Blackmagic Designの発表によると、パンクロックバンドのTHE BLUE HEARTSに敬意を払い作られた工藤伸一監督の短編映画「frozen expectation ジョウネツノバラ」にDaVinci Resolve Studioが使用されているという。

「THE BLUE HEARTS ショートフィルムセレクション from ブルーハーツが聴こえる」は、THE BLUE HEARTSの楽曲をテーマにしたオムニバスの短編映画の企画。6人の監督たちがそれぞれTHE BLUE HEARTSの楽曲を選び、それをテーマに短編映画を制作した。

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写真左:カラリスト/DITの三浦徹氏、写真右:監督の工藤伸一氏

6作品のうちのひとつを監督したのがこの企画の立案者でもある工藤伸一氏。工藤氏はBOAT RACE振興会、大正製薬、ブルボンといったTVCMや、ミュージックビデオ作品を数多く手がける映像監督。工藤氏が作品のテーマとして選んだ楽曲は「ジョウネツノバラ」。「frozen expectation ジョウネツノバラ」と名付けられたその作品では、暖かいルックと冷たいルックの両方を使いわけており、登場人物の心情を表現するために照明にもこだわってるという。綿密に計算されて撮影された映像の魅力を存分に引き出すため、工藤氏は株式会社スパイスのカラリスト/DITである三浦徹氏にグレーディングを依頼した。

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禁断の恋愛模様を描いた「frozen expectation」は、主演に永瀬正敏、水原希子を迎え、主演を務めた永瀬正敏は脚本も務めた。同作品は、ロサンゼルズ・アジアン・パシフィック映画祭にて、「フェスティバル・ゴールデン・リールアワード(短編部門)」「ニューディレクター・ニュービジョンアワード(短編部門)」の2部門に正式ノミネート。その他さまざまな映画祭で上映が予定されており、日本国内でもゆうばり国際ファンタスティック映画祭2016で上映された。

約26分間の同作品にはセリフがひとつもない。そのため映像の力で「魅せる」ことが不可欠であったという。

工藤氏:26分間セリフなしで、どれだけもつのかもひとつのチャレンジでした。そのため、観客を飽きさせないための画作りには相当こだわって、カメラアングルやトーン、グレーディングを含めて妥協せずに作りました。不安もありましたが、まったく26分の尺を感じさせない映像のパワーが伝わる作品になり、映画祭でも高い評価をいただけました。

シネマスコープの画角というのもそのこだわりのひとつだったため、撮影にはアナモフィックのレンズが使用された。

工藤氏:一般的なレンズで撮ってそれをあとでトリミングするのではなく、アナモフィックで撮るということにこだわって、テストグレーディングもかなり時間をかけました。グレーディングによって同じシーンでもこれだけ印象が変わるというのを実感しました。

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アナモフィックレンズで撮影されたフッテージは縦方向が2倍の状態で収録される。三浦氏は「DaVinci Resolveはボタンひとつで、アナモフィックの素材を、シネマスコープの画角に戻せるので、非常に便利でした」とコメント。現場でDaVinci Resolveを使って作業することも多いという三浦氏は、近年DaVinci Resolve Advanced Panelを導入しての本格的なグレーディングも手がけている。

三浦氏:今回、撮影から作品に関わったので、現場にDaVinci Resolveを持ち込んで作業して、そのデータをグレーディングでそのまま引き継ぐことができたのも、時間の節約になりました。

今回は低照度環境下での撮影が多くて、現場では暗部が少し浮いたしっとりやわらかいトーンで行こうと考えていましたが、プレグレーディングの段階で試しにKodakのek200TのLUTを当ててみたんです。それは、病室のシーンで登場人物が亡くなるシーンだったのですが、そのLUTを当てたことによって、暗部が締まりミッドとハイライトが上がって、独特のトーンが生まれました。フェイストーンがすごくマットな感じになって、現実とはちょっと違う雰囲気を作りだせたんです。

工藤氏:この物語はその病室のシーンから始まるのですが、人が死ぬというシーンとして今まで一番美しいんじゃないかと思うくらい美しいものができました。まったく生々しくなく、ホラーな感じもありません。死というものを非常に美しく捉えられています。

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撮影はデジタルで行われたため、フィルムの質感を引き出すことにも注力したと三浦氏は言う。

三浦氏:よりフィルムっぽさを出すためにDaVinci Resolveのプラグインで粒子をたしています。光学フィルターを使ってトーンの調整すると、平面的な効果しか出ないんです。今回は、古いアナモフィックレンズの光学ブロックとDaVinci ResolveのプラグインやLUTを組み合わせて使っています。アナログとデジタルの効果を組み合わせることによって、より立体的にトーンが調整できるんです。

工藤氏:トーンの硬さや柔らかさ、シャープネスなどはDaVinci Resolveを使って処理をすると印象が全然違ってきますね。上に何かを乗せただけではなくて、きちんと画全体になじんでくれる。デジタルなのかフィルムなのかわからないようないいトーンが出ています。

三浦氏:今回初めて劇場公開の作品をグレーディングしました。本当は劇場用のスクリーンで作業したかったのですが、モニター環境を完璧に合わせて作業したところ、劇場でも自分が思った通りのトーンが再現できていました。小さなハコですが、DaVinci Resolveでここまで思い通りの色が作り出せたことはすばらしいです。