txt:稲田出 構成:編集部
急速に進むIP化。新しい映像提供のされかた
昨年もIPは話題になっていたが、積極的に推進し、製品化しているメーカーは少なかった。理由の一つとしてパケット落ちや遅延、同期などの問題があったからといえるが、今年はAIMS(Alliance for IP Media Solutions)アライアンスや、ソニーIPライブアライアンスのほか、TICOアライアンス、ASPEN(Adaptive Sample Picture Encapsulation)コミュニティなど、それぞれ一長一短はあるものの、ある程度方向性は決まってきたようである。今後統合されていったり、適材適所で使い分けが進んでいくことと思われる。
いずれにしても4K/8Kでは従来のSDI伝送では難しくなり、HDや4K/8Kが混在するようになればなおのことIP伝送が必要になるだろう。国内ではすでに難視対策とか情報過疎化、災害放送などでCATV局のインフラがIPで整備されているところも多いものの予算的な問題もあり、すぐには導入できないのではないだろうか。キー局もすでに系列のネットワークが構築されており、BSやCS、インターネット放送を行っているところもあるので、4K/8Kが本格的に普及するまで様子見になるような気がしてならない。こうしたことが海外ほど国内では注目されない理由といえるだろう。
海外ではスポーツイベントを専門に扱うプロダクションがあるが、そうしたプロダクションでは、スポーツイベントを複数の放送局などにリアルタイムで配信したりするわけだが、衛星やマイクロを使うよりIPのほうが何かと都合がよいので、すでにそうした装備の中継車を導入したプロダクションがあったりする。国内でも局と資本関係のないプロダクションが中継車を所有している会社もあるが、特定の局などに依頼されて中継車で収録するというスタイルだ。イベントを主催する側がこうしたプロダクションを使って必要な局に配信するスタイルが多くなれば、IP化のメリットがでてくるだろう。スポーツイベントや音楽イベントでは、会場内の大型スクリーンなどに映像を流したりしているので、設備的にはIP化のメリットはあると思われる。
また、放送局などでもすでにネットからの情報を番組制作に活かしているので、IP化とリンクすることができるかもしれない。海外では独立した地方局やCATV局、インターネット放送局などが多いが、国内では殆どの地方局はどこかのキー局の系列だし、独立したCATV局も少ないのが現状。国内でのIP化は番組制作にどのように活かせるのかが鍵になりそうだ。イベント関係では国内だけでなく海外への配信、例えば相撲や海外でも知名度のあるアーティストのイベントならば言葉の壁を超えて配信可能だろうし、カワイイを発信する原宿放送局や、オタクの聖地アキバなど可能性がありそうだ。すでに個人で何十万ものリスナーをもつYouTuberなども存在するのでコラボするというのもありだと思う。
国内でのIP化は既存の回線をIP化とか4K/8Kの伝送路としてのIP化よりもこうした取り組みにより新たなビジネスモデルとリンクした発想が必要ではないだろうか。ネットの世界は4K/8K、HDRなどフォーマットにとらわれない配信が可能で、コンテンツの内容に合った配信ができる。PRONEWSでも360°の動画配信を行っているが、視聴者が自由な視点で視聴できるというスタイルは昔流行った3D放送とは別の次元といえるだろう。こうした映像の配信では視聴者が視点を選択する操作が必要になるわけだが、スマホをディスプレイとして利用することで、スマホ内のジャイロセンサーに連動した視点の操作も可能だ。今のところこうしたバーチャルリアリティを利用した番組を配信している放送局はないが、新しい番組制作としての可能性はあるのではないだろうか。
SDIに代わる伝送路としてSDI over IPが4K/8Kでは必要とされており、すでにSMPTE 2022という規格が決めれられている。現在ベースバンドで伝送できるSMPTE 2022-6から2022-7へと進んでいるが、今回のNABではAIMSおよびIPライブプロダクションを採用するメーカーが多かった。いずれSMPTEの規格になってくるだろうが、別々の規格となるのか統合されるのか、今後の成り行きに注目したい。
AIMS
AIMSアライアンス参加メーカー
IPライブ
IPライブプロダクションアライアンス参加メーカー
効率的なIP伝送におけるプロトコルとしてASPENとTICOを採用するメーカーが今年のNABでは多かった。TICOはintoPIX社の圧縮フォーマットを採用しており、最大で4:1の視覚上無損失(ビジュアリー・ロスレス)の圧縮技術となっている。ASPENはMPEG2-TSベースの圧縮で、独立したビデオ、オーディオ、補助データ・フローを用いた超低遅延を特徴としている。
ASPEN
ASPENコミュニティ参加メーカー
TICO
TICOアライアンス参加メーカー
AJA Video Systems
KONA IPは、AJAのPCIeキャプチャカードKONAシリーズの次世代製品で、SMPTE 2022-6 IPカプセル化された非圧縮3G-SDI、HD-SDIとSD-SDIビデオ、オーディオやVANCデータに対応
Blackmagic Design
DIとIPの双方向変換が可能なTeranex Mini IP Videoコンバーター
グラスバレー
SDIとIP(SMPTE2022-6)双方のブランキングスイッチに対応したGV Node。IPプロセッシングとルーティングが可能なSDIとIPSMPTE2022-6双方のブランキングスイッチに対応したルーティングプラットフォームで、1ノードあたり144×144ビデオと4608×4608オーディオに対応しており、TICOコーデックの採用により4K1ワイヤー伝送にも対応可能
1または2M/E、HDや4K対応などソフトウェアライセンスで選択可能なスイッチャーGV KORONA
NewTek
NDI(Network Device Interface)を実装することで、TriCasterなどをVideo over IPへ簡単に移行することが可能。NDIはSMPTE 2022だけでなく新たに生まれる標準への統合にも対応できるので、複数の映像システムをネットワークを介して認識・コミュニケーションが可能。リアルタイムに大量の高品質、低遅延かつ高フレーム精度でエンコードし、双方向の伝送が行える
JVCケンウッド
Sports over IP。スコア入力機能を搭載したIPストリーミングカメラGY-HM200SPや、コーチング向けに選手のバイオメタリック情報の同期ができるシステム
JVCケンウッドIP Gateway for 4K。参考出品のIPベースのスタジオ制作分野に向けたHD IPデコーダーBR-DE900Uと、HD IPエンコーダーBR-EN900U。BR-DE900Uは2つのライブ映像を同時に出力でき、リターンオーディオにも対応可能。BR-EN900Uはテレプロンプターに対応する原稿映像の送出ができるほか、カメラへのリターンビデオ機能を搭載。低遅延で安定したストリーミングシステムとなっている
パナソニック
AVC-Ultraクラウド&IPソリューション。LTEやWi-Fiを利用したP2カメラライブストリーミングシステム。取材先の映像を放送局ですぐに確認できるクラウドネットワークサービスP2Cast。LiveUを利用したQoSライブストリーミングシステムなどを紹介
パナソニック有線LAN、無線LAN、4G/LTE回線に対応したネットワークサービス。PC/Mac、タブレット端末、スマートフォンを用いたワイヤレスプレビューやリモート、クラウドサーバー等への自動アップロード、ストリーミング送出が可能
ソニー
IPライブプロダクション。HD-SDIとIPネットワーク技術を融合させ、従来複数のケーブルで行っていた機器間の映像・音声・制御・同期信号の伝送を、ネットワークケーブル1本で実現。HD、4Kを始めとした複数の映像および音声をネットワーク経由で多地点に同期伝送し、スムーズなソース映像切り替えが可能
ソニーXDCAM Air。ワイヤレスソリューションを更に強化するサービスのコンセプト展示で、クラウドベースのXDCAMカムコーダーによるENGシステム
GoPro
GoPro Odyssey。Jumpカメラリグに16台のGoPro HERO4 Black Editionを1つにまとめたもので、8K30pの3Dビデオ撮影が可能。Googleの3Dアライメント法により、シームレスで美しいパノラマが作成でき、動画をAndroid向けYouTubeアプリで視聴可能
Streambox VIRTUAL REALITY。クラウドベースのライブServer用に最適化された独自のACT-L3 4K VRビデオ圧縮で4Kエンコードすることで、低データレートで4K映像を3G、4G、LTEネットワークで伝送可能なほか、ビデオルーティング、アーカイブ、および管理のためのクラウドベースのライブに対応。マイクロソフトHoloLensのほか、Google Cardboard、サムスンGear VR、HTCViveなどをサポートしている
txt:稲田出 構成:編集部