データワークフローを軸に見るVGI CONNECT 2026

恵比寿の朋栄本社で開催された「FOR-A CONNECT 2026」に続き、同ビル内で同日に催された関連会社ビジュアル・グラフィックス(VGI)のオープン形式内覧会「VGI CONNECT 2026」を訪れた。本展もまた、最新トレンドを提示する場であり、会場には映像制作の現場を支える多種多様なソリューションが展示されていた。

今回の展示を通して印象的だったのは、多種多様なソリューションの中でも、「データワークフロー」に焦点を当てた提案である。高解像度化、高ビットレート化、リモート制作、クラウド共有が進む現在、撮影後の素材をいかに安全にコピーし、共有し、管理するかは、制作全体の効率と安全性を左右する重要なテーマになっている。

会場ではAutodesk「Flame」、LWKS「QScan」「Verify」、さくら映機の「ALBA e Medico」、MagStorのLTOドライブ、Wasabi Hot Cloud Storageなども展示されていたが、本稿では多数の展示の中から、ClouZenのメディアコピーツール「TAINER」「OFFLOADER 16X」、編集共有サーバーEditShare「EFS Storage」、そしてVGI独自開発のクラウドプラットフォーム「Mass」を中心に紹介する。

撮影現場を変えるメディアコピーという発想

まず注目したのが、ClouZenのメディアコピーツールである。撮影現場における素材バックアップは、地味でありながら極めて重要な作業だ。カードを複数枚扱う現場では、コピー漏れ、メディア不良、フォーマットミスなど、わずかな手順の乱れが大きなトラブルにつながる。ClouZenの製品群は、この工程をPCに頼らず、より確実に処理するためのツールとして提案されていた。

会場でデモされていた据え置き型のモデルは、SDカードやCFexpress、USB-C経由の外部メディアなどを同時に扱える構成で、外付けSSDやHDDへ直接コピーできる。PCを起動せず、現場でメディアを挿入して即座にコピーを開始できる点は大きな特徴である。大量の素材を扱う現場では、コピー作業中にPCを占有されること自体が負担になるため、専用機として独立して動作する意義は大きい。

特に実用性を感じたのが、SDカードのヘルスチェック機能である。単にデータを複製するだけでなく、カードのセクター状態を確認し、使用に注意が必要なメディアを赤や黄色で警告する。撮影素材を扱う上で、記録メディアの突然の不具合は避けたいリスクの一つだ。コピーと同時にカード自体の状態を確認できる仕組みは、現場の安全性を高めるうえで合理的である。

デモでは64GBのSDカードを使ってヘルスチェックを行っていた。操作はシンプルで、診断が完了すると電子音とともに結果が表示される。問題がなければ緑の表示で「使用可能」と示され、異常があれば色で警告される。現場で複数枚のカードを回しながら撮影する場合、カードの状態を可視化できることは、機材管理の面でも有効だ。

また、AC電源だけでなくVマウントバッテリーで駆動できる点も現場での運用を意識した設計である。電源の確保が難しい屋外ロケでも、チェック、コピー、フォーマット、再使用というサイクルを現場内で完結できる。素材のバックアップは撮影後の作業ではなく、撮影中のワークフローそのものに組み込まれるべき工程である。その考え方を具体化した製品といえる。

ポケットサイズのバックアップ装置「TAINER」

もう一つ来場者の関心を集めていたのが、ポータブルモデルの「TAINER」である。実機は非常にコンパクトで、ジャケットのポケットにも収まるサイズだ。内蔵バッテリーで駆動し、USB-C経由でモバイルバッテリーからの給電にも対応する。大型のコピー機を持ち込めないワンマン撮影や移動の多いロケでは、この機動力が大きな価値を持つ。

本体にはM.2 SSDを内蔵でき、SDカードやCFexpressのデータを直接バックアップできる。PCとUSB接続すれば外付けディスクとして認識されるため、撮影後の編集環境へもそのまま移行しやすい。上位機のように多枚数同時コピーを行う製品ではないが、単独撮影者や小規模チームにとっては、必要十分な機能を小さな筐体にまとめた実用的なツールである。

さらに重要なのが、ローカルバックアップに留まらない点だ。背面のUSB-Aポートを使えば外付けストレージを接続でき、内蔵SSDと外部ストレージの二重バックアップも行える。加えて本体にはLANポートを備えており、ネットワークに接続すればPCを介さずにクラウドへ直接アップロードできる。Google Drive、Microsoft OneDrive、Dropboxなど主要なクラウドサービスに対応する。

クラウド連携の設定も現場で使いやすい設計だった。本体画面に表示されるQRコードをスマートフォンで読み取り、スマートフォン側でDropboxなどの認証を行う。小さな液晶画面でIDやパスワードを入力する必要がないため、現場での導入障壁は低い。操作系も単押しで決定、長押しで戻るというシンプルな構成で、データの流れも画面上にルート表示される。

地方ロケの現場で撮影した素材を、その場でクラウドへアップロードし、東京の編集室がすぐに確認する。こうした運用がPCなしで実現できる点は、現在の制作環境に適している。物理メディアを安全に扱いながら、同時にクラウド共有へつなげる。TAINERは、撮影現場とポストプロダクションをつなぐ小型のハブとして機能する製品である。

EditShareは「速さ」よりも「止まらない」ことを重視する

次に確認したのが、編集共有サーバーEditShare「EFS Storage」である。会場には実機が設置され、担当者から運用面の特徴を聞くことができた。EditShareが興味深いのは、単に「最大何Mbps出る」という理論値ではなく、具体的なコーデックを基準にパフォーマンスを説明する点である。

例えば、XDCAM HD 50Mbpsならこの筐体で何本同時に扱えるのか、といった形で提示される。導入する側にとって重要なのは、最大速度の数字ではなく、自社の制作環境で実際に何本の編集ラインを安定して走らせられるかである。コーデックごとに性能を示す姿勢は、現場の運用感覚に近い。

さらに実用的なのが、帯域保証の機能である。編集室で避けたいのは、試写中に別ラインのコピー作業や編集作業が始まり、プレビューがカクついたり停止したりする事態だ。EditShareでは、管理者が特定の作業に必要なリソースをあらかじめ確保できる。たとえば全体のリソースを10とした場合、試写用に4を予約し、残りの6で他の作業を回すといった運用が可能になる。

これは単なる速度向上ではなく、制作現場における優先順位の管理である。どの作業を止めてはいけないのかを明確にし、そのための帯域を確保する。映像制作の共有ストレージに求められるのは、ピーク時の速さだけではなく、複数の作業が同時に走っても破綻しない安定性だ。EditShareはその点で、現場の不安を減らす設計になっている。

導入先については、放送局内の映像制作部署やポストプロダクションでの採用が多いという。ポスプロをはじめ、地方の基幹局、ケーブルテレビ局など、地域を問わず番組制作の現場で使われている。展示されていた「EFS 310」は売れ筋モデルとして紹介され、その下にはニアラインサーバーも構成されていた。

ニアラインサーバーは、メインサーバーのバックアップや容量拡張を担う存在である。パフォーマンスよりも容量を重視し、優先度の低い素材を退避させることで、メインの編集領域を効率的に使う。高解像度素材が増える現在、すべてのデータを高速領域に置き続けるのは現実的ではない。階層型のストレージ運用は、ポストプロダクションにとって重要な考え方になっている。

Massはクラウドを制作インフラへ変える

VGI独自開発のクラウドプラットフォーム「Mass」も、今回の内覧会で重点的に紹介されていた。Massは単なるオンラインストレージではなく、プロジェクト管理、権限管理、プレビュー、外部共有、マーカー、マウント機能などを備えた制作向けクラウドシステムである。

基本構造としては、契約したテナント内に複数のプロジェクトを作成し、ユーザーごとにアクセス権を設定する。ログインしたユーザーには、自分がアクセスできるプロジェクトだけが表示される。プロジェクト内にはワークスペースが設けられ、書き込みや編集などの権限を細かく制御できる。共同制作において必要なセキュリティと利便性を両立する仕組みだ。

各ワークスペースにはダッシュボードが用意され、ストレージ使用状況やユーザーごとの権限一覧を確認できる。外部共有機能も備えており、特定のフォルダーやファイルだけを共有したり、アップロード専用の窓口を作成したりできる。誰がいつアクセスし、どのファイルを変更したかも記録されるため、共同作業における透明性も確保される。

ワークスペースごとにノート機能がある点も実用的だ。チャット形式で編集指示や進行状況を書き込めるため、別の連絡ツールに情報が分散しにくい。素材、プレビュー、指示、履歴を一つの環境に集約できることは、ポストプロダクションにおける管理負担の軽減につながる。

アップロードされたビデオファイルは、自動的にサムネイル生成やメタデータの解析が行われる。さらに、FFmpegでプロキシが自動生成される。4K、6K、8Kといった重い素材でも、ブラウザ上では2Kサイズにリサイズして確認できる。デモ環境では回線が混雑していたが、プロキシを活用することで、場所を選ばず素材内容を確認できる環境が作られていた。

Massのプレーヤー機能も、制作向けに作り込まれている。再生は軽快で、最大10倍速の早送りと、最大10倍速の逆再生までの操作にも対応する。長尺素材のチェックでは、こうした操作性が作業効率に直結する。

特に有効だと感じたのが、オブジェクトマーカー機能である。映像内の特定箇所にマーカーを打ち、修正指示をチャット形式で書き込める。単なるビューワーではなく、クラウド上で検品とフィードバックを完結するためのツールとして設計されている。

そのほか、レターボックス表示、セーフティ表示、簡易的な色味調整、最大8チャンネルのオーディオメーターなども備える。オーディオのマッピングによるL/Rや、メタ情報の表示にも対応しており、ブラウザ上でありながらプロの確認作業に必要な要素が揃っている。

素材確認のためだけにファイルをダウンロードし、別のプレーヤーで開き、指示を別ツールで送る。従来の運用では、こうした細かな手間が積み重なる。Massはその工程を一つの画面に集約し、制作の速度を落とさずに確認と指示出しを行うための環境を提供する。

Massで反響が大きい機能として紹介されていたのが、ライブラリのマウント機能である。クラウド上の素材をPCにマウントし、ローカルファイルのように扱える。Avid Media ComposerやAdobe Premiere Proなど、特定の編集ソフトに限定されず利用できる点も特徴だ。

もちろん、クラウド上の重い映像素材をそのまま編集するには通信環境の制約がある。そこで機能するのが「VFSキャッシュ」の仕組みだ。特定の拡張子を指定し、あらかじめローカル環境へプリキャッシュすることで、クラウドの存在を意識させないレスポンスを実現する。キャッシュ先には内蔵ストレージや外付けディスクだけでなく、EditShareを指定するユーザーも増えているという。

この点は、今回紹介したEditShareとのつながりも見えてくる。クラウドとオンプレミスの共有サーバーを対立するものとして扱うのではなく、用途に応じて組み合わせる。撮影素材を現場で安全にコピーし、必要なデータをクラウドで共有し、編集室では共有ストレージやキャッシュを活用して作業する。Massは、そのハイブリッドな環境を前提としたプラットフォームである。

Massの外部共有機能も、現場目線で実用性が高い。共有したいファイルをコレクションに追加するだけで、チェック用のリンクを作成できる。共有先には指定したファイルだけが表示され、プレビューのみ許可するか、ダウンロードまで認めるかを選択できる。パスワード、有効期限、メールアドレス認証なども設定可能だ。

外部のディレクター、プロデューサー、フリーランスの編集者、CG外注先などと素材をやり取りする際、プロジェクト全体へ招待する必要はない。必要な素材だけを安全に見せ、必要な権限だけを与える。受け取った相手はブラウザ上でそのままプレーヤーを起動できるため、アカウント作成などの負担も少ない。

担当者によれば、Massはポストプロダクションでの導入が多く、CM制作、映画のVFX、テレビのバラエティ、特撮番組のアーカイブなど、用途は幅広い。特に外部共有機能については、月間のバイク便コストを削減できたという声もあるという。

これは重要な視点だ。クラウドサービスの月額費用だけを見ると導入に慎重になる場合もあるが、記録メディアの受け渡し、バイク便、管理工数、紛失リスクまで含めて考えると、クラウド共有の合理性は高まる。物理メディアの移動を減らし、必要な相手へ必要なデータだけを安全に届ける。Massは、単なる利便性ではなく、制作コストとリスクを見直すための仕組みでもある。

Massが興味深いのは、VGIが独自に開発している点である。担当者によれば、機能追加や改善は決まった大型アップデートだけでなく、ユーザーからの要望やバグ報告を受けて継続的に行われているという。

たとえば、マーカー機能に対して「この色が欲しい」といった具体的な要望があれば、それを開発へフィードバックできる。一社だけの特注機能として閉じるのではなく、有効な機能は利用者全体へ反映していく考え方だ。現場の声を拾い上げながら、サービス全体を底上げしていく姿勢が見える。

また、アーカイブ案件でプロキシだけを残したいといった個別運用についても相談できるという。機能を一方的に押し付けるのではなく、現場ごとのワークフローに合わせて使い方を組み立てられる余地がある。映像制作の現場は、会社ごと、案件ごとに運用が異なる。だからこそ、特定の方法に縛られない柔軟性は大きな価値になる。

安全にコピーし、安全に共有し、安全に管理する

VGI CONNECT 2026で見えてきたのは、映像制作におけるデータワークフローの重要性である。高性能なカメラや編集ソフトが注目される一方で、実際の制作現場を支えているのは、撮影素材を安全に扱うための地道なインフラだ。

ClouZenの「OFFLOADER 16X」や「TAINER」は、撮影現場でのコピーとバックアップを確実にする。EditShare「EFS Storage」は、編集室内で複数の作業を安定して走らせる共有基盤となる。VGI「Mass」は、クラウド上で素材管理、プレビュー、指示出し、外部共有、マウントを統合する。いずれも目指しているのは、制作を止めないための仕組みである。

今回の内覧会は、派手な新機能を競う場というより、現場の課題に対して具体的な解を提示する場だった。素材を安全にコピーし、安全に共有し、安全に管理する。この基本的なワークフローの精度が、今後の映像制作の効率と品質を大きく左右する。

VGI CONNECT 2026は、現在地を確認できる内覧会だった。クラウド、オンプレミス、ポータブルメディアコピー、共有ストレージはそれぞれ別の領域に見えるが、実際には一つの制作フローとしてつながり始めている。映像制作の競争力は、撮影や編集の技術だけではなく、それを支えるデータインフラによって決まる時代へ入っている。