映画の火を消さない。そのためには、完成した作品を上映するだけでなく、次の映画を作る人が生まれ、制作を続けられる環境を育てることが欠かせない。
2026年10月23日(金)から25日(日)までの3日間、札幌市で「第21回札幌国際短編映画祭」が開催された。2006年に始まり、20年にわたって世界の短編映画を紹介してきた同映画祭は、作品の上映や新たな才能の発掘に加え、北海道で映画を作り続けるための環境づくりにも力を入れている。
その中心にあるのが、映画祭とソニーストア札幌が共同で展開する「映画クリエイティブ・プログラム」だ。本記事では、映画祭最終日の10月25日(日)に開かれた同プログラム第5回の現場をレポートする。あわせて、映画祭プロデューサーの倉本浩平氏へのインタビューを通して、北海道における映画制作の現状と、次の20年に向けた取り組みを探った。
20年を迎えた札幌国際短編映画祭。世界の作品と地域の映画人が集う場所
「SAPPOROショートフェスト」の通称でも知られる札幌国際短編映画祭(主催:NoMaps実行委員会)は、世界の短編映画を紹介しながら、新たな映像作家の発掘と育成に取り組んできた。第21回となる今年は、94の国と地域から2,622作品の応募があり、28の国と地域の96作品がオフィシャルセレクションに選ばれた。
メイン会場は、JR琴似駅に直結する文化施設「コンカリーニョ」。国際審査員は、香港の映画監督ジョニー・トー氏、映画監督の吉田大八氏、釜山国際短編映画祭アーティスティック・ディレクターのイ・サンフン氏が務めた。
グランプリは台湾のロンズオ・ジュアン監督『トゥッティ:息をあわせて』、最優秀国内作品賞は矢野ほなみ監督のアニメーション『エリ』が受賞した。北海道ゆかりの作品を集めた北海道セレクションからは、道内の放送局6局が選ぶ北海道メディアアワードに大川祥吾監督の『お呂美と珠里右衛門(オロミとジュリエモン)』が選ばれた。また、3分30秒以内のドキュメンタリーを対象とする「Micro Docs」部門では、タニショーゴ監督の『檻の山小屋』が最優秀賞、浅里のぞみ監督の『テンプ』が優秀賞を受賞した。
会場では、上映を終えた監督や制作者と観客が直接語り合う姿があちこちで見られ、作り手と観客の距離の近さが印象的だった。こうした年に一度の出会いを、継続的な制作活動へとつなげるために始まったのが「映画クリエイティブ・プログラム」だ。Micro Docs優秀賞の『テンプ』も、このプログラムの支援から生まれている。
年に一度の映画祭から、年間を通じた映画制作支援へ
映画クリエイティブ・プログラムは、札幌国際短編映画祭とソニーストア札幌が連携し、北海道で映画制作に取り組む人々を支援するため、2026年2月に始まった。通常は札幌中心部の複合施設moyuk SAPPOROにあるソニーストア札幌を会場に、約2カ月に一度のペースで開かれ、短編映画の上映や監督によるティーチイン、企画を持ち寄るアイデアピッチなどを行っている。
2月27日(金)の第1回には、北海道のクリエイターや学生、プロデューサーなどが参加。4月17日(金)の第2回では、ドキュメンタリー作品の上映と監督によるティーチイン、アイデアピッチが行われた。6月19日(金)の第3回では青木デイヴィッド監督の『夏の記憶のようなもの』と山本寛也監督の『かえる』を上映。8月28日(金)の第4回を経て、回を重ねるごとに活動の幅を広げてきた。
第5回となる今回は、映画祭の開催に合わせ、会場をソニーストア札幌から札幌市西区の八軒会館に移して実施された。
映画クリエイティブ・プログラム第5回。映画制作に携わる人々が八軒会館に集結
会場には、映画監督やプロデューサー、脚本家、編集者などの映像関係者に加え、これから映画制作に挑戦したいという参加者が集まった。同プログラムは、制作経験者だけを対象としたものではない。企画を持っている人、撮影技術を学びたい人、何らかの形で制作に関わりたい人など、立場の異なる参加者が集まることで、新しい作品づくりにつながる出会いを生み出そうとしている。
吉田大八監督が語る、映画づくりの原点
冒頭には、札幌国際短編映画祭の国際審査員を務めた吉田大八監督が登場した。
吉田監督は、学生時代に8ミリフィルムで自主制作をしていた経験に触れながら、映画を作ることの原点について語った。自分の中にあるアイデアを形にし、作品を完成させ、誰かに見てもらいたいという思いは、今も変わらないという。
また、異なる立場や経験を持つ人々と出会い、考え方を共有することが、自身の制作にも新しい気付きをもたらすと話した。長編映画の第一線で活躍する監督の言葉は、これから制作を始めようとする参加者にとって、映画づくりの原点を見つめ直すきっかけになった。
「機材」「学び」「つながり」「機会」。ソニーストア札幌の取り組み
続いて、ソニーストア札幌による活動紹介が行われた。同店ではカメラやレンズの展示・販売に加え、道内のクリエイティブチームを講師に迎え、実際の映像素材を使って編集の考え方を学ぶワークショップを開くなど、北海道の映像クリエイターに向けた取り組みを展開してきた。
ストアマネージャーの安達恭氏は、クリエイターに必要な要素として「機材」「学び」「つながり」「機会」の4つを挙げた。機材に触れるだけでなく、制作技術を学び、仲間と出会い、作品を発表する機会までを一つの流れとしてつなげることが、活動の狙いだという。
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映画クリエイティブ・プログラムでも、北海道セレクションに選ばれた作品の上映や、監督本人から制作の背景を聞くティーチインに加え、参加者が自分の企画を発表するアイデアピッチを実施している。映画を観て制作方法を学ぶ段階から、自ら作品を作る段階へと進む機会を用意しているのが特徴だ。
企画を具体化するための撮影支援も始まっている。アイデアピッチで評価された企画には、ソニーのCinema Line(シネマライン)カメラ「FX3」「FX30」「FX2」などの撮影機材を無償で貸し出す。さらに、一般社団法人シネマ・ノースを通じて制作に協力する人材や支援を募り、実際の撮影へと進められる仕組みを整えた。
会場のスライドでは、このビジョンとともに、ショートフィルムセッションから始まった活動が「挑戦」「伴走」「交流」「共有」の4項目で振り返られた。作品を作りたいという意思を受け止め、制作に伴走し、参加者同士の交流や経験の共有につなげる。ソニーストア札幌が地域のクリエイターの拠点となり、映画祭とともに新たな作品の誕生を後押ししている様子が伝わってきた。
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短いからこそ問われる構成。北海道メディアアワード審査員のトーク
北海道メディアアワードの審査員によるトークセッションでは、北海道セレクションの受賞作品を題材に、短編映画の構成や映像表現について意見が交わされた。
特に『お呂美と珠里右衛門』については、テンポのよい展開や、限られた上映時間で物語を伝える構成が話題となった。短編映画では、すべてを言葉や映像で説明するのではなく、どの情報を見せ、どこを観客の想像に委ねるかという判断が重要になる。短いからこそ求められる脚本や演出の工夫について、会場の参加者とも意見を交わしながら考える時間となった。
アイデアピッチから受賞作品へ。浅里のぞみ監督『テンプ』
続いて、プログラムを通じて生まれた作品や、制作が進む企画が紹介された。2月に始まったばかりのプログラムが、すでに具体的な成果を生み始めていることには驚かされた。その代表例が、今回の映画祭でMicro Docs優秀賞を受賞した浅里のぞみ監督の『テンプ』だ。
同作は、長年にわたって時計の修理に携わってきた人物の仕事と人生を追ったショートドキュメンタリー。時計と向き合い続ける姿を通じて、一つの仕事を長く続けることや、そこに積み重ねられた時間を描いている。
浅里監督はプログラムのアイデアピッチで企画を発表し、ソニーの機材支援を受けて撮影を進めた。身近な人との出会いや日々のやりとりから着想を得ることが多いという浅里監督にとって、今回も一人の人物の生き方への関心が制作の出発点になった。
アイデアピッチには、作品の内容を説明する以上の意味がある。何を撮りたいのか、なぜその人物や題材にひかれたのか、どのような作品にしたいのかを他者に伝えることで、企画が整理され、具体的な撮影へと進むきっかけになる。『テンプ』は、企画発表から機材支援、作品の完成、そして映画祭での受賞までが一本の線でつながった事例だ。
能楽師・津村禮次郎氏を追うドキュメンタリー
もう一つの制作事例として紹介されたのが、映像制作者のタダト・ミラー氏によるドキュメンタリー映画だ。
ミラー氏は、観世流能楽師・津村禮次郎氏を題材とした作品を制作中で、プログラムを通じてソニーの撮影機材の支援を受けている。会場では制作中の作品のティザー映像を披露し、伝統芸能に携わる人物を映像でどう捉えるかという取り組みを紹介した。
完成作品として映画祭で評価された『テンプ』に対し、ミラー氏の作品は制作が進行中の段階での紹介となった。企画段階から完成まで、進み具合の異なるプロジェクトを共有できることも、継続して開催するプログラムならではの特徴だ。制作途中の作品に触れることで、参加者は企画の進め方や制作上の課題を具体的に知ることができる。
企画アイデアシートを囲み、次の作品を考える
プログラム後半では、参加者が少人数のグループに分かれて企画ワークショップを行った。
参加者は椅子を動かして輪になり、企画アイデアシートを手に、それぞれが考えている作品の構想や制作への思いを共有した。どのような題材を扱いたいのか、作品を通じて何を伝えたいのかといった企画の出発点から、構成や映像表現まで、さまざまな意見が交わされた。
印象的だったのは、参加者の立場が一様ではなかったことだ。監督やプロデューサー、脚本家、編集者など、普段は異なる役割で制作に携わる人々が、同じグループで一つの企画について話し合っていた。
映画は監督一人の力では完成しない。脚本を書き、撮影し、編集し、観客に届けるまでには、多くの工程と人の協力が必要になる。一方、地域で活動するクリエイターにとって、異なる専門分野の人材と出会う機会は決して多くない。
まだ完成していない企画について話し合える点も重要だ。完成作品の上映会では、観客は出来上がった作品を評価する立場にある。しかし企画段階であれば、参加者はその作品を一緒に作る側に回ることもできる。映画制作という具体的な共通目標を持って言葉を交わすことで、単なる交流にとどまらない、実践的な関係が生まれる可能性を感じさせた。
監督のトークに始まり、地域作品をめぐる議論、制作事例の紹介、そして参加者自身による企画づくりへ。第5回の構成からは、映画祭の熱気を次の制作へとつなげようとする狙いが伝わってきた。
倉本浩平氏が描く次の20年。北海道で映画を作り続けるために
札幌国際短編映画祭のプロデューサーで、北海道科学大学メディアデザイン学科の教授も務める倉本浩平氏に、映画祭の20年と、映画クリエイティブ・プログラムを立ち上げた背景、北海道の映画制作環境について話を聞いた。
倉本氏は映画祭の魅力について「フラットな関係性を作るのが我々の魅力」と話す。監督や制作者、観客、運営スタッフが立場を超えて交流し、作品について率直に語り合える。そうした関係性こそが、20年かけて培われてきた映画祭の文化だという。
一方で、年に一度の映画祭で生まれたつながりを、次の作品づくりにどう結び付けるかは長年の課題だった。北海道には才能あるクリエイターがいるものの、活動拠点を道外へ移す人も多く、地域で継続的に映画を制作する環境は十分とはいえない。撮影技術や機材だけでなく、企画をまとめるプロデューサーや制作スタッフ、資金、作品を発表する機会も必要になる。
ソニーストア札幌との連携から生まれた制作支援
こうした課題に向き合うために始まったのが、映画クリエイティブ・プログラムだ。立ち上げの背景には、倉本氏が北海道科学大学の映像教育で、ソニーのCinema Line FXシリーズなどを活用してきた経緯がある。映画祭を通じた交流も重なり、ソニーストア札幌の機材や上映設備を地域のクリエイター支援に生かす構想が具体化した。
映画祭が持つ制作者とのネットワークと、ソニーストア札幌の機材や施設を組み合わせ、作品上映からアイデアピッチ、撮影機材の貸し出しまでを通じて企画の実現を後押しする。『テンプ』の受賞は、その仕組みが機能し始めたことを示している。
人材とコミュニティを育て、完成した作品を観客へ
倉本氏が重視するのは、監督やカメラマンだけでなく、制作全体を調整し、資金調達や作品の展開を担うプロデューサーを育てることだ。また、企業や行政、教育機関など、映画業界以外の人々との連携も、地域の制作環境を充実させるうえで欠かせないと考えている。
約2カ月に一度というペースには、企画を発表した後も制作の進捗を共有し、継続的に仲間と出会える利点がある。こうした交流の積み重ねが、地域で映画を作り続けるための基盤になる。
今後は制作支援をさらに充実させ、完成した作品をより多くの観客に届ける仕組みも整えていきたいという。映画祭への出品や上映など、完成後の展開まで支えることで、次の制作へとつながる循環を目指す。ただし、制作費の確保や人材育成、継続的な仕事の創出など、解決すべき課題は残されている。
札幌国際短編映画祭が作品を発表する舞台となり、映画クリエイティブ・プログラムが企画から制作までを支える。両者が連携することで、年に一度の映画祭を起点とした活動が、一年を通じた映画づくりへと広がっていく。
映画の火を消さない。一人のアイデアが仲間との出会いを通じて作品となり、その作品が次の作り手を生み出す。第21回を迎えた札幌国際短編映画祭は、そうした創作の循環を北海道に根付かせるため、次の20年へと歩み始めている。