Newtonlab Space社の主力商品SHOW WINDOW L
等身大の人物や3Dオブジェクトを現実空間に存在するかのように表示するホログラムデバイス「SHOW WINDOW(ショーウィンドウ)」シリーズが、2025年4月より日本国内での本格展開を開始した。開発元は、2020年に設立されたスペイン・バルセロナの企業「Newtonlab Space」だ。今回、「ニューメディアMWC2026ツアー」における企業訪問の一環として、同社のホログラム開発拠点を直接訪問する機会を得た。
本稿では、現地でのデモとプレゼンテーションをもとに、近年多様化する空間ディスプレイ市場(Samsung、Google、Proto等の競合技術)における同製品の立ち位置と技術的特徴、そして多角化するビジネスでのユースケースについて報告する。
多様化する空間ディスプレイ市場と、各社のアプローチの違い
現在、3Dや空間表現を追求するディスプレイ・通信技術はNewtonlab Space社以外にも複数の企業から異なるアプローチで展開されている。
- Proto(Proto Luma / Proto M2 等)
独自のOSとAIアバター、空間コンピューティングを統合したプラットフォーム。等身大モデルの「Luma(またはEPIC)」や卓上型の「M2(またはM)」を展開し、SOC-2やHIPAAといったセキュリティ・医療情報コンプライアンスにも準拠している。日本国内ではTISインテックグループのインテックがパートナー契約を結んでいる。
- Samsung Spatial Display(SM85HX等)
SamsungがCES2026で発表した、薄さ約2インチ(約5cm)のプロファイルを持つ85インチの商業用ディスプレイ。独自のエンハンスメント機能によって微細なシャドウエフェクトを付加し、奥行き感を強調するアプローチをとっている。専用のクラウドシステム「Samsung VXT」を用いた一元的なコンテンツ・デバイス管理を特徴とする。
- Google Beam(旧 Project Starline)
ヘッドセット不要で自然な遠隔対話(コプレゼンス)を実現するためのAIファーストな3Dビデオ通信プラットフォームである。AI、3Dイメージング、ライトフィールドレンダリング技術を組み合わせ、エンタープライズ向けにはHPと提携して「HP Dimension」を展開している。
これらに対し、Newtonlab Spaceの「SHOW WINDOW」は、反射防止ガラスを備えた透過型LCDスクリーンを用い、物理的なボックス内の奥行きと照明環境を利用してホログラム像を生成する。同製品の構造的な優位性は、そのモジュール式拡張性にある。単体モデルの「SHOW WINDOW L」に加え、「SHOW WINDOW MAX」では86インチディスプレイ(4K)を最大8枚まで連結でき、3枚連結時には約12K(3840×2160 ×3)の解像度となる。これにより自動車のフルスケール展示など、巨大な映像投影に対応可能だ。
既存の会議システムと一線を画す「遅延0.3秒以下」のテレプレゼンス
遠隔地とリアルタイムで繋ぐライブテレプレゼンス機能において、既存のWeb会議システムは映像信号の圧縮率が高く、等身大での高精細表示には限界があった。SHOW WINDOWのシステムは圧縮による劣化を抑え、実物大の被写体を転送するよう設計されている。
実際のテレプレゼンス実行時の応答速度(遅延)は0.3秒以下に保たれており、自然な対話が可能だ。今回のデモでは、バルセロナから陸路だと1,000キロ以上離れた遠隔地にあるスペイン・ガリシア地方のア・コルーニャのオフィスにいるエンジニアとのライブでの会話の様子を見ることができた。SHOW WINDOW Lに等身大で映されたア・コルーニャのエンジニアと、バルセロナにいる社長とがリアルタイムで会話し、「そちらの天気はどう?」「雨が降っています」といった会話をほぼ遅延なく実行できることを目撃した。
SHOW WINDOWの上部フレームにはカメラが搭載されており、相手側からもこちら側の映像が見えるようになっている。音声は別途ワイアレス接続されたマイクとSHOW WINDOWに搭載されたスピーカーを通してやりとりする。
スペイン出身のアルペン・スキーのアスリートKilian Jornetが滞在先のノルウェーからバルセロナのイベント会場にホログラムとしてリアルタイム登壇し、観客からの質問に直接答える事例もすでに行われている。通信にはネットワーク環境(5G/6Gなど)に応じてフルHDと4Kの解像度を選択できるが、同社は「リアルタイム性を優先する場合、体感的な画質差が少ないフルHDでの運用」を推奨している。一方、事前録画されたコンテンツの再生においては常に4K解像度が用いられる。
用途に応じたコンテンツ制作:1カメ撮影から160台構成の3Dスキャンまで
ホログラム用コンテンツの制作手法は、用途に応じて柔軟な設計が可能となっている。国内展開される「SHOW WINDOW L」への単純な人物投影においては、特殊な3Dカメラは必須ではなく、1台のカメラで撮影された一般的な映像フォーマットを使用するだけで、箱の中に人が存在するかのような投影が可能だ。
一方、デバイス上で視点を変えたりタッチ操作したりできるインタラクティブな3Dオブジェクトを制作する場合には、160台のカメラを統合した専用のキャプチャスタジオが使用される。この撮影では1回で360°のデータ(約24GBのローデータ)が取得される。撮影プロセス自体は1日に約20個のペースで進行できるが、これを各媒体で操作可能な3Dオブジェクトに変換するポストプロダクションには通常2〜3週間を要する。同社では3D・CG業界に革命を起こしている最新の3Dレンダリング技術Gaussian Splatting(ガウシアン・スプラッティング)を採用し、ハードウェアだけでなく、光と影の微調整といった自社制作ノウハウの提供もビジネスの柱としている。
リテール、医療、展示会へ拡がるユースケース
実ビジネスにおいては、以下のようなユースケースが展開されている。
- Meet & Greet Holographic:ユーザーがデバイス上の著名人やキャラクターと共演し、記念動画を撮影できるソリューション。動画はクラウドシステムに自動処理され、QRコード経由で取得可能だ。また、Snapchatのフィルター機能と連携し、ユーザーの顔をアバター化する機能も備える。
- AIアシスタントと医療支援:デバイス上のAIアバターが商業施設などで24時間体制の案内役を務める。医療分野では、認知症患者に対してAIアシスタントが服薬時間を知らせたり、家族の写真を見せて記憶を呼び起こすといったケア用途のテストも進められている。
- ミュージム・アート展示:修復中で展示できない美術品などをデバイス内に投影し、タッチ操作で拡大・回転しながら鑑賞させる取り組みが行われている。
最後に、日本国内における展開について紹介しておく。2025年4月、体験型プロモーションを手がける株式会社Orange(東京都千代田区)が、Newtonlab Spaceと日本国内での独占販売契約を締結した。これにより、「SHOW WINDOW」シリーズの国内での販売・レンタルや、導入支援、アフターサポートが開始されている。
多様化する空間ディスプレイ市場において、物理的なボックスと透過LCDを組み合わせた同社のアプローチが今後どのように浸透していくか注目される。