映画やテレビで使うプロ用の無線マイクが中国Saramonic社から登場。Inter BEE 2025でも注目を集めていた。今回紹介するK9は映画クオリティーの音質と使い勝手を誇るデジタル変調方式の無線マイクK9だ。スマホと連携することで国内外を問わず、現地の電波法に則した運用ができるグローバル仕様である。
グローバル仕様マイクとは
グローバル仕様のマイクとは、国内外における現地での電波法に準拠した周波数帯や伝送方式に切り替えて使える無線マイクだ。このグローバル仕様は、これまでDeity社のTheosが開拓した分野であり、海外では当たり前になりつつある。具体的には、日本ではB帯(800MHz帯)であったり、アメリカでは 740-758 MHzというような違いがあるのだが、グローバル仕様の無線マイクは、スマホの位置情報を使って送受信機の仕様を現地の法律に準拠するように設定してくれる。
今回紹介するK9も、グローバル仕様のプロ向け高音質な無線マイクということになる。変調方式はデジタルで、アナログ方式に比べて圧倒的なダイナミックレンジとS/N比を持つ。事実、低ノイズで囁きなどの微細な音も的確に録音できた。遅延は1ms程度と無視できるレベルで、有線のショットガンと同時に使っても全く問題はない。
Saramonic社とは
さて、メーカーであるSaramonicという名を聞くのが初めてという読者も多いのではないだろうか。Saramonicは中国深圳に本拠地を置く音響メーカーだ。もともと映画制作者と音響技術者が立ち上げた会社で、創業2012年、特許も数多く所有している。
筆者も数年前から注目している企業で、2.4GHz帯デジタル無線マイクや800MHz帯アナログ無線マイクなど、幾つも所有し、使ってきている。概して言えることは、音質は非常によく、使い勝手もいいという印象だ。これまでのマイクは、どちらかというとアイデア勝負の面白い機能を搭載した無線マイクが目立っていた。例えばBlinkMeという商品は送信機に液晶モニターが搭載されていて、例えば企業ロゴや演者の名前を表示するというようなことができた。
一方で、プロ用マイクは非常に頑丈に作られているとか、設定が簡単であるというような特徴があり、さすが映画制作者が開発に携わっていることを窺わせる。
K9は細部まで現場を解った仕様。受信機のデュアルモニターや識別ラベルが秀悦
さて、K9についてレビューしていこう。端的に言えば、Deity社のTheosと同等の無線マイクだ(本体の作りもほぼ同一)。
1つの受信機で2つの送信機(マイク)を同時に使える。また、スマホの専用アプリから送受信機の設定変更や設定保存、後述する送信機内レコーディングのスタートストップ、送受信機のスリープなどをコントロールすることができる。
これらの機能は、100万円クラスの最上位無線マイクシステムに搭載されているものと同じである。
さて、32bitフロート録音機能が送信機に搭載されている。いまや32bitフロート録音は当たり前なのだが、やはり、万が一に備えて内部レコーディングができることはありがたい。録音は送信機内のmicroSDに保存される。これも映画などでの運用ではファイル管理が楽になるので、非常にありがたい。たとえば安価なmicroSDを撮影日数分だけ用意して、日にちごとにメディアをバックアップとして確保できるからだ。
さらにK9はタイムコード同期が可能だ。送信機のマイク入力にTC信号を入力すると自動的にJAM同期が行われる。また、同社のTCジェネレーターモジュール TC-NEOを介することで様々なカメラやレコーダーとの連携が図れる。TC-NEOには同時に3台の充電できる充電ボックスが用意されているので、これは現場でかなりありがたい。このあたりは追ってレビューしたいと思っている。
さて、実際の使い勝手だが、まず便利なのが受信機に2つのモニターが配置されていることだ。ボディーパック式の無線マイクの場合、受信機のモニターが正面にあると、バッグに入れて運用する際にモニターが見えない。K9は本体上部にもモニターがありバッグに入れたまま状況把握が可能だ。これは非常に便利だ。
また、送受信機にはシリコン製のラベルを貼り付けることができて、2つの送信機を一目で識別可能だ。現場では送信機マイクを見分けるのにテープを貼ったりしているのだが、K9には交換可能なラベルが用意されていて、用途に応じて簡単に取り替え可能だ。ラベルは全部8色が各2セット用意されている。
音質はプロ仕様。付属マイクは防水かつケブラー被覆
音質は非常によい。プロ仕様のデジタル伝送システムとして申し分ない。Theosと比較しても甲乙つけ難いし、ソニーのデジタル無線システムのDWPと比較しても遜色ない。ソニーUWPなどアナログB波帯マイクの場合、使うマイク数が増えるにつれて音質劣化が生じたり、そもそもS/N比が高くなくヒスノイズが乗っているわけだが、K9はデジタル変調方式なので、マイクの音を劣化させることなく受信機へ送ることが可能だ。
これからの映像制作では、高音質を確保するにはデジタル変調方式の無線マイクが必須となるので、K9は中小の映像制作会社にとっては救世主となる。ただし、アナログ変調方式に比べてB波帯で使えるマイク数は物理的に少なくなる(アナログが最大8つ、デジタルは6つ程度)ことには留意が必要だ。レビュー時点ではB波帯。
付属マイクは直径3mmの超小型ながら、音質は非常に良い。外観はDeityのLav.micに似ているが、こちらは4mm径だ。細い分だけ音が固くなるかと思ったのだが、ほとんど同じ音質。ただ、若干、高音が立つチューニングになっているようだが、低音から高音までクセのないマイクだと言えよう。
高音が立つ仕様は、英語など掠れ音の多い言語では有用とされており、イギリス製のマイクなどでよくみられる。非常にノイズレスでダイナミックレンジが広いのも特徴で、囁くようなセリフでも非常に心地よく録音できる。もちろん、送信機のマイク入力は標準のプラグインパワー仕様(ゼンハイザー方式)なので、お好きなマイクを使うことができる。映画などで使われるハイエンドのDPA社のラベリアマイクも、アダプターを介して使うことができるだろう(未確認だが)。
さて、Saramonic社の製品特徴として堅牢製があるのだが、まず、この付属マイクはケーブルにケブラー樹脂を使い、非常に耐久性が高いことを謳っている。また、マイクカプセルは防水仕様になっており、水中でも録音できる。夏場の撮影では役者の汗でマイクが壊れることがあるのだが、このマイクはそういった心配はないだろう。とにかく先端が細いので映画では非常に重宝する。
気になる飛距離は? デジタル変調方式なのによく飛ぶ
気になる電波の飛びはどうか。一般論だが、アナログ変調(ソニーUWPなど)の方がより長距離まで飛ぶ。一方でアナログ形式は距離が離れるほどに混信や音質劣化が生じる。一方、デジタル変調はアナログ方式よりも距離は届かない。概して言えばアナログの2/3程度の距離だと思うといい。それでも2.4GHz帯よりは長距離まで届く。混信や音質劣化は距離にさほど影響されないので、電波が届いている範囲であれば、安定した音質が確保できるのはデジタル方式の特徴だ。
さて、K9の場合はどうか。実感ベースだが、アナログ方式かと思うほどによく飛ぶ。アンテナマーク(電界強度)がゼロでも途切れない。見通範囲では250mは余裕だ(もっと飛ぶだろう)。200m程度の距離で電信柱の後ろに隠れてみたが途切れない。
多様な電源仕様。基本は単3電池2本運用
さて、無線マイクでは電源をどうするのかが気になるところだ。業務用らしく単3電池2本の運用が基本となる。リチウム電池(一次電池)で送信機9時間、受信機8時間とのこと。エネループ(ニッケル水素電池)では送信機が6時間、受信機は5.4時間と優れている。
また、K9用の充電式3.7Vリチウム充電池が別売りアクセサリーとして用意されている。送信機で6.9時間、受信機6.5時間の運用となる。このアクセサリーはバッテリーが1本7,800円、8スロット充電器(同時充電で3.5時間で満タン)が12,000円程度となっている。
豊富なアクセサリー、仕込み用のファーなど多彩だ
さて、Saramonicでは映画撮影で必要とされるアクセサリーも充実している。同社のブランド「CineBuff」から、衣服の中にマイクを仕込むための様々なアイテムが用意されているのは特筆に値する。マイク自体の高音質化はありがたいが、実際にはマイクをどうやって最適な位置に取り付けるのかが、最終的な音質確保のキモになる。先般のInter BEE 2025でも、マイク取り付けやウィンドジャマーを作るいくつかの専門メーカーが出店していたが、映画などでの撮影現場の大きな悩みは、マイクセッティングにある。
現場では、素早く取り付け取り外しができ、衣擦れを回避できるアクセサリーを常に熱望しているわけだが、これまではRycote社の独占状態で価格的にも種類的にも限界を感じていた。そこに、他の音響メーカーが参入してくれることは大いにありがたい。これらのアクセサリーは消耗品なので、価格的にも頑張ってもらえると嬉しい。
国内では、A波帯・B波帯の切り替え運用は不可。それぞれ別製品になる
Deity社のTheosも同じなのだが、K9の日本での運用は、機器の性能を100%使えるわけではない。電波法によって、日本のB帯無線マイクの送信機はアンテナ交換が許可されないのだ。K9の仕様としては、使う電波帯に応じたアンテナ交換を行って電波の到達(音質の確保)を最適化するものだが、日本仕様B波帯の製品の場合には送信機のアンテナ交換はできない(固定されて出荷)。
この点は総務省が海外並みに柔軟な法体制を整えて頂きたいと切に思う。ちなみに、基本法である電波法では、一定の電界強度を下回る送信機の場合にはアンテナ交換が許されるはずだが、運営規則である技適でアンテナ交換ができないようになっている(アンテナを交換するたびに技適申請と適合が必要なため)。
しかし、そもそもB波帯は10mWという微弱な電波なので(つまり電界強度が極めて低くなるので)、心臓ペースメーカーなどに悪影響がでることはない(海外ではこのような実例がない)。
さらに、K9(およびTheos)はプロ仕様のA波帯も使える仕様なのだが、これも技適が壁になり、別製品になってしまっている。このような日本の法体制は、いわゆる「日本ガラパゴス」であり、海外製品が使いにくくなっている。特に音質や混信に配慮されたA波帯へのハードルも高い。
余談だが、海外の撮影クルーが日本で撮影する場合にも国内法が足枷になってしまう。国際条約では、海外仕様の無線機器での国内運用においては、国際基準をベースに法体系を整えることになっているが、日本はいまだに進んでいない。
この辺りは、日本の映画産業界から国際ルールに準拠するよう要望を出してもらいたいと思う。
総合評価:K9は極めて優れた製品だ。導入するべき人は?
さて、K9の導入を考えている人は、DeityのTheosと比較しているのではないだろうか。筆者は両方を使ってみたわけだが、基本的な使い方は両者とも同等だと言え、現場での運用は問題ない。音質に関してはTheosと同製品の付属マイクの方が好ましく思った(好み)。ノイズレスなのは両者とも変わらない。マイクに関しては他社など好みのものを使い分ければよいので優劣を考えるべきではないだろう。
ただ、TheosのDLTX(3ピンLEMO端子仕様)は外部XLR入力が使え、マイクゲインも非常に高く設定可能なので、無線マイクで環境音を録ったり、高性能な外部マイク(ファンタム電源仕様のショットガンなど)を無線運用したりする場合にはTheosのDLTXをお勧めしたい。
いずれにせよ、K9はテレビ番組、CM、映画レベルの良質な音を必要とするクリエーターにお勧めすることができる。囁きや息遣いなど、微細な音までクリアかつ低ノイズなので、アナログUHF無線マイク(ソニーUWP等)のアップグレードには最適だ。
まとめ:K9は現場作業の確実性と使い勝手が素晴らしい。特にワンマンオペレーションでは便利さが際立つ
さて、K9の評価だが、筆者はメインの無線マイクとして位置付けしたいと思った。
ポイント
- 受信機の2箇所に配置されたモニターパネル:サウンドバッグに入れたまま、常に受信機の状態を確認できるのは本当にありがたい。
- TC同期の詳細設定が送信機だけで可能な点。ただし、送信機はTC入力のみ対応で、TC出力はできない。
なお、今回レビューしているK9については海外仕様ベースで日本の技適を取ったものだ。周波数ステップが100KHzとなっていた。これはファームウェアで修正されるだろう(ソニーの周波数プランに準拠できる)。
一方、プロが使うという意味では日本でのサポート体制が気になるところ。Deity社は親会社が照明機器で抜群な信頼感のあるAputure社と比較すると、このあたりについてSaramonic社の流通・サポートの充実を期待したい。
WRITER PROFILE
