富士フイルム「GFXシリーズ」による映像制作の可能性を提示するイベント「Hello GFX -2025- ETERNA」が、現在原宿で開催されている。今回の最大の注目は、なんといっても発売されたばかりの映像用カメラ「GFX ETERNA 55」だ。会場では同機に焦点を当てた熱のこもった展示が行われており、同社が描こうとしている次世代の映像世界を強く予感させる内容となっていた。

会場全体には、従来の写真中心のイベントとは一線を画す熱気が満ちている。それは単に「動画の展示が増えた」という表面的な変化に留まらないだろう。ETERNAを起点に、レンズやリグ、運用方法から周辺機材までを包括的に示す「具体的なワークフローの提案」がなされており、それこそが今回のイベントを特徴づける大きな要素であると感じられた。

■Hello GFX 2025 ETERNA 開催情報

  • 日時:2025年12月20日(土)~23日(火)11:00~18:00
  • 会場:WITH HARAJUKU 3階 「WITH HARAJUKU HALL」・「LIFORK HARAJUKU」
  • 住所:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1-14-30
会場には原宿駅前のイベントホール「WITH HARAJUKU HALL」が使用された
これまでの静止画中心の構成とは異なり、今回は映像制作も含めた展示内容となっており、ブランドの新しい方向性が会場全体から感じられた

日本初公開!SmallRig製ETERNA専用ケージが示す、ワンマン運用の新たな可能性

GFX ETERNA 55の展示において、運用の具体的なイメージを伝えていたのがSmallRig製の専用ケージだ。日本初公開となるこのケージは、単なる付属品というよりも、ETERNAがどのような現場での使用を想定しているのかを、実機を通して伝えてくれるような存在だった。

実機に触れてみると、NATOレールを介したグリップの着脱は非常にスムーズで、一人での操作を意識した使い勝手の良さが伝わってくる。これは単なるケージの機能というだけでなく、ETERNAを「少人数でも扱えるカメラ」として提示したいという、展示側の意向が反映されているように感じた。

ETERNAのリグに関しては、すでにARRIやTilta、Wooden Camera、KONDOR BLUEといった名だたるメーカーが参入を表明している。ARRIが専用システムを発表した直後というタイミングでの今回の展示は、中判映像制作におけるETERNAの注目度の高さを如実に物語るものだ。ここにコストパフォーマンスに優れたSmallRigが加わることは、ユーザーにとって選択肢が広がる歓迎すべき動向といえる。

今回のHello GFXでは、GFX ETERNAに装着されたレンズ群そのものが、このカメラをどの価格帯・どの制作規模へ開こうとしているのかを明確に示していた。

DZOFilmのVespid Primeや、GL OpticsによるMamiya Sekor 645リハウジングといったレンズが並ぶ構成は、「中判=ハイエンド専用」という従来のイメージを、ETERNAを軸に意図的に解体する展示だったといえる。

中でも、DULENS(毒鏡)のAPO CAMBRIAN PRIMEは、ETERNAとの組み合わせを想定した現実的な解像度を持つ存在だった。44×33mmのオープンゲートを完全にカバーしながら、ハンドヘルドやジンバル運用を前提にできるサイズ感は、「画質は欲しいが、運用を犠牲にしたくない」というETERNAの立ち位置を、そのままレンズ側で体現していた。

また、Viltroxの1.33倍アナモフィックレンズ「EPIC」シリーズは、その重量感に見合う非常にクリーンな像を結ぶ。ETERNAの強みは、こうした多様なレンズに対してカメラ側がネイティブに対応している点にあり、1.33倍を含む各種デスクイーズ機能が付属のLCDで即座に確認できる仕様は、現場でのストレスを劇的に軽減するはずだ。

ハイエンドなシネマカメラ用ズームレンズ「Premista」がもたらす卓越した描写から、20万円を切るコストパフォーマンスに優れた新興ブランドまで、本機が多彩なレンズ選択肢を得たことは、中判映像制作をより身近なものにすると同時に、表現の可能性を大きく広げるものといえる。

ジンバルを用いた運用提案も、GFX ETERNAを中心とした展示内容の中で特に象徴的なパートだった。これまで中判センサー搭載のシネマカメラは、大型リグとハイエンドスタビライザーを前提とするのが常識であった。

しかし今回の展示では、IDXの小型VマウントバッテリーとGF55mm F1.7を組み合わせ、RS 4による運用が成立していた。重要なのは、この構成が「特別なデモ」ではなく、ETERNAを日常的な制作現場に持ち出すための現実解として提示されていた点である。

これは「中判シネマ全体が変わった」という話ではなく、GFX ETERNAというカメラを軸に組み立てた場合、ここまで運用の自由度が下げられるという、極めて具体的な展示メッセージだった。

AF対応の「GF32-90mm T3.5 PZ OIS WR」のデモも、GFX ETERNAを中心とした展示の完成度を高める要素となっていた。中判センサー特有の浅い被写界深度は、動画撮影においてフォーカス精度のハードルを上げる要因でもある。

今回の展示では、動体に対する追従性や合焦の安定性が実機デモで確認でき、 GFXシリーズで培われたAF技術が、ETERNAという映像用カメラでも実用レベルに落とし込まれていることが示されていた。

レンズ自体のビルドクオリティも非常に高い。3連リングを備え、シネマ標準の0.8mmギアピッチを採用している。一見すると「Premista」を思わせる重厚な外観だが、実際に手に取ると見た目以上に軽量だ。3kgを超えるPremistaに対し、このGF32-90mmは2,150gに抑えられており、現場での取り回しは大幅に向上するだろう。

原宿で出会った異色のGFX。藤原ヒロシ氏のこだわりがソフトウェアにまで及ぶ、そのプレミアムな世界観

映像制作を主眼に置いたETERNAの展示が並ぶ傍ら、GFXブランドの多面性を象徴する存在として、fragmentとのコラボレーションモデル「GFX100RF FRAGMENT EDITION」が初披露されていた。

このカメラ(コラボモデル)は、映像制作の世界とは直接関係がない。しかし、道具として徹底的に「使う」ためのETERNAに対し、ブランドが持つ「持つ喜び」や「愛着」を象徴する存在として並べられている。この対照的な二つを同じ会場に置いた点に、大きな意味がある。今回のイベントは、単にETERNAという新製品を発表する場ではない。仕事の道具から趣味の宝物まで、GFXというブランドが持つ幅の広さや奥行きを多角的に伝えようとしている。その意図が、この展示構成から明確に読み取れる。

通常モデルと比較すると、天板の研磨加工や外装素材、ロゴ処理に至るまで徹底した作り込みが施されており、電源投入時の演出や本機専用のフィルムシミュレーションレシピ(FSレシピ)「FRGMT BW」など、ソフトウェア面にも思想が及んでいる点が印象的だ。ETERNAが“使うためのGFX”を提示しているとすれば、本機は“所有し、味わうGFX”を体現するモデルであり、Hello GFXというイベントが持つ多層的なメッセージを補完する存在として静かな存在感を放っていた。

限定モデル(写真左)と通常モデル(同右)を比較すると、その差異は一目瞭然
外装には新開発の素材によるレザーが用いられ、fragmentの刻印が刻まれている
天板の意匠も、富士フイルムロゴからfragmentロゴへと刷新された
ソフトウェア面でも独自の演出が光る。電源投入時にはfragmentのロゴが起動画面を飾る
フィルムシミュレーションにはACROSをベースとした「fragment BW」を搭載。藤原ヒロシ氏の監修によるこの専用シミュレーションの追加は、本モデルの大きなアイデンティティとなっている

撮影効率と表現力を加速させる周辺機材の競演

周辺機材の展示に共通して見えてきたキーワードは、「省力化」と「ワンオペレーション」である。 中判センサーを用いた映像制作は、画質面で大きな魅力を持つ一方、セッティングや運用負荷の高さが現場導入の障壁となってきた。今回のHello GFXでは、そうした前提を現実的に引き下げるための周辺機材が、複数のブランドから提示されていた。

例えば、ワンタッチで展開・収納が可能なソフトボックスや、マグネット式による素早い着脱を前提としたフィルターシステムは、設営時間を大幅に短縮する設計思想が共通している。また、小型ながら高出力に対応する電源ソリューションや、工具を使わず低位置撮影へ移行できる三脚機構なども、撮影者一人で完結する運用を強く意識したものだ。

これらの機材に共通するのは、個々の性能を誇示するのではなく、撮影準備・撤収・再セッティングといった「撮影前後の時間」をいかに削減できるかに主眼が置かれている点である。中判シネマを特別な現場のための選択肢に留めず、日常的な制作フローへと引き寄せるためには、こうした周辺機材の存在が不可欠だ。

カメラ単体の進化だけでなく、運用全体を軽量化・簡略化する周辺機材の成熟が同時に進んでいることは、GFX ETERNAを軸とした中判映像制作が、すでに“机上の理想”を超え、実運用のフェーズへと入りつつあることを示している。

Phottixのブースでは、手のひらサイズの極小ストロボ「LEDライト付きミニフラッシュ mini A」が注目を集めていた。幅広いシステムに対応するシングルピン仕様のシンプルな設計ながら、光量調整やチルト機能を備えている。さらに、ボタン一つで色温度可変のLEDモードに切り替えられるなど、実用性も十分に併せ持っている
H&Yのブースで目を引いたのは、可変NDフィルターと円偏光(CPL)フィルターを統合した「Novaシステム」だ。ND3~32の範囲で光量調節が可能であり、明るい環境での露出制御や被写界深度を活かした表現に寄与する。CPLは独立して調整できるため、フィルターを重ねる手間なく反射やテカリをコントロールできるのが利点だ。また、マグネット式のレンズキャップも用意されており、運用の手軽さも考慮されている。写真下は付属のマグネット式レンズキャップをつけたところ
焦点工房のブースでは、来年発売予定の新製品として、GFXユーザーにとっても注目すべき機材が披露されていた。それは、GFXマウントレンズをニコンZマウントボディに装着するための電子マウントアダプターである。電子接点を備え、AF駆動や絞り制御にも対応するという。中望遠レンズを用いたデモでもスムーズにAFが合焦する様子は、実用性の高さを予感させるものだった
IDX(アイ・ディー・エックス)は、開発中の半固体ポータブル電源「GUARDIAN mini」を展示した。安全性の高い「半固体セル」を採用し、発火や故障のリスクを抑えた設計が特徴だ。特筆すべきは充電スピードの速さで、0%からフル充電までわずか19分という高いパフォーマンスを誇る。実際に充電中の様子を確認したが、短時間の会話の間にも充電率が着実に上昇していく様子が見て取れた
システムファイブは、新たに取り扱いを開始した照明ソリューション「Harlowe」を展示していた。通常のライトをプロジェクターのように変貌させ、壁面に火星の地表やブラックホールのような背景を投影する光学ライトレンズの描写には驚かされた。マグネット式でアタッチメントを交換できる操作性は極めて高く、スタジオ撮影の表現を拡張する可能性を秘めている。また、同ブランドの小型LEDライト「Micro 8 Spectra」との組み合わせも確認できた(写真下)
三脚ブランド「Leofoto」を展開するワイドトレードの製品群も、独自のこだわりが随所に感じられる内容だった。携行性を追求した新モデル「AZ-235C」および「AZ-204C」は、工具を使わず瞬時にセンターポールを分割できる独創的な機構を採用している。手回しのみでポールを短縮し、速やかにグランドレベル(ベタ付け)でのローアングル撮影へ移行できる点も大きな特徴だ

今回の「Hello GFX -2025-」は、単に新しい製品を披露するだけの場に留まらない内容であった。ETERNAを中心とした展示の数々は、中判シネマが実際の現場でどこまで実用的な選択肢になり得るのかを、具体的に提示していたように思う。

中判デジタルが将来的に主流となるかどうかについては、今後の動向が待たれるところだ。しかし少なくとも、ETERNAを軸とした制作環境が、単なる理想の話ではなく実際の運用を見据えた段階にあることは、今回の展示を通じて十分に伝わってきた。