txt:尾上泰夫 構成:編集部
ATEM Miniシリーズの選び方や使いこなしを紹介
放送品質を担保しながらも価格を4万円以下の価格で話題になった「ATEM Mini」登場から1年が経とうとしている。2020年4月3日には「ATEM Mini Pro」、2020年7月30日には「ATEM Mini Pro ISO」と次々と新モデルが登場し、さらにライブ配信の現場に浸透しつつある。そこで、種類が増えたATEM Miniシリーズの選び方や使いこなしについて紹介をしていこう。
PRONEWS編集部
- Vol.01 ATEM Mini Pro ISOを検証。各種ノンリニア編集の対応も確認してみた
- Vol.02 ATEM Mini、ATEM Mini PRO、ATEM Mini PRO ISOの選び方
- Vol.03 Blackmagic Desigからインターネットを介してビデオを送信できるユニット「Streaming BRIDGEIP」登場
ATEM MiniシリーズにATEM Mini Pro ISO登場
2020年7月30日に発表されたATEM Mini Pro ISO。価格は税別106,800円
最近の大ヒット商品ATEM Miniに録画機能を徹底的に搭載した「ATEM Mini Pro ISO」が登場した。今回はそのスイッチャーに接続された4本全部の素材とスイッチされたプログラム1本の計5本を録画する機能に対してフォーカスしてみたいと思う。
ご存知のようにATEM Miniはビデオスイッチャーという複数の映像を切り替えていく道具である。つまり、リアルタイムにカメラを切り替えたり、パソコン画面に切り替えたるすることで実時間での編集を行う道具とも言えるわけだ。
スイッチするタイミングが全て適切なら、これほど制作時間を短縮の出来る方法はない。しかしボタンを押すタイミングが少し遅かったり、操作を間違えることもあるだろう。仕上げたいコンテンツには不要な時間の間がある場合もある。
これらの編集を行うために、時間を縮めるだけなら切り詰めていけば良いが、スイッチのタイミングを調整したい場合にはカメラの編集前素材が全部必要になるわけだ。そこで各カメラ毎の録画をしておくわけだが、編集のために記録された各カメラのファイルの同期をとる作業が発生することになる。このあたりの手間はベテランになればルーティーン作業としてこなしていくが、慣れないと複数のカメラ同士のタイミングを正確に合わせることが面倒という相談をよく受ける。
ATEM Mini Pro ISOではタイムコードジェネレーターが搭載されているため、プリセットもできるが、標準では時刻フリーラン同期タイムコードが4ソース全部のパラRECファイルと、スイッチングアウトのPGMファイルが全てファイルの頭が揃った状態で同時に記録される。
まずは記録時間の対応ではどうだろう。素朴な疑問が湧いてきた。つまり、どのメディアに何時間くらい記録できるのだろうか。設定方法は配信品質という項目で6種類から選択できる。設定画面や、マルチビューの画面では赤文字のRECの下には記録した時間。左の赤丸の中では記録可能な残り時間が逆算表示されるので、とても親切だ。青色のスタンバイしているメディアの記録可能時間も表示されている。
約6時間の連続記録をテスト
今回の実験した環境を紹介しよう。
- 入力1:カメラ(BMPCC)
- 入力2:カメラ(G-3)
- 入力3:パソコン(Windowsデスクトップ)
- 入力4:パソコン(Macデスクトップ)
録画時間は手持ちのメディアを使い切るまで試してみたかったので、スイッチングは5秒毎に入力を切り替えるループのマクロを組んで自動で実行して6時間連続で記録してみた。
記録時間は映像の内容によって変化する
6時間録画したファイルの容量を比較してみよう。ご覧のように入力ごとに大きな開きがある。
動きのないPCからの画面とカメラからの画面の違いである。録画品質によるメディアの使用量以上に画面の動きで変化する記録ファイルの容量が大きく変わる。このISO記録はVBR(バリアブルビットレート)なのだ。最大135Mbpsから最小850kbpsまでの幅を持っているようだ。
記録可能な残り時間は画面に逆算表示されるが、映像の動きによって変化すると考えた方が良い。記録されたファイルを解析した結果は、以下の通りだ。
コンテナフォーマット | MPEG-4 |
プロファイル | Base Media |
OBR モード | VBR モード |
オーバルビットレート | 12.9 Mbps |
ビデオフォーマット | AVC |
フォーマット/情報 | Advanced Video Codec |
プロファイル | Main@L5 |
設定 | CABAC / 1 Ref Frames |
CABAC | はい |
RefFrames | 1 フレーム |
Format settings, GOP | M=1, N=60 |
コーデック ID | avc1 |
コーデック ID/情報 | Advanced Video Coding |
ビットレートモード | VBR モード |
ビットレート | 12.8 Mbps |
最大 | 135 Mbps |
幅 | 1920ピクセル |
高さ | 1080ピクセル |
解像度 | 16:9 |
モード | CFR モード |
フレームレート | 59.940(60000/1001)fps |
Color space | YUV |
Chroma subsampling | 4:2:0 |
Bit depth | 8ビット |
スキャンの種類 | プログレシッブ(PPF) |
ビット/(ピクセル*フレーム) | 0.103 |
ストリームサイズ | 137 MiB(99%) |
Color range | Limited |
Color primaries | BT.709 |
Transfer characteristics | BT.709 |
Matrix coefficients | BT.709 |
Codec configuration box | avcC |
オーディオフォーマット | mp4a |
コーデック ID | mp4a |
ビットレートモード | VBR モード |
ビットレート | 128 Kbps |
ストリームサイズ | 1.37 MiB(1%) |
Type | Time code |
フォーマット | QuickTime TC |
フレームレート | 59.940(60000/1001)fps |
複数デバイスで連続記録を実験
長時間撮影を記録する場合、複数デバイスで連続記録ができるので試してみた。この場合はATEM Mini Pro ISO本体のUSB-Cから分岐するハブが必要になる。手元にUSB-CからUSB-Ax4、SDカードリーダー付属のハブを利用してみた。
ここで試した記録媒体はSDカード、USB-Aから接続するSSD、HDDの3種類だ。設定では2個のメディアを指定しておくことができる。任意に記録するメディアを切り替える事もでき、メディアが満杯になって記録できなくなる時には次に設定したメディアに自動的に切り替わる。
録画動作中に複数接続してある記録をしていないUSBデバイスの選択を切り替えたり、使用していないUSBのメディアを交換できるので、運用的には無制限に記録できるのかもしれない。
SSDは問題なし。HDDも問題なし。UHSスピードクラス2のSDカードは途中で録画が止まることがあった。ATEM Mini Proでは便利にプログラムのみの記録で活躍していたSDカードだが、ISOではパフォーマンスが足りないようだ。
■切り替えた時のフレーム落ちはないのか?
結果的にはフレーム落ちもなく、前後のファイルをノンリニア編集ソフトに並べると、しゃべりの音声でも違和感なく繋がる。
■メディアが一杯で止まった時に最後のファイルは大丈夫か?
これもメディア残量が完全に無くなる前にファイルクローズのできる状態で停止するため、最終ファイルも安心して扱うことができる。綺麗に終了処理されてファイルは最後のフレームまで残っていた。
各種の編集ソフトでのファイルオープン
推奨の編集環境は同社が普及しているDavinci Resolveである。ATEM Mini Pro ISOでは記録済みのPGMファイルが置かれるディレクトリに「.」という「.drp」という拡張子のDaVinci Resolve Project Fileが保存されている。ここにはすでにファイルがインポートされ、同期が揃ってカット点で切り分けられた編集作業がすぐにできる状態で並んでいる。ここに感激してしまう。
■DaVinci Resolveで開いた場合
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さて、編集では好みのソフトを使いたいという要望が多いだろう。みなさんが普段利用する編集ソフトで利用できるようにするためには、一度Davinci Resolveで開いてからXMLファイルでシーケンスを保存し直すことでやりとりができる。
ここでのポイントは(.xml)の拡張子であるFCP 7XML V5ファイルを選択することだけだ。
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■Final Cut Proで開いた場合
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■Adobe Premiere Proで開いた場合
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■グラスバレーEDIUSで開いた場合
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結論
ATEM Mini Pro ISOは編集前提なら神ツールだ。
おのりん(こと 尾上泰夫)|プロフィール
映像に関わり47年。テレビの報道取材がフィルムからビデオに替わった初期のテレビで、報道、スポーツニュースをカメラマンとして過ごす。その後、制作に興味を持ち旅番組の演出を担当。さらにモータースポーツの中継番組からメーカーのプロモーション映像、大型展示映像などを手がける。インターネットでのIP動画配信でカジュアルな映像機器がもたらす動画の可能性を感じて、より小型でシンプルなシステムを啓蒙してコンテンツホルダー向けのコンサルティングや、発信する組織、個人に向けた動画の学校を主宰している。 br>
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