シグマは2026年10月23日、大口径標準レンズ「Sigma 50mm F1.4 CL DG | Contemporary」の開発と、フルサイズミラーレスカメラ「Sigma FP2」を発表した。レンズは2027年春、カメラは2026年11月11日の発売を予定している。
今回の新製品発表会で印象に残ったのは、性能向上だけでは語りきれない、写真とカメラに対するシグマの考え方だ。高解像度を追求する一方で、かつてのフィルム写真を思わせる柔らかな描写を求める声にも応えようとする。その発想が、1本のレンズと1台のカメラに異なる形で表れていた。
シグマの山木和人社長は、デジタルカメラの進化を振り返り、解像感やコントラストの向上が必ずしもすべての表現に適しているわけではないと語った。発表会では、同社の拠点がある福島県会津地方で始めた米づくりも紹介された。地域との関係を大切にする取り組みを聞くと、製品の性能だけでなく、作り手がどのような価値を残したいのかにも関心が向く。
収差を消し切らない選択。新たな50mm F1.4が目指す柔らかな描写
まず紹介されたのが「Sigma 50mm F1.4 CL DG | Contemporary」だ。金属外装を特徴とするContemporaryラインのI seriesに属し、新たな「CL」の系譜を担うレンズとなる。
シグマのArtラインのレンズは、高い解像力を実現するため収差を徹底して補正する方向で設計されてきた。これに対して今回の50mm F1.4は、収差をすべて消すのではなく、柔らかな質感を生み出す要素として意図的にコントロールする。ピント面から微妙なボケ、さらに大きなボケへと、描写が自然につながることを重視した設計である。
光学系は古典的なダブルガウスタイプを基礎とする6群9枚構成。そこにFLDガラス1枚と非球面レンズ3枚を組み合わせる。山木社長は、柔らかな描写に寄与する収差を残す一方、望ましくないゴーストなどは抑えたと説明した。古いレンズの描写をそのまま再現するのではなく、現代の設計技術で質感を組み立て直した点が面白い。
会場の作例を見ても、単にシャープネスを弱めたレンズを目指しているわけではないことが伝わる。人物の顔にピントを合わせたとき、そこから手前や奥へと続く描写がどう変わるのか。解像度の数値では表しにくい部分に、このレンズの狙いがある。
外観にも独自性がある。F1.4の大口径ながら重量は約375gで、既存の「Sigma 50mm F1.4 DG DN | Art」とは異なる小型の鏡筒に収めた。金属外装、被写界深度目盛り、14枚の絞り羽根、ねじ込み式の金属製フードを採用し、Lマウント用にはシルバーモデルも用意する。
シルバーモデルをSigma BFに組み合わせた姿も印象に残った。山木社長自身、この組み合わせを実現したかったと語る。レンズの性能だけでなく、装着したときの佇まいまで設計の対象になっていることがうかがえた。
フォーカス駆動には、新開発のRDD(Rotary Direct Drive)モーターを採用する。レンズ全体を移動させる全群繰り出し方式に対応し、小さな鏡筒の中で必要な駆動力を確保する仕組みだ。最速のAF性能を追うよりも、光学設計と描写の意図を優先したという説明が、このレンズの個性をよく表している。
現代的な性能を備えながら、描写の「整いすぎ」を避ける。その発想は、レンズを数値だけで選ぶのとは違う楽しみ方を示していた。
見た目は変えず、中身を刷新。Sigma FP2が広げる撮影の自由度
続いて発表されたのが、2019年登場のSigma fpの思想を受け継ぐ「Sigma FP2」だ。小さな箱のようなボディ形状は健在で、発表会で見た第一印象も従来機に近い。ところが、その内部は大きく進化している。
有効約2450万画素の35mmフルサイズ部分積層型CMOSセンサーを搭載し、読み出し速度を向上。従来機の課題だったローリングシャッター歪みの軽減を図った。AFは像面位相差検出とコントラスト検出を組み合わせたハイブリッド方式となり、顔や瞳に加え、犬、猫、鳥の検出にも対応する。最高約20コマ/秒の連続撮影も可能だ。
日常的な撮影で効果が大きそうなのは、背面モニターのチルト対応だ。固定式だった初代fpに対し、FP2ではローアングルやハイアングルから構図を確認しやすくなった。約70GBの内蔵ストレージと容量を増やした新型バッテリーも搭載。山木社長によると、撮影可能枚数は初代fpから約30%増えている。
チルト機構や大容量バッテリーを追加しながら、ボディの大きさを従来機とほぼ同等に保った点も興味深い。機能が増えるほど大型化しがちなカメラで、fpらしい小ささを守るという方針が貫かれている。
映像制作を意識した変更も多い。USB-C端子を2基、フルサイズのHDMI Type A端子を備え、タリーランプも追加した。6Kオープンゲート記録やL-Logに対応し、外部SSDを使用したProRes RAW記録にも対応する。32bitフロート録音は、別売のホットシューユニットなど所定の対応アクセサリーを組み合わせることで利用できる。
山木社長は、動画のハイライト側の階調表現を重視した設計についても説明した。アナモフィック撮影時のデスクイーズ表示や対応レンズのフォーカスブリージング補正なども備え、コンパクトなボディを映像制作の現場へ持ち込める構成となっている。
カラーモードにはSigma BFから受け継ぐ「リッチ」「カーム」「709ルック」などを用意。発表会では、リッチの開発時に1980〜1990年代の映画の色表現を参考にしたことも語られた。単に記録性能を向上させるだけでなく、撮影時の色づくりにも選択肢を広げている。
さらに、新設計の外付けEVFやLCDビューファインダー、ホットシューユニットを用意する。SmallRigと協業した専用ケージも展開。最小限の構成で持ち歩くことも、必要な機材を追加して映像制作向けのシステムを組むこともできる。
完成形は撮影者が決める。2つの新製品に通じるブリコラージュの思想
発表会の後半で、山木社長は「ブリコラージュ」という言葉を紹介した。フランスの文化人類学者クロード・レヴィ=ストロースが論じた、手元にある道具や素材を組み合わせ、試行錯誤しながら新しいものを作るという考え方だ。
山木社長は、さまざまなレンズやアクセサリーをfpに組み合わせるユーザーの姿に、この考え方を重ねた。初代fpが掲げた「Pocketable」「Scalable」「Seamless」の3つのコンセプトは、FP2でも変わらない。カメラの用途をメーカーがひとつに決めるのではなく、撮影者自身が使い方を作っていく。
ここで振り返ると、新レンズとFP2には共通する方向性が見えてくる。50mm F1.4 CL DGは、現代的なシャープネスとは異なる描写の選択肢を加えた。FP2は、小型ボディの個性を守りながら、撮影者が構成を変えられる余地を広げた。どちらも、写真や映像の表現をひとつの完成形に閉じ込めない製品である。
柔らかな描写のために収差を残すことも、小さなボディにアクセサリーを組み合わせることも、最後は撮影者が何を撮りたいかに帰着する。会津の米づくりから始まった発表会の話題は、一見遠回りのようで、作り手と使い手の関係を考えるきっかけになった。新たな50mm F1.4とFP2は、性能の向上に加え、撮る行為そのものをどう楽しむかという問いを投げかけている。