Blackmagic Designの発表によると、城定秀夫監督作の映画「名無し」がURSA Cine 12K LFとPYXIS 12Kで撮影されたという。

映画「名無し」は、昼下がりのファミレスで突如起こる無差別殺人事件を発端に、常識を超えた"異能"を持つ中年男の存在を軸に展開するサスペンス・スリラーだ。ピンク映画から青春映画まであらゆるジャンルの映画を手がける城定秀夫監督の最新作で、主演の佐藤二朗が本作の原作と脚本を手がけた。

「名無し」はURSA Cine 12K LF、Blackmagic PYXIS 12K、Blackmagic Cinema Camera 6Kを使って撮影され、グレーディングにはDaVinci Resolve StudioおよびDaVinci Resolve Mini Panelが使用された。撮影は、城定監督と何度もタッグを組んでいる渡邊雅紀氏。城定監督と渡邊氏とは「夜、鳥たちが啼く」「悪い夏」に続き、3作目となる稲川実希氏がグレーディングを担当した。

同作の制作について、渡邊氏と稲川氏に話を伺った。

城定監督とは数多くの作品でご一緒されていますが、「名無し」のルックに関して何かリクエストはありましたか?

渡邊氏:

監督はルックについてはあまり細かい指示はされないので、毎回ある程度自由にやらせてもらっていますが、本作に関しては「ギトギトした感じ」にしたいと言われました。それを自分なりに解釈し、この映画でしか感じられないような濁った感じを表現するため、アンバー系のフィルターがかかったようなルックを意識しました。

実際にフィルターを使って撮影されましたか?

渡邊氏:

テスト撮影の際にコーラルフィルターを使い、そのルックを稲川さんにDaVinci Resolveでエミュレートしてもらいました。それをLUTとして撮影時に使用し、グレーディングでも引き継いでいます。濃いフィルターを使用すると光量が半段ほど落ちてしまうため、ナイター撮影も考慮し、物理的なフィルターではなくLUTを採用しました。ただ、ゼロから色を作ると人工的になりすぎる懸念があったため、基準としてコーラルのルックを使用しています。

稲川氏:

コーラルフィルターありのカラーチャートとなしのカラーチャートを撮影してもらい、フィルターなしチャートをフィルターありの波形と同じになるようにアンバー(YELLOW+RED)を足して撮影用のViewLUTを作成しました。最終的なグレーディングでは、このLUTを微調整して作り直しましたが、基本的にはほぼこのままで使用してます。LUTを使うことで、暗いシーンでも光量不足にならない点に加え、グレーディング時に、ショットごとにLUTの効きを細かく調整できたこともメリットでした。

撮影時はカメラをどのように使い分けましたか?

渡邊氏:

メインカメラはURSA Cine 12K LFとPYXIS 12Kで、ジンバル撮影時にはBlackmagic Cinema Camera 6Kを使用しました。メインカメラについては、屋外では内蔵NDフィルターが便利なURSA Cine 12Kを、狭い室内ではコンパクトなPYXIS 12Kを使用するなど、シーンに応じて使い分けています。異なるカメラでもルックの差がなかった点も良かったですね。

レンズはどんなものを使用しましたか?

渡邊氏:

メインカメラにはキヤノンSumire Primeレンズ、Blackmagic Cinema Camera 6KにはキヤノンのFDマウントのオールドレンズを使用しました。Sumire Primeは開放付近で独特のボケが出るため、フルサイズセンサーと組み合わせることで印象的なルックを作ることができました。

URSA Cine 12KやPYXIS 12Kは今回初使用とのことですが、従来機との違いはありましたか?

渡邊氏:

どちらのカメラも、増感耐性が高いと感じました。ベース感度はISO 800ですが、ISO 1600や場合によってはISO 3200でも撮影しています。冬場は日照時間が短く、特にラストシーンは16時半には日没という状況でしたが、感度を上げても問題なく撮影できました。暗部の破綻が少ないのは非常に優秀だと思います。特にISO 1600のルックは好みでした。

稲川氏:

この作品は比較的暗いシーンが多いですが、そういったシーンでもきれいに撮れていて、ノイズリダクションもほとんど必要ありませんでした。

渡邊氏:

ローリングシャッターを全く意識せずに撮影できた点も良かったですね。この作品は激しいカメラワークが多かったんですが、あれだけの解像度とセンサーサイズでも画が歪まないのは本当にすごいです。歪みを気にしてカメラの動きを制限するストレスなく撮影することができました。

撮影で工夫した点はありますか?

渡邊氏:

光量が十分なシーンでも、あえて感度を上げて撮影した場面があります。感度を上げた分だけシャッタースピードを速くすることで、センサーへの光の入力を抑えつつ、後から増幅して明るさを補うことができます。これにより、通常より1ストップ分多くハイライト側の階調を確保できます。晴天下で人物に影がかかり、背景に直射日光が差しているようなラチチュードの広いシーンでは、ISO 1600で撮影することでハイライトのディテールを保持するようにしました。

解像度に関してはいかがでしたか?

渡邊氏:

12Kは映画としてはオーバースペック気味なので、8Kで撮影しました。実は8Kで撮影することもほとんどなく、撮影してみて情報量の密度が高いと感じました。高解像度で撮ることで、後からフレーミングを調整できるので、監督が現場で判断を下す際の心理的負担を軽くする側面があることも大きなメリットでした。

グレーディングに関してどのような点に気をつけましたか?また、印象に残っているシーンはありますか?

稲川氏:

各カット、同方向の色だけにまとまるように、カラフルになりすぎないように気をつけました。作品によっては、グレーディングの際に色を作り込んでいくこともありますが、今回は事前に作ったLUTがあり、現場でルックがしっかり作られていたので、それを活かすグレーディングを心がけました。特に気に入っているシーンは、遊園地のシーンです。冬の低い太陽光とアンバー系の色味が自然に表現されていて、すごくきれいです。

主演で原作者の佐藤二朗さんからは現場で指示がありましたか?

渡邊氏:

撮影後に二朗さんから、「芝居を見て撮っているのが感じられて、すごくやりやすかった」と言っていただき、カメラマン冥利に尽きます。カメラマンは、「透明な存在」であるべきだと思っています。俳優の芝居を邪魔せず、その世界を切り取ることが重要です。