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米Archimedia Technology(アーキメディア)は、メディア制作ワークフローの作業効率を上げるソフトウェアベースのIris(アイリス)システムの最新バージョン1.2をリリースした。Iris 1.2での主な新機能として、IMF(Interoperable Master Format)パッケージ内のエレメントを視認できるほか、オーディオルーターのチャンネルが64×16まで拡張したことでサラウンドサウンドの各チャンネルの確認ができるなど、クオリティチェック(QC)ツールの機能を拡張したことなどが挙げられる。
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64×16チャンネルに拡張されたオーディオルーター。オーディオチャンネルが間違って編集されたメディアクリップも、Irisで直してSDIを介して出力することで、いちいちオーディオ編集過程まで戻すことがなくなる
Irisは10社以上のプロダクションスタジオをベータサイトに持ち開発が進められ、今年の6月にリリースされた。Irisは、リファレンスプレイヤー「Atlas(アトラス)」の機能拡張版と、波形モニター、ベクトルスコープ、オーディオスコープ、テストパターンなど、ビデオ・オーディオ測定ツールに加え、プロジェクトのワークグループ間でコミュニケーションがとれる管理ツールを実装した、類のないファイルベース制作ワークフローの効率化を支援するプラットフォームだという。
例えば、映画や番組制作では、配給会社側のビジネスサイドからプロデューサー、ポストプロダクションの各作業部署や外注フリーランスアーティストなど、様々な動きが関わってくる。作業の中で行うコミュニケーションをクラウドもしくはオンプレサーバで管理していくことで、関係者たちは各自の環境を問わず最新の情報を元に作業を進めることができ、待ち時間を省いて重複した作業が発生しないフローを構築できるという。同じ映像クリップを各自ローカルで持っていなくても、互いのコミュニケーションが確認できる点は、今までにない特長といえる。
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Irisが持つリファレンスプレイヤーでは、IMFパッケージ内のエレメント構成を組み立てて再生できる。IMFパッケージを作成する環境は整いつつあるが、その形式のメディアを確認するための再生ツール(プレイヤー)は存在していなかった。ウォルト・ディズニーやNetflixなど、世界レベルでコンテンツを配給する場合は、異なる言語、検閲、オーディオ設定、字幕形式や視聴環境フォーマットに対応するために、何千という異なるファイルバージョンを作成している。SMPTEでIMFが標準化されて以来、映画産業からOTTまで、メディアコンテンツ配給の多様化と並行して、IMFの必要性は増している。
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IMFコンプレックスファイルは、様々なバージョンのメディアをパッケージ化したもので、プレイヤー側は再生構成リストを参照して対応させるメディアをパッケージから探して組み立てる機能が必要だ。Irisのリファレンスプレイヤーは、IMFパッケージ内のCPL(Composition Play List)を参照して、正確な映像、オーディオクリップおよび字幕・キャプションデータなどを抽出して再現することができる
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IMFパッケージ内の各エレメント、ファイル内のメタデータ情報を閲覧することができる。このようにIMFパッケージ内情報を視認できるツールは存在しなかった
Irisでは、QCで有効な機能として、メディアファイルのメタデータをテンプレートとして設定することができる。例えば、映像解像度、フレームレートや色域、オーディオフォーマットなど、納品規定フォーマットをテンプレートに設定しておけば、メディアファイルを展開すると同時に納品規定フォーマットに即しているかが視覚で瞬時に確認できる。
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テンプレートの一例。メディアファイルが納品フォーマット規定外の値をもっていると赤色で表示される
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12月16日には、国内代理店の株式会社フォトロンが開催した製品セミナーにて、来春にリリース予定のIris1.3 RC版が披露された。セミナーの題目になっていた大型ユーザーのNetflix社で規定されているQCの方法では、コンテンツの5か所で集中チェックが行われるのだが、その作業負担を楽にするよう、Iris1.3では5点チェック箇所にクリック機能を追加した。日本ユーザーから同様の機能対応の要請が出ていたため、セミナーにて前倒しで披露したわけだ。更に、同時期に正式リリースする予定という3次元カラースペース「Spectrascope(スペクトラスコープ)」についての説明もあった。ソフトウェアベースでBT.2020対応するカラースペース測定するツールは類がない。
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従来の色空間の色域はCIExy色度図のように平面モデルを利用することが多かった。Spectrascopeは、明るさの次元を加えた、完全な色域を表現できるダイナミックイメージで色域を表示する
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米Netflixのメディアエコシステムで普及されたアーキメディアのソリューション。リファレンスプレイヤーAtlasは、Netflix内のスタジオ、ラボ、そしてコンテンツ制作、配給会社、プロデューサー・俳優宅のプライベートシアター、そしてNetflix認定のテレビメーカーやエンコード会社などで統一リファレンスプレイヤーとして指定されている。Irisを使い、エコシステム内の作業フローを透明化、作業効率を伸ばしている
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米国内のNetflixサービス加入者が利用する、最高のNetflix映像品質を体験してもらうためのテストパターンもアーキメディアが提供している
(山下香欧)
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