JCIIフォトサロンでは、2025年10月28日(火)~11月30日(日)まで、「―戦場を駆けた写真家 一ノ瀬泰造―『もうみんな家に帰ろー!』」を開催する。
一ノ瀬泰造は、1972年1月、第三次印・パ戦争で独立したばかりのバングラデシュに単身で向かい、フォトジャーナリストとしての人生をスタートさせた。
その後、カンボジア、ベトナムと激戦地を巡った一ノ瀬は、1973年11月、友人宛の手紙に「地雷を踏んだらサヨウナラ」と記して、アンコールワットへ単独潜入したまま消息を絶つ。9年後の1982年、アンコールワット北東約10kmにあるプラダックの草原に埋葬された一ノ瀬の遺骨が、息子の生存を信じ続けた両親の手によって確認された。
一ノ瀬が遺したネガフィルムは、これまで、家族らの手によって整理・発表されてきた。写真展や書籍で明かされる彼の生きざまは、現在も多くの人々に感銘を与えている。
同展では、24歳から26歳までフリーランスの写真家として戦地を駆け抜けた一ノ瀬泰造が、バングラデシュ、カンボジア、ベトナムで撮影した戦場の写真や、戦時下を生きる人々の姿をとらえた作品76点(モノクロ64点、カラー12点)を展示する。
世界的スクープを目指して数々の戦闘シーンを取材した一ノ瀬だが、遺されたフィルムには、現地で出会った民衆の姿も数多く写されている。
水牛と一緒に水浴びをする少年たちや弾薬箱に乗って遊ぶ男の子など、子どもを被写体とした写真も多く、生まれたときから戦争という日常しか知らない彼らの無邪気な笑顔が胸をつく。下宿先で仲良くなった友人のロックルーや、戦災孤児のタン君など、一ノ瀬が親交を深めて写した作品もあり、彼ならではの人間味が溢れた写真ばかりである。
同展タイトルの「もうみんな家に帰ろー!」は、一ノ瀬がカンボジアで戦闘取材中、戦況が硬直するなかで相手側の兵士たちに向かって叫んだ言葉で(1973年9月3日の取材原稿より)、緊迫する状況下でも人の心を和ませる言葉を発せられる一ノ瀬の人間性が表れている。同展は、一ノ瀬泰造が見つめた戦場と人間の姿に触れ、平和の意味を改めて考える機会を提供する。
隣接する日本カメラ博物館では、関連展示として特別展「沢田教一と一ノ瀬泰造」を開催。一ノ瀬の被弾したカメラや配信に使用したタイプライターのほかに、写真作品として、学生時代にテーマとした大学闘争やデモ、自身も打ち込んだボクシングなど、戦場に至るまでの一ノ瀬の青春をたどるかのような作品群も展示する。
一ノ瀬 泰造(いちのせ たいぞう)
1947年11月1日、佐賀県武雄市生まれ。1966年、日本大学芸術学部写真学科に入学。卒業後にUPI通信社東京支局に勤務するが翌年退職し、フリーランスのカメラマンとしての一歩を踏み出す。1973年11月、アンコールワットへ潜入後消息を絶つ。満26歳。1982年、遺骨が発見された。
開催概要
- タイトル:―戦場を駆けた写真家 一ノ瀬泰造― 「もうみんな家に帰ろー!」
- 協力:永渕教子(一ノ瀬泰造アーカイブ)、公益社団法人 日本写真協会[敬称略]
- 開催期間:2025年10月28日(火)~11月30日(日)
- 展示内容:24歳から26歳までフリーランスの写真家として戦地を駆け抜けた一ノ瀬泰造が、バングラデシュ、カンボジア、ベトナムで撮影した戦場の写真や、戦時下を生きる人々の姿をとらえた作品を展示。
- 展示点数:モノクロ76点(モノクロ64点、カラー12点)
- 開館時間:10:00~17:00
- 休館日:11月10日、17日
- 入館料:無料