2025年5月16日に「カメラグランプリ2025」の受賞製品が発表され、5月30日には都内で贈呈式が開催された。式典には、受賞メーカー関係者と審査選考委員が一堂に会し、授賞式が行われた。

カメラグランプリは、1984年から続く歴史あるアワードであり、国内の写真・カメラ専門誌やウェブ媒体の担当者で構成されるカメラ記者クラブが主催している。毎年4月1日から翌年3月31日までに国内で新発売されたスチルカメラ、レンズ、カメラ機材の中から、各賞に値する製品が厳正に選出される。贈呈式前のメインスクリーンには、ニコン F4、キヤノン EOS5、キヤノン EOS-1Vなど、過去の受賞製品が投影で紹介され、本アワードの権威とカメラ業界の変遷が再認識された。

今年の受賞製品は以下の通りである。

  • カメラグランプリ2025 大賞: キヤノン EOS R1
  • カメラグランプリ2025 レンズ賞: ソニー FE 28-70mm F2 GM
  • あなたが選ぶベストカメラ賞: キヤノンEOS R5 Mark II
  • あなたが選ぶベストレンズ賞: キヤノンRF70-200mm F2.8 L IS USM Z
  • カメラ記者クラブ・技術賞: ニコンZ50II
  • カメラグランプリ2025 カメラ記者クラブ賞: PENTAX 17

表彰式では、各受賞製品の開発を牽引した企業の代表者が登壇し、製品への思いと今後の展望を語った。

キヤノン EOS R1(カメラグランプリ2025 大賞)

キヤノン株式会社の加藤学氏は、約10年ぶりの主要賞受賞に対する社内の喜びと感慨を表明した。2018年のEOS Rシステム立ち上げ以来、ユーザーが「EOS R1」の登場を待ち望んでいたことに触れ、満を持してこの大賞を獲得した製品を発表できたことへの深い思いを語った。

同氏は、キヤノンが1971年の「F-1」以来、「1」と名のつく製品には一切の妥協を許さないという信念のもと、画質、AF性能、信頼性、耐久性を追求してきたことを強調した。

加藤氏は、2024年のパリ2024夏季オリンピックでの試作機に関するエピソードを紹介し、過酷な環境下でのトラブルに開発者が迅速に対応した経験が、製品の信頼性向上につながったことを強調した。

EOS R1には最新のエンジンやAI技術が活用されているが、従来の「1」シリーズの操作感を継承しており、プロフェッショナルが道具として違和感なく使える製品に仕上がったと手応えを述べた。キヤノンは今後も、写真・映像を愛する人々に最も寄り添った道具を作り続ける目標を掲げた。

ソニー FE 28-70mm F2 GM(カメラグランプリ2025 レンズ賞)

ソニー株式会社の岸政典氏は、Eマウントシステム初のF2通し標準ズームレンズである「FE 28-70mm F2 GM」の受賞について語った。このレンズは、単なるズームレンズではなく、焦点距離を変えられる単焦点レンズを目指して開発され、F2の大口径でありながら小型軽量化を追求したと説明した。

岸氏は、小型軽量化と高性能・高信頼性の両立には、2016年のGマスターレンズブランド立ち上げ以来9年間にわたる、非球面レンズ加工技術、アクチュエーター、制御、生産技術など、あらゆる周辺技術の進化が不可欠であったと述べた。これらの技術融合が、これまでの光学設計では実現不可能だった新たなレンズを生み出す環境を整えたという。このレンズはこれらの取り組みの集大成であり、開発者にとっても喜ばしい受賞であったと述べ、今後も技術革新を続け、新たな撮影体験を提供することでイメージング業界の発展に貢献していく姿勢を示した。

ソニー株式会社の金井真実氏は、FE 28-70mm F2 GMレンズの開発における技術的側面を補足した。F2通しという高性能の実現には、光学設計、レンズエレメント、アクチュエーター、製造技術、機構設計といった全ての技術進化が不可欠であったと説明した。特に、ズーム時のレンズの繰り出し量を小さくすることに注力し、操作性、重心移動、レンズ全体の軽量化に貢献したという。

光学設計で最もこだわった点の一つは、ボケの質感であると金井氏は述べた。高解像度は当然の要求だが、カタログでは表現しにくい感動的なボケの表現に力を入れたという。F2の明るさも相まって、被写体を引き立たせるだけでなく、写真の大部分を占めるボケの質感が作品全体に与える影響は非常に大きいと考え、ボケと解像度の高いバランスの実現に苦心したと語った。設計だけでなく、製造段階での再現性にもこだわり、一本一本のレンズを繊細に調整する工程を導入することで、設計通りの高い品質を実現していると説明した。

金井氏は、このレンズが従来のズームレンズの想像を超える描写を提供できると確信しており、ユーザーからのフィードバックを元に、今後も期待を超えるレンズを提供し続けたいと述べた。

キヤノン EOS R5 Mark II(あなたが選ぶベストカメラ賞)

キヤノン株式会社の佐藤洋一氏は、「あなたが選ぶベストカメラ賞」を「EOS R5 Mark II」が受賞したことに対し、関係者を代表して感謝の意を述べた。EOS Rシリーズの開発者として、前回のEOS R5に続き、今回のMark IIでも受賞できたことに深い思いがあると語った。

EOS R5の開発がコロナ禍で行われ、カメラの将来に不安を抱いた時期もあったという。しかし、EOS R5の受賞を機に良い方向に進み、次の機種(EOS R5 Mark II)も必ず良いものにしようという強い思いで開発を進めたとのことだ。

EOS R5 Mark IIは、EOS Rシリーズの中でも特別な位置づけの「5」を冠する機種であり、写真・映像文化への貢献を強く意識していると説明された。アマチュアユーザーが静止画も動画も満足に使えるカメラを、納得できる価格で提供するというコンセプトのもと開発された。

Mark IIへの進化にあたっては、視線入力の搭載や、静止画カメラでありながら動画撮影時間の延長を目指すなど、多くの議論が重ねられた。アクセサリーとしてのファンユニット採用など、従来の良さを残しつつも、新たな挑戦を盛り込んだ点が今回の高い評価につながったと分析された。佐藤氏は、今後も写真・映像を愛する人々に最も寄り添った道具を作り続けることを目標に、新しいカメラの開発に邁進していくと述べた。

キヤノン RF70-200mm F2.8 L IS USM Z(あなたが選ぶベストレンズ賞)

キヤノン株式会社の中下大輔氏は、「RF70-200mm F2.8 L IS USM」がベストレンズ賞を受賞したことに対し、関係者一同を代表してお礼を述べた。

2018年に立ち上がったRFレンズシステムは、現在までに50本以上のレンズを投入し、撮影領域の拡大を目指して新商品の開発に尽力しているという。開発されたレンズは、一本一本に思いが込められ、ユーザーに届けられてきた。特に、今回受賞したRF70-200mm F2.8 L IS USMは、プロのフォトグラファーだけでなく幅広いユーザーから好評を得ており、それが今回の受賞につながったと考えている。

開発担当者は、RFレンズの歴史に触れ、過去のレンズ設計の経験から、ユーザーに寄り添ってレンズ開発を行うことの重要性と難しさを語った。そして、RシステムやRFレンズを愛用するユーザーの姿を見るたびに、より一層努力しようという熱い思いがこみ上げてくると述べた。今回の受賞にあたり、「歴代のRF70-200mm F2.8の中で最高傑作」という声が寄せられたことに対し、開発に携わる者としてこれ以上の幸せはないと感謝の意を表明した。

RF70-200mm F2.8 L IS USMは、EFレンズ時代(1995年)から続く70-200mm F2.8レンズの系譜を受け継ぎ、優れた描写性能はもちろんのこと、手ブレ補正機能の強化や小型軽量化といった進化を遂げてきた。RF版の70-200mm F2.8は、「静止画・動画ハイブリッド望遠ズームレンズ」をコンセプトに、プロの求めるクオリティに応えるべく商品化された。キヤノンのレンズブランド「EOS」の哲学である「快適高画質」を開発のベースに置き、パワーズームアダプターへの対応、インナーズームによる堅牢性、エクステンダー対応といった機能に加え、ズーミング操作時のピント変動を抑えるため、オートフォーカス性能を大幅に進化させた。このオートフォーカスの進化は、光学系と電気制御系の連携により、開発の初期段階からチーム全体で取り組んだ成果であるという。

キヤノンは今後もユーザーに寄り添い、期待を超える製品を提供できるよう技術を磨き、映像文化の発展に貢献していきたいと語った。そして、今後ともキヤノン製品への支持と、映像業界に携わるすべての人々との切磋琢磨を呼びかけ、感謝の言葉でスピーチを締めくくった。

ニコン Z50II(カメラ記者クラブ・技術賞)

ニコン「Z50II」が「カメラ記者クラブ・技術賞」を受賞し、株式会社ニコンの八木成樹氏が登壇した。八木氏は、選考委員、専門誌記者、ユーザー、そして他社関係者へ感謝の意を述べた。

八木氏の説明によると、ニコンZ50IIは「撮る楽しさ」と「持つ楽しさ」という感覚的要素に加え、上位機種の優れた機能性を兼ね備えたモデルとして開発された。Z9から始まるシステムを小型ボディに凝縮することで、カメラ初心者が複雑な設定に悩むことなく、安心して撮影に集中できるよう設計されているという。

これらのモデルには、フォトグラファーやクリエイターの表現を支援し、作品制作を可能にする「ピクチャーコントロール」機能をはじめ、多様な機能が搭載されているとのことだ。また、近年高まる本格的な動画撮影ニーズに応えるため、動画性能も充実させており、クリエイターの創造性を刺激し、初心者から幅広いユーザーまで「撮る楽しみ」を感じられる機能が盛り込まれていると述べた。

開発チームは、Z50IIを手にしたユーザーが、シャッターを切ることで理想の表現を実現する感動を味わい、このカメラが常に持ち歩ける存在となることを願っているとした。Z50IIは、発表直後から大きな反響を呼んでおり、今回の受賞によってその魅力が改めて評価されたという認識を示した。スマートフォンでの撮影が主流となる現代において、被写体と向き合い、ファインダーを通してシャッターを切るという写真撮影本来の体験を、Z50IIを通じてより多くの人々に提供する意向である。

ニコンの新しいエントリーモデルとして、カメラ初心者から表現の幅を広げたいユーザーまで、幅広い層に推奨される製品と位置付けられている。ニコンは今後も、幅広いユーザーの期待に応える製品展開を進め、カメラ業界全体の活性化に貢献していく姿勢を示し、話を締めくくった。

リコー PENTAX 17(カメラグランプリ2025 カメラ記者クラブ・企画賞)

リコーイメージング株式会社の濟木一伸氏が登壇し、PENTAX 17が受賞した「カメラグランプリ2025 カメラ記者クラブ・企画賞」について語った。濟木氏は元々経営・マーケティング畑の出身であり、開発に関する知見は少なかったものの、今回のプロジェクトでは大きな成功を収めたと述べた。

濟木氏によると、このフィルムカメラプロジェクトは2022年の暮れに発表。リコーイメージングは21年間フィルムカメラを製造していなかったため、技術の喪失や、現代のユーザーが新しいフィルムカメラに何を期待するのかという検証が不足している状態でのスタートであったという。しかし、発表後、ユーザーや業界関係者から予想を超える大きな期待の声が寄せられ、製品化への強い使命感に駆られたとのことだ。

開発においては、社内の技術者だけでは対応しきれない状況であったと濟木氏は説明した。古い設計図もない中で、OB(経験者)の協力を得たり、調達が困難な部品については社内の工場で自作したりと、多くの困難を乗り越えて完成に至ったと語られた。

発売後は、フィルムという特性上、フィルムメーカー、現像液メーカー、廃液処理業者など、関連業界全体からの応援も得て、大きな話題を呼んだという。特に、若い世代が「古くて新しいもの」としてこのフィルムカメラを受け入れ、積極的に情報を発信したことに喜びを感じていると述べた。

濟木氏は、今後もデジタルだけでなく、関連産業全体を巻き込みながら、映像業界の発展に貢献していきたいという意欲を示した。濟木氏のスピーチは、多くの困難を乗り越え、関係者やユーザーの期待に応える形で成功を収めたフィルムカメラプロジェクトへの感謝と、今後の映像業界への貢献に向けた強い決意が伝わる内容であった。