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PTZカメラの「Auto Tracking」でライブ配信のオペレーションを省力化
ZoomやGoogleプラットフォームを用いたライブ配信は、現在の映像業界や教育施設において必要不可欠な存在となっている。講演会や大学の授業では、高画質な映像とともに、スムーズなカメラワークが求められる。しかし、複数のカメラを有人で操作するには高いスキルとリソースが必要となる。
例えば講演会形式では、中央に大きなスクリーンを配置し、左右に進行役やパネリストが着席する構成が一般的だ。質疑応答がある場合、カメラを聴衆に向ける必要もあり、全景用の引きカメラ、登壇者用の寄りカメラ、質疑者用のカメラといった複数台のカメラが求められる。これらを運用するためにはオペレーターが必要であり、登壇者の動き次第では迅速な対応を迫られることもある。
こうした課題を解決するために、パナソニックのPTZカメラを活用した自動追尾機能「Auto Tracking」が有力な選択肢となる。本機能は、顔認証と人体検出を組み合わせたAI技術を活用し、同社のPTZカメラで、被写体の動きをリアルタイムに追尾することができる。これにより、少人数体制での運用がよりスムーズになり、多彩な映像演出も可能となる。
Auto Trackingは、パナソニックのソフトウェアプラットフォーム「Media Production Suite」の有償プラグインとして提供され、IP接続を活用することでシンプルなセットアップが可能な点や、最大8台のカメラを同時に制御できる機能も搭載されており、大規模な講演会や教育機関での利用にも適している。
Media Production Suiteの機能や操作については、こちらの記事で詳細を参照してほしい。
本記事では、Auto Trackingの仕組みや特長を詳しく解説するとともに、実際にテストを行った結果や、具体的な活用シーンについて考察する。
内蔵自動追尾機能と有償プラグイン「Auto Tracking」の違い
パナソニックは大きく2つの自動追尾機能を提供している。同社のPTZカメラAW-UE150A、AW-UE80、AW-UE50、AW-UE40の4機種には「内蔵自動追尾機能」(無償)があらかじめ搭載されている。※内蔵自動追尾機能の利用にはファームウェアのバージョンアップが必要な場合があります。
しかし、より高度な制御や顔認証機能、人体検出を使った精度の高い追尾を求める場合は、Media Production Suiteの有償プラグインAuto Trackingを導入したほうがよい。
このプラグインには1台のカメラの制御する「AW-SF100G」とライセンスを組み合わせて最大で8台まで同時制御が可能な「AW-SF200G/SF202G/SF203G」の2種類が用意されている。
いずれのライセンスを使う場合でも、設定や運用には同社が無償で提供しているソフトウェアプラットフォームMedia Production Suiteの利用が前提となる。カメラ本体だけで動く無償版の内蔵自動追尾機能でもある程度のトラッキングは期待できるが、複数人が交差する状況や被写体が頻繁に動き回る環境では、プラグイン導入による顔認証機能のほうがトラッキングの安定度が高い。
「Auto Tracking」基本操作について
デモ撮影で感じたAuto Trackingの粘り強さ
Auto Tracking AI顔認証+人体検出によるトラッキングテスト
筆者はAuto Trackingプラグインの実力を確かめるため、暗めの事務所スペースでデモ撮影を行った。あえて黒系の服を着た被写体が前後左右に動き回り、ときには2名が交差するようなシチュエーションを再現してみた。カメラに内蔵された無償版の内蔵自動追尾機能と比較してみたところ、Auto Trackingを使った場合のほうが明らかにロストしにくく、粘り強くターゲットを捉えていた。
被写体が他人の陰に一瞬隠れた場合でも、再び姿を現した際にはすぐに追尾を再開してくれるケースが多い。Media Production SuiteのGUI上では、メインターゲットとなっている人物に青枠が表示され、その他の検出された人物や物体にはグレー枠が付く。クリックひとつでターゲットを切り替えることも可能なため、ステージ上に複数人が立っている場面でも焦らずに追尾対象を変更できる仕組みだ。
AIを活用した「顔認証+人体検出」
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Auto Trackingプラグインが優れているのは、AI技術による顔認証と人体検出を併用できる点だ。カメラ内蔵の自動追尾機能でも一定のトラッキングは行えるが、複数人が交差する状況や、被写体がほかの人物や物体に隠れた場合に途切れやすいケースがある。このプラグインを導入した場合は、顔認証と人体検出の両面から被写体を検索し続けるため、ロストしにくい。
実際の検証でも、黒い背景に黒系の服装という条件下であっても被写体を捉え続ける場面が多かった。また、追尾中の被写体を見失ったとしても、GUI上で別の人物をクリックすれば即座にターゲットを切り替えられるため、運用上のストレスは比較的少ない。
直感的なGUIによる柔軟な構図設定
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被写体を「FullBody(全身)」で捉えるか「UpperBody(上半身)」で捉えるかを切り替える設定もあり、それぞれの構図やフレーミングを3種類までプリセットできる点が便利である。たとえば「やや引きのフレーム」「バストアップ」「スライド+人物」など複数の構図をあらかじめ登録しておき、GUIのボタンを押すだけでカメラアングルを瞬時に切り替えることができる。
講演会や製品発表イベントなど、シーンがめまぐるしく変化する現場では、オペレーターがマニュアル操作でカメラを振り回す手間を大幅に省きつつ、多彩な演出を試しやすい。配信の現場では画質をそろえるために複数のカメラ設定を合わせる必要があるが、色調や明るさなどを細かく調整できるメニューが備わっており、他機材とのマッチングにも配慮しやすい。
複数台運用と遠隔操作
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Auto TrackingプラグインはMedia Production Suite上で動作するため、IPネットワーク経由の遠隔操作や複数台の一括管理が行いやすい。ライセンス「AW-SF200G」「AW-SF202G」「AW-SF203G」を組み合わせれば最大8台まで同時制御が可能で、1画面に最大4台のライブ映像を並べて監視・切り替えを実施できる。
実際に複数台のPTZカメラをAuto Trackingと組み合わせて運用した際、各カメラのトラッキング精度やレスポンスの差はほとんど感じられなかった。特に、異なる視点からの被写体追尾が求められる場面でも、ターゲットの自動切り替え機能が有効に働く。また、同一ネットワーク上に接続されたカメラを遠隔操作する際、レスポンスの遅延はほぼ感じられず、GUI上でのカメラ切り替えもスムーズに行える。
加えて、筆者が実際に2台のPTZカメラを現場に持ち込み運用した際には、セットアップの容易さを強く感じた。暗めの会場での撮影でも、GUI上で2画面を同時にプレビューしながら色合わせを行いやすく、学生など初心者オペレーターでも直感的に操作できた。事前にプリセットを登録しておけば、カメラの向きや画角、色味などを素早く再現できるため、複数アングルを求められる現場でも対応が容易である。
自動追尾機能は便利だが、被写体が下を向いたり、長時間顔が隠れたりするとトラッキングが外れるケースもある。そのような状況ではオペレーターが手動でトラッキングを切り替える必要があるため、完全に放置して運用できるわけではない。ただし、UI上で被写体のロスト状態が可視化されるため、オペレーターが状況を即座に把握しやすい点は大きい。
今後の展望
NDI®※1ライセンス無償化をはじめ、IPベースの映像伝送がより身近になった。こうした流れの中で、少人数でも高品質な映像配信を可能にする技術として、Auto Trackingが注目されている。ステージや講義を安定して捉え、視聴者に見やすい映像を提供しながら演出の幅を広げられる。
短期間のデモで、想像以上に安定したトラッキングを確認できた。イベントや講演会での活用に大きな可能性を感じる。ワンオペでも複数人配置でも、配信のクオリティを維持しつつ運用負荷を軽減する手段として、パナソニックの「Auto Tracking」プラグインを試してみてはいかがだろうか。まずは90日間の無料トライアルで、実際の運用環境での実力を確かめてほしい。
今後のアップデートや活用事例の拡大にも期待したい。オペレーションの省力化と映像品質向上に貢献する機能のさらなる進化が楽しみである。
※1 NDI®は 映像伝送・制御技術であり、Vizrt NDI ABの米国およびその他の国における登録商標です。
Auto Tracking チュートリアル動画
その他にも様々な動画があるので、気になる方は こちらを参照してほしい。