2008年の締めくくりとして、「2008年機材売上動向」をもとに、今年の総括と来年の展望に関する座談会を開催しようと思ったが、やはり年末ということもあってスケジュールも押せ押せムード。忙しいスケジュールの合間を縫ってカメラマンの岩沢卓氏とともに、今年の総括と来年の展望をしてみた。
YouTubeのHD化で映像もファイルと認知される
秋山(本誌編集長):今年は、ファイルベースに対応したカメラが多く出ましたね。カメラマンとしては、まだまだテープが回っていないと不安になることってありますか?
岩沢卓:それはありますよ。フラッシュメディアになると音がしないので、ビューファインダーの表示で動いてますよと知らせる”クルクル回る”アイコン表示が欲しい。本当にそれで、記録できているかどうかは別問題ですけど(笑)。テープ収録だと、このぐらいまでの尺なら録れるという感覚があるんですが、メディア容量の残量って被写体によって圧縮率が変わっちゃうので目安でしかない。コピーにはそれなりの時間がかかるし、メディア容量のギリギリまで撮りたい気持ちもあるんですが、まだまだ収録時間の感覚がつかめなくて不安になります。それでも、ソニーのHDVカムコーダーのように、テープで撮りつつフラッシュメディアに記録できると、気分的にも楽ですね。ただこうした感覚は、ファイルベース移行の過渡期であるからかもしれない。すでに、オーディオ収録では、リニアPCMレコーダーも普通に活用していますから。
秋山:そういう意味では、オーディオ収録は、テープからDAT、ICレコーダーへとスムースに移行できたんですね。
岩沢:これはiPodなどの音楽プレーヤーの登場したことが大きいですね。それまでテープやCD、MDを使って聴いていた人が、音楽プレーヤーでは音楽ファイルというデータを扱っているんだと認識できたわけですから。
秋山:PCを使いこんできた人にとっては、CDの中に音楽ファイルが記録されていることは分かっていたんですが、ブラウザとメールしか使っていなかった人が普通に音楽ファイルを扱えることになったことは大きな変化ですよね。
岩沢:デジタルカメラも音楽プレーヤーも、コンシューマーが普通に使えるようになりましたからね。映像のファイルベース化という意味では、すでにAVCHDカメラがほとんどになり進んできてはいるんですけど、まだまだ手軽に編集できるわけじゃない。むしろ起爆剤になりそうだなと思うのは、YouTubeのHD化ですね。YouTubeで好きなハイビジョン映像に自由にアクセスして、すきな部分にジャンプしながら観ることができる。これでようやく映像もデータという感覚ができてくるんじゃないですかね。
秋山:今年のカメラはファイルベース化が大きく進展しましたけど、それを使う人はこれからファイルベースのリズムになっていくってことですね。
岩沢:そうです。これまでのタイムライン編集って時間軸に沿って並べるものでしたし、そのインタフェースはジョグシャトルをベースにしたもので、やっぱりテープ中心の考え方だったんですよね。YouTubeがHD化したことで、映像もファイルで扱うという感覚が定着していきそうです。
秋山:2008年はカメラのテープレス化が進行したカメラ・ファイルベースでしたけど、2009年は使う人がテープレスの感覚をつかんでいくヒューマン・ファイルベースって感じですね。
カメラの動向は、今後のワークフローを見据えた結果
秋山:さて、System 5の2008年売れ筋リストですが、カメラも三脚もかなり特徴のある動き方をしています。カメラですが、やはりソニーのHDVカムコーダーを中心に動いてます。
岩沢:ソニーのラインアップは、ユーザーの声を拾い過ぎてるというくらいで、ある意味、ラインアップが多過ぎるとも言う(笑)。予算をかけずに映画を撮るなら、XDCAM EXですね。パナソニックも力を入れていたところではあるんですが、何本かレンズを換えて収録したいと考えると、パナソニックのハンディ型では出来ないので候補から落ちてしまう。かといって、上位のVARICAMを使用できるほど予算がないから、新しいレンズ交換型のXDCAM EX(PMW-EX3)を使うことになる。Inter BEE 2008で参考出展されていた日本ビクターのSxSメモリーカード記録ユニットは、HDVカメラを使いながらXDCAM EXフォーマットで記録でき、発売されると面白い存在になりそう。もっとも、日本ビクターのPro HDカメラレコーダー専用オプションなので、カメラと合わせて買うかどうかということになると、微妙な存在ですが。
秋山:パナソニックはP2HDのラインアップを充実させ、AVCHDを使用したAVCCAMを投入したし、キヤノンもモデルチェンジをしているが、いずれもランクに入ってきていない。
岩沢:DVシネマ定番でもあるAG-DVX100Bが、DVフォーマットでありながらもランクインしているのは驚きですね。パナソニックはしっかりとカメラのカテゴリー分けをしているが、System 5の現在の売れ筋はハンディカメラが中心。レンズ交換したいならショルダー型のVARICAMへという部分で、割りを食ってしまった。レンズ交換できるハンディタイプが出てくると選択肢も増えるでしょうね。キヤノンについては、ラインアップが少な過ぎて、割高感を感じてしまう。スタジオカメラとして使うなら充分な性能とは思うんですが、収録から編集、出力を一貫して見ていかねばならない今後のワークフローの中で、「どんな未来を見ているのか」をしっかり提示して欲しい。新しいファイルベースのカメラを出すなら今しかないと思うが、ファイルベース化していくワークフローでどう運用するのかを見せないと、また候補から外されてしまいかねない。
秋山:HDVはまだまだ存在感があるという1年になりました。やはり、カメラを購入する時点で、ユーザーとしても次世代のワークフローを見据えて購入する傾向が強まっているんでしょうね。
岩沢:いつも高性能で高価なカメラで撮影できればいいんですが、最終の映像がPV(プロモーションビデオ)やDVD、CS放送ならば、制作予算とのバランスで高品質な映像が常に必要という状況ではなくなってしまう。屋外のロケ中心のものや特典映像であればHDVでも十分な画質があります。
秋山:映像を使用する範囲が増えてしまい、制作する方は大変になりますね。
岩沢:そうですね。企業映像などでは、映像出力をPCでコントロールすることも増え、時にはFlashビデオで納品しなければならないこともあり、納品最終形態がさまざまになってきました。予算のあるCMなどを除けば、制作予算も減る傾向にあって、最近ではWeb用の映像制作を依頼してきていながら、パッケージにも使いたいなんて言われることも出てきている。パッケージ用に予算や機材を確保して収録し、一部をWeb用に2次利用するなら分かるんですけど、逆では無理な話ですよね。
秋山:三脚は、ハンディカメラに合わせて小型・軽量タイプで、価格的にも比較的に安価なLibec製を中心とした動きです。
岩沢:ハンディカメラの軽さを考えると、三脚が重いと、持っていく気持ち的にもさらに重く感じますね。特に、ディレクターがロケハンに出かけるのに、重たい三脚というのでは、出かける前から沈んじゃいます。(笑) ハンディカメラが小型になったことで、三脚も小型でいいと思われている感じがしますが、小型になった分、ライトやマイクを付けたりするだけで重心位置が崩れやすくなっていることも確か。HD収録では特にカメラ振れの影響は大きくなっているので、安定した映像を撮りたいなら、1回り大きく、重くゴツい三脚を使って欲しいですね。余談ですけど、キヤノンのEOS 5D Mark IIで映像収録するためにマッチするビデオ三脚って考えると、ハンディカメラ以上に探すのが大変そう。(笑) 豊富なレンズ群が使えるのはいいんですけどね。
秋山:来年はゴツい三脚でしっかり撮りつつ、ファイルベースに身体を馴らす1年となりそうですね。長時間ありがとうございました。
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