2年に1度開催される映画撮影関係者向け展示会cinec

ドイツ・ミュンヘンの市街中心からUバーン(地下鉄)で約20分のところにあるMOC-Veranstaltungscenter Münchenで9月21日~23日(現地時間)で開催された、映画撮影機材専門の展示会cinec2014(シネック)。こちらもPhotokinaと同様に、2年に一度行われる映画撮影関連のカメラ、特機などを集約したトレードショーで、20年前から開催され、ちょうど今年が第10回という節目の回となった。シネックはあくまで商談が主な目的の展示会であり、IBCのように放送・業務ビデオ関係者は全く来場せず、完全に映画撮影関係者向けの機材に特化した内容となっているのが大きな特徴だ。

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ARRIのお膝元ミュンヘンで開催されるcinec

元々がミュンヘンはARRIのお膝元ということもあって、ARRIがメイン出展者になっているようなイベントでもある。前回の2012年実績でも来場者数は3,900人と非常に少なく、ほぼ関係者に限られている。しかし出展者側の話を色々訊くと3日間の開催期間があるため商談内容の密度を濃く、そして長く持てるため、出展者側にとっては実りの多い魅力的な展示会だそうだ。

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ミュンヘンで開催される本家“オクトーバーフェスト”。軒並みホテル代は、3倍に…

今年はちょうど開催初日に、ミュンヘンでは“オクトーバーフェスト”という世界的に有名なビール祭りの期間の初日にあたっている。これは毎年この時期から1ヶ月間、ビール大国を誇る本場ドイツ・ミュンヘンで開催される、なんと世界各国から650万人以上を集めるという世界最大のビール祭りで、いまや世界中に、そして日本にも広がっている祭りだ(ちょうど日本でも現在開催中)。その本家本元がここミュンヘン。この時期は市街中心部では、女性は民族衣装のディアンドルに着飾ってビールを楽しむなど、多くの観光客で溢れかえっている。

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実はシネック開催は、わざとこの期間に合わせて開催されているとのことで、出展社は世界から訪れるお客のために、オクトーバーフェストの席を予約しており、展示会終了後はそちらの会場へそのままなだれ込んでもてなすという趣向だそうだ。

開催規模としては、MOC展示場の2、3ホールのみを使用、日本のサイズと比べてみると東京ビッグサイトの1ホール分といった小さな規模だが、各ブースは小さいながらも主要な映画関連機材メーカーがほぼ全て出展しており、1日でほとんど見ることができるという意味では、商談にはうってつけの展示になっている。日本からの来場者はメーカー関係者のほか機材販社や、特機レンタル会社などが多く訪れていた。一部屋外での大型クレーンの展示等もあった。

ARRIのハイレゾリューションは65mm

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ベールを脱いだALEXA 65

すでにPRONEWSでも第一報をお知らせしているように、今年はARRIから素晴らしい発表があった。65mmラージフォーマットを実現する新たなデジタルシネマカメラの未来を開く「ALEXA 65」の登場という大きなニュースに初日の朝から大いに会場が湧いた。

4K、そして8Kといった高解像度化に伴い、更なる大判センサー搭載への進化を続けるデジタルシネマカメラの世界において、シネマカメラ界の巨人であるARRIが出した答えはフィルム時代の65mmカメラのデジタル化だった。フィルムベースの歴史を生きて来たこの会社が考える方向性は、当然と言えば当然だ。

ただその開発の噂はここ近年多々あったものの、昨年夏には安直な高解像度化への進化の無意味さを意味する発言があったり、さらに今年のNAB、そして9月に行われたIBCでも、それらをほのめかすアナウンスさえ何も無かった。まさに地元開催の、このcinecに合わせた発表をにらんでの開発だったことがここに明かされたのである。

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名機65mmフィルムカメラARRIFLEX 765

ところでARRIの65mmカメラの歴史は、いまから25年前まで遡ることになる。1989年に登場した65mmフィルムカメラ「ARRIFLEX 765」が現在まで長きに渡り大型作品の撮影に使用され、我々もIMAXなどでその作品の迫力を目にして来た。ARRIFLEX 65mmで撮影された作品としては「リトル・ブッダ(1993)」「ハムレット(1996)」「サンシャイン(2007)」「シャッターアイランド(2010)」そして近作では「ゼロ・グラビティ(2013)」など、日本でも上映された有名作品も数多い。ARRIFLEX 765は、米アカデミー賞でそのカメラデザインを賞され、またレンズもツァイス / ハッセルブラッド 765レンズが使用されてきた。

そして時は2014年。デジタル化の波はシネマワークフローを完全に制覇し、次第にその“大仰な”ワークフローそのものが時代に符合しなくなって来た。例えば素材ストックとプロセスにおよそ$2,500 / 10minというコストがかかる。もしくはデイリーと名がついているが撮影した素材は65mmの場合、その現像に3~5日かかってしまうというリスクは、もうこの時代の映画制作のワークフローの常識としては通用しなくなっている。そのARRIFLEX 765のリプレース機として登場して来たのが、このALEXA 65である。機材の詳細スペックは既報の通りだ。

発表当日に行われたプレゼンテーションでは、定員が予想を大幅に上回ってしまい、急遽ALEXA 65のデモ映像試写と内容発表を2回にわけて行うなど、大変な盛況ぶりだった。

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面白かったのは、次のラージフォーマットを目指す例えで、アメリカのルートビア、イギリスのミルク、そしてドイツのビールの各々の容量に例えて、我々がやるなら当然このぐらい大きい物だ!といった意気込みを見せた。プレゼンテーションでは正に撮りたてのALEXA 65のデモ映像やALEXA XTとの比較映像なども公開。その細部の鮮明さには驚かされるばかりだ。

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「ALEXA 65」初号機

実はこのALEXA 65は、わずか18ヶ月の歳月で生みされ、スピード開発されたものであり、最初の設計が始まったのは昨年2013年の3月だ。さらにALEXA65の開発には、ちょうどその同じ2013年3月13日に他界した、長年ARRIに偉大な功績を残してくれたARRI Mediaの3D&デジタルシステムのヘッドチーフであった、Bill Lovell氏へのトリビュートという意味合いも込められている。

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昨年12月の段階で、最初の65mmセンサー(ARRI A3X CMOSセンサー)が完成、今年3月には新センサーによる撮影テストが始まった。しかし実際は今年5月の段階ではまだこのような箱型カメラの状態だったという。そして今年8月にようやく実際の製品スペックまでの出力が可能となり、今回発表された388(全長)×208(横幅)×163(高さ)mm、重量10.5kgという実製品サイズに全ての技術が納まったのは、この9月になってからのことである。シネックではまさに完成したばかりの初号機が展示されたわけだ。初号機のリリース(レンタル開始時期)は、今年のクリスマス頃とこれまた早いスパンを発表している。

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そしてレンズも当然これまでにない大型センサーのため、既存のレンズで仕様に合わないのは当然。そこでレンズマウントもXPLという65mm専用のマウントとなり、レンズ自体もハッセルブラッドの設計により「ARRI PRIME 65」が新開発された。実際の製造はフジノン(富士フイルム)が行っているようだ。レンタル当初は24、28、35、50、80、100、150、300mmの8本の単焦点レンズが用意されるが、35-90mm、50-110mmの2本のズームレンズも開発中で2015年にはお目見えする予定だ。

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ハッセルブラッド設計のARRI PRIME 65

このALEXA 65は、ARRIレンタルによるレンタル専用カメラとなっており、まずは最初の30台をミュンヘンとロサンゼルス(ハリウッド)各々でまわして行くという。日本の現場での使用というのは当面なさそうなのが現実だが、4K・8Kへの映像解像度先進大国を目指す日本なので、当然この6.5Kに相当するラージフォーマットの先進カメラと、そこで撮れるコンテンツに魅力を感じている層はあるわけで、当日も多くの日本人が見学に訪れていた。

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ただ65mmのワークフローを一から作り上げなければならないのは機材、技術面というよりも、そもそもフィルムの65 / 70mmのラージフォーマット制作を経験したことのある人材がどれだけ居るのか?という人材面のほうが重要なのでは?という意見もある。また今回のレコーダーとしてこれも専用のcodexのVAULT Sが用意されたが、65mmサイズのARRI RAWデータを処理できるポスト体制の問題も大きいだろう。

デジタルになったことで65 / 70mmというラージフォーマットは、より身近になったことはいうまでもない。今回のARRIレンタルの提案も、いまの65mmフィルム撮影に比べ、リアルタイムなデイリー処理や、対撮影時間のポストコストの割安感など、実はこれまでよりかなりのコストを抑えられるというのが、このALEXA 65の一番の売りである。その点を見れば、今後もしかすると日本でもデジタル65mm撮影という案件が出てくるのかもしれない。

txt:石川幸宏 構成:編集部


[cinec2014] Vol.02