軽量かつコンパクトな小型カメラ用スタビライザー

手ぶれを消す

どんな撮影であれ、被写体の映像がブレているのでは全くお話にならない。もちろん演出の上で狙いが在るのならその限りではないのだが、よく自主映画に於ける”味”と言う解釈ではさすがに駄目だろう予算がたっぷりあるのならレールを引いてクレーンを添え付けて如何様なトラックINやトラックOUTも出来るだろうがその様な現場というのは筆者のようなミドルレンジクラスの現場では中々あり得ない。

 それでも少ない予算の中でせめてレールだけは等と考えるのだが、レールを引いた物では階段や上下動が在るような場所では全く使うことが出来ないためにしょうがなく手持ちで撮影をするしかないのだがそんな時に特に有効なのがカメラスタビライザー(カメラ防振機)と言うことになる。

ピンキリのスタビライザー

スタビライザーでカメラを扱う人間なら真っ先に浮かび上がるのがSteadicamだと思う。その種類は多種多様にありそれらに付帯するオプションパーツも殆ど全ての撮影を網羅している。しかしピンからキリまでと言いつつも、その”キリ”でさえその価格は高い。しかも機能が最高に優れている分その操作性も簡単とは言い難くアメリカでのSteadicam オペレート講座では最初にやることは体力作り!

昨今日本市場で使われ始めているのがGLIDECAM製品だと思われるがこのスタビライザーも中々手頃な価格で良さそうなのだがショックアブソーバーが付くと途端に高価になる。

 

それでは話を一般的に簡単に手が届く物に進めてみよう。Milide STEADIPOD やsachtler Artemis 等は価格もある程度こなれていて操作性も最初のセッティングも簡単で性能もそこそこで筆者も何回か使用しているが中々良い画が撮れる。しかし基本的には片手で支えるような物でスタビライザー本体の重さもそこそこなので少々大きめのハンディカムではその重量を長時間支えるのがはっきり言って辛い。では最近発売された超小型スタビライザーManfrotto MODOSTEADYではさすがに心許ない。そんなSteadicamとSTEADIPODの間を埋めるような製品がこのDV MultiRigだ。

単純かつ効果的な機能

DV MultiRigのファーストコンタクトとしては何となくSTEADIPODに構造(使い方)が似ているなと言うこと。スタビライザーというよりはカメラサポートとしての使い方に近い様に感じ取れた。

 

本体その物は折りたたんで意外なほどに小さくコンパクトに収納でき基本は3本のアームの先に付いたグリップの角度を変える事によって様々なカメラホールドを得られるような仕組みで当にこの辺がSTEADIPODに近い印象を受けた。

何の説明も無いままにこのDV MultiRigを触っていたらSTEADIPODと同じ様な使い方しか思いつかないかも知れない。強いて言えばSTEADIPODが縦方向の伸縮であるのに対してDV MultiRigは横方向の伸縮とでも言えば良いのだろうか、まさにそんな感じの見た目である。

そんな見た目なので先入観としてもやっぱり”従来からあるスタビライザー効果よりもカメラサポートとしての使い勝手がメインなんだろうな?”と想像していたところに1本のサポートバーとウェストベルトを見せられた。

この2点こそが同じ価格帯のスタビライザーと違うところでこのサポートバー自体がサスペンションの役目をしていると言うことだ。つまり簡単にその機能を説明するならば従来のカメラサポートにサスペンションが付いた様な物と表現すれば解りやすいはず。

このサスペンションが直接カメラのストレスになる上下動のダンパー役となり衝撃を吸収していると言うことだ。STEADIPODに代表されるようなスタビライザーはあくまでもヤジロベーの如くカメラ本体にバランスを持たせ不必要な微振動を排除していたのだがこのDV MultiRigはその単純な構造にたった1本のサスペンションを追加する事により擬似的にでも上位機具でもあるSteadicamと似たような効果を得ることが出来ると言うことだ。

中々良い新機能

さてその感じの使用した感じなのだが、ここで先に断って置きたいのは今回時間的な制約とsystem5さんにデモ機がまだ無い為製品を直接触るしかなく店内での簡単な取り回ししか出来なかったので表面的な感想でしかない事をまず頭に入れて欲しい。それらを鹹味した上での評価は5点満点で3.5+強と言う感じだ。この評価には勿論コストパフォーマンスも含まれる。

 

この時のTEST運用で使用したカメラはXDCAM-EXを標準バッテリーでsetをした。まずはショックアブソーバーを無しで単純にカメラサポートとして使用してみる。前に2本、肩に1本のサポートバーはどれも体に負担を掛ける物ではなくボディコンタクトは悪くない。

前の2本のバーの先端には各々3/8inchネジが切ってありホットシューやマイクアダプタを取り付けられるようになっている。両手でがっちりホールドするスタイルはビデオカメラと言うよりシネマスタイルとでも表現した方がしっくり来る。

今度はそのサポートバーを180°回し上方向にする事によってローアングルでのホールドを試してみたが此方も拍子抜けする位に何も問題なく運用出来てしまった。そして次にサスペンションバーを腰に巻いたウェストベルトと本体に取り付けて運用してみる。

今までもこのスタイルのサポートグッズが無かった訳ではなくZ7Jに至ってはメーカーでもオプションであるほどだがはっきり言ってそれらはバランス的にも余り良くなくカメラの動きを変に制限される為に使いにくい物であったが、その部分にサスペンションを組み込む事によりその様相は一変する。確実にカメラに伝わる振動が軽減されているからだ。

後方はサポートバーにより肩に支持されているのでカメラ重量の約半分をサポートバーで支えているのだがその何とも言えない浮遊感のような物は使っていて楽しい。

浮遊感と書いたが勿論それはふわふわした物とは違い確実に振動だけをキャンセルしているような感じだ。そしてその肩に保持されているサポートバーを外し完全にサスペンションバーのみでカメラ重量を支える様に構えるとその上下動の押さえ込んでいる感覚がより強調される。

このスタイルだと更にカメラの自由度が増し例えば被写体と並行、もしくは斜め後ろ方向にも向けることが出来る為に色々なシチュエーションに対応できるだろう。試しに在る程度大げさに動き回ったり小刻みに揺らしてみたが、此方の思っていた程のブレは映像に残らなく、改めてこのサスペンションが良く効いているのが体験できる。

総評

販売予価が10万円前後という事も踏まえて中々使い勝手の良いスタビライザーだと思う。多少疑問点もある。まずはサポートバーを握ると言うことはレンズワークが全く出来ないと言うことだ。

ズームに関してはズームコントローラーで対応出来るとしてフォーカスやアイリスはそれがほぼ出来ないはず。つまりは被写体との距離をほぼ一定に保つような撮影にしか細かいことを言えば出来にくい。またこのサスペンションバーも基本はバネのみでダンパー等のフリクションを発生する装置は付いていないので在る一定の重量物でしかその効果が期待できない(軽量ハンディカムでは難しい)と言うことだ。

せめてこのサスペンション部分がバネではなくエアサスであればもう少し使い勝手が広がったように思える。またこのスタイル的に考えるにENGで使用と言うよりは制作系で使用する方がしっくり来る。特に制作費が不足気味な自主映画系の現場では本機はかなり有効なガジェットとなるはずだ。

従来のカメラサポートにサスペンションを付加する事で擬似的にもSteadicamの様な動きを真似出来ることは同じ価格帯の商品には無いアイディアで中々良いガジェットに思える。

筆者プロフィール

岡 英史(おか ひでふみ) VIDEONETWORK主宰
東宝ミュージカルや芝居等の舞台撮影を主とし、最近では初心に戻り積極的にENGをこなす。また面白いと思う撮影にはなんでも参加、NLE専用にチューニングした自作PCで編集までを自身で行い、小物なら専用パーツまでワンオフで制作してしまう異色ビデオカメラマン。過去にスキーの強化選手に選考され、その後バイクレース及びF3レース参戦など、映像とはかけ離れた異色の経歴を持つ。

このコーナーは、今業界で話題の商品を実際に使ってみてどう感じたかを、各方面の様々な方々にPRONEWSからお願いをして実機レポートをしていただくコーナーです。

「ここは予想以上に素晴らしかった!」「ここは期待した程ではなかった・・・」等々、メーカーカタログには記載されない、実際に使ってみてどう感じたのか、リアルな声が聞けるかもしれません。

同じ機材でも、レポーターさんの使用目的等によって着目点やその感じ方が違うことも非常に有益な情報になることでしょう。

これからも順次掲載予定ですのでどうぞご期待ください。

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業界で話題の商品を実際に使ってみてどう感じたかを、各方面の様々な方々にレポートしていただきました。