txt:江口靖二 構成:編集部
オンラインとオフラインが連携した未来
DSJ2019では、新たにリテール領域に特化したデジタルサイネージ周辺のテクノロジーや事例を集める新企画「Next Retailing」が開催された。これはキャッシュレス、ウォークスルー、無人店舗、ダイナミックプライシンク、満空情報といったテクノロジーをベースにした、リテール領域での展示とセミナーで紹介する特設イベントである。こうした事例のほとんどが、何らかの形で情報の可視化を行う際に、デジタルサイネージとしてディスプレイなどを利用しているからである。
その中で特にサイネージとの連携が今後重要になってくると思われる事例を紹介したセッションが「オンラインとオフラインの境界をCXで溶かす試み」である。
これはOMO、つまりオンライン マージ オフラインと呼ばれるような領域で言われている、「オンラインがオフライン=リアル入っていくこと」が、それだけではなく、逆に「オフラインがオンラインにマージ」したり、「オンラインがオフラインにマージしてさらにオンライン」に回帰するようなことがすでに起こり始めているという事例が数多く示された。
登壇したのは楽天技術研究所 未来店舗デザイン研究室 室長/筑波大学 芸術系教授)の益子宗氏と、株式会社プレイド Resercherの秋山剛氏だ。
楽天技術研究所 未来店舗デザイン研究室 室長/筑波大学 芸術系教授)の益子宗氏と、株式会社プレイド Resercherの秋山剛氏
楽天研究所の事例として、「hitoke」という事例が示された。これはオンライン上での人気(にんき、ひとけ)を可視化するというものだ。楽天が開催しているオフラインの物産展のようなイベント会場内において、会場内に設置したディスプレイにどの店が人気が高いかを可視化するという試みだ。
オンラインショップなどでは人の気配を感じにくいのでそれを可視化したり、逆に多数の店舗が出店するようなリアルイベントでは全体像が把握できないので会場内のディスプレイに人気の濃淡をヒートマップ的に可視化するという試みである。まさにオンラインとオフラインが相互に溶け合うような話だ。
楽天の「hitoke」
益子氏は楽天技術研究所でオンラインとオフラインの融合について様々な挑戦をしている。彼らの研究領域では、はじめに「オンラインでは当たり前でもオフラインではそうでもないこと」を抽出して、それをオフラインに持ち込むことで、さらなる利便性を実現できないかという思考がベースになるという。たとえば、オンラインでは商品を検索できるが、オフラインの店頭では通常はできない。ではこの検索を店頭で実現できると何かいいことがあるのか、いいことがあるのであればそれをいかにして実現するのがいいのか、といったアプローチだ。
オンラインで当たり前でもオフラインではそうではないものの例
秋山氏が所属しているプレイド社は、KARTEというオンライン用のマーケティングツールを提供している。その中の「K∀RT3 GARDEN(カルテガーデン)」は、オンラインショッピング中のユーザーの動きをVRで可視化できるものだ。
K∀RT3 GARDEN(カルテガーデン)
秋山氏は、「オンラインマーケティングの世界に入り込めば入り込むほど、データ化、定量化されていないが確実に重要な価値の重要性を感じるようになった」と言う。そこで複雑で多量なデータを直感的に理解するために、VRという表現方法を考えた。これによってオンラインショップのユーザーを「数字」ではなく「人」として認識するだけで、向き合い方が大きく変わるというわけだ。
オンラインマーケティングのデータ至上主義に足りないことがあるという指摘
VRを使った可視化がオンラインマーケティングにもたらすもの
可視化されたオンラインのお客様。黄色はリピーターだ
これは先程のビデオを見れば明らかだ。カルテガーデンのユーザーの一人であるJAM HOME MADEの担当者は、「人の形をしているだけで、オンラインのお客様に対する意識が変わった」と感じているという。
JAM HOME MADEの例。写真右の奥からオンラインのお客様が入店して来る様子をリアル店舗でプロジェクションして体感する
このVR映像をオンラインショップに逆輸入することによるリアリティさが大きく変わるのである。VR映像をリアル店舗の壁にプロジェクションすると、サイトにアクセスしてきたオンラインユーザーが人の形でエントランスから入店してくるのだ。これはオフライン店舗にいる店員と顧客からすると、なんとも不思議な共有体験をもたらす。エンターテインメント要素の可能性も感じられる。これはまさにオンラインとオフラインがCXで溶け合う瞬間だ。
セッションでは益子氏、秋山氏共に繰り返してながら、「オンラインとオフラインを分けて考えてはいけない」ことを力説し、「これからデジタルによってオフラインにオンラインを取り込むような社会が来る。それに向けてさらに新しい顧客体験を考えていきたい」と締めくくった。
txt:江口靖二 構成:編集部