幕張で開催のInterBEE2013。放送機器展ではあるが、シネマ系など、映像全般の機材展示も見られるのが特徴だ。今回はその中から、筆者も業務で関わりの深い、映像制作系、特にシネマ系を中心にしたブースを案内してみたい。

ケンコートキナブースではシネマズームレンズシリーズが登場!

TokinaのCINEMA ATXシリーズは、58万円という、個人クリエイターにも手の届く、安価なシネマズームレンズシリーズだ

今回のInterBEEでの目玉の一つが、間違いなく、このケンコー・トキナブースでのCINEMA ATXシリーズと銘打たれた、3本のシネズームレンズの発表だろう。58万円というシネズームレンズとは思えないほどの衝撃の低価格と十分な性能で大きな話題となった既発表の広角ズームTokina CINEMA ATX 16-28mm T3.0に加え、超広角ズームの11-16mm T3.0、標準~中望遠ズームの50-135mm T3.0の2本のズームレンズの開発が発表された。いずれも、PLマウントとEFマウントに対応し、同社製のスチルレンズを光学系のベースにするところから、価格帯も個人映像作家でも手の届く範囲になる予定だという。

先行して発売されたTokina CINEMA ATX 16-28mm T3.0をCanon EOS-1DCで試してみたが、素晴らしいレンズであった

ピントにシビアなシネマ用途には、どうしてもしっかりとしたギア機構の付いたレンズが必須であり、4K化が進む今、そうした機材の要求はミドルクラス以下の映画制作にも要求され始めている。そうした要求に答えるこれらのレンズ群は、個人映像作家や弱小映像制作会社が、画質でもハイエンドに充分に対抗できるだけの力を与えてくれることだろう。

HOEI SANGYOのFilmlightシステムは、ターンキー販売なのに低価格

HOEI SANGYOブースのかなりの部分を使って、Filmlightの「Baselight」システムが紹介されていた

4K化の一方で、もう一つ進む映像改革が、色表現の向上だ。中でも、RAW現像やLogガンマの技術は積極的に最新鋭カメラにも採用され、今まで日本ではフィルム取り込みゃCGによるVFXなどのジャンルに限られてきていたそうした技術が、一般のコンテンツ制作にも使われるようになってきている。

Baselightシステムは、720万円から始まる、画期的低価格のカラーグレーディングシステムだ。PCベースの安価なソフトでも、真面目にシステムを組むと700万円くらいは軽く超えてしまうことを考えると、サポート付きターンキーシステム販売でのこの価格は信じがたい

HOEI SANGYOブースでは、世界的にメジャーなカラーグレーディングシステムFilmlightの基本システム「Baselight」を紹介。めざといクリエイターを集めていた。このシステムは、最低価格720万円から組むことが出来、本格的な業務用のカラーグレーディングシステムとしては、画期的な低価格となるシステムだ。PCベースの安価なカラーグレーディングシステムでは個体差が大きく、またシステムの組み方によっては当然に信頼性でも問題があることがあるため、統一した環境でのグレーディングが臨まれることが多い。そうした場合には、このシステムは大きな力を発揮するだろう。

また、Filmlightは別途、日本法人を立ち上げて独自ブースも展開しており、そちらでも多くの映画関係者を集めていた。

Filmlightは日本法人を立ち上げ、独自ブースも展開していた。今後の活躍に期待したい

RED Digital Cinemaは、既に6Kへ

RED Digital CINEMA社ブースでは、REDカメラの実機展示を行っていた

REDブースでは、新型6KセンサーDragonセンサー搭載のRED EPICが実機展示され話題を呼んでいた。これは、DCI 4Kでの上映を考えると、撮影時には最低でも5K、切り出しを考えれば6Kでの収録が出来るカメラが欲しいところで有り、それに応える形で、同社の看板カメラであるEPICが6Kのドラゴンセンサーに対応したものだ。DRAGONセンサー搭載EPICではなんと、6Kで100FPSのオーバークランク撮影も可能だ。ダイナミックレンジも、16.5 STOPという深い色深度で有り、かつて無い表現が可能となっている。

RED DRAGON EPICは6K、100FPS、16.5 STOPのダイナミックレンジを備えた化け物カメラだ

実際、6Kということは、多くのデジタルスチルカメラと同じ画素数で有り、これによって、ようやく「全てのコマが写真である」という映画のクオリティにデジタル映像も追いついたことになる。4Kまではまだフィルムに劣る画質であったが、6Kの同カメラの映像を見ると、フィルムに遜色ないどころか、アナログノイズが無いところからさらに鮮明であり、これで、デジタルカメラがフィルムに追いついた、と言えるのでは無いだろうか。

また、その特性上、このカメラをとりあえずまわしておけば、全コマが写真として雑誌の表紙や中版ポスター程度までなら使えるというのも魅力だ。一瞬を逃せないファッションショーなど、スチル用途としての利用も広がるものと思われる。

西華DIブースでは、無線フォローフォーカスが花盛り

西華DIブースはC-motionやFocus Viewなど、4K時代の新機材を展示していた

西華DIブースでは、無線フォローフォーカスが複数展示され、シネマ系カメラマンに注目されていた。無線フォローフォーカスは、MoVIなどのジンバル系新機材には必須のものとあって、一機に普及が始まっている機材ではあるが、その中でも、同社は無線フォローフォーカスの最上位、C-motion社製の3軸フォローフォーカスを導入展示していた。

大型のモーターによるフォーカスの動きは極めてなめらかで、且つ静かで有り、しかも電力はモーター同士のデイジーチェーンで済むため、配線もシンプルなものだ。今まで、無線フォローフォーカスは音の同録が出来ない上、カク付きや振動を後処理で取ることを意識しなければいけないものであったが、このC-motionフォローフォーカスなら、その辺の心配は全くいらないだろう。

C-motionの無線FFは極めて静音で、しかもなめらかだ

また、同社ブースでは、Cineroid社製の新しいLEDライトの展示も行っていた。これは極めて小型で安価ながら、CRI値が92という色転びの少ない、しかも強力なライトだ。

Cineroidの新しいLEDライトは、小型ながら強力、しかも色転びも無い優れたものだ

ビデオライトの置き換えとして、また、小型の仕込み照明としての活躍が期待されるライトだ。Vマウントバッテリーや民生用小型カメラバッテリーなどで動かすことが出くるため、かなりの自由が効くのも魅力と言える。既存のワークフローが改善されるだけでは無く、こうして、まったく新しい撮影手法が誕生するのも、またデジタル化の魅力的なところだ。

CINEMAX社ではTATSUMAKIリグを改良!

CINEMAXブースではTATSUMAKIの改良版を展示していた

フィルム撮影台をイメージさせる全く新しいRIG「TATSUMAKI」が発表から一年たって大幅に改良されて登場していた。現状のTATSUMAKIは、従来の複雑な直立型特殊クレーンとしての利用方法の他、狭いレールに乗せての特機撮影にも対応し、さらに、つり下げ指揮のジンバル撮影にも対応した他、ベース部分や細部に改良を加えることによって使い勝手が向上していた。今までに無かった複雑な動きの撮影が可能になる同システムは映像の幅を大きく広げてくれることだろう。

Libecの安心の国産三脚

国産三脚の雄、Libecブース

Libecブースでは、同社の新型三脚シリーズRSシリーズを継続展示していた。国産三脚メーカーとしてはハイエンドに当たる同社のRSシリーズは、海外メーカーが主流だった映像の世界を順調に変えつつある。複数の三脚が展示された同社のブースでは、実際に三脚に振れることが出来、そのクオリティの高さに、多くの来場者を驚かせていた。

InterBEE会場で、来場者が持ち込んだ三脚を現地メンテナンスして仕上げていた。その技術力とサポート体制には驚く他無い!

また、国産メーカーらしく丁寧なメンテナンスやアフターサポートも特徴で有り、同社ブースにおいても来場者が持ち込んだ三脚の修理を目の前で実演しており、そのサポート体制と、技術力の高さを見せつけていた。

Canon Cinema EOSは安定の領域へ

CanonのCinema EOSシリーズは安定の貫禄。既に映画産業の一角を成して居る

Canon社のブースでは、Cinema EOSシリーズの衝撃の発表から2年。今年は既に一般に定着した映画撮影システムとして、安定の貫禄を見せつけていた。新型シネマレンズの展示はもちろんのこと、同社の映画撮影システムにも最適な業務モニター「DP-V3010」の発表も行っており、多くの来場者の関心を集めていた。同社がついに4Kモニターの世界にまで進出したことは、同社が映画撮影をトータルに扱っていく姿勢を示したものであり、今後の更なる展開に期待をしてしまう。

ついにCanonが4K業務モニタに進出!DP-V3010の誕生は、既存のモニタメーカーにとっても衝撃的だろう

ランサーリンクでは、ついに350メートルの伝送機を発売

SKYWAVEソラリスは、なんと、350mもの無線伝送が可能。無線FFと組み合わせればMoVIなどを手にしたカメラマン単独で自在に進めるということであり、撮影範囲の大幅な向上が期待される

今回のInterBEEの方向性として、4KよりもHD機器の充実があげられる。なかでも無線伝送で定番化してきたランサーリンク社では、今回、ついに350mもの遠距離の無線伝送を実現した新型SKYWAVE「ソラリス」を発表しており、テレビ局関係者のみならず、自在な撮影環境を望む映画関係者の注目も集めていた。

ランサーリンク社ブースでは、話題のMoVIのほか、そうしたジンバル系RIGを生かす無線伝送システムを発表していた

特に、同社ブースに並行展示してあったMoVIなどのジンバル系機材においてはケーブルによるジンバル動作の阻害が問題であり、映像そのものの無線伝送は、ピント合わせやモニタリング、そしてバックアップの収録にも極めて重要だ。こうした遠距離の無線伝送システムは、カメラアシスタントによるサポートを容易にするだけでは無く、撮影ベースからの直接のカメラコントロールをも実現させるものであり、映画のワークフローも大きく変える可能性を持っていると言える。

SKYWAVEと無線フォローフォーカスの組み合わせで、フォーカスマンやカメラ機能のサポートを後方に展開することが出来るため、カメラマン単体での移動撮影が可能となり、撮影手法が大いに広がることになるのだ。元々テレビ局向けとして開発された同システムだが、映画撮影などにも大いに使えるシステムだと言えるだろう。

総括

こうして、映像制作系やシネマ系の機材をテーマとして取材をしてみても、多数の機材が存在するのがInterBEEの面白いところだ。報道機器が大きく注目される同展示会ではあるが、あくまでも広く業務映像や放送機器に関する展示会なのだ。2020年東京オリンピックを控え、デジタル化、そして4K、8Kなど高精細化の進行によって、このあたりの垣根は、ますます低くなることが期待される。


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WRITER PROFILE

手塚一佳

手塚一佳

デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。