Inter BEE 2019 11月13日
岡英史 映像業界1年の締め括りとも言えるInterBEEが今日から開催された。今年はオリンピック前年も踏まえて各メーカーから新機種が色々登場している。その中でもSonyは東のNo.1カメラメーカーの名称号に相応しく魅力的な新製品をラインナップした。
まずはミドルクラス制作カメラとして定番のFS7をバージョンアップさせたFX9が登場。フルサイズセンサー+6Kが120万円で手に入るのは驚きでしかない。特に初期型のFS5ユーザーは買換えを真剣に考えた方が良いのかもしれない。
またブロードキャスト系としては4K+2/3型イメージセンサー+グロバルシャッター搭載のPXW-Z750が登場。ENG系4Kを待ち望んでいたユーザーには決め手の1台だ。筐体自体はいつものPXWデザインで担ぎ心地も悪くない。振り回せる4Kカメラが750という型番で出たのも興味深い。
オーディオ類も新型のデジタルA帯が登場。今までのSonyマウントは当たり前だが、下部のコネクターを交換することでUNIスロットにも対応可能。今回取材カメラで使っていたJVC GY-HC900CHにやっとデジタルワイヤレスが搭載出来るのは非常に素晴らしい。
個人的にはAIによるダイジェスト編集も見逃せない。特にスポーツ選手の関節や骨の動きをAIで予測し得意な技の予備動作を予測しそこを抜き出す技術はその解析を見てるだけでも面白い。ベースバンドからNDIに代わりAIまでもが映像業界を大きく変えるのかもしれない。
ヒマナイヌ 川井拓也 4カメ自動スイッチングによる無人配信でお馴染みのヒマナイヌスタジオ川井です。これからのトレンドは無人化ではないでしょうか?AIが発展していくと定形なフォーマットのあるライブ番組はほぼ自動化できると思います。カメラはもちろんスイッチャーもタイトラーもさらにはADの仕事なども。もしそうなったらコンテンツは最後どうなるのか?出演者の人間力だけが残るような気がします。今や人間がやる必要性を感じない改札口やバスの車掌さんなども自動化されています。クリエイティブと思っている業界もこの流れは避けられないでしょう。そうなった時、本当にその人の職能でしか表現できないモノだけが生き残る。クリエイティブサバイバルは人間とAIの戦いでもあるのです。
手塚一佳 「フルフレームRAW」と「CGとの親和性」のInterBEE2019
今回のInterBEE 2019は「フルフレームRAW」と「CGなどデジタルとの親和性」がテーマの回であったように思う。30分練り歩いただけても「Lマウント」と「Eマウント」の二つの2大フルフレームセンサーの潮流、そして「BlackmagicRAW」と「ProResRAW」の2つの圧縮RAWの潮流がはっきりと見られた。また、CGとの親和性では、各所に置かれたデジタルキャラクターとの合成だけでなく、レンズディストーションやシャドウを自動的に計算して合成の手間を減らす仕組み作りなども積極的に行われていた。
SIGMA fpは小さな巨人。立派なシネマカメラだ
まず、シグマでは新型シネマ/スチルカメラ「SIGMA fp」について触れた。このカメラはLマウントの裏面照射型フルフレームセンサーを搭載し、無圧縮CinemaDNGで収録をする怪物カメラながら、その大きさはフルフレームセンサー搭載機としては史上最小。小さな巨人と言うに相応しいカメラとなっていた。その小ささからユニット化できるメリットも大きく、今後の発展と普及が見込まれるカメラだ。
VISTA ONEは、シングルコートのフレアやゴースト強化という変わったレンズ群だ
続くケンコーブースでは、今まで日本未上陸だったシネマレンズ「VISTA ONE」を初展示していた。このレンズは、シングルコートでフレアやゴーストを多く表現するレンズのため、アクション映画の比率の高いハリウッド映画では広く活用されており、ついにその変わり物レンズが日本にも逆上陸した形だ。
Leitzレンズ群は圧巻!
Leitzブースでは、ズームレンズこそ展示されてはいなかったものの、フルフレーム対応の新型Leitzプライムシリーズが勢揃いで展示されるという、夢のある展示が行われていた。高額なレンズだけになかなかミドルレンジでは手が届かないが、いつかは使ってみたいレンズ群だ。
ついに出た!XPERIA1 Professional Editionは、始めからSonyカメラのモニタ機能を持っているスマートフォンだ
SonyブースではSONY定番のフルフレームシネマ機「VENICE」を見て、XPERIA1の新型「XPERIA1 Professional Edition」を軽く説明した。この、Sonyカメラと連動して手元モニタに出来る新しいスマートフォンは、ワークフローを大きく改善することだろう。
その後、隣のホールを歩きながら語ったのは、100メガピクセル時代に向けてのレーリー限界の到来=銀塩越え時代の到来と、その光学的対応(低いF値orラージセンサー)についてであった。その対応として、余裕のある設計のLマウントの可能性と、APS-Cサイズながら光吸収素材などの新素材・新レンズで軽量小型なラージセンサーを貫くEマウントの好対照が今回のInterBEEでは主役であっただろう。
Cinefadeは、また新しい映像表現を少人数で実現した
ナックブースでは、参考展示のC-motion「Cine Fade」と「ZEISS eXtended Data」の活用を見た。Cine Fadeは、単に電動のバリアブルNDというだけでなく、バリアブルNDを絞りと連動させることで、色味や暗さを変えないまま被写界深度を変更することが出来る仕組みであり、少人数撮影でもデヴィッド・リンチ監督のアクションシーンのような印象的なシーン作りを出来るようにするものだった。
ZEISS eXtended Dataは、撮影時のレンズのフォーカス値や絞り値をリアルタイムに録画データに書き込むことで、後からCG合成をする際に、そのデータからディストーションやシャドーを逆算し、画面の隅々までしっかりと追従した合成を実現するための仕組みだ。残念ながらまだ手作業でのファイルの書き換えが必須のため、システムエンジニアが撮影現場に出張ることの少ない日本での運用は現実的ではないが、近い将来の可能性を感じる仕組みであった。
Blackmagic DesignのVideoAssist 12Gは意欲的な機材だ
その後、Blackmagic Designブースで「VideoAssist 12G」シリーズから、圧縮RAWの本命の一つであるBlackmagicRAWの可能性について学んだ。特に同モニター付き収録機は、他社製カメラのRAWデータからも積極的にBlackmagicRAWを生成していこうという姿勢であり、大きくワークフローを変えて行くことと思われる。また、ついに日本でもBlackmagic Designがイベント内無料セミナーを展開したので、それをお勧めした。大きくソフトウェアが変わる時代には、こうした啓蒙活動は必須であり、大変にありがたい。
ATOMOS NEONは100万円前後という低価格帯ながら、収録機能付きの4K HDR業務モニターである
最後に立ち寄ったATOMOSブースでは4K HDR収録機付きモニター「NEON」を見て、その普及でRAWの処理が大きく進歩することをこの目で確認した。
デジタルコンテンツEXPOは大変に面白い!!
また、立ち寄れなかったブースでも色々と面白いモノが展開されていた。同時開催の「デジタルコンテンツEXPO」では、各CG系企業や大学、研究機関が、新しいデジタルコンテンツの可能性について展示をして居た。単なるVtuberのようなキャラクターモノだけでなく、カメラと連動して自動化されたキャラクターや背景なども多く展示されていて、InterBEEとの親和性の高さを見せつけていた。
シネマックスの「ミニドーリー」。大変に変わった機材で、色々な撮影方法を思いつく
様々な新奇性の高い機材があるのもInterBEEの特徴だ。中でもシネマックスブースの「ミニドーリー」は、その名前に反して複数のレールを組み合わせた変わった撮影装置であり、なかなか使い道を期待させるものであった。
こうした大きな動きのあるInterBEE2019であったが、とにもかくにも、フルフレームRAW時代と、それに伴う合成やデジタル処理などの活用がはっきりと見て取れる開催回であった。PC性能の都合でまだまだ非圧縮RAWは扱いきれるものでは無いが、圧縮RAWの潮流のお陰でこうした時代が一気に到来した、と言えるだろう。
井上晃 筆者としては久しぶりの参加となったInterBEE2019。日本における映像の祭典の雰囲気を十分味わいながら感じたことをデイリーリポートとして記そう。正直言うとHDから4K、そして8Kへと高解像度化のみを目標とする映像業界昨今のトレンドは、もう踊り場に差し掛かっているのでは、というのが正直な気持ちだった。
筆者が得意とするスイッチャー関連の機器も、とうとう8K対応のスイッチャーまで現れ、しかもそれは4K、HDでも有効活用出来る製品を前にしては、もうこれ以上何を求めるのか? これ以上何を付け加えるのだという疑問しか見えなくなった。今回リポートしたBlackmagic Design、Rolandの製品などは、今年4月から夏までに発表去れた製品群であり、今現在リポートすべき機器としてはいささか旧聞になってしまったかとも思ったが、ブースも近い範囲で回ってみると、その踊り場に差し掛かってしまったかと思われたスイッチャー機器も、各メーカーならではの更なる提案があって楽しかった。
特にスイッチャー製品としては、4Kなどは当たり前という状況を目前として、実際のライブプロダクションの現場として4Kを活用する日はまだまだ遠い状況を考えると、4Kカメラもまだまだ必要無いかも…と思わせる今の筆者の頭をリセットするような新たな提案、ROIや、将来の備えとしての4K機能という説明をされると、それは得心がいくものいくものとなったのは事実だ。
今回リポートでは取り上げられなかったが、パナソニックの4Kスイッチャーでも実装を検討しているROI機能は、スイッチャーに4Kカメラを繋げる意味を与える素晴らしい機能であると思う。それはスイッチャーを中心としたライブプロダクションをより多彩に彩るものでもあると思うし、そこには新たな制作スタイルをもたらすものでもあると思う。
今回特に感じたのは、このように従来の制作スタイルを固持せず柔軟な考え方の必要性だ。映像制作のスタイルは日々更新されていく。新たな制作スタイルに対応し、その効率を獲得したものが未来への扉を開いていくのではないだろうか。そんなことを感じたInterBEE2019であった。
土持幸三 今年のInterBEE2019、行くまでは「これ!」という目玉製品なりサービスがなかったのだが、丁寧に小さなブースを周ってみると興味深いものが多く見つかった。まずはエミックの「打ち合わせなし、Web上でデザイン」とうたった、カメラやレンズ機材用ケースの内装を自分でデザインできるケース。カメラにケージ、アクセサリーを付けたままカメラをケースに収めることができればいいなぁ、と思っていた筆者にとって、ピッタリの製品で価格もリーズナブル、すぐにでも欲しいと思った。KUPOのスタンドも、もう少しだけ小さければ最高なのだが、簡単に連結できて運びやすく、使い手の立場に立った工夫が感じされた。
大きなブランドの製品はもちろん魅力的なものが多いのだが、筆者は小さなブースで制作意図や工夫など、人々の話を聞いて周るのがInterBEEの醍醐味だと思っている。最後に見た電気が調味料になる?といったような「何故ここで?」と驚くほど楽しいブースもあるので、毎回見逃さないよう、小さなブースから先に見るようにしている。