ソニーは2026年10月27日、空間コンテンツ制作を支援する「XYN(ジン)」の空間キャプチャーソリューションのアップデートを発表した。背景に加えて小道具から自動車までのオブジェクトを3DCGアセット化できるようにし、撮影支援、生成品質、リアルタイム表示の機能を拡充する。新料金プランとオンライン決済の導入により、個人のプロクリエイターや小規模な制作チームにも利用対象を広げる。

同ソリューションは2026年4月14日に発表され、日本では4月18日から法人向けに提供を開始した。今回の10月のアップデートでは、日本・米国での提供を拡大。映画・映像制作やゲームのVFX、デジタルツイン、展示会のデジタル体験、製品デザインなどへの活用を想定する。

XYNは、空間キャプチャー関連の「XYN Spatial Scan Navi」「XYN Spatial Scan」「XYN Spatial Renderer Plugin」に加え、モーション制作向けの「XYN Motion Studio」などを含むソリューション群だ。関連するハードウェアとして空間再現ディスプレイ、mocopi、XRヘッドマウントディスプレイなども紹介されている。

XYNのソリューション構成。空間キャプチャーを支える3つのソフトウェアに、XYN Motion Studioや関連ハードウェアが加わる。
2026年10月のアップデート概要。オブジェクトの3DCG生成、撮影支援、描画機能、料金・決済体系の4項目を拡充する。

背景だけでなくオブジェクトも3DCGアセット化

空間キャプチャーの制作フローは「撮影」「生成」「表示」の3段階で構成される。撮影には、対応するiPhoneとソニーのαシリーズを組み合わせた「XYN Spatial Scan Navi」を利用できるほか、任意のカメラで撮影した画像を直接取り込むことも可能だ。画像はクラウドアプリケーション「XYN Spatial Scan」で処理し、生成したデータを「XYN Spatial Renderer Plugin」や対応する3DGSビューアーで表示する。

XYNの空間キャプチャー制作フロー。撮影したJPEG・HEIF画像などをクラウド上で3DCG化し、PLY形式のデータを対応環境で表示する。

XYN Spatial Scanでは、プロジェクトを作成してJPEGやHEIF形式などの画像をアップロードし、生成方法と品質を選択する。撮影画像は最大500枚まで取り込めるとされるが、利用条件や生成方法によって上限は異なる場合がある。画面には「Splat」と「Mesh」の選択肢が用意され、3D Gaussian Splatting(3DGS)方式の生成データはPLY形式でダウンロードできる。生成処理はクラウド上で行われ、完了したモデルはブラウザーでプレビューできる。

今回追加されたオブジェクト生成では、点群を参考にバウンディングボックスを配置し、生成する範囲を指定する。例えばバイクの周囲を撮影したデータから車体を囲めば、不要な背景を含めず、指定したオブジェクトを中心にアセット化できる。さらに、画像ごとに除外領域を指定する「背景マスクの利用(ベータ版)」も備える。バウンディングボックスが空間上の範囲を定めるのに対し、背景マスクは入力画像内の不要な領域を指定する機能だ。

生成例には、バイクのほか、幾何学的な木製オブジェクト、鳥の剥製、鉢植え、椅子などがある。背景アセットに限らず、映像・ゲーム制作で使用する小道具や製品の3DCG素材にも活用できる。なお、生成結果は撮影条件や指定範囲によって異なる。

XYN Venusアルゴリズムによるオブジェクトの生成例。木製の幾何学模様、鳥の剥製、鉢植え、椅子など、形状や質感の異なる被写体を3DCG化している。

XYN Venusアルゴリズムを強化。用途別に4段階の生成品質

3DCGアセットの生成には、ソニー独自の「XYN Venusアルゴリズム」を使用する。複数の写真から反射や光沢、複雑な形状、遠景の空気感を再構成し、手すりのような細い構造物やガラスを含む被写体の再現性を高めるという。また、撮影時の明るさのばらつきなどによって生じる「フローターノイズ」や色むらの抑制も図る。

「XYN Venusアルゴリズム」の主な特徴。高解像度の生成、光沢・透明感を含む質感の再現、撮影条件のばらつきへの対応を掲げる。

生成画面の「Venus Custom」では、最終的な表示環境に合わせてベーシック、エンハンスド、アドバンス、エクストリームの4段階から品質を選択できる。主な用途は以下の通り。

4段階の生成品質と想定する表示サイズ。32インチのモニターから300インチ超のLEDウォールまで、用途に応じたプリセットを用意する。
品質プリセット想定する表示環境主な用途
ベーシック品質32インチクラスのモニタープレビュー、製品評価
エンハンスド品質65インチクラスのディスプレイショーケース、顧客プレゼンテーション
アドバンス品質300インチ超のLEDウォールバーチャルプロダクション、放送
エクストリーム品質300インチ超のLEDウォール、HDR表示映画制作、プレミアムなバーチャルプロダクション

例えば、編集途中のプレビューにはベーシック品質、大型LEDウォールで使用する背景にはアドバンス品質やエクストリーム品質といった使い分けが想定される。生成時には品質に加え、生成範囲、背景マスク、カラープロファイルなどの条件も設定できる。ただし、品質プリセットは生成条件の選択肢であり、特定の表示機器での結果を保証するものではない。

画質面では、従来の処理で形状が不鮮明になりやすかった遠景の建物や細い手すりなどを、より破綻の少ない形で再現することを目指す。

遠景の建物や手すりなどの再現比較。右側がXYNによる生成例で、細い線や遠方の建物の輪郭の改善を示している。

ガラス越しの背景や反射の表現、撮影条件の違いによるフローターノイズや色むらも改善対象だ。ただし、これらはソニーが提示した比較例であり、生成品質は入力画像の画質、枚数、撮影条件などによって変化する。

Naviに「オブジェクト:アシストモード」を追加

撮影を担当する「XYN Spatial Scan Navi」は、対応するαシリーズとiPhoneを接続し、ARナビゲーションで必要な撮影位置や角度を示すスマートフォンアプリケーションだ。俯瞰ビューや撮影範囲のヒートマップで撮影状況を可視化し、撮り漏らしを抑える。対応カメラの撮影設定やシャッター操作、撮影メタデータの記録にも対応する。

左はiPhone上のXYN Spatial Scan Naviによる撮影支援、右は撮影データを使った3DCG生成の作業イメージ。撮影から生成までを連携させる。

新たな「オブジェクト:アシストモード」では、被写体の大きさに合わせてスキャン範囲を設定し、被写体との距離を一定に保ちながら周囲を撮影できるようにガイドする。小道具や自動車などを多方向から撮影する際の補助となる。対応する被写体サイズには制限があり、提供された画面の一部は開発中のものだ。

「オブジェクト:アシストモード」の使用イメージ。iPhoneの画面上にスキャン範囲や撮影ガイドを表示し、バイクの周囲を撮影している。画面は開発中のもの。

Renderer Pluginで描画と編集を支援。HDRワークフローにも対応

生成した3DCGアセットの表示を担う「XYN Spatial Renderer Plugin」は、大型LEDウォールを使ったバーチャルプロダクション向けのリアルタイムレンダリングプラグインだ。HDR表示や4K/30fpsでの再生を挙げ、カメラ位置や距離・角度の変化によって生じやすい画面のちらつき(ポッピング)を低減するとしている。

Unreal Engine上では、被写界深度、ライティング、表示解像度などを調整し、CG要素との合成を行える。Unreal Editorでは「Modification Region」を使った非破壊編集により、不要なオブジェクトの除去や配置・複製などの調整も可能だ。

外部システムとの連携には、Renderer Pluginによる表示と、各サービス独自のレンダラーによる表示の2方式がある。対応先は次の通り。

対応方法ソフトウェア・サービス
XYN Spatial Renderer Pluginでの表示Aximmetry、disguise(RenderStream)、Unreal Engine、Pixotope(ベータ版)
各サービスのレンダラーで生成データを表示Aximmetry、Brainstorm、Houdini、Zero Density

Aximmetryとの連携は2026年9月4日にすでに発表されており、同環境ではRenderer Pluginとネイティブレンダラーの両方式を利用できる。PixotopeのRenderer Plugin対応はベータ版として案内されている。

HDR制作では、撮影から生成、表示までカラープロファイルをそろえる。XYN Spatial Scan NaviではS-Gamut3.Cine/S-Log3による10bit HEIF撮影を支援し、XYN Spatial Scanの生成設定で同プロファイルを選択。生成したPLYデータをRenderer Pluginで扱い、対応環境でPQ/HLG、BT.2020のHDR表示につなげる。ソニーは、明るい空や建物の細部・階調を保持した映像表現を想定している。なお、実際のHDR表示には各工程の対応機材や設定が必要だ。

4つの料金プランを導入。Tokenを使った3DCG生成に対応

利用形態はアプリケーションのライセンスと、3DCGアセット生成時に消費する共通の利用単位「Token(トークン)」を組み合わせたサブスクリプション方式となる。無料のFreeを含む4プランを用意し、クレジットカードによるオンライン決済に対応する。ソニーが発表時点で示した月額料金は以下の通り。金額はすべて税込である。

XYNの4つの料金プラン。FreeからCreation 2000 + Rendererまでの月額料金と、各プランに付与されるToken数をまとめている。価格は発表時点のもの。
プラン月額料金毎月の付与Token主な対象
Free税込0円0 Token導入検討・機能の試用
Creation 500税込3,300円500 Token空間コンテンツ制作を始めるユーザー
Creation 2000税込11,108円2,000 Token高品質アセットを継続的に制作するユーザー
Creation 2000 + Renderer税込34,494円2,000 Token背景制作から表示までを担うスタジオ

大規模な制作には、利用するToken量などに応じて個別提案するCustomプランも用意する。半年契約には割引が適用され、料金は6か月分の一括払いとなる。各プランの条件は公式サイトで最新情報を確認する必要がある。

すべてのプランでXYN Spatial Scanと15GBのストレージを利用でき、XYN Spatial Scan Naviにも対応する。ただし、FreeではNaviで作成できるプロジェクトが最大3つ、撮影ガイド枚数が最大200枚に制限される。有料プランではこれらの上限が無制限となる。Renderer Pluginは、Creation 2000 + Rendererで製品版を利用できる。それ以外の3プランではUnreal Engine用のウォーターマーク付きトライアル版に限られ、商用利用はできない。

各プランで利用できる機能の比較。XYN Spatial Scan、XYN Spatial Scan Navi、XYN Spatial Renderer Pluginの利用範囲や無料プランの制限を示す。

Tokenは生成品質、入力画像の枚数や解像度、生成設定などによって消費量が変化する。品質別の目安は次の通り。実際の消費量と処理時間は条件によって異なる。

生成品質消費Tokenの目安生成時間の目安
ベーシック品質約150 Token約15分
エンハンスド品質約200 Token約30分
アドバンス品質約1,700 Token約1時間
エクストリーム品質約2,000 Token約3時間

TokenはFreeを含む各プランで500 Token単位の追加購入が可能だ。プラン未加入時の通常価格は500 Token当たり税込3,300円で、加入プランと購入量によって割引が適用される。ソニーによると割引率は最大28%。

今後は、開発段階の機能をクリエイターが試用する「Labアプリ」も順次提供する予定だ。例として、3DGSアセットの位置・向きの補正や部分削除を行う「Spatial Scan Editor」、複数のアセットを合成する「Spatial Scan Compositor」、仮想カメラワークの動画を作成する「Spatial Virtual Videographer」、ホールやフローター、色などを確認する「Asset Monitor」が示されている。購入済みTokenを今後のほかのXYNアプリケーションにも共通利用できる仕組みも計画している。

今回のアップデートは、背景制作を中心としたワークフローをオブジェクトの3DCG化にも広げ、撮影・生成・編集・表示を一連の工程として扱えるようにするものだ。品質設定と料金体系の選択肢が増えたことで、大型LEDウォールを使う制作スタジオから個人のクリエイターまで、制作規模に応じた導入が可能になる。