txt:江口靖二 構成:編集部
自動運転車が乗せる未来
セントラルホールのロビーに置かれた車両
NAB2018では、会場内を「Autonomous car」、いわゆる自動運転車が参加者を乗せて走行するデモを行っていた。建付けは自動運転車のデモというよりは、ATSC3.0で実現される移動体向けのライブHD放送の受信のデモで、NAB会場のラスベガス・コンベンション・センターのセントラルホールとサウスホールの間で参加者を運んでいた。
乗り場の案内
車両はドライバーレスのシャトルバスを製造するフランスのスタートアップNavya社製で、オペレーションは同じくフランスの車両運行会社Keolis社の北米現地法人であるKeolis North Americaが行っている。
バスと同じようにドアは片側のみ
11名が乗車できる車内。この車両の内装はバスや空港シャトルのような公共交通機関と同じ雰囲気である。ATSC3.0のディスプレイが2面見える
車両には座席が11席あり、広さは日本的に言うと6畳間くらいだろうか。ここにLG電子のATSC 3.0受信機とモニターが2セット搭載されている。放送波はラスベガスの中心地から南東に20キロ離れたBlack Mountainに設置されているSinclair Broadcast Groupの次世代TVトランスミッター実験施設から送られている。セントラルホールのロビーにはATSC3.0の紹介エリアがあり、この車両と同じものも展示されていた。
実際の走行の様子はこちらを見ていただきたい。
非常にゆっくりしたスピードでの走行であり、遊園地の子供向けの乗り物といった感じだ。筆者は今回が自動運転車初体験であったが、乗り心地を判断できるような速度でも距離でもないのでなんとも言えない。ただ、最新技術が満載の自動運転車の中で、ATSC3.0を体験できたのはとても貴重なことだ。近い将来、こうした乗り物が街を走り回るようになった時をイメージすると、モビリティのイノベーションがもたらすはずの様々なことを想像できた。
運転しなくていいということは移動時間というもののあり方が根本的に変わってくる。今回は乗り合いバスの形式での運行であったが、自己所有なのかシェアなのかはともかく、一人で6畳ほどの移動空間を専有できるようになるのだ。誰もがストレッチリムジンを運転手付きで利用できるようなものである。
車両前後に設置されているカメラやセンサー
デモンストレーションパートナーのリスト
今回のデモ車両は、従来の自動車やバスと同様に窓が大きくなっているのだが、テレビを見たり仕事したりする場所とした場合には窓はいらない、または調光で暗くできたほうが快適なのだろうと思った。ATSC3.0によって移動中にUHD放送の受信も可能になれば、移動時間が大画面の映像エンターテインメントを楽しむ時間になるかも知れないとか、仕事をする時間になるかもしれないとか、今年のCESでトヨタが示したようなこんな近未来を十分イメージすることができた。
ドライバーレスと言っても、万一の時のために常に乗員が1名同乗していた。この乗員はゲームコントローラのような物を手にしていて、緊急時には非常停止をすることができる。このコントローラーはもちろん本来は必要ないものだから逆にゲームコントローラなのだという。
移動体向けの放送といえば、日本ではワンセグ、または条件が整っていればフルセグで受信することができる。しかし運転しなくていい自動車移動空間というものが一般的になっていくとすれば、放送のコンテンツもこうした視聴空間、視聴状況を視野に入れていくことになるのだろう。
また、いくら移動時間が快適になるとは言っても、振動やそれなりの騒音は避けられないために自宅やオフィス、ホテルなどと比べたら当然快適性は劣る。そのために、もしかするとテレビなどの映像を見る場所としてはこちらが主戦場になる可能性すら感じた。
txt:江口靖二 構成:編集部