ツールがないなら実現をして提供するのがワコムの使命
ワコムは、4月24日、東京・秋葉原にある秋葉原UDXでVR/MR空間でのデザイン・制作に関するイベント「Wacom Creators’ Symposium」を開催し、同社が開発中のVR/MR技術を活用した描画ツールのプロトタイプ機の試作機を公開した。
VR/MR技術を活用した描画ツールのプロトタイプを紹介するワコム シニアバイス・プレジデント 玉野浩氏
VRのプロトタイプ機について説明をしたのはワコムの玉野浩氏。玉野氏は、いろいろな産業でVRの技術が使われているのに唯一クリエイター産業にVRのツールがないと指摘。ツールがないならばこの分野にツールを提供するのがワコムの使命、との思いでプロジェクトを立ち上げ、今回公開したプロトタイプ機を実現したという。
Gravity SketchのOluwaseyi Sosanya氏
玉野氏は、自動車のデザインのワークフローを紹介。これまでは紙とペンでスケッチをして3Dのデータに落とし込むことでクレイモデル化が行われてきたが、コストとプロダクションの開発期間が長くなってしまう。このような問題解決のためにGravity Sketch社と提携をして共同開発を開始。両社はその理由をこう語る。
玉野氏:ワコムとGravity Sketch社との提携の理由は、基本的に大手ソフトメーカーはVR上で3Dで直接描画するプロジェクトを開発していてもまだ出口が見つかっていない状況です。その点、Gravity Sketchは2年前ぐらい前からVR上で直接3Dでレンダリングする企画を実現しているところに注目しました。
Sosanya氏:クリエイターにフリーダムを提供したい。クリエイティビティを解き放って頂きたいという思いが一致したことによって、ソフトとハードの融合を考えました。デザイナーが今までのような平面に囚われることなく、3Dが得意な方は3Dから入っていただくということを実現していきたいと考えています。
今回のプロトタイプ機は、既存の製品をうまく組み合わせるこて動作することを証明したもので、その中でもペンの先から遅延なくインクが出ることやワコム製品とリンクの実現にこだわったという。3DのVRモードからワコムのペンタブレットにペンを近づけるとワコムモードに自動的に切り替わる予定があるとのことだ。
空中に描画するにはトラッカーが必要になるが、トラッカーにはSteam VR方式と映画業界で使われているViconのモーショントラッキングに対応。Steam VRのトラッキング技術を使えばほぼ1mm以下の精度でトラッキングが可能。また、トラッカーにはワコムのEMRテクノロジーの技術が入ったペンを使い、そのままCintiqやintuosで使用できる。
自動的に行き来が可能なことによって、ZBrushで骨格を作ってエクスポートしてGravity Sketchで読み込み、VR、MRの環境で見ながら3D空間でエディットして、またZBrushに戻して最後の仕上げをするのが代表的なフローとなるだろうとのことだ。最終的には、シームレスにソフトを使いたいときに使えるようにして、作業効率を挙げていただくのを最終のゴールにしたいという。
作業効率の一例としては、プロトタイプ機を4時間使って実現した作例を紹介。同じものをMayaやCATIAなどの現行の作り上げると1週間ぐらいの時間がかかるが、10分の1ぐらいに制作期間が圧縮できる可能性があるという。
公開されたプロトタイプ機のペンはintuosのペンがそのまま使えるようになっており、アダプタと組み合わせることによって既存のペンがVRの世界でも使えるようになる。標準のViveのコントローラーでは、想定外のところからインクがでてしまったり、重心も重いうえに長時間作業をすると手が痛くなってしまう。そこで、長時間作業ができる形状やペンのフィーリングの実現を考慮した結果、このようなデザインになったという。
現在のトラッキングセンサーのデザインは空中で描くことを想定したデザインになっている
プロトタイプ機のヘッドマウントディスプレは、HTC Viveを使用。Oculusや今後登場すると予想されるMRグラスなど、できるだけ広範囲に対応予定。
ヘッドマウントディスプレは精度の良さや誤差の少なさで定評のあるHTC Viveが使われていた
こちらはトラッキングシステムのLighthouse
イメージを直感的に3次元にできる「Gravity Sketch」
Sosanya氏によるGravity Sketchを使って車をモデリングするデモも行われた。Gravity Sketchは、2Dでスケッチをして3Dにエクスパンドする従来の2Dのスケッチに慣れたデザイナーにお馴染みのワークフローを採用している。10分ぐらいでカーデザインを立体化する実例を公開した。
VR環境のデザインを実演。両手のペンを動かしながらデザインが行われる
VRであるため、デザインをしたものは実物大のスケールで確認ができる。スケッチしながらボリューム感を確認できたり、簡単にスケールの変更が可能。
デモは、Sosanya氏が見ているモニターを外部プロジェクターに投影した状態で行われた
最後に眼鏡をデザインする例の紹介も行われた。例えば、お客さんの頭部を3Dスキャンして、その頭部の形に合わせたメガネのデザインをカスタマイズして、3Dプリンターで出力して提供するサービスも可能になるのではないかとしていた。
ワコムでは、今回公開したVR/MR技術を活用した描画ツールの製品化を2019年ぐらいまでに実現することを考えているという。それまでにいろいろな業界のリーダーの方々の意見を聞いて、フィードバックを織り込んで製品化を実現していくとのこと。