是非、その理解を深め、作品の品質向上に繋げよう。記事の内容はあくまでNikon ZRが対象だが、V-RAPTORやKOMODOのユーザーでも楽しめる内容だ。
技術解説
それでは、技術的視点からNikon ZRのR3D NEを見ていこう。ZRのR3D NEを生かすためには、IPP2への理解が重要だ。そしてそのために、まず本家(?)R3Dとの違いと、REDWideGamutRGB(以下、RWG) / Log3G10についての理解も必要だ。順を追っていこう。
R3DとR3D NEの違い
ここでは、従来のR3DとR3D NEの違いについて解説しよう。R3D NEはR3DをベースにREDのカラーサイエンスをニコンのカメラで実現するために設計されたものだ。具体的な違いを見てみよう。
12bit RAW情報
R3D NEは12bitでの記録のため、V-RAPTORやKOMODOのような16bit RAWデータには劣るが、大きなスクリーンに映すような用途でない限り、問題になることはないだろう。それよりも全体的な負荷(処理/データ量)の低減の方が現実的だ。
RMDを使わずに撮影時のメタデータはR3Dファイル自体に記録されている
これまでのR3Dの場合、収録時からRAW以外の情報はRMD(R3D Meta Data)に切り離され管理されるが(これはこれで利便性がある)、R3D NEでは1つのファイルにまとめられた。ただし、メタ情報の更新などの場合、新たにRMDファイルを作成し、それが参照される。
長時間収録時などの大きなデータ量収録時にファイル分割されない
これまでのR3Dファイルは、収録データが4GBを超える場合、4GBごとに分割(スパニング)されていたが、R3D NEでは単一のファイルとして保存されるようになった。
REDCODE RAW? R3D?
REDの話題になると「REDCODE RAW」と「R3D」という言葉が行き交う場合がある。どう考えたらいいのだろう?両者の関係は「「REDCODE RAW」を収録した「R3D」ファイル」となる。そういった意味では、共に同じ対象を指している。
RWG / Log3G10
ここで今後よく出るであろう、RWG / Log3G10について説明しよう。簡単に言えばLog形式のことだ。S-LogやF-Logなどと同じだ。大きな色域のREDWideGamutRGB(RWG)と広い輝度レンジのLog3G10で構成されるカラースペースだ。
ただし理解しておきたいのは、RWG / Log3G10(他、あらゆるLog形式)はあくまで「入れ物」であり、撮影したものの性能ではないことだ。「入れる物」が小さければ小さいままで、大きい物なら「入れ物に入る分だけ」入る。
「きれい」とはなんだろう
感覚的な「きれい」は人それぞれだ。好みや価値観によって変わる。一方で、技術的には「広色域」と「広い輝度ダイナミックレンジ」となる。この視点で見ていこう。RWG / Log3G10は、REDカメラが生み出すリッチな情報量の映像を収める広大なカラースペースだ。REDWideGamutRGBとLog3G10に分けて見ていこう。
広い色域のREDWideGamutRGB
Rec.2020の色域より広い人間の知覚できる色を全てカバーした広色域。
広いレンジのLog3G10
18%グレーを0ストップ(基準)にして、上に10ストップ、下に10ストップの20ストップの記録をする性能を持つ。
IPP2(Image Processing Pipeline 2)
IPP2は「Image Processing Pipeline 2」の略で、名前の通り、イメージを処理する工程だ。基本的な考え方としては、元データ(RAW)に影響を与えず、その他(LUT、CDL等)の変更でも、後に編集できるようになっている。素晴らしい点は、カメラ側にも機能を装備していること。これにより、撮影時のモニタリング環境とポストプロダクション(編集・カラーグレーディング)環境を完全に同期できることだ。今回は機能が整理され表示されているDaVinci Resolveの画面を参考にみてみよう。
IPP2の基本
IPP2は、「現像」「グレーディング」「出力」の大きく3つのステージに分かれる。
現像
- ディベイヤー
RAWで記録された内容をRWG / Log3G10に展開する。
グレーディング
- Creative LUT
展開されたRWG / Log3G10に対してのLUTを適用する。この位置にLUTがあることには大きな意味がある。これはOut Put Transformにかかる前の広大なカラースペースに対して調整するからだ。 - CDL
撮影時に現場などで調整されたCDLの内容を反映させる。CDLもLUT同様にこの位置にあることに意味がある。※ZR本体にはCDLの機能はない。
出力
- Out Put Transform(OPT)
使用したい色域/EOTFに変換する。
基本的な考えとしては、ソースとなるRAWには変更を加えない。グレーディングステージの内容も無効にでき、本来のRAWだけに戻せる設計だ。
RED Digital Cinema Camera
V-RAPTORやKOMODOなどのシネマカメラであれば、カメラ内でポスト処理と同じ内容ができる。あまり認識されていないが実はこれが素晴らしい実装だ。Creative LUT、CDLの処理をし、Out Put Transformの設定内容でSDIやHDMIなどの映像出力端子から出力される。もちろんこれらの工程はRAW自体に影響を与えない。
Nikon ZR
基本的にZR側にはIPP2の機能はない。そのため、撮影時はRWG / Log3G10に対するCreative LUTとOPT(Out Put Transform)代わりのTechnical LUTを複合したLUTを使用して、背面ディスプレイで確認できる。もちろん、これらの工程でRAWデータに影響を与えることはない。
ZRで使用するLUTについて
REDにおけるCreative LUTはRWG / Log3G10を基準に作成されたものだ。それに対して、一般的に入手できるLUTはRec.709を基準にしたもので使用しても適切な結果にはならない。RWG / Log3G10基準のLUTはDaVinci Resolveを使えば作成可能だ。ただし、そのための環境と知識が必要だ。RED社が用意したものを使うのが無難だろう。
ZRにはIPP2におけるOPT(Out Put Transform)の機能はないと書いたが、LUTで代用することができる。RED社が提供する「IPP2 Output Preset」がそれにあたる。ファイル名にターゲットにする色域と出力トーンマップとハイライトロールオフの調整程度が記載されている。これを使えば背面ディスプレイの表示に反映できる。用途向けのものがなければ、RED Cine-X PROの機能「IPP2 LUT Creator」を使い、用途向けに作成すれば良い。
好みのRED用のCreative LUTがあるなら、先のOPT代用LUTと合成(複合)したLUTを用意することで、ZRにも使用できる。
IPP2でのポスト処理
IPP2のポスト処理内容として、収録した素材のカラースペース変換やトーンマップ/ハイライトロールオフ、露出や色温度、ISOなどのRAWパラメータの変更ができる。
カラースペース(色域)
色域を変更する。広いREDWideGamutRGBが最も大きい色域のため、多くが縮小の動きだ。この際にカラーシフトなどは起きないように考慮されている。
カーブ(EOTF)
目的に応じて必要なガンマ/EOTFに変換できる。元のLog3G10より小さなBT.1886などは、「出力トーンマップ」「ハイライトロールオフ」が利用でき、ダイナミックレンジを収めるようにできる。
「出力トーンマップ」「ハイライトロールオフ」
実は「REDらしさ」である要素を出す部分だ。しかし、それをあまり知られていないのも現状だ。カメラで設定された内容を反映(「メタデータカーブを適用」)できるが、後から設定の変更もできる。ダイナミックレンジの広いR3Dの内容をSDR内に収めるために便利な機能だ。
RAWパラメータ
RAWといえば、真っ先にイメージされるのがこれらのパラメータだろう。クオリティロスがなく調整できるとなると関心も湧く。ただ理解したいのは実際のカメラが受ける光量/質が変わるというわけではないということだ。IPP2の用意するRAWパラメータはセンサーが受けた光をどうするかというシンプルなものだ。
いずれにせよ、これらのパラメータに頼らない撮影素材が望ましい。
そのほか
その他の機能はZRを使う上で利用することは多くはないだろう。利用するとしても「CNR = クロマノイズ除去」、HDR制作をされる方は「HDR最大輝度設定」か。
フラッシングピクセルはNikon社の品質なら皆無だろうし、ブレンドを使った表現は利用する方も多くはない。メタデータカーブ/クリエイティブLUT/CDLに関しては、ZRがそれを利用する機能に対応していない。それらの理由から利用することはあまりない機能だろう。
気づいた方もいるかもしれないが、IPP2は小さなカラーマネジメントシステムだ。REDが捉えた高品質な映像を、いくつかの処理を通して目的のカラースペースに変換する。
ZRを使う上で理解しておきたい考え方
ZRだけというわけではなく近年からの高性能カメラを使う上で、知っておきたい考え方を紹介する。
RAWとLog形式の関係
基本的に提供されるイメージの姿は同等だ。正確にいえば、RAWのイメージはLog形式で提供される(カラーマネジメント時除く)。Log形式自体は入れ物(カラースペース)であり、RAWはLog形式が提供するカラースペースを使ってイメージ化する。
それ故、R3Dが提供する最もプレーンなイメージはRWG/Log3G10であり、RWG/Log3G10はそれができる広大なカラースペースを提供する。ただし、Logであればその記録方式によって品質の違いがあるし、RAWはディベイヤー時の調整ができる。この時に映像としての差ができる。
撮影に対しての考え方 ディスプレイリファードとシーンリファード
映像の制作の考え方に、シーンリファード、ディスプレイリファードという考え方がある。撮影対象をできるだけ忠実に(結果カメラの最大の性能を使ってまでの)撮影をし、それを維持して制作を進め、結果をさまざまな用途用に変換し出力するのが、シーンリファード制作と呼ばれ、TV制作のように撮影の段階から特定の規格での使用を想定した制作をディスプレイリファード制作と言う。
Rec.709の性能を大きく超えた近年のカメラ性能/制作環境の向上において、TV制作などの業務制作でないのであればシーンリファードでの制作が望ましい(ZRの性能を活かすにはシーンリファードの思想が適している)。
例えば、ゼブラ表示状態で高輝度基準を参考に撮影するのは、Rec.709に合わせるディスプレイリファードな考え方だ。ただしこの方法ではLog3G10の性能を持て余すだろう(注意1)。
それに比べて、ビューアシストをオフの状態(RWG / Log3G10)で波形モニタを確認するものなら、Log3G10の性能を活かせるだろう。ただし、すぐには Rec.709用途には使えない。これはシーンリファードな考え方だ。
注意1:実際のところZRにおいては、ZR自体の性能とそれを考慮した仕組みにより、十分な性能は活かされる。
動作例
共通の認識として、紹介するDaVinci Resolve、Premiereともにカラーマネジメントシステムを装備している。Final Cut Proも簡易的ながらカラーマネジメントシステムを装備する。
R3D NEで撮影されたものはカラー調整するにも、一旦はカラーマネジメントシステムを通して解釈させたうえで調整したい。これは、多くのコンテンツ制作においては色域の変更作業が伴うため手動での調整では困難であり現実的ではないからだ。
Blackmagic Design DaVinci Resolve
純正アプリケーションのRED CINE-X PROを除けば、最もR3Dとの親和性の高いアプリケーションだろう。このことからもREDとDaVinci Resolveのシネマ業界の位置付けが伺える。
DaVinci ResolveではIPP2のすべての機能を利用することができる。またRCMやACESなどのカラーマネジメントに乗せることができ、さまざまな映像との混在、多様な出力形式への対応ができるようになる。特にRCMとの結び付きが強く、例えば条件次第ではRCM使用時にDRTにIPP2の機能が使える。
基本的に使用するソフトウェアとして選択して間違いないだろう。ZRの真価をDaVinci Resolveが発揮させてくれる。
Adobe Premiere
Premiereも古くからR3Dをサポートしていたが、処理の遅さと、カラー処理能力の不足から、第一の選択肢にはなりにくかった。しかし、最新の環境ではカラーマネジメントの機能を持ち、処理速度も向上している。
RWG / Log3G10を通して、Premiereのカラーマネジメントに乗せることができる。カラーマネジメントによって、RWG / Log3G10は正しく解釈され、ACEScctに展開され、調整/編集できる。そしてそこからRec.709はもちろん、HLG/PQなどのHDRへの展開ができる。
注意としては、検証したバージョンではIPP2の機能が一部機能せず、Out Put Transformは、RWG / Log3G10とRec.709しか指定できなかった。これは、カラーマネジメントシステムとの兼ね合いからのものと想定されるが、現状では他の選択肢を選べない。メディアのカラースペース認識も自動認識されない。ただ、気をつければ編集には問題ない。
補足としては、Creative LUTを他のLUT(.cube)に差し替えることができるほか、さらに後処理においてCDLベースでの調整も可能だ。
Apple Final Cut Pro
Final Cut Proの場合、先の2つとは大きく異なる。カラーマネジメントシステムはあるが、簡易的なもので、先の2つほど本格的なものではない。
使用にはまずRED社のWebから「RED APPLE WORKFLOW INSTALLER」をダウンロードしてインストールする。これによってR3Dの素材を編集でき、さらにIPP2の設定や調整ができる。
ただし、パラメータが多く表示されているが、実は多くは「Legacy」用でIPP2のZRのR3Dでは使えない。また出力トーンマップ、ハイライトロールオフの調整はできない。
このように機能的制限があるものの、環境が整えば小気味よく編集ができるFinal Cut Proの良さが変わらず、ZRの映像を編集できる。
技術面から見たZRでの撮影のクオリティを上げる方法
筆者は日頃から公言するように、カメラマンとしての撮影技術があるわけではない。なので撮影自体でのクオリティを上げる方法はわからない。しかし、技術的な視点で、カメラの設定やポスト処理でクオリティを上げる方法はわかる。そのいくつかを解説する。
Nikon社が公開している「R3D NE撮影時のISO感度別ゼブラ表示推奨設定値について」を参考に撮影する。
Rec.709での表示を再現する3D LUT「Rec.709」を使った「3D LUT表示」(LUT / ON)は「高輝度検出」(ピーク検出)で「230〜」と、想定できると思うが、「3D LUT / OFF」(RWG / Log3G10)時の「高輝度検出」でのセンサーピークを想定したもののようで、これ以上は飽和(つぶれ)を意味する。ISO800で「180」、ISO6400でも「180」。ピーク値を超えないようにしよう。
実はRWG / Log3G10においてのRec.709 100%と同等値は8bit CVにおいて「113」であり、ここからピーク値まではRec.709以上の輝度情報だ。
一方で、ZRに最初から用意されている「Rec.709」3D LUTはIPP2において出力トーンマップ「中」、ハイライトロールオフ「中」の補正がかかっている。先ほどのSDR以上の成分は、そこで丸められ絵のニュアンスとして「見える」だろう。つまりこの状態(LUT / ON)で高輝度ゼブラを注意しておけば良いとも言える。
なお、標準で装備された3D LUT「Rec.709」を使用したなら、ポスト処理のIPP2で出力トーンマップ「中」、ハイライトロールオフ「中」の設定(もしくは同等のTechnical LUTを適用)にすべきだ。
ソリューション製品
実はここまでの内容は、ソリューションとなる製品がある。
ATOMOS製品の「Log to HDR」機能を持った製品なら、RWG / Log3G10の内容をHDR上で確認できる。理解したいのは「Log形式をHDRにする」というわけではなく、Log形式の映像はそもそもHDRだ。それをHDRとして見るだけのことだ。
これを利用すれば、R3Dが記録する実際にカメラが捉えている正確な輝度情報を表示できる。ピーク際の様子も確認できるだろう。また波形モニタもHDR基準で表示される。
一旦、通常のRec.709にする。その際は手動では行わない。
Log カーブ(対数曲線)によって圧縮・収められた輝度情報を、トーンカーブ等の手動操作によって元通りの線形データへと戻すことは、技術的にも論知的にも極めて困難だ。「Rec.709空間内で手動でコントラストを付けて戻せば良い」というのも、現場でよく見られる大きな誤解の一つと言える。輝度階調だけでなく、広色域(RWG等)から制限された色域への正確な再マッピング(復元)も手動で行うことはできない。
手動ではなく、RCM/CST/ACES/標準LUTや、IPP2を使った変換をしよう。基準の整ったそこから独自の調整をすれば良い。よく言われるスキントーンなど色問題の多くは、こうしたカラー変換に対する誤解と手動処理に起因している。
演出的な意図がない場合、被写体の露出は18%グレー基準を利用する。
Log3G10において、基準値となる18%グレーの位置は33.3%(8bit CV85)となる。詳しい方はETTR(Exposure to the Right)という考え方があるのはご存知かと思う。いわゆる「明るめに撮る」というものだ。できればこの考え方は避けたい。この方法を使うとLogのメリットである、広いダイナミックレンジを活かすことはできない。どうしてもノイズが気になるようであれば、DaVinci Resolveなどのデノイズ機能を試すべきだ。
まとめ
ここまで書いたように、Nikon ZRは一般的な用途を超えた性能を持つ素晴らしいカメラだが、その収録データの扱いで結果が大きく左右される。ぜひその内容を理解し作品に活かしてほしい。
実機を通してわかったのは、ZRはKOMODOやV-RAPTORのサブカメラとして良いものということだ。悪くいえばそれらの上位機種に対して性能は劣る。が、ノウハウは活かせる。うまくヒエラルキーができていると思う。
この2026年9月8日に開発発表アナウンスされた、予定されているRWG / Log3G10のHEVC記録は、データ量の膨大な大きさが懸念されるR3D NEと異なり、条件はあるが、わずかなデータ量で気楽にREDの魅力に触れられるだろう。楽しみな機能だ。
ZRはまだまだそのポテンシャルを引き出し切ることに楽しみを感じられる魅力的なカメラだ。それに加え過去のRED社の傾向から、後からの機能追加も期待される。今後も楽しみなカメラだ。
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