txt:石川幸宏 構成:編集部

変わりゆく映像世界

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小型化し高性能化するカメラ機材、汎用化し市場拡大する周辺機材、ガジェット、ツールなど、映像制作の多様化とその市場の広がりなど、これからの映像制作環境が垣間見えたIBC2011。4K、3Dなどの放送規格以上の映像技術への更なる進展なども多いに魅せられた。

だがしかし現実は、歴史的ユーロ安、ドル安で逼迫する経済の背景からも、映像制作の現場が厳しい局面を迎えているのは全世界的な傾向でもあった。さらに安い機材の普及によって制作費自体が減額になり、制作スケールが縮小することで、制作規模の縮小、人員削減など、市場的にみると、特に日本ではどうしてもネガティブな方向ばかりに目が行ってしまう。気軽に高画質、高品位が手に入ることと引き換えに、プロ市場の更なる狭小という条件が引き換えとなっているのは事実だ。こうした背景からも映像制作業界全体には、厳しい二極化へのロードマップが見えてくる。

劇場映画、TVドラマ、イベント映像など4K、高画質、ハイエンドクリエイティブといった分野では、さらにそのクオリティ追求という面が進んで行くことは確かだ。その分野を突き詰める層はハイエンドプロとしてこれからも進化していくだろう。しかし、これまでミドルレンジ以下で映像制作のプロとして生きてきた人たちは、今後はただ専門映像機器のオペレーションが出来る、というだけでは、プロとして生きて行くことは難しい世界もすでにそこまで来ていると思われる。

それがまさに、Apple Final Cut Pro Xの登場に象徴されていると考える。厳しい話だがもしかすると「あれはプロが使うツールではない!」と豪語する人たちは、2年後にはこの世界にはおそらくいないかもしれない。

それはなぜか?今回のIBCでもそれは読み取れる。これまでの映像のプロと言われて来た、映画、放送、業務などのプロ映像業界とは、無縁の人も多く来場していたように思う。一般企業の広報宣伝部などの人。彼らはパワーポイントでプレゼン資料を作るように、すでに会社紹介のプレゼンビデオや、会議記録の映像記録、そしてWebによる商品プロモーションビデオくらいは自力で制作する時代はすぐそこまで来てしまっているのだ。

また個人放送局、個人ニュースプロバイダーなど、USTREAMはまだ欧州では盛んではないが、IPTV用のモバイルブロードキャストツールメーカーなどが大きくブースサイズを拡げていたことも注目したい。要するに様々な分野の人たちが映像制作のリテラシーを身につけ始め、同時に全く別の世界から映像制作のプロとして参入しつつあるのも、世界的な傾向になってきている。

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例えば、Microsoft WordやExcelを初めて覚えたときのことを思い出して欲しい。最初は何をどうして良いかも判らず右往左往して、操作ガイド本を片手に勉強した人も多いと思う。しかしデジタルにおけるITリテラシーとは、自身のDNAレベルでしみ込んでいくようなカルチャーであり、習得した後は過去のガイド本に手を出した人は少ないだろう。車の運転と同じく、一度カラダにしみ込んでしまえば日常的に使いこなせるようになるのがITリテラシーの最大の利点だ。

プロ映像制作の意義を再定義

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デジタル技術を受け入れたことで、今まさにこうしたことが映像制作のリテラシーのなかに起こっている。またこの法則はこれまで紙の世界ではDTPで、音の世界ではDTMですでに実証されて来たこと。映像編集ソフトなどの操作が一般化し、一般人でもフツーに使いこなせる時代になってきた中で、当然映像の世界でもこのようなパラダイムシフトは起こってくる事は間違いないのだ。

それではこれからの映像のプロは一体何を根拠にプロを名乗って行くのか? それはおそらく有能なディレクション=演出勝負の世界、つまり本当のクリエイティビティを発揮できるか、もしくは何か専門性を持って映像制作ができるか?ということだろう。事実、ドキュメンタリー分野、化学分野、リサーチ分野、物販分野などで専門的にPV制作を行っている小規模プロダクションでは、むしろ需要が増しているといった傾向もある。しかもEOS MOVIEなどによるシネマライクな映像制作も取り入れてだ。

ここで改めてプロ映像制作の意義を再定義する時期にさしかかっているのではないだろうか。そしてクリエティブと技術は、以前にも増してより密接な関係になってきた。全ての映像制作ツールが二極化してく中で、これからのムービー制作、映像制作を考える時、何が”プロ”なのか?自身のどこの”プロ”の部分で食って行けるのか?を、もう一度再考する必然があることを改めて痛感した。


Vol.06 [IBC2011] Vol.00