一般財団法人 プロジェクションマッピング協会(PMAJ)は、2012年から毎年企画・主催をしているプロジェクションマッピングの国際コンペティション「1-minute projection mapping 2015」を今年も開催した。過去毎年開催されてきた神奈川県逗子市から、今年は新潟県新潟市の“みなとぴあ”に会場を変更し、期間も9月20日〜23日の4日間に拡大して開催された。
2011年に設立されたPMAJがその活動の中心的イベントして、設立翌年から意欲的に開催してきたこの国際コンペティション。2012年から今年で第4回目を迎え、年々世界各国からの応募作品も増えて来ており、今年は世界15の国々から計42作品がエントリー、そのうち16作品(7カ国・地域)がファイナリストに残った。各作品は毎年のテーマに沿って制作されるが、今年のテーマは「CROSS/交差」。規定として1分台(1:00〜1:59)の短い時間の中で作品をいかに展開させるか、グラフィックのテクニックや演出力とともに1分台のストーリーの構成力においても横並びで作品の差異がわかるのがこのコンペの醍醐味だ。
作品観賞後、入り口付近に設けられた一般オーディエンスの投票所。審査結果とはまた違った視点が面白い
今年の開催場所であるみなとぴあ内にある新潟歴史博物館の建物は、これまで何度かプロジェクションマッピングイベントが開催されており、元新潟支庁舎であった博物館本館の壁面をモチーフに、「港光/NIIGATA MINATOPIKA」と題されたシルバーウィークのイベントの一環として開催された。特に20日~22日には世界中から訪れたプロジェクションマッピングクリエイター達を交えたトークショーや、世界的に活躍するいま旬なダンサー/コレオグラファー(振付師)のKoharu Sugawaraさんのパフォーマンス、そして22日はコンペティションの審査発表と表彰式などもあり、メインの3日間の予約席分は無料ながらも早々にすべて予約満了となった。連日の来場者数もシルバーウィークという連休の効果と、地元メディア等での呼びかけ、全国TVネットやUSTREAMの効果もあり、5日間での来場者数はのべ46,771人(主催者計上)と過去最高を記録した。
プロジェクターにはパナソニックの20,000lm×2台が使用された
今回のプロジェクションに使用された機材群は、対面に位置する旧第四銀行住吉支店建物の2階部分の踊り場に設置され、パナソニックの20,000lmの業務用プロジェクター2機で投影された。
今回のファイナリストに残ったチーム名と16の作品名は以下の通り(上映順)。
- halmaki(日本/Japan)「GARDEN」
- 100 Plus Imaging Art and Technology(マカオ・中国/Macau)「Intersected Parallelity」
- One mappar(日本/Japan)「Cross of culture〜ukiyo-E-do〜」
- Eduzal & Ruben Velloso(ブラジル/Brazil)「A Bridge Between Opposites」
- LUCY BAYU KURNIYAWAN A.K.A LUWKY(インドネシア/Indonesia)「BETTER TOGETHER」
- ILUMINOUS(ブラジル/Brazil)「Consenso」
- 株式会社 WaveLabo(日本/Japan)「クロスワード」
- Javier Omar Sanchez Osorio(メキシコ/Mexico)「Delta Origin」
- Neba Studio ×Kaze Patricio Chan(マカオ・中国/Macau)「Hyakki Yagyō」
- kuma制作事務所(日本/Japan)「交差」
- VJZARIA(ブラジル/Brazil)「hier&jetzt」
- AVA Animation and Visual Arts(メキシコ/Mexico)「Wind Rose」
- ruestungsschmie.de(ドイツ/German)「RAUMZEIT3」
- artcode(日本/Japan)「era」
- NEED(イタリア+ルーマニア/Italian-Romanian)「Spirito」
- QUA2DUO(日本/Japan)「YES,Q2D.」
このうち、22日の審査での受賞作品は下記の通り。
- グランプリ:Neba Studio × Kaze patricio Chan(マカオ・中国)「Hyakki Yagyō」
- 準グランプリ:AVA Animation and Visual Arts(メキシコ)「Wind Rose」
- 審査員特別賞(3位): VJ ZARIA(ブラジル)「hier&jetzt」
- オーディエンス賞:One mapper (日本)「Cross of culture〜ukiyo-E-do〜」
- 新潟市特別賞:株式会社 WaveLabo(日本)「クロスワード」
となった。上位3賞に日本の作品が一つも入らなかったのは初めてのことだ。
この他にも、昨年のグランプリ受賞者であるベルギーのMaxime Guislain氏や、過去の受賞経験者であるインドネシアのAdi Panuntun氏、韓国のLUMPENSの作品もエキジビション招待作品として公開。すでに世界的に活躍しているアーティストの作品なので、応募作品とは一段レベルの違う見応えに観客も大いに沸いた。
より総合的な演出力の高さが要求されるプロジェクションマッピングの世界
すでにプロジェクションマッピングが認知されてから数年が経つが、その表現方法はさらに緻密に、さらに高度なものへと進化を続けている。今年の作品は新潟市歴史博物館という、実にマッピング映像向きのレトロなテクスチャーの外観だ。ここを投影対象として、1分程度のコンペティション作品が16作品、そして過去のコンペティション優勝者たちによるエキジビション作品が3作品(こちらは時間制限無し)が連続して上映された。初回の2012年から例年見て来きた中で、これまでに比べて大きく変わったのは、ここ1、2年で応募作品の質が全体的に大きく向上したことだろう。2、3年前はグラフィックスの技術や演出もいわゆる素人作品と見えるものも多かったが、このコンペ自体のステイタスも上がったこともこうした質の向上に繋がっている。また15カ国から集まったことで面白かったのは、お国柄というか、それぞれのナショナリズムが非常に反映されており、その意味でも作品クオリティに繋がっていると思われる。
一般のプロジェクションマッピングイベントと大きく違うのは、1クリエイターの1作品が単体上映されるのではなく、一挙に多くのクリエイターの作品をヨコ並びで観ることで、技術面や演出面での差異がはっきりと浮き彫りにされることだ。これにより、制作者本人の意図や思惑が独りよがりのものにならず、ある意味でプロジェクションマッピングの商品価値ともいえる、観客を沸かせつつも技術が高い、プロフェッショナル・エンターテインメントとして通用するかどうかも見えてくるのが面白い。
20日には過去のグランプリ受賞者たちがプロジェクションマッピングのいまと未来を語るクリエイタートークが開催された
例えば違う作品でも、同じソフトウェアと同様のプラグインエフェクトやトランジション効果をプリセットのままで使っていた場合、他者作品と同様の使い方が被ってしまうと、いきなり陳腐な表現に見えてしまう。また微細なテクスチャー表現も一部で手を抜くと、同じ樹木を表現しても、そこの表現の差異が作品全体の価値観に繋がってしまうのだ。
また映画と同じで、実際の大きさに投影することを想定した時のグラフィックスの動きのスピードなども、抽象的な物であれば速い動きでもそれなりの効果が期待出来るが、具体的な絵柄だと描写時間によって認知できなくなり、ストーリーが伝わらず中途半端な表現に終わってしまう等、緻密な計算も必要で、最終的な演出効果全体に大きく関わってくる。
技術的には3Dグラフィックス全盛のいまだが、こうしたグラフィックスの技術が優れていることが必ずしも高い評価には繋がっておらず、さらには一般聴衆側の人気には、全く持って繋がらないことは興味深い。2D描写のみでも、よりその演出と構成力が上手く設計されていることの方が、評価に繋がってくる世界なのだ。
日本の作品も優秀なものが数多く集まり、海外と比べて技術的には何ら見劣りするものはなく、技術的には非常に高度な作品が多かった。その反面、気になったポイントとして、やはり演出力、構成力の面で、海外作品に比べると劣って見えてしまうものが多く、技術ありきで場面を並べてしまっているように見えるものも多くみられた。個人的には特にサウンド面での編集が問題で、フリー音源そのままの使用などは非常に陳腐なものに感じてしまう。海外作品は先に音源をオリジナルで制作している作品も多く、そのオリジナリティな世界観の演出に非常に重要なポイントとなっている。サウンド面の軽視という点では、全国ロードショーで公開されている邦画大作でも、実は同じようなことが言える愚作が多く存在するので、日本の映像界全体の底上げには、サウンドデザイン面を含めた構成力の認知と向上は必須だろう。
PMAJ代表理事の石多未知行氏
PMAJ代表理事の石多未知行氏は次のように語っている。
石多氏:プロジェクションマッピングは、いまや技術面でのスゴさよりもより演出力、構成力が問われる時代になってきました。この2、3年でクリエイターの技術も作品の質も著しく向上したと思います。今後国際コンペティションは、さらに日本各地の地方での開催で、地域との結びつきを強めたり、さらに規模の大きな開催を目指したいです。
(石川幸宏)