ソニーが目指す「感動の共創」。新アワード「The New Creators’ Award」設立の背景と理念
ソニーは2025年7月26日、第1回「The New Creators’ Award」の表彰式を開催した。このアワードは、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というソニーグループの存在意義に基づき、ソニーマーケティングが中心となり、ソニー・ミュージックレーベルズ、ソニーピクチャーズ、ソニーPCLの4社が共同で設立したものである。年齢や経験、使用機材を問わないオープンな形式で写真と映像の作品を募集し、新しい才能の発掘と共創を目指すアワードだ。
まず最初に、主催者を代表して登壇したソニーマーケティング株式会社 執行役員副社長の中川勝利氏が登壇し、来場者への挨拶を行った。

中川氏はまず、受賞したクリエイターへ祝辞を贈った。自身も応募作品をすべて鑑賞したと言い、「多くの才能に溢れた素晴らしい作品に触れることができ、大変感動した」と感想を述べた。続いて、本アワード設立の経緯について説明。アワードは、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というソニーグループの存在意義を実現するため、ソニーマーケティングが中心となり、ソニー・ミュージックレーベルズ、ソニー・ピクチャーズ、ソニーPCLの4社共同で立ち上げたものであると語った。
著名な審査員の賛同を得て第1回が開催できたことへの喜びを述べ、「感動はソニーグループにとって非常に重要なキーワード。皆様との共創によって感動の未来を作るという理念が、今日この場で実現できた」と語った。また、多数のクリエイターからの応募に改めて感謝の意を表し、「これからも製品やサービスを通じてクリエイターの皆様と共に感動を創り続けたい」と今後の展望を述べた。
写真部門グランプリは花田智浩氏の「時間の交差 海岸砂湯」
第1回の審査員は、写真作品を写真家の石川直樹氏と写真家・映画監督の蜷川実花氏、映像作品を映画監督の上田慎一郎氏と映像作家の大喜多正毅氏が務めた(蜷川氏は当日欠席)。厳正な審査の結果、各賞が決定した。
写真作品のグランプリには、花田智浩氏の「時間の交差 海岸砂湯」が選ばれた。花田氏は受賞スピーチで、まず審査員と関係者への感謝を述べた。
作品制作のきっかけは、2022年に参加した大分県別府市でのアーティスト・イン・レジデンスであったと語った。温泉地として知られる別府での生活の中で、温泉水が50年前の雨水からできていることを知り、その雄大な時の流れに感銘を受けて「時」をテーマにした作品制作を決意したという。当初は表現方法に迷いがあったものの、2024年に別府市が市制100周年を迎えたことを機に、100年前の絵葉書を用いることで過去と現在を比較するというアイデアにいたった。制作過程では、地元の人々の協力があったことを明かし、「私一人では決して作れなかった」と感謝の言葉を繰り返した。
最後に、第1回のグランプリ受賞という栄誉に改めて感謝し、「花田を選んで良かった、と思っていただけるよう、これからも活動に邁進したい」と今後の抱負を述べ、スピーチを締めくくった。
映像部門グランプリは河合ひかる氏のセルフドキュメンタリー「親愛なる声へ」
映像作品のグランプリは、河合ひかる氏の「親愛なる声へ」が受賞した。映像作品グランプリを受賞した河合ひかる氏は、受賞スピーチの冒頭で、「まだ全く実感が湧かない」と驚きを述べつつ、審査員と関係者への感謝を伝えた。
本作は、亡くなった自身の祖父へ感謝を伝えるために制作したセルフドキュメンタリーであると明かした。コロナ禍で危篤となった祖父と一度も中国語で会話を交わせないまま別れたくない一心で、言語の学習を始めたことが制作のきっかけだったという。しかし、その思いは叶わず祖父は亡くなってしまった。
その後も学習を続ける中で、テキストの付属CDの音声が、幼い頃に聞いていた懐かしい家族の声で聞こえるという不思議な体験をしたと語った。単語を口にするたびに家族との思い出が蘇る一方で、自身の発音は上手ではない。そのギャップを形にしたいという思いが、本作の制作につながったと説明した。
極めて個人的な作品が評価されたことについて、「自分のために作った小さな物語が、より大きな物語へと歩み出しているように感じられ、大変嬉しい」と喜びを語った。
また、アワードのテーマである「共創者」という言葉に共感して応募したと述べ、「見てくださった方が共感してくれたからこそ、私の作品は意味を持つのだと思っている」と話した。そして、「想像力と共感が平和な世の中を築くヒントになる」と信じ、表現の力を通じてこれからも制作を続けていくと、今後の抱負を力強く語った。
審査員が語る選考基準。「なぜ撮るのか」「自分には作れない独創性」
続いて、優秀賞、入賞、佳作の各賞が発表され、受賞者一人ひとりに賞状やトロフィーが授与された。
審査員からは、受賞者への祝辞とメッセージが送られた。写真部門の石川直樹氏は、「なぜ撮るのかという強い思いを持つ作品は強度を持つ。受賞は孤独な制作活動の励みになるはずなので、これからも良い作品を撮り続けてほしい」とエールを送った。
映像部門の上田慎一郎監督は、「これは自分には作れない、と思えるオリジナリティを基準に選んだ。最も個人的なことが最も独創的であるという言葉通り、受賞作は誰も真似できないものだった」と評価。また、「審査員の言うことは半分聞き、半分はお前より面白いものを作る、という気概でいてほしい」と、独自の激励の言葉を贈った。
大喜多氏は、「心が動いたか、リアルにその人が感じられたかを基準に評価した。技術的には皆素晴らしいが、大切なのは続けられるか。AIの時代だからこそ、人が映っている作品が重要になる」と、今後の制作活動へのアドバイスを送った。
グランプリ、優秀賞、入賞の受賞者には、ソニーグループならではの特別な体験として、映画撮影現場の見学やミュージックビデオの撮影体験などが副賞として贈られる。第2回の募集は本年11月中旬より開始される予定である。