カメラの映像をインターネット経由で送る手段は、現在さまざまに存在する。しかし、離れた場所にあるカメラを操作し、その映像を見ながらスイッチングまで行うとなると、求められる機能は一段と広がる。

そうした映像制作の仕組みを、手のひらサイズの専用機で実現しようというのが、ShiftallとTBSテレビが共同開発した「HOMRA 4K」だ。

ShiftallとTBSテレビが共同開発した映像伝送・配信デバイス「HOMRA 4K」。記者発表会では、PCを使わない映像伝送の仕組みが紹介された
3G-SDI入力、SDIループアウト、HDMI入力・出力、USB端子、2系統の有線LAN端子などを搭載

両社が開催した記者発表会では、開発の背景や製品の特徴が紹介され、会場にはリモートプロダクションを想定した実機デモも用意された。

HOMRA 4Kは、SDIやHDMIから入力した映像をPCなしで伝送できるだけでなく、配信、録画、スイッチング、タリー表示、テロップ挿入までを1台でこなす。さらに、離れた撮影現場にあるカメラやスイッチャーの制御信号も伝送できる。発表会を通じて見えてきたのは、単に映像を送るエンコーダーではなく、撮影現場と制作拠点を一つのシステムとしてつなぐ機器としての姿だ。

TBSテレビ未来技術革新事業部の中野啓氏(左)とShiftall代表取締役CEOの岩佐琢磨氏(右)

HOMRA 4Kとは何か。放送局の技術を小型デバイスに凝縮

HOMRA 4Kは、Shiftallのハードウェア開発技術と、TBSテレビが放送・中継制作で培ってきたノウハウを組み合わせた映像伝送・配信デバイスだ。TBSとWOWOWエンタテインメントが共同展開する超低遅延映像伝送プロトコル「Live Multi Studio」(以下、LMS)に対応する。2027年3月の発売を予定しており、価格は10万円程度を見込む。なお、LMSの利用料は製品価格に含まれない。

HOMRA 4Kの製品概要を紹介したスライド。LMS対応の4K60p配信機器として開発し、2027年3月の発売、価格10万円程度を予定する

発表会には、Shiftall代表取締役CEOの岩佐琢磨氏と、TBSテレビ未来技術革新事業部の中野啓氏らが登壇した。

開発の背景にあるのが、TBSが進めるリモートプロダクションだ。従来は大型中継車に機材とスタッフを集約して番組を制作してきたが、TBSは撮影現場にカメラなど必要な機材だけを置き、離れた制作拠点で映像の確認やスイッチングを行う体制づくりを進めている。狙いは、中継・配信システムの小型化と省人化にある。

リモートプロダクションの構成図。大型中継車を中心とした方式に対し、撮影現場のカメラと離れた制作拠点をネットワークで結び、機材や人員を集約する

その中核を担うのがLMSだ。インターネット経由で映像・音声を低遅延で伝送できるだけでなく、PTZカメラやスイッチャーなどの制御信号も送受信できる。接続にルーターのポート開放を必要としないため、複雑なネットワーク設定をせずに離れた拠点同士をつなげられる。

発表会で紹介されたLMSの技術のなかでも、特に興味深かったのが特許技術の「マルチレイテンシー」(Multi Latency)である。

LMSのマルチレイテンシー技術を説明した図。一つの伝送から、反応速度を優先した操作用映像と、安定性を優先した放送用映像を同時に取り出せる

これは、一つの伝送から、遅延を抑えた操作用の映像と、バッファーを確保して安定性を重視した放送用の映像を同時に取り出せる仕組みだ。リモートカメラの操作では、コントローラーを動かしてから画面に結果が反映されるまでの時間が重要になる。一方、番組に使う映像には安定した伝送と画質が求められる。マルチレイテンシーを使えば、こうした用途の異なる映像のために、回線や伝送機器を別々に用意する必要がない。

このLMSを、PCを使わずに専用ハードウェアで利用できるようにしたのがHOMRA 4Kだ。従来、SDIカメラなどの映像をLMSで送るには、キャプチャーデバイスでPCに映像を取り込み、PC上のLMSアプリケーションから送出する必要があった。HOMRA 4Kは、SDI・HDMI入力、映像のエンコード、ネットワーク伝送を本体に統合しており、カメラを直接つなぐだけで映像・音声をLMSで伝送できる。

記者発表会の様子。PCを介していたLMS伝送を、専用ハードウェアで実現する仕組みが紹介された

さらに、HOMRA 4Kはエンコーダーとデコーダーの両方の機能を備える。撮影現場側のHOMRA 4KからLMSで送った映像を、制作拠点側のHOMRA 4Kで受信・デコードし、HDMI出力からスイッチャーやモニターへ渡すことができる。2台を組み合わせれば、撮影現場から制作拠点までを専用機だけで結べるわけだ。PCレスという特徴は、送信側だけでなく受信側にも及んでいる。

ハードウェア開発を担うShiftallの岩佐氏は、かつて代表を務めたCerevoで、LiveShellシリーズなどのライブ配信機器を数多く手がけてきた。HOMRA 4Kには、そうした配信機器の開発経験と、TBSの放送現場で求められる接続性や操作性が組み合わされている。

岩佐琢磨氏がCerevo時代に携わったライブ配信機器の歩み。LiveShellシリーズやLiveWedgeなど、過去のハードウェア開発の経験が紹介された
岩佐氏は「LMS meets Shiftall」を掲げ、TBS側の映像伝送技術とShiftall側のハードウェア設計・製造技術を組み合わせる開発方針を示した

こうした背景を踏まえると、HOMRA 4Kに搭載された多彩な機能にも一貫した狙いが見えてくる。

4つの映像ソースを切り替え、4K配信・録画にも対応。カメラ運用を意識した設計

本体には、3G-SDI入力とSDIループアウト、HDMI入力・出力、USB端子、2系統の有線LAN端子などを備える。3G-SDI入力は最大1080p60、HDMI入力・出力は最大2160p60に対応する。エンコード方式はH.264とH.265(HEVC)をサポートし、H.265では最大2160p60での配信・録画が可能だ。

HOMRA 4Kの前面と背面の構成。前面に液晶画面と操作部、背面に3G-SDI、HDMI、USB、2系統のLAN端子などを集約している

伝送方式はLMSのほか、SRT、RTMP、RTSPなどに対応し、YouTube LiveやTwitchといったライブ配信プラットフォームへも直接送出できる。ビットレートはCBR(固定ビットレート)とVBR(可変ビットレート)を選択でき、CBRは定点カメラによる拠点間伝送など、通信量を一定に保ちたい場面に向く。1080i59.94などのインターレース信号を扱える点は、放送局との共同開発ならではの仕様といえる。

同時配信は1080p60で最大4ストリームに対応する。発表会では、YouTube Live、Twitch、ニコニコ生放送、LMSによる拠点間伝送など、複数の配信先へ同時に送出する構成が紹介された。

配信・録画機能の紹介画面。YouTube Live、Twitch、LMSなどに向け、1080p60で最大4ストリームを同時配信する構成が示された

本体側面にはSDXC対応のフルサイズSDカードスロットを備え、1080p60で3ストリームを配信しながらSDカードに録画することもできる。中継映像のバックアップや、配信後のアーカイブ制作にも活用できるだろう。カードを挿した状態でも外側に大きく飛び出さない構造で、カメラ上部に載せた際の扱いやすさにも配慮している。

3ストリームの同時配信とSDカード録画を組み合わせた構成例。配信用の映像を送りながら、本体内にも記録できる

本体には1M/Eのスイッチャー機能も内蔵する。SDI、HDMI、USB UVC対応機器、SDカード内の動画ファイルという4系統の映像ソースを、黒画面を挟まずに切り替えられる。テロップの挿入やピクチャー・イン・ピクチャー(PinP)による合成にも対応しており、カメラ映像にPCのスライドや動画素材を組み合わせる程度の配信であれば、切り替えから送出までをHOMRA 4Kだけで完結できる。

「4つの映像入力を自在に操る」と題した機能説明。SDI、HDMI、UVC対応カメラ、SDカード内の動画を、内蔵の1M/Eスイッチャーで切り替えられる

音声まわりも充実している。3.5mmステレオライン入力・出力を備え、ライン入力に加えてSDI、HDMI、USB経由の音声を、それぞれ独立してレベル調整・ミキシングできる。カメラの音声と外部オーディオミキサーからの音声を本体内でまとめて送出する、といった使い方が可能だ。HDMI出力とUSB出力にも音声を重畳できるため、少人数でのライブ配信でも映像と音声を1台で扱える。

「充実した音声まわり」の説明画面。ステレオのライン入力・出力に加え、SDI、HDMI、USB経由の音声を個別に調整・ミキシングできる

実機を見ると、端子の充実ぶりと同じくらい、カメラへの搭載を意識した筐体設計が目を引く。本体は高さ1U、横幅1/4U以下のスリムなサイズで、アダプターパーツを取り付けることで、ラックマウントにも、1/4-20 UNCネジによるカメラ上部やリグへの固定にも対応する。

HOMRA 4Kをカメラ上部に装着した運用イメージ。専用アダプターを介した1/4-20 UNCネジでの固定と、前後の高輝度タリーランプが紹介された

ラックマウント時は、1Uスペースに最大4台を並べて収納できる。1台あたり最大4ストリームの同時配信が可能なため、計算上は合計16ストリームを扱う構成も考えられる。ただし、実際の運用ではネットワーク帯域や配信条件に合わせたシステム設計が必要になる。

撮影現場での使い勝手を象徴するのが、前面と背面に配置された高輝度タリーランプだ。TBSの中野氏は、自身を含め開発チームにカメラマン出身者が多いことに触れ、撮影者だけでなく出演者からもオンエア状態を確認できるよう、タリーランプを前後に配置したと説明した。カメラに載せやすい小型の筐体も、開発時に重視した点だという。

タリーランプはLMSで伝送される制御信号と連動するため、離れた制作拠点でスイッチングを行う場合でも、現地の撮影者や出演者がオンエア状態を把握できる。タリーとして使わない場合は、回線トラブルなどの緊急状態を知らせる表示としても利用できる。

前面には、VGA解像度の2.0インチカラー液晶ディスプレイを搭載する。展示機では、LIVEやRECの状態、ビットレート、入力ソース、音声レベル、映像プレビューがまとめて表示されていた。小さな画面ながら、映像が正しく入力されているか、配信や録画が行われているかを本体だけで確認できる。

細かな設定には、本体内蔵のWeb GUIを使用する。PCやMacに加え、iPadなどのタブレットのブラウザからも操作でき、日本語表示にも対応する。ブラウザが必要なのは初期設定などに限られ、設定後の映像伝送にPCは必要ない。

電源はUSB Type-CによるUSB PD給電で、9V/3A(27W)の出力に対応した電源を使用する。システム消費電力は27W以下で、対応するモバイルバッテリーからも給電できるため、カメラに載せたままの屋外中継にも使える。USB Type-C端子は抜け止めネジに対応しており、現場でのケーブル脱落にも配慮している。

LAN端子はギガビットイーサネット対応の2系統だ。LAN1を映像伝送、LAN2を制御用のPCやタブレットとの通信に割り当てるといった使い分けのほか、LAN2を4G/5G対応ルーターにつないでバックアップ回線を確保する構成も可能だ。インターネット回線を使う現場中継では、複数の接続経路を持てることが運用上の安心材料になる。

実機動作レポート。インターネット越しにカメラが動き、遠隔スイッチングまで実現

発表会の後半には、HOMRA 4Kを使ったリモートプロダクションの実機デモが用意された。会場には撮影現場と制作拠点を想定した二つの机が置かれ、物理的には近くにあるものの、両者はインターネット経由で接続されている。撮影現場側にはカメラやスイッチャー、制作拠点側にはカメラコントローラーやモニターが並び、HOMRA 4KとLMSで映像伝送と遠隔操作を行う構成だ。

撮影現場を想定した機材側。カメラやスイッチャーを配置し、LMSで制作拠点側へ映像と制御信号を伝送した
制作拠点を想定した操作側。受信した映像をモニターで確認しながら、離れた機器をコントローラーで操作する

まず体験したのは、PTZカメラの遠隔操作だ。手元のコントローラーを動かすと、離れた場所にあるカメラがそれに応じて動き、その映像がモニターに映し出される。インターネットを経由しているにもかかわらず、画面上の動きは操作に素早く追従し、ネットワーク越しであることをあまり意識せずにカメラを動かせた。

PTZカメラの遠隔操作デモ。制作拠点側のコントローラーで、インターネット越しに設置されたカメラを操作した
LMSを介したPTZカメラの映像と操作の実演。モニターの映像を見ながらカメラを操作し、低遅延での応答を確認した

展示では映像の安定性を重視した遅延設定が使われていたが、より低遅延の設定に切り替えると、操作と画面上の動きの間隔はさらに短く感じられた。実測値を比べるデモではなかったものの、リモートカメラの運用において映像の応答性がいかに重要かを体感できる内容だった。

印象的だったのは、映像と制御信号を別々の仕組みとして意識せずに済む点だ。映像を見ながらコントローラーを操作し、その結果が再び映像に返ってくる。この一連の流れをインターネット越しに完結できることが、LMSとHOMRA 4Kを組み合わせる利点である。

続いて紹介されたのが、スイッチャーの遠隔操作だ。撮影現場側にはBlackmagic DesignのATEMスイッチャーが置かれ、そのマルチビュー映像がLMSで制作拠点側のモニターへ送られていた。制作拠点側ではATEMのコントロールパネルを使い、届いたマルチビューを見ながらスイッチングを行う。操作信号はインターネット経由で撮影現場側のATEMに送られ、現地のスイッチャーが切り替わる仕組みだ。

ATEMスイッチャーの遠隔操作デモ。撮影現場側から送られてきたマルチビュー映像を見ながら、制作拠点側のコントロールパネルで切り替えた

これはHOMRA 4K内蔵のスイッチャー機能ではなく、LMSによる映像・制御信号の伝送を使って、既存の外部スイッチャーを遠隔操作する活用例である。説明員によると、こうした遠隔スイッチングはTBSの番組制作でも使われてきた構成で、会場ではそのワークフローをHOMRA 4Kで再現していた。

実際の制作に置き換えれば、地方のイベント会場にカメラと必要な機材を設置し、別の場所にある制作拠点から映像確認やスイッチングを行う、といった構成が考えられる。スポーツ中継や報道取材、企業イベント、セミナーなど、少人数で複数のカメラを運用する現場とも相性がよい。制作スタッフを一つの拠点に集約できれば、撮影現場に送り込む機材や人員も抑えられる。

LMSの活用先は放送制作にとどまらない。発表会では、産業機械やロボットの遠隔操作など、映像と制御信号を低遅延で伝送する技術の応用例も紹介された。HOMRA 4Kも、今後は映像制作以外の領域への展開を視野に入れているという。

今回展示されたのは開発中の試作機だ。2026年11月18日~20日に幕張メッセで開催される「Inter BEE 2026」では、TBSブースに複数台を展示し、実際の配信デモを行う予定だ。2027年1月にはCES 2027のJapan Techブースで量産モデルを披露し、同年3月の発売を目指す。国内に加え、米国や欧州など海外市場への展開も予定されている。

会場の二つの机の間で行われていたのは、見た目には普段と変わらないカメラ操作とスイッチングだった。しかし、その間にはインターネットを介した映像伝送システムが存在している。この自然な操作感こそ、今回の実機デモで最も印象に残った部分だ。

映像の伝送やエンコード、デコードを専用機に集約し、既存のカメラやスイッチャーとLMSで連携させる。放送局が培ってきたリモートプロダクションの仕組みを、より小さな機材で構築できるようにするHOMRA 4Kは、撮影現場と制作拠点を結ぶ新しい選択肢となりそうだ。