ソニーは、Cinema Lineの新モデル「FX5」を発売する。新開発のフルサイズ積層型Exmor RS CMOSイメージセンサーと、AI処理機能を内蔵した画像処理エンジン「BIONZ XR2」を搭載。16bitのシーンリニアRAWフォーマット「X-OCN」のカメラ内記録に対応する、動画撮影専用モデルである。FX5は既存のFX3を置き換える後継機ではなく、FX3よりも上位に位置する新モデルとしてラインアップに加わる。主なターゲットは、FXシリーズを業務で運用する映像制作者や、αシリーズからCinema Lineへのステップアップを考えるクリエイターだ。

受注開始は2026年7月28日10時、発売日は同年8月21日を予定している。ラインアップは、新しいXLRハンドルユニットを同梱するモデルと、ボディ単体モデルの2種類。税込みの希望小売価格は、以下の通り。

  • ILME-FX5(XLR-H2同梱):900,900円
  • ILME-FX5B(XLR-H2非同梱):812,900円
  • OLEDビューファインダー DVF-EL1(別売):94,600円
  • タイムコードケーブル VMC-BNCU1(別売):12,600円
  • XLRハンドルユニット XLR-H2(別売):110,000円
FX5はFX3の後継機ではなく上位モデルとして新たに登場

価格だけを見ればFX6にも近く、決して導入のハードルが低いカメラではない。それでも、コンパクトな筐体にX-OCNのカメラ内記録、オープンゲート、高速撮影、AI被写体認識、強力な手ブレ補正を盛り込んだ構成を見ると、FX5が狙うポジションは明確だ。ここからは、実機で明らかになった特徴を詳しく紹介していく。

Cinema Lineは、上位モデルから小型モデルまで、映像のルックや操作性に一貫性を持たせていることを特徴とするシリーズだ。2020年12月に「FX6」、2021年3月に「FX3」、2022年10月にスーパー35mmセンサー搭載の「FX30」、2025年5月にフルサイズセンサー搭載の「FX2」が登場した。今回のFX5は、そのラインアップに新設されるフルサイズモデルである。FX3の後継機ではなく、FX3よりも上位に位置する新たなモデルとして展開される。

FX3は現在も映像制作の現場で広く使われている。FX5は、その小型ボディの利点を残しながら、より本格的な収録やポストプロダクションを求める制作者に向けた明確な上位モデルとして登場する。静止画撮影には対応せず、用途を動画撮影に絞った設計だ。写真と動画を1台でこなすハイブリッドカメラではなく、最初から映像制作の道具として作られている。

1/4-20 UNC ネジ穴、ビューファインダー端子(中央)、マルチファンクションダイヤル(右下)
1/4-20 UNC 三脚用ネジ穴
分類 項目 ILME-FX5
一般仕様 Model Code ILME-FX5
型式 レンズ交換式デジタルカメラ
レンズマウント Eマウント
撮像部 撮像素子 35mmフルサイズ(35.9×24.0mm)
Exmor RS CMOSセンサー
カメラ有効画素数 最大約1660万画素
総画素数 約1820万画素
光学ローパスフィルター
ラチチュード 15+ストップ(S-Log3動画撮影時、ソニー内部測定)
ホワイトバランス色温度設定範囲 2000K~15000K
アンチダスト機能
消費電力 液晶モニター使用時 動画撮影時:約7.4W
(FE 28-70mm F3.5-5.6 OSS II装着時)
質量 アクセサリー含む 約1046g
(ハンドル・電池・メモリーカード含む)
バッテリーとメモリーカードを含む 約734g
(電池・メモリーカード含む)
本体のみ 約643g
外形・寸法 外形寸法(幅×高さ×奥行) 約132.2×79.0×87.0mm
(グリップからモニターまで)
使用温度範囲 使用温度範囲 0~40℃
アクセサリー(同梱) 付属品 リチャージャブルバッテリーパック NP-SA100
バッテリーチャージャー BC-SAD1
ボディキャップ
アクセサリーシューキャップ
VF端子保護キャップ
XLRハンドルユニット
ハンドルシューキャップ
アクセサリーシューキット

※使用するレンズや撮影モード、設定によって有効画素数が変化する。
※バッテリーNP-SA100は1個のみ付属する。

進化の中心は16bit X-OCNのカメラ内記録

FX5の最大の特徴は、ソニー独自の圧縮RAWフォーマット「X-OCN」を、外部レコーダーを用いることなくカメラ内部に記録できる点にある。X-OCNとは、広大なラチチュードで捉えた情報を階調豊かな16bitシーンリニアデータとして記録するソニー独自の圧縮RAWフォーマットである。これにより、外部レコーダーを介さずに極めて高画質な収録を実現する。

これまでX-OCNは「VENICE」などの上位モデルを中心に採用されてきたが、FX5では新開発のフルサイズ積層型センサーから読み出した信号を、16bitシーンリニアデータとしてカメラ内に直接記録することが可能となった。

分類 項目 ILME-FX5
動画記録方式 圧縮形式 X-OCN
動画記録方式 XAVC HS:MPEG-H HEVC/H.265
XAVC S:MPEG-4 AVC/H.264
音声記録方式 LPCM 4ch(48kHz 24bit)、 PCM 4ch(48kHz 32bit float)×2
LPCM 4ch(96kHz 24bit)、 PCM 4ch(96kHz 32bit float)×2
動画機能 スロー&クイックモーション撮影(S&Q)
プロキシー記録
タイムコード/ユーザービット
RAW出力 ●(HDMI)
スロット SLOT A:SDXC(UHS-II対応)カード、 CFexpress Type Aカード用マルチスロット
SLOT B:SDXC(UHS-II対応)カード、 CFexpress Type Aカード用マルチスロット

X-OCNの「シーンリニア」とは、レンズから入ってくる光の量と、記録されるデータが直線的な関係になる記録方式である。一般的なLog収録では、限られた記録階調に広いダイナミックレンジを収めるため、ガンマカーブを使ってハイライト側の情報を圧縮する。一方、X-OCNでは入力された光をリニアな状態で保持するため、撮影後の露出やホワイトバランスをより柔軟に調整できる。16bitシーンリニアの情報量を活かしたグレーディング耐性の高さが大きな特徴だ。

X-OCNには、画質とファイルサイズの異なる複数の記録モードが用意される。FX5は「X-OCN LT」に加え、新開発の「X-OCN C1」と「X-OCN C2」に対応する。C1はXAVC-IやXAVC S-Iに近いビットレートを目指したモードで、X-OCN LTよりもファイルサイズを約25%抑えられる。C2はC1よりもさらに約20%ファイルサイズが小さく、16bitシーンリニアの利点を維持しながら、最大4K 240fpsの高フレームレート撮影にも対応する予定だ。長時間収録やデータ転送、ストレージ容量を考慮しながら、用途に応じて画質とデータ量のバランスを選択できる。

X-OCNのカメラ内記録にはCFexpress Type A VPG400メモリーカードが必要で、同規格のカードのみ動作保証される。

対応機種 X-OCN XT X-OCN ST X-OCN LT X-OCN C1 X-OCN C2
VENICE 2
BURANO
FX5

極端なグレーディングで見えた10bitと16bitの違い

XAVC-IのLog素材とX-OCN素材を用いたポストプロダクションにおける耐性の違いについて紹介しよう。通常の状態では両者の判別は困難だが、空のような滑らかなグラデーションに極端なコントラスト調整を加えることで、その差が明確となる。

具体的には、XAVC-I素材では空に波状のバンディング(階調の縞)が発生し、RGB波形上にも階調の不連続性が確認できる。これは10bitの記録階調に対し、ハイライト部を大幅に調整したことで階調の不足が顕在化した結果である。対して、同様の処理をX-OCN素材に施した場合、グラデーションは滑らかに維持され、波形に目立った縞も現れない。実制作においてこれほど極端な処理を行う機会は稀だが、空のキーイングやハイライトの大きな調整など、素材の階調量が最終的な仕上がりを左右する場面ではその恩恵は大きい。

詳細な部分を拡大比較すると、X-OCNの圧縮率の違いによる描写の差が確認できる。低圧縮の低いモードでは微細な構造物やランダムノイズの粒が独立した状態で保持されるが、高圧縮のモードでは細部がわずかに欠落し、ノイズの粒がブロック状にまとまって見える傾向にある。室内撮影における文字のエンボス模様などでも差異が生じ、強いシャープネス処理を施した際には、低圧縮モードの方が模様を均一に保持しやすい。

ただし、これらはあくまで差異を可視化するために極端な処理を施した例に過ぎない。通常のカラーグレーディングにおいてX-OCNの各モードの違いを見分けるのは困難であり、より決定的な差は10bitビデオコーデックと16bit X-OCNを比較した際に現れる。

ビデオコーデックを用いる場合、過度な調整による映像の破綻を回避しながらルックを構築しなければならないが、X-OCNは破綻が生じにくいため、表現そのものに注力することが可能である。これは、編集からグレーディングまでを一貫して行う制作者にとっても極めて大きな意義を持つ。

オープンゲートと多彩なイメージスキャンモード

FX5は、センサーの全面を読み出す3:2のオープンゲート撮影に対応する。

オープンゲートイメージ
※画像をクリックして拡大

発売時点ではX-OCN記録時に利用でき、XAVC S-Iでのオープンゲート記録は、2027年8月以降に予定しているソフトウェアアップデートVer.2.00で対応予定だ。オープンゲートで撮影しておけば、撮影後に16:9の横位置映像だけでなく、9:16の縦位置映像や正方形に近い映像を切り出しやすい。

1回の撮影素材を、映画や広告、YouTube、デジタルサイネージ、SNS用の縦動画など、複数のフォーマットへ展開する現在の制作環境では、センサー全面を利用できる価値は大きい。このほか、フルサイズの17:9、16:9、クロップ撮影、スーパー35mmの16:9など、複数のイメージスキャンモードを用意する。レンズや納品フォーマットに合わせて、撮像領域を柔軟に選べる構成となっている。

記録フォーマット イメージスキャンモード
FF 5K 3:2
(オープンゲート)
FF 5K 17:9 FF 5K 16:9 FFc 4.5K 17:9 FFc 4.5K 16:9 FFc 3.8K 16:9 S35 3.2K 16:9
X-OCN LT
X-OCN C1
X-OCN C2
XAVC HS-L422
XAVC HS-L420
XAVC S-I
XAVC S-L422
XAVC S-L420

FFc(フルフレームクロップ)とは、フルフレームセンサーの一部を切り取った領域を使用する方式を指す。

5K 120fps、4K 240fpsへアップデートで対応予定

高フレームレート撮影も、FX5の大きな特徴となる。発売時点では5Kで最大60fps、4Kで最大120fps、フルHDで最大240fpsの撮影に対応する。さらに、X-OCN記録時の5K最大120fpsおよび4K最大240fpsは、2027年8月以降に予定しているソフトウェアアップデートVer.2.00で対応予定だ。5K 120fpsはX-OCN C1およびC2、4K 240fpsはX-OCN C2で利用できる予定となっている。

高精細なスローモーション撮影と16bit RAWを組み合わせることで、スポーツ、アクション、ミュージックビデオ、自然映像など、動きの速い被写体を扱う制作で強力な選択肢となる。

ISO 800、4000、12800の3段階ベース感度

S-Log3撮影では、Cine EI、Cine EI Quick、Flexible ISOの3つの撮影モードを利用できる。Cine EIとFlexible ISOでは、基準ISO感度をISO 800、4000、12800の3段階から選択可能だ。Cine EI Quickでは、設定したEI値に基づいて最適な基準ISO感度が自動的に選択される。

なお、X-OCN記録を利用できるのはCine EIモードに限られる。

ワークフローに合わせて選べる3つのS-Log撮影モード(Cine EI、Cine EI Quick、Flexible ISO)
ベースISOの設定は800/4000/12800から選択可能。シャドウ部のノイズ低減、広いラチチュード、クリアな映像撮影を実現。15+ストップのラチチュードを誇る

これまで高感度側のベースISOを使用し、必要に応じて減感して撮影していた現場にとって、中間となるISO 4000の追加は実用的な進化だ。明るい屋外ではISO 800、室内や夕方ではISO 4000、非常に暗い環境ではISO 12800と、撮影条件に応じて基準となる感度を選びやすい。

3種類の基準ISO感度は、実機の選択画面にも明確に並ぶ。スペック表だけでは地味に見える変更だが、照明条件が頻繁に変わるドキュメンタリーやイベント収録では、現場の露出設計を改善する機能になる。ラチチュードは、S-Log3動画撮影時のソニー内部測定で15+ストップとしている。

S-Log3はS-Gamut3およびS-Gamut3.Cineのカラースペースに対応する。ユーザーLUTは最大16個までメモリーカードからカメラへ読み込むことができ、ポストプロダクション後の仕上がりを想定した表示を確認しながら撮影できる。読み込み可能なLUTは、17格子または33格子のCUBEファイル(.cube)となる。

分類 項目 ILME-FX5
露出制御 ISO感度 ISO 320~409600相当、AUTO
(ISO 320~409600相当、上限設定)

暗部ノイズを低減するデュアルゲイン撮影

FX5は、Cinema LineのFXシリーズとして初めてデュアルゲイン撮影に対応する。デュアルゲイン撮影では、ラチチュードを確保しながらノイズを低減し、シャドウ部のディテール向上を図る。暗い室内を撮影した比較映像では、機能を使用することで暗部の細かなノイズが抑えられ、被写体の輪郭や質感がより見やすくなる。

使用時にはいくつかの制約がある。ベースISOは800に固定され、Log撮影時のEI上限は3200、カスタムモード撮影時のISO上限は2500となる。最大フレームレートは、5K 3:2で30p、5K 16:9および17:9で60p。FHD、FFc 4.5K 17:9、FFc 4.5K 16:9、FFc 3.8K 16:9では使用できない。

AI処理による認識性能と安定性の向上

AFにはAI処理による被写体認識とファストハイブリッドAFを採用し、FX3から認識性能を向上させた。カメラの設定では、人物、動物/鳥、動物、鳥から認識対象を選択できる。最大759点の位相差測距点により広い範囲をカバーし、暗いシーンや浅い被写界深度でも被写体を追従する。

厳しい条件で認識と追従を維持できることは、照明を自由に設置できないドキュメンタリーやイベント、ワンマン撮影で安心材料になる。

映画制作ではマニュアルフォーカスが重視される場面も多い。一方で、少人数の現場やジンバル撮影では、信頼できるAFが撮影の成立そのものを支える。FX5はCinema Lineの上位機能を取り込みながら、FX3やαシリーズで評価されてきたAFの利便性も強化している。

分類 項目 ILME-FX5
フォーカス 検出方式 ファストハイブリッドAF(位相差検出方式/コントラスト検出方式)
測距点数 最大759点(位相差検出方式)
被写体認識(動画時) 人物、動物/鳥、動物、鳥
その他の機能 AF乗り移り感度(動画)
AFトランジション速度(動画)
フォーカスマップ(動画)
AF時の被写体認識
タッチフォーカス
タッチトラッキング
マルチアングルモニター
カメラマイク機能
ピント拡大

手ブレ補正もFX3から強化された。ロール方向の補正範囲はFX3比で最大約2倍となる。比較映像では、歩きながらの撮影で生じる画面の傾きや回転方向の揺れが明確に抑えられている。電子補正を組み合わせるダイナミックアクティブモードにも対応し、画角はクロップされるものの、より安定した手持ち映像を撮影できる。

ダイナミックアクティブモードは最大60fps、アクティブモードは最大120fpsまで利用できる。ダイナミックアクティブ設定時は超解像ズームを使用できない。

コンパクトなCinema Lineカメラは、リグを組んだ撮影だけでなく、手持ちやジンバル、狭い場所での撮影にも使われる。補正性能の強化は、FX5の小型ボディを生かすうえで重要な進化である。

分類 項目 ILME-FX5
手ブレ補正機能 方式 イメージセンサーシフト方式5軸補正
(補正方式はレンズ仕様による)
モード 動画:ダイナミックアクティブ/アクティブ/スタンダード/切

光学ズームと超解像ズームを滑らかにつなぐ

実用性の高い機能のひとつが、超解像ズームの新しい「スムーズ優先」モードだ。

「スムーズ優先」モードはズームリングの操作により、光学ズームとデジタルズームを組み合わせたズーム全域での運用が可能。光学ズームと超解像ズームの切り替わりは極めて自然であり、その境目を感じさせない滑らかな操作感を実現している

従来の光学優先設定とスムーズ優先設定を比較すると、光学優先ではズーム領域の境界でわずかな画角変化や停止が発生する。一方、スムーズ優先では、光学域から超解像域まで連続的に倍率が変化し、広角側へ戻す際も自然だ。実機のメニューでは、「光学優先」と「スムーズ優先」を切り替えられる。

ズーム操作そのものを映像表現として使う場面では、途中で不自然な動きが発生しないことが重要になる。電動ズームレンズと組み合わせたライブ収録やドキュメンタリー、イベント撮影などで効果を発揮する機能だ。

なお、記録フレームレートが60fpsを超える場合、超解像ズームは使用できない。また、スムーズ優先は単焦点レンズおよび一部のズームレンズでは使用できない。

FX3からわずか19g増に抑えた小型ボディ

多くの機能を追加しながら、本体サイズはFX3から大きく変わっていない。

FX3 約715g
FX5 約734g

※バッテリーとメモリーカードを含む。

幅と奥行きの増加は約2.5mm、高さの増加は約1.2mm。バッテリーとメモリーカードを含む質量は、FX3の約715gに対してFX5が約734gで、増加はわずか19gに抑えられている。実際に手に取ると、FXシリーズらしい箱型の小型ボディという印象はそのままだ。グリップ部分には適度な厚みがあり、レンズを装着した状態でも安定して保持しやすい。

底面には三脚用のネジ穴を2つ設けている。ケージやプレート、リグを組み合わせる際にも、固定方法を選びやすい構造だ。FX6のようなショルダー運用を前提とするカメラとは異なり、小型ジンバルやドローン、車載、狭いセット内など、カメラサイズが撮影方法を左右する現場で優位性を発揮する。

3.5型・16:9の4軸マルチアングル液晶

モニターには、3.5型、16:9の4軸マルチアングル液晶を採用する。

操作性と信頼性に優れた3.5型・16:9の4軸マルチアングル液晶モニター。約276万ドットの高精細なタッチパネルを採用。可動域については、上方向に約98°、下方向に約40°のチルトが可能。さらに横方向へ約180°開くことができ、その状態から最大270°まで回転する機構を備えている

写真と動画の両方を想定した3:2のモニターではなく、映像表示に適した16:9パネルを採用していることが特徴だ。画面が大きく、映像と撮影情報を確認しやすい。4軸機構により、カメラの横方向へモニターを開くだけでなく、光軸に近い位置を保ちながら角度を変更できる。ローアングルやハイアングル、リグ装着時など、撮影スタイルに合わせて表示位置を調整しやすい。

4軸機構により可動範囲が広く、単純なバリアングル式よりもケーブルや周辺機器との干渉を避けやすい。映像撮影用の外部モニターを追加しない小型構成でも扱いやすい設計となっている。

フォルスカラー、波形、ベクトルスコープに対応

表示機能も、本格的な映像制作を意識した内容へ強化されている。従来のヒストグラムやピーキングに加え、フォルスカラー、波形モニター、ベクトルスコープ、フォーカスマップなどに対応する。

露出を色分けして確認できるフォルスカラー、輝度分布を確認できる波形モニター、色相や彩度を確認できるベクトルスコープは、撮影現場で映像を技術的に判断するうえで役立つ。外部モニターに頼らず、本体だけでも撮影状態を細かく確認できる方向へ進化した。アナモフィックレンズ使用時のデスクイーズ表示は、1.3倍、1.5倍、1.6倍、1.8倍、2.0倍の5種類に対応する。

アナモフィック撮影用のデスクイーズ表示機能を搭載。対応する倍率は、1.3倍、1.5倍、1.6倍、1.8倍、2.0倍の5種類である

映像へ情報を重ねない「OSDブラック」

視認性の向上に大きく貢献する新機能が「OSDブラック」だ。

通常の表示では、ISOやシャッター、ホワイトバランスなどの撮影情報が映像の上に重なる。OSDブラックでは、映像の周囲に黒い表示領域を設け、その部分へ撮影情報を配置する。映像の上に文字が重ならないため、画面の端を含めて構図を確認しやすい。

小さな画面の中で、構図と大量の撮影情報を同時に確認しなければならない映像撮影では、情報表示そのものが被写体を隠すことがある。OSDブラックは派手な機能ではないが、実際の撮影では合理性の高い表示方式だ。

VENICEやFX6へつながる新しいメニュー体系

操作系では、メニューシステムが大きく変更された。

フルメニュー画面

従来のFX3は、αシリーズに近いメニュー構成を採用していた。FX5では、VENICE、BURANO、FX6など、上位Cinema Lineに近いメニュー体系へ切り替わっている。ユーザーメニュー、ユーザーファンクション、ステータス表示などが、業務用Cinema Lineに近い形で整理された。

メニューボタンを長押しすると、新しいメニューへ移行する。FX3やαシリーズを使い慣れている人は、導入直後に戸惑う可能性がある。一方、将来FX6やBURANO、VENICEを含むマルチカメラ環境へ移行する場合、操作思想が統一されていることは大きな意味を持つ。FX5単体での分かりやすさだけを優先するのではなく、Cinema Line全体のワークフローへ接続することを重視した変更といえる。

BIG6(ホーム画面)

約707万ドットの着脱式ビューファインダー

FX5では、専用端子に接続する着脱式ビューファインダーを使用できる。

屋外でのモニタリングを容易にする別売のOLEDビューファインダー「DVF-EL1」。0.58型のOLEDパネルを採用し、約707万ドットの高精細な表示を実現。DCI-P3相当の色域と10bitの階調表現を備え、HDR表示にも対応している

ビューファインダーは別売で、希望小売価格は税込94,600円。0.58型のOLEDパネルを採用し、解像度は約707万ドット、倍率は約0.90倍となる。DCI-P3相当の色域、10bit階調、HDR表示に対応し、映像制作向けの高解像度ファインダーとして設計されている。チルト角度は0°から90°まで調整できる。

装着位置はカメラ中央に近く、光軸に近い位置から覗ける。明るい屋外や、カメラを体へ寄せて安定させたい手持ち撮影では、液晶モニターとは異なる撮影スタイルを選べる。DVF-EL1はFX5の専用ビューファインダー端子へ接続する。なお、OLEDビューファインダーとマルチインターフェースシューは同時に使用できない。小型ボディを維持しながら用途に応じてシステムを拡張するという、FXシリーズらしい考え方だ。

倍率は約0.90倍。0°から90°の範囲でチルト調整が可能となっている

96kHz/32bit floatに対応する新XLRハンドル

新しいXLRハンドルユニットも同時に発売される。希望小売価格は税込110,000円。

XLRハンドルユニット「XLR-H2」により、96kHz/32bit floatでの音声収録に対応している

新ハンドルとの組み合わせでは、96kHz/32bit floatによるカメラ内音声記録に対応する。32bit float収録では、録音レベルが想定以上に大きくなった場合や小さかった場合でも、後処理で音量を調整しやすい。インタビューやドキュメンタリー、イベントなど、事前に音量変化を予測しにくい現場で安心感が高まる。

ただし、ネジ穴の位置が異なるため、従来モデル用のXLRハンドルユニット「XLR-H1」をFX5へ取り付けることはできない。すでにXLR-H1や対応リグを所有しているユーザーは、導入時に周辺機器をそのまま流用できない可能性があるため、注意が必要だ。

高品質な音声収録を可能にするXLRマイクの使用に加え、96kHz/32bit float形式に対応。録音における優れた安定性を支える

タイムコード、通信機能、ネットワークストリーミングに対応

接続面では、全長約200mmの新しいタイムコードケーブル「VMC-BNCU1」が用意される。希望小売価格は税込12,600円。BNCケーブルを介してFX6などのタイムコード出力をFX5のUSB Type-C端子へ入力でき、接続するだけで複数台収録や映像と音声を別々に記録する際の同期を行える。また、有線によるリモート操作用の新しい端子も搭載。電波が混雑するスタジオやイベント会場でも、安定した接続でカメラを操作できる。

無線通信は、IEEE 802.11a/b/g/n/ac/axに準拠し、2.4GHz帯、5GHz帯、6GHz帯に対応する。有線LAN、USBテザリング、Wi-Fiを利用した FTP転送に加え、RTMP、RTMPS、SRTによるネットワークストリーミングにも対応。本体サイズは小さいが、単独で使う小型カメラというより、タイムコード、音声、ビューファインダー、ネットワーク、リモート操作を組み合わせた業務用システムの中核として拡張できる。

HDMI端子やLAN端子を装備
分類 項目 ILME-FX5
インターフェース PCインターフェース マスストレージ
マルチ/マイクロUSB端子
USB Type-C端子 ●(2端子)
PORT1:SuperSpeed USB 10Gbps(USB 3.2 Gen2)に準拠
PORT2:Hi-Speed USB 480Mbps(USB 2.0)に準拠
ワイヤレスLAN対応(内蔵) ●(Wi-Fi準拠)
802.11a/b/g/n/ac/ax(2.4GHz帯/5GHz帯/6GHz帯)
Bluetooth ●(Bluetooth 標準規格 Ver.5.3)
2.4GHz帯
HDMI端子 ●(HDMI Aタイプ)
マルチインターフェースシュー ●(デジタルオーディオインターフェース対応)
マイク端子 ●(3.5mmステレオミニジャック)
XLR音声入力端子 ●(3ピン(凹)×2)
ヘッドホン端子 ●(3.5mmステレオミニジャック)
LAN端子 ●(2.5GBASE-T、1000BASE-T、100BASE-TX)
機能 FTP転送(有線LAN、USBテザリング、Wi-Fi)
ビューファインダー端子 ●(DVF-EL1用専用端子)
ネットワークストリーミング 映像データフォーマット MPEG-4 AVC/H.264
MPEG-H HEVC/H.265
映像解像度 3840 × 2160
1920 × 1080
1280 × 720
音声データフォーマット AAC-LC 2ch(16bit 48kHz)
プロトコル RTMP
RTMPS
SRT

大容量化された新バッテリー

バッテリーも新しい大容量タイプへ変更される。

容量が約30%増加した大容量バッテリー「NP-SA100」を採用。これにより、FX3と比較して長時間の撮影が可能となった。また、専用バッテリーチャージャーとして「BC-SAD1」が用意される

ソニーによれば、新バッテリーNP-SA100は、FX3で使用するバッテリーと比べて容量が約30%増加し、撮影可能時間と現場での運用性能が改善されている。高解像度RAW収録や高フレームレート撮影、AI処理、無線通信など、処理負荷の高い機能を備えるカメラでは、バッテリー性能が実際の運用を大きく左右する。小型ボディのまま撮影時間を確保できれば、外部電源や大型リグを使用せずに運用しやすい。

本体内充電とUSB給電はいずれもUSB Type-C端子から利用でき、USB Power Deliveryに対応する。

FX3 FX5
容量 7.2V / 16.4Wh
(2280mAh)
7.82V / 20.9Wh
(2670mAh)
実動画撮影時間
(CIPA規格準拠)
約105分
連続録画時間
(CIPA規格準拠、
5K 23.98p)
135分 約170分

CFexpress Type Aメモリカードスロットを2基搭載している。高速かつ信頼性に優れたCFexpressカードに加え、SDXC(UHS-II/UHS-I)カードにも対応する。

CFexpress Type Aデュアルスロット
分類 項目 ILME-FX5
電源 使用電池 リチャージャブルバッテリーパック NP-SA100
実動画撮影時間※ 液晶モニター使用時:約105分
(CIPA規格準拠)
連続動画撮影時間 液晶モニター使用時:約170分
(CIPA規格準拠)
本体内充電 ●(USB Type-C端子で可、USB Power Delivery対応)※
USB給電 ●(USB Type-C端子で可、USB Power Delivery対応)

※CIPA規格準拠。
※USB PD 27W以上対応のUSBケーブルおよび外部電源を用意すること。

上位機種との連携とX-OCNワークフローの統合

FX5とFX6は価格帯が近く、導入時にはどちらを選ぶべきか迷う可能性がある。FX6は内蔵電子可変NDフィルターやSDI端子を備えており、カメラ単体で収録システムを完結させたい現場に強みがある。電子可変NDは、絞りやシャッター、ISOを維持したまま露出を連続的に調整できる。屋外でのドキュメンタリーやライブ撮影では、FX6を選ぶ明確な理由になる。

一方、FX5の強みは、FX3に近い小型ボディを維持しながら、16bit X-OCNをカメラ内記録できることだ。X-OCNを必要とする映画、広告、ミュージックビデオ、ドキュメンタリー制作で、カメラをできるだけ小さくまとめたい場合は、FX5が有力な選択肢となる。FX6が内蔵NDや端子を含めた現場運用の完成度を重視するのに対し、FX5は小型ボディとRAW収録、強力なポストプロダクション性能を重視する。上下関係だけで選ぶのではなく、撮影現場で必要な機能に応じて使い分けるモデルである。

X-OCNのカメラ内記録への対応は、単体での画質向上だけでなく、上位Cinema Lineとのマルチカメラ運用にも意味を持つ。VENICEやBURANOでX-OCNを収録し、狭い場所やジンバル、車載、ドローン撮影などにFX5を使用すれば、ポストプロダクションで素材を統一して扱いやすい。

もちろん、センサーやカメラの構造、オペレーションが異なるため、すべてが同じ映像になるわけではない。それでも、同じCinema Lineのルック、16bitシーンリニアのワークフロー、近いメニュー思想を共有できることは、サブカメラとして大きな利点になる。大規模制作だけでなく、少人数の制作チームが将来的にカメラ台数を増やす場合にも、システムを拡張しやすい。

FX5では、以下の機能を2027年8月以降に予定しているソフトウェアアップデートVer.2.00で追加対応する予定だ。主な内容は、X-OCN C1およびC2を使用した最大5K 120fps撮影、X-OCN C2を使用した最大4K 240fps撮影、XAVC S-Iでのオープンゲート記録、縦位置撮影時の情報表示の最適化、動画から静止画を切り出すフレームグラブ機能などだ。

特に5K 120fps、4K 240fps、XAVC S-Iのオープンゲート記録は、FX5の用途を大きく広げる機能になる。一方、発売時点で利用できる機能と、アップデート後に利用できる機能が混在している。導入時には、自分が必要とする収録方式がいつ利用可能になるのかを確認しておく必要がある。

対応予定の機能(2027年8月以降に予定しているソフトウェアアップデートVer.2.00)

  • X-OCNでの最大5K 120fps/4K 240fpsのHFR撮影
  • イメージセンサー全読み出しによる3:2アスペクト比(オープンゲート撮影)でのXAVC S-I記録
  • 縦位置撮影向けに最適化されたユーザーインターフェース(縦レイアウトの撮影情報表示)
  • フレームグラブ機能(映像からの静止画切り出し)

※機能および仕様は、予告なく変更となる場合がある。

小型Cinema Lineカメラの役割を変える1台

FX5は、単にFX3を高性能化したカメラではない。ボディサイズはFX3に近い。しかし、内部にはX-OCN、オープンゲート、3段階のベースISO、AI被写体認識、上位Cinema Lineに近いメニュー、高度な映像モニタリング機能など、これまで大型の業務用カメラで扱われてきた要素が組み込まれている。なかでも大きいのは、16bitシーンリニアRAWを外部レコーダーなしで記録できることだ。

RAW収録は高画質である一方、機材の大型化やファイル容量の増加、ストレージコストなど現実的な課題も抱えている。FX5は、XAVC-Iに近い容量を目指した軽量X-OCNモードを用意することで、そのハードルを下げようとしている。

FX5は、FX3でもFX6でもない。VENICEやBURANOほど大型でもない。その中間を担う存在として、小型ボディと16bitシーンリニアRAWワークフローを両立した新しいCinema Lineである。撮影だけでなく、その先のグレーディングや仕上げまで見据えた映像制作に応える1台として、多くのクリエイターから注目を集めそうだ。