英雄への信頼「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」のサウンドスケープを構築する
クリエイティブマスター・シリーズの1セッションとして、“Heroes,We Trust:Building the Soundscape for Captain America:The Winter Soldier(英雄への信頼:「キャプテンアメリカ:ザ・ウィンターソルジャー」のサウンドスケープの構築)”が2014年4月9日(米国時間)に開催された。
モデレーターはミックスマガジンの編集長、トム・ケニー氏。ケニー氏とサウンドチームとのパネルディスカッション形式で、マルチアワード受賞のサウンドチームから2014年4月4日に公開された“キャプテンアメリカ”第二弾サウンドスケープの制作背景を学ぶ。
登壇したのは、マーベルスタジオからフィーチャーポストプロダクション担当SVPのBruce Markoe氏に続き、スカイウォーカーサウンドからサウンド編集&デザイナー監督のShannon J. Mills氏とサウンド編集監督のDaniel Laurie氏。Mills氏はアバター、Laurie氏はハリーポッターを担当した実績を持つ。
創造的なビジョンを実現する上で特殊なサウンドを設計し、そしてサウンドスケープを定義。視覚的パワフルな映像にバランス合わせたサウンドトラックを制作する最新の技術とワークフローについて話が広がった。
キャプテンアメリカは非常に“レイブ”なレビューがされており、公開最初の週で約1.17億ドルもの興行利益を出した。Markoe氏曰く「壮観なサウンドスケープがポストプロダクションで制作されていなかったら、真っ逆さまに酷い評価へと堕ちただろう」と話す。
ファルコンの飛行やハイウェイでの壮大なアクションのクリップを視聴しながら、対談は続く。ハイウェイでのアクションシーケンスでは、砂っぽいリアル感がリクエストされたという。そこで砂漠で車を走らせて音を収集した。また銃音については、都会での打ち合いの音を作るために、安全な場所でもコンクリート壁がある場所を探すなど、かなり苦労したという。
もう1つ難関だったのが、ストーリーでは1950年にロシアでスクラップメタルから作られたというウィンターソルジャーの“腕”で、監督からは「ヴィンテージものの音」という依頼だったという。つまり高度なロボット工学がなかった頃に生まれたものとして原始的な音が出るように仕向けられた。
サウンドフォーマットには、サウンドを指定位置に配置することができるドルビーのAtmosフォーマットでミックスされた。たとえば、ファルコンが飛んでいるシーンでは視聴者の周りに飛んでいくように音効果をつけられる。
またヘリキャリア(Helicarrier)についても質問が上がった。今回の映画のヘリキャリアはアベンジャーズで登場したものから新しいエンジンを実装していることもあって、サウンドを一から創っていくという実験的体験となったと、Mills氏は説明した。ロケットエンジンの音のレコーディングから様々なロケットの音を作ったり、また運転している車からマイクロフォンを出して風の音をとったりして、それらを合成して巨大な母船が出す膨大な音を作っていったという。
実はこれだけの試行錯誤の時間を費やすサウンドの製作費は、全体のたった1%しか与えられていないという。しかし、映画を観ている視聴者がエラー箇所として最初に気が付くのはサウンドだ。キャプテンアメリカでも1つ1つの音効果がどれだけ映像をリアルにしているか、説得力、影響力、迫力を作り出すのは、ビジュアルにマッチングしたサウンドからだ、とチームは頷いた。
ディズニー傘下としてマーベルとルーカススタジオが合わせて制作に挑んだ今回の作品。制作環境の違いは、という質問に両者からもマーベルは非常に協力的なスタジオだという答えがあった。マーベルのクリエイティブ部門の上層スタッフは、ポストプロダクション然り、制作開始当初からプロセスに必ず携わるという。そのことは映画作品自身にも制作環境にも非常に良い影響を及ぼしていると語られた。
txt:山下香欧 構成:編集部