ソニー、共創拠点「DMPC Japan」を港区本社内に開設。ロサンゼルス、ロンドン近郊にあるパインウッドスタジオに続く世界3番目の拠点
港区のソニーグループ本社内に設立された「Digital Media Production Center Japan(DMPC Japan)」の内覧会に参加した。ロサンゼルス、バッキンガムシャーに続く世界で3番目の拠点となる本施設は、単なる機材展示ではなく、映像クリエイターとの共創拠点である。
シネマカメラ「VENICE」を中心に、「Crystal LED VERONA」を用いたVPステージ、編集・グレーディング環境までが一体化され、撮影からポストプロダクションまでを一貫して検証できる構成が整えられていた。
機材供給者から「共創のパートナー」へ――ソニーが描く映像制作の青写真
登壇した同社ニューコンテンツクリエイション事業部の田渕達人氏は、単なる新施設の紹介に留まらない、壮大な未来の青写真を語った。田渕氏は、10年後を見据えた「クリエイティブエンタテインメントビジョン」に言及し、フィジカルとバーチャルを横断する制作体制の構築を強調した。機材供給者と制作者という関係を越え、検証段階から協働する体制を築くことがDMPC Japanの役割であると位置づける。
田渕氏が語る「フィジカルとバーチャルの融合」という言葉は、単なるスローガンではなく、現場の切実な変化を鋭く突きつけてきた。従来のスタジオセットに照明を焚くスタイルから、PC内の3次元空間でオブジェクトを構築する手法へ。制作工程が物理セット中心からリアルタイムCGとの統合へ移行しつつある現状を踏まえると、本施設はその検証拠点として機能する設計となっている。
昨年設立された「ニューコンテンツクリエイション事業部」は、Cinema Lineを頂点とするカメラ群、XR事業を牽引する空間コンテンツ、Crystal LEDやカメラトラッキングシステム「OCELLUS」といったVP技術、そして制作実務を担うソニーPCL株式会社という4つの機能が統合された体制である。独自のテクノロジーを組み込んだこの構想には、一定の説得力がある。
ロサンゼルス、英国パインウッド・スタジオズに続く拠点として、日本に設立されたDMPC Japan。田渕氏が示したロサンゼルス拠点の様子――エンジニアとクリエイターが垣根なく語らい、若き才能が学ぶ姿は、この日本拠点にも色濃く反映されている。
続いて登壇した取締役 執行役員 B2Bビジネス本部 本部長の中川一浩氏は、日本のコンテンツ産業の現状と可能性について具体的な数字と事例を交えて説明した。「ゴジラ-1.0」や「SHOGUN」といった実写作品が世界で正当に評価され始めた今、日本の実写コンテンツには計り知れないポテンシャルが眠っている。その成長を加速させるために、ソニーは「クリエイターに近づく」というグループ哲学を、この空間に力強く息づかせている。
中川氏が語るDMPC Japanの真髄は、制作プロセスの「共創」そのものにある。施設内は「バーチャルプロダクション」「撮影スタジオ」「グレーディングルーム」「空間コンテンツ制作ソリューション」の4つのゾーンで構成されている。特筆すべきは、その徹底したワンストップ体制だ。撮影した素材をその場で即座に編集し、クオリティを確認できるこのスピード感こそが、クリエイターの想像力を加速させる。さらに、ここはトップクリエイターのためだけのものではない。教育機関や学生など次世代を担う人々を巻き込んだ「業界共創のハブ」としての役割も期待されている。

中川氏の口から語られた「広くあまねく活用してほしい」という言葉には、並々ならぬ覚悟を感じた。驚くべきは、自社製品に固執せず、必要であれば他社機材の持ち込みすら厭わないというオープンな姿勢である。
日本映画撮影監督協会と文化庁によるマスタークラスでは、撮影監督のオーレン・ソファー氏を招き、約40名が知見を交わしたという。機材のスペックを競うのではなく、人と人が対話し、高度な技術を継承していく。次世代の映像制作に向けた取り組みの具体像が示された。
DMPC Japanが提示する、同一空間での「検証・改善」の優位性
具体的な設備を見ていくと、まず興味を強く惹きつけたのは、現場のニーズを具現化したポストプロダクションブースの構成である。ここは単なる後処理の場ではなく、スタジオと直結して撮ったばかりの素材を即座に検証する「検証と修正を繰り返す拠点」である。
デスクの中央にはマスターモニター「BVM-HX3110」が鎮座し、DaVinci Resolveなどの定番ソフトに加え、クリエイターが持ち込むアプリケーションにも対応する最高スペックの環境が整う。撮影データを即座にグレーディング環境へ転送し、LEDウォールやクライアントモニターで確認できる構成により、撮影と仕上げの往復検証が同一空間で完結する設計となっている。
続いて足を運んだのは、空間コンテンツの制作支援を担う「XYN」のエリアだ。空間キャプチャーソリューションや、小型センサー「mocopi」を用いたモーションキャプチャーなど、次世代の実験場が広がる。特に印象的だったのは、Sony Spatial Reality Display(ELF-SR2)75型モデルのデモである。立体視や視差制御によって奥行きを感じさせる表示は、従来の2Dモニターとは明確に異なる体験を提示していた。空間コンテンツ制作の検証環境として、具体的な可能性を示す展示であった。
VPステージでは「Crystal LED VERONA」が設置されている。特殊な表面処理により照明の映り込みを抑制し、高コントラストな表示を実現している点が特徴だ。撮影用LEDとして重要となる黒の再現性や反射制御への配慮がなされている。撮影システムは「VENICE」に加え、マルチカメラ構成の「HDC-5500」が柔軟な運用を支えていた。
カメラの動きとCGを完全に同期させるのは、新たに投入されたカメラトラッキングシステム「OCELLUS」だ。従来のマーカーを必要としないマーカーレス技術により、屋外や車内といった狭い空間での撮影も容易になる。マーカーレス方式を採用することで設営制約を減らし、暗所環境でも赤外線センシングによる安定動作を可能にする。
隣接する撮影スタジオもまた、映画制作の現場が凝縮されたプロフェッショナルな空間であった。業界標準の他社製レンズを含めた広範なワークフローが構築され、クリエイターは「体一つ」で訪れてもハイエンドな撮影が可能だ。
ゼロからスクラッチで組み上げられた美術セットは、ミッドセンチュリー調のポップな空間から、ライティングが重要な生活空間まで多岐にわたる。陶器と壁の白の差異、本職の美術監督による壁の「汚し」など、質感の再現性が緻密に計算されていた。ライティングパターンを即時に切り替えられる構成により、検証時間の短縮と反復作業の効率化が図られている。



利用方法が気になるところだが、現在はウェブサイト上の業務用問い合わせフォームが公式な窓口となっている。
本拠点は、まずシネマ業界のハイエンドクリエイターと共に、創造性の限界を広げることから始動した。最高峰の技術を持つプロフェッショナルと密なコミュニケーションを図り、新しい表現を模索する。ここで磨かれた知見は、今後の映像制作の基準形成に影響を与える可能性がある。認知が広がり運用が軌道に乗った先には、より幅広い制作層や学生にも門戸を開き、今後は申し込みプロセスの簡略化と整備も視野に入れているという。
撮影・VP・グレーディング・空間コンテンツ制作を一体化し、検証と改善を同一空間で行える体制は、日本国内ではまだ例が少ない。DMPC Japanがどのような作品を生み出す基盤となるのか。今後、具体的な制作事例とともに、その運用成果が示されていくことになる。

