Inter BEE 2014 11月19日
江夏正晃 レゾネッツ
音声のIP転送、Audio over IPの技術を多チャンネルハイレゾに応用させ話題を呼ぶ。MADIを採用し、光ケーブル、同軸ケーブル1本で64ch(48KHz)を同時に伝送する。現場での音声をMADIでシンプルにワイヤリングし、遠く離れたスタジオにIPで伝送できる技術はこれからのハイレゾ収録時代に革命を起こしそうだ。
LUCI
iOSでAudio over IPを実現。コストダウンを図りながらも、高品位なAudio over IP伝送が行える。多点での中継が必要なラジオ、インターネット放送などでその利用価値がありそうだ。
AEA
リボンマイクのオリジネーターともいえるMr.リボンマイクWes氏本人がInterBEEに来日。新作N22、N8を発表。その性能はコンデンサーマイクとは違った個性を持ち、今、その性能が見直されている。
GENELEC
新製品8351AがInterBEEに初お目見え。3way同軸モニターは今までの8000シリーズとは一線を画す仕上がりになっている。スピード感のある低音、濁りの無い高域は今後たくさんのスタジオで採用されそうだ。
LEWITT
何とセルフノイズ0dBを実現したLCT550、USB接続でステレオまたは外部入力を可能にしたLGT650などのユニークなマイクを発表した、新興メーカーLEWITT。AKGをスピンアウトしたエンジニアが立ち上げたこのメーカーは今回のInterBEEでも話題に。
手塚一佳 PanasonicのVARICAM 35のV LUTやARRI ALEXA 65の包括的なハイエンドの「色」環境で大きな進歩を遂げた今年のInterBEE。そのもう一つの側面が、ミドルレンジクラスに今までのハイエンド製品クラスの性能が一気に下りてきたことだと言える。機材のカタログスペック的には4K環境は既に当たり前だが、正直なところ今までそれは現実的とは言えなかった。これは単純に4Kの高解像度には必須のカラーコントロールや編集を行う環境が全く整っていなかったためで、そもそも収録機ですら、ミドルレンジにはあまり種類が出ていない状態であったのだ。しかし、今回のInterBEEにおいてハイエンド製品が大きく前進したため、今までハイエンド製品として扱われていた機能がミドルレンジに下りてきたのである。
中でもオタク的に注目なのが、AJA CION。単に4Kが連番で撮れるカメラというだけで無く、なるべく市販の規格を採用することで、製品発表時からきちんとした周辺環境をぶら下げているのが特徴だ。
また、同社のライバルであり、Blackmagic Cinema Camera(BMCC)などで先行するBlackmagic Designでは、ハイエンド編集ソフトFusionを無料で打ち出したり、UHD収録フィルムスキャナーを自動車程度の価格で販売するなど、4Kの環境作りをさらに強力に推し進めている。
他社も、単にカメラ側だけでは無く、撮影時の環境作りもとても充実してきているのも今回のInterBEEのみどころだ。例えばKOWAのPROMINARレンズは、マイクロフォーサーズで実売10万円を切る低価格でありながら、定番三本セットのプライムレンズで、4K対応を打ち出してきている。こうした機材に実際に触れるのは、何とも嬉しいことである。
石川幸宏 開催2日目、印象として例年より若返った来場者層(というより、こちらが歳をとっただけか!?)が目立った今年のInterBEE。開催50回という記念すべき年でもあり、会場はいつもよりさらに活況だったように思える。さらにそこに追い打ちをかけたのは、やはり総務省が今年8月末に示した、4Kそして8Kへのロードマップ提示だろう。この大本営発表ともいうべき国の指針の明示により、放送業界は一斉に4Kそして8Kへの進路に一斉に舵を切ったと言える。展示もより実用的な4K/8Kへ向けた製品やソリューションが席巻した。
パナソニックが今春のNABで発表したニューVARICAM。カメラ内グレーディングを始め、これまでのシネマカメラのマイナスポイントを全て凌駕したようなその仕様はハイエンドコンテンツに充分に見合う内容と思われ、ようやくこの10月に出荷開始された。搭載された最新テクノロジーの中でも注目なのは、4Kカメラの「VARICAM 35」に搭載された「デュアル・ネイティブISO」という、ベース感度をISO800とISO5000の2つ持つユニークな機構。特にISO5000時の映像では深夜の月の無い夜にノーライトでもモノの輪郭が視認でき、ノイズも極めて少ないという、これまでにあまり見たことの無い不思議な画。新たなコンテンツアイディアを引き出す技術になりそうだ。
今年、販売本数累計1億本を超えたEFレンズを有するキヤノンは、レンズ技術を中心にアカデミー賞やエミー賞などの受賞展示や大型天体望遠鏡用レンズなど「レンズミュージアム」と称したブース展示を展開。中でもNHKに納められている8K対応19.7mm×7倍のSHV(スーパーハイビジョン)放送用レンズの参考展示など、高解像度を決める入力部分のキーポイントである、レンズ光学の深い知識を得るための展示が興味深かった。
小寺信良 今年のInterBEEは、4Kに行くことがわかった放送業界に対して、機器メーカーがHDから4Kへのマイグレーションを睨みつつの機器を作ってきたところが印象的だ。つまり今4Kはいらないが、どうせ買うならあとで4Kにできる機器を、というニーズに応えた格好である。
パナソニックのテクニカルスイートに展示されていたライブスイッチャー「AV-HS7300」もそんなモデルだ。同社としては久々となる、4MEの大型スイッチャーである。現時点では1080/60pのスイッチャーだが、オプションボードの追加で4K(HD-SDI×4)のスイッチングが可能になる。1080/60iで運用する場合は、8MEとなる。
久々に登場するパナソニックの大型スイッチャー「AV-HS7300」
4Kで使用する際にはME数が1.5MEに減るが、まあ単純に1080/60pの4倍のリソースを食うわけだからそうなるだろう。本来なら1MEになってしまうところ、最終段に簡単なP/P列が加わるという格好だ。4Kへのアップグレードはおよそ1年後からを予定している。
もう一つ参考出展されていたのは、AVC-Intra 4Kの技術を応用した、8Kのレコーダだ。P2カード4枚を同時に動かして、4K×4を同期させることで、8Kの収録と再生を実現する。実際にカードスロットは8つあり、A/B2セットで動くようだ。8Kの入出力は1系統しかないため、2系統録画は考えられない。
P2カードを利用する8Kレコーダ
P2カードは2グループ分備えている
SDカードスロットも備えており、HD解像度のプロキシファイルも同時に生成、編集に活かすという。もちろん、プロキシで編集したからには、最終的には8K素材が編集できなければ意味がない。現時点で8Kが編集できるシステムは未だ試作レベルであり、実用化にはまだかかる。将来的には、このプロキシ編集したEDLなりのデータを読み込んで、このレコーダ内で8Kファイルが自動編集されるという世界を目指すことになるものと思われる。
8Kの編集システムということでは、Grass ValleyがEDIUSをベースにしたターンキーワークステーション、HDWS 8Kを参考出展していた。8K/60pが編集できるよう、ハードもソフトも完全にカスタマイズしたもので、現時点では価格は付けられないレベルであるという。
8K編集システム、HDWS 8Kの試作モデル
編集作業に対してのストレージスピードおよびプロセッサ処理は間に合っているが、映像のディスプレイ処理が間に合わない。技術的な目処は見えているが、現実的な動作レベル(もちろんコストも)はPCテクノロジーの進化待ちになっている。
未来の姿を感じさせる製品としては、本日の練り歩きでもお伝えしたが、ソニーのIP伝送システムも面白かった。2年前にIP55がデビューし、HD信号4系統をイーサケーブルで伝送できるところまで来たのはご存じだろう。あの技術を応用して、今度はイーサネットを使った4Kの伝送を可能にした。ベースバンドに対して1/4程度に圧縮しての伝送となるが、今どきの圧縮技術を用いて1/4ぐらいなら、まったく問題ないレベルだろう。この技術は、このインターフェースボックスをどう使いましょうか、ということに留まらない。将来的にはカメラにイーサネットのポートが付き、スイッチャーの入力にもイーサの口がずらりと並びますよ、という話なのである。SDI技術にとって変わる伝送規格として、要注目の技術だ。
江夏由洋 4Kだけじゃない!今話題の機器
もちろん今年のInterBEEのキーワードは昨年同様に「4K」あるいは「8K」であることは間違いない。各所ではさまざまなジャンルで、4Kを制作に取り込めるかということを展示していた。新しいカメラしかり、編集しかり、モニターやディスプレーしかり、いよいよ技術が4Kや8Kを十分に受け止められることができる時代になったということだ。
そんな中、4Kというジャンルではないものも一部大きな盛り上がりをみせている。その一つが「ドローン」だ。つまり無人小型のヘリコプターによる空撮技術である。2年ほど前から爆発的に人気を集める空撮技術は加速度的に発達し、さらには価格の手ごろさも相まって、一気に火がついた。この空撮ブームの火付け役こそが、DJI「Phantom」だ。今年のInterBEEで初参戦となったDJIの代理店であるセキドでは連日大勢の人を集めている。DJIからは新機種Phantom 2が人気を博していたのだが、注目は先週発表になった「Inspire 1」だ。4Kカメラや未来的なデザインもすごいのだが、もっとすごいのは位置補正のためのカメラを内蔵していることだ。安定した飛行を実現するための画像認識技術を搭載しているため、GPSの届かない場所でも機体がブレナイらしい。
まだプロトタイプであったがInspire 1は相当な人気になるだろう
そしてもう一つ注目なのがSteadicamの新シリーズであるSteadicam Solo。これは従来のギンバルを搭載した「一脚」で、あらゆる撮影シーンにおいて活躍が期待できる機材だと言っていい。一脚として使いつつ、動きのあるシーンでは即浮遊するようなスタイルに移ることができるのだ。アームやベストも別売りで用意されているため、カメラが重くなる場合は併用できるようになっている。これはとても便利であること間違いなし。
一脚にもなるSteadicam Solo。価格も抑えめで嬉しい
いかに新しい映像表現を取り入れるか。こういう目線で会場を巡るのもとても楽しいものだ。明日はいよいよ最終日。是非足を運んでみてほしい。
林和哉 InterBEE2014。50周年記念と言うことで、会場入りするだけで勝手に盛り上がってしまう自分がいます。今回、気になるものを好きに紹介させてくれるということで喜んでやらせて頂きました。今年のキーワードは「4K」ですが、それに因んだもの限定ではなく、より根っ子の部分のものにフォーカスを当ててみました。
ステディカム+MoVI M5
会場で気になっていた撮影機材系No.1がこちら。下部は移動ショット機材の筆頭、Steadicam。あまたの映画で活躍し、その自由度の高い移動ショットは真にスペクタクル。同時に映像制作に携わる人にとって憧れでもあります。その理由は、習熟にはそれなりの時間が掛かり、かつ独学では届かない境地がある孤高の機材であり、なまなかでは使えないからです。上部には昨年ゲームチェンジャーという流行語(映像制作業界限定)まで創り出した、めちゃくちゃ安定した移動ショットを誰でも手軽に撮れるようにした特機・MoVI。その両方ををくっつけると、Steadicamの振動吸収特性とMoVIのねじれに強い特性を併せ持ったスーパーな機材になるのです。あげくにローアングルからハイアングル、カメラを前に突き出したまま前後移動など。これまで諦めていたような移動ショットが実現可能に。実際その柔軟なカメラワークに驚きました。このセットの重さはベストなど込みで6kg。体力に自信の無い人にも充分扱える重さで、移動ショットの習熟度が満たない人にも手軽に使える敷居の低さです。是非一度実機をご覧頂きたい。
※ステディカムは、銀一・柳下氏が公認トレーナーとしてトレーニングを始められているとのこと。今後ますます普及することが期待されています
BORIS CONTINUUM COMPLETE
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たまたまブースに立ち寄っていらしたAfter Effectsの伝道師・緒方達郎氏を巻き込んでのレビューとなったこのプラグイン。こちらは、あまたのスイートプラグインを包括するような、全230フィルターと3000のプリセット。緒方氏からも「たくさん有るのがいいですね」という言葉もありました。「こんなこといいな」「できたらいいな」と思うことを、「はい、BORIS CONTINUUM!」と解決してくれる何でも入りのゼネラルスイート製品。まずは何から揃えればいいんだろう、という方にはじめの一歩のプラグインだと思う豪華さでした。
NUKE STUDIO
今回大注目したのがこのアプリケーション。数々の名VFXシーンを生み出したデジタルドメイン社のインハウスツール「Shake」を起源として、アーティストの欲求に応えるために日々進化し続けるNUKEの、最新バージョンv9の目玉として登場したのがNUKE STUDIO。定評のある縦に積み重ねていく合成作業の強力さに、横方向(時間軸)の編集作業環境をインテグレートしてしまった。今まで、カット毎にレンダリングしたものをノンリニアアプリケーションに読み込んでカット間の繋がりをみるしかなかったものが、これ1つで完結してしまう。編集→グレーディング→コンポジット、エフェクト→手直しグレーディング→コンポジット修正→書き出しと言った流れが簡単に。これはかなりな事件だと思います。
MODO
楽しい3DCGアプリケーション、と言った印象のMODO。僕の映像制作の勉強はじめはSoftimage3Dでした。IKで子供の頃に落書きで書いたキャラクターを動かすことが楽しく、夢中で制作してました。このMODO、すごく手軽に3Dアニメーションが制作できるツールだそうで、2Dアニメーターの方も手軽に始められるというお話。ちょっと自分の名刺で使ってるイラストを動かしてみたいと思いますね。
GH4 Logの噂
パナソニックのブースにあるGH4に噂のLogモードが入っている、という噂を聞きつけて真偽の程を確かめに行った我々だったのですが…。
だんだん映像業界を取り巻く環境に賑やかさが復活してきている感じがする2014年です。このInterBEEで展示されている諸々が、来年の映像業界を動かしていくわけですね。この記事以外にも、たくさんの方がレポートを上げていらっしゃいます。是非皆さん、InterBEE2014の歩き方を参考に来年のトレンドに乗り遅れませんように!