TBSグループのクリエイターが開発した技術やコンテンツを披露する展示イベント「Tech Design 2026」が、東京・赤坂のTBS赤坂BLITZスタジオで開催された。映像伝送、バーチャルプロダクション、生成AI、インタラクティブコンテンツなど、計19のブース(1点非公表の展示あり)が並んだ。
主催したのは、TBSテレビ メディアテクノロジー局未来技術革新事業部を中心に、TBSグループ各社の有志で構成するR&D集団「TBS Tech Design Lab」だ。TBSアクト、TBSグロウディア、TBSスパークルなど、所属の異なるメンバーが技術とアイデアを持ち寄っている。
オレンジ色のフレームで区切られた会場には、放送現場ですでに使われているシステムと、来場者が楽しめる体験型の作品が混在していた。機材の性能を説明するだけでなく、その技術をどのような番組やサービスに生かすかまで踏み込んだ展示が多い。本稿では、映像制作の現場と関わりの深い展示を軸に会場を振り返る。

低遅延の映像伝送を、遠隔カメラ操作と目線カメラに生かす
最初に足を止めたのは、ブース18の「Live Multi Studio(LMS)」だ。LMSはTBSテレビとWOWOWエンタテインメントが共同展開する映像伝送ソフトウェアで、一般的なインターネット回線を使い、映像・音声・制御信号を双方向に伝送できる。2024年3月に一般向けの無償提供を始め、同年11月には有料プランも開始した。

遠隔カメラ操作で重要になるのは、画質だけでなく、操作してから映像に反映されるまでの遅延だ。例えば走る馬をパン操作で追う場合、映像の到着が遅れると、カメラが被写体を追い越してしまう。会場では競馬場での実証映像を使い、従来のSRTによる伝送とLMSとで操作の応答がどう違うかを比較していた。


実証では、競馬場側にモバイルルーター、操作側に一般的なインターネット回線を使った構成が紹介されていた。通信環境による変動はあるものの、専用回線に頼らずに遠隔制作を組み立てられる可能性を示している。

赤坂の建物を映したLMSの受信画面には、映像とともにビットレートや遅延のグラフが表示されていた。遠隔地の映像を見ながら通信状態も確認できるため、現場での運用判断に役立つ。

キヤノンマーケティングジャパンの協力により、キヤノンのリモートカメラを使った実演も行われた。マルチカメラ撮影ソリューション「Multi-Camera Orchestration(MCO)」を組み合わせたデモでは、メインカメラの操作にほかのカメラが連動し、同じ被写体を異なるアングルから捉える様子を紹介。オペレーターがすべてのカメラを個別に操作する負担を減らせる点が興味深い。

LMSのもうひとつの活用例が、ソニーのポータブルデータトランスミッター「PDT-FP1」を使った映像伝送だ。5G通信に対応する同機は、HDMI入力、有線LAN、USB Type-Cなどの端子を備え、カメラから入力した映像をネットワーク経由で送信できる。


会場では、ウェアラブルカメラとPDT-FP1、LMSアプリを組み合わせた「審判カメラ」の構成も紹介された。小型カメラを頭部付近に固定し、伝送端末は衣服の内側に収める。カメラマンが入り込めない競技やイベントの場でも、審判など当事者の目線に近い映像を届けられる。



遠隔操作のために遅延を抑える技術と、移動する人物から映像を送る技術は、用途こそ異なるものの、中継の自由度を高めるという点で共通している。少人数の制作現場ほど、通信とカメラ制御をどう組み合わせるかが重要になりそうだ。
Unreal Engineと3D Gaussian Splattingで、現実とCGをつなぐ
ブース02「Unreal Engineを用いたバーチャルセット最前線」では、グリーンバックで撮影した人物をCG空間に合成するシステムを展示した。テーマは背景の差し替えにとどまらず、CG空間で設定した照明の効果を人物側にも反映させることだ。


一般的なクロマキー合成では、人物と背景の明るさや色味が合わず、別々の場所にいるように見えてしまうことがある。今回の展示は、合成処理をUnreal Engine内で完結させ、バーチャル照明による演出を人物にも加える構成だ。外部キーヤーを使わない点や、LEDウォールを用いたインカメラVFXよりも小規模なシステム構築を目指している点も特徴といえる。
DMX信号を収録・再生するソフトウェアも独自に開発しており、舞台照明の操作に慣れたスタッフがそのままCG照明の演出に関われる。実写の人物は平面的な映像として扱うため表現上の制約は残るが、既存の照明技術をバーチャルセットにつなげる発想に、現場発の開発らしさを感じた。
一方、ブース01「映像における3D Gaussian Splatting検証と活用」は、現実の空間をデジタル化する側からのアプローチだ。3D Gaussian Splatting(3DGS)は、複数の視点から撮影した画像などを基に、現実の空間を立体的に再構成する技術である。

展示では、TBSの番組『クレイジージャーニー』のセットを再構成した映像を大型モニターに表示していた。撮影素材から空間をデータ化しておけば、セットを組み直さなくても別の視点から確認できる。iPad上のビューアーでも、再構成した空間を自由に操作できた。

用途としては、美術セットの記録やカメラアングルの事前検討、過去の撮影空間の再利用などが考えられる。ただし、撮影されていない部分まで完全に復元できるわけではない。どれだけ多方向から素材を残しておけるかが、後の活用範囲を左右するだろう。
人物をCG空間になじませるUnreal Engineの展示と、現実の空間をデジタル化する3DGS。入り口は異なるが、どちらも実写とバーチャルを行き来する制作手法として、今後の映像制作と深く関わっていきそうだ。
音六AI、Uzit、TBS LUPE──制作工程に組み込まれるAI
AI関連の展示は、生成AIそのものを見せるよりも、ナレーション制作、素材確認、校正といった既存業務の効率化に重点を置いたものが中心だった。いずれも制作現場の具体的な課題から生まれたツールである。
ブース08の「音六(おとろく)AI」は、TBSテレビとTBSグロウディアが共同開発したAIナレーションシステムだ。テキストを入力して声を選ぶだけで、ナレーション音声を生成できる。

最大の特徴は、原稿とともに尺を指定できることだ。読み上げ速度を自動で調整して指定の長さに収めるほか、単語ごとの読みやアクセントも細かく設定できる。映像の尺が先に決まっているニュースや情報番組では、編集時の手戻りを減らせそうだ。

多言語での音声生成にも対応し、会場では28言語に対応すると説明していた。TBSが配布したカタログには、UTYテレビ山梨やBSS山陰放送での導入事例のほか、手作業では60分以上かかっていた20分のナレーション制作が1~2分程度で済むという目安も掲載されている。制作条件によって変わる数字ではあるが、放送局が重視する「尺」と「読み」を細かく扱えることが強みだ。
ブース09の「Uzit(ユージット)」は、生成AIを使った映像解析アプリ。TBSが開発したツールで、映像から音声の文字起こし、テロップの抽出、場面の説明(映像キャプション)、キーワード、要約などをまとめて生成できる。
解析結果はタイムコードで映像の再生位置とひも付けられている。長い素材の内容を確認したり、使いたい場面を探したりする際に、映像を最初から見直す手間を省ける。複数の解析処理を一度に指定できる点も、放送局の素材管理を意識した設計といえる。
海外取材の映像については、外国語の文字起こしと日本語訳を並べて表示する機能も紹介されていた。生成された訳文や要約は最終的に人の目で確認する必要があるが、素材の当たりを付ける段階では大きな助けになる。
ブース11の「AI文章チェッカー TBS LUPE」は、TBSテレビとTBSグロウディアが共同開発した校正支援ツールだ。TBSが長年蓄積してきた誤字データと生成AIを組み合わせ、原稿のほか、番組のフリップやパネルの画像、PDFなどに含まれる表記の誤りを検出する。
会場には、間違えやすい地名や言葉を正しい表記と並べたパネルが掲示され、放送現場における校正の難しさが伝わってきた。独自の用語や固有名詞を辞書に登録できるため、ニュース原稿だけでなく、Web記事や企業の資料作成にも応用できる。もちろん校正をAIに任せ切るのではなく、指摘内容を担当者が確認する使い方が前提となる。
番組IPから参加型イベントまで、放送技術の応用を広げる
残るブースには、放送局の技術を番組制作の外へ広げようとする試みが並んだ。生成AIを使った体験コンテンツ、参加型配信、デザイン、身体センシングなど、扱う分野は多岐にわたる。
ブース03の「キミもVIVANT」は、Googleの画像生成AI「Nano Banana」を使い、来場者をTBS系日曜劇場『VIVANT』の世界観に合わせたキャラクター風の画像に変換する体験だ。生成した画像はSNSで共有することを想定している。

ブース04の「TABANE」は、職場での何気ない行動に対して、周囲の人がデジタルの花とメッセージを贈るツールだ。成果を数値で評価するのではなく、日ごろの姿を見てくれている人がいることを、年末に花束として届ける。技術を人と人とのつながりのために使うという発想が印象的だった。

ブース05の「TBS DESIGN CENTER」では、TBSテレビ デザインセンターが手掛けた番組、イベント、Webなどの制作事例を紹介。TBS系日曜劇場『VIVANT』のIP展開をはじめ、番組を画面の外へ広げるデザインの役割を示していた。

ブース06の「AI Film Theater」はAIを使った映像表現を扱う展示、ブース07の「簡単システム体験会」は小規模な制作現場に向けたシステムの展示だ。後者では、Macを使ったリプレイ制作や、iPadに描いた線を映像に重ねる仕組みを体験できた。複雑になりがちな制作操作を、身近な機材で扱えるようにする取り組みである。

ブース12の「ヤオヨロズ」は、目玉を付けた身近な物をスマートフォンで撮影すると、AIがキャラクターを生成する子ども向けアプリだ。集めたキャラクター同士を対決させるなど、遊びとIP開発を結び付ける構想を持つ。

ブース13の「Kustamie(カスタミー)」は、低遅延の配信に、チャット、リアクション、クイズ、マルチアングルといった視聴者参加型の機能を組み合わせたアプリ。展示パネルでは、過去のイベントで同時接続3万人に対応した実績が紹介されていた。会場の観客と遠隔地のオンライン視聴者が同じイベントを共有する仕組みとしても注目したい。

ブース14の「身体センシングによるインタラクション」では、人の動きや声を映像や立体物に変換する試作が並んだ。空間を点群で表現する映像、歩き方のタイプ診断、声の波形を基にした3Dモデルなど、入力する情報によって出力の形も大きく変わる。



ブース15の「TBS XR Plugin」は、Unreal Engineを使ったXR演出を汎用的に活用するためのプラグイン開発を行うプロジェクトだ。ブースでは、ハンディカメラによる簡易デモを披露していた。大型設備に頼らず、音楽番組などで使われるバーチャル演出を幅広い現場に持ち込もうとしている。

ブース16の「サカスdeラクガキ」は、ARを使って空間に絵や文字、スタンプを配置できる体験。ブース17の「行ったつもりフォトスポット」は、3DGSで再構成した番組スタジオを背景に、スマートフォンの傾きに合わせてアングルが変わる自撮りを楽しめる。


ブース19の「EMOCOOK」は、入力した感情を材料に見立てて、自分だけのケーキを作る体験だ。3Dモデル生成AI「Meshy」を活用し、目に見えない気持ちを形にする。映像や音声の制作支援とは方向性が異なるが、生成AIを体験のデザインに生かした例として面白い。

技術開発から実用化までのプロセスを身近に感じる展示会
19のブースを通じて見えたのは、技術を「番組を支える道具」にとどめず、新たな表現や体験を生み出すために使おうとする姿勢だ。すでに現場で使われているシステムと試作段階の作品が同じ会場に並んだことで、技術開発から実用化までの道のりを具体的に感じ取ることができた。
映像をどう運び、どう撮り、どう確認し、どう届けるか。Tech Design 2026は、その一つひとつに放送局のクリエイター自身が答えを探していることを実感できる展示会だった。