Autodeskが買収したSoftimageが力を入れて開発していたSOFTIMAGE|Face Robot。ボーンの親子関係や動きの範囲指定を設定しながら、顔面の筋肉構造を考慮した動きを付けることが可能なため、自然な表情をもったアニメーションを作成できる。(C) Image courtesy of Softimage Co. and Avid Technology Inc.

Autodeskが買収したSoftimageが力を入れて開発していたSOFTIMAGE|Face Robot。ボーンの親子関係や動きの範囲指定を設定しながら、顔面の筋肉構造を考慮した動きを付けることが可能なため、自然な表情をもったアニメーションを作成できる。(C) Image courtesy of Softimage Co. and Avid Technology Inc.

10月後半に発表されたAutodesk(米カリフォルニア州サンラファエル)によるSoftimage(カナダ・モントリオール)の買収。CG制作に携わっている人にとっては、かなり衝撃的なニュースであったが、映像編集制作部分では意外とまだ知られていなかったりするようだ。CG分野と言って頭に浮かぶのは、やはりゲーム映像という印象が強いからかも知れないが、もはやハイエンドな映像においては、合成素材に3DCGを使用する事はありふれたものとなってきている。3DCGツールの開発会社の買収は、映像制作環境にも少なからず影響を与えることになる。

今回、Autodeskが買収したSoftimageは、Avid Technology(米マサチューセッツ州チュークスベリ)の3DCG部門を担ってきた子会社だ。Avid製品のなかでも、合成システムAvid DSや、オプション製品のStudio Tool Kitに含まれているAvid 3Dなどは、もともとSoftimageの3D技術を使用して開発されてきたものだ。Avidとしても、映像作品において3DCGとの連携が欠かせないものとして開発してきたはずであったが、映像編集とオーディオ編集部分の開発に集中していく方向を選択したようだ。

この背景には、3DCG制作ツールが機能と価格のバランスを欠いてしまったことが挙げられる。各社の3DCGソフトウェアはGPUとの連携を深め、高速なレンダリング処理をすることによって、最終クオリティはほとんど差がつかなくなった。PCの高速化・大容量メモリの搭載と、GPU処理によって、よほど大規模な並列演算処理をするのでない限り、演算時間もそれほど大きくは変わらない。差別化する部分といえば、制作ワークフローにおける連携のしやすさやデータの共有化、データの管理といった地味な部分が中心になってしまった。ワークフローの強化は重要なポイントではあるが、映像クオリティの向上に比べれば、縁の下の役割であるといってもいい。これを追加したからといって、価格面に上乗せできる状況ではない。

3DCGツールの価格といえば、エントリーモデルがMicrosoft Officeよりも安い価格帯だ。プロフェッショナルツールの代表格であるAdobe Systemsの写真修正ソフトウェアPhotoshopですら約10万円。デザイン、写真、映像の各分野で必携と言えるソフトウェアでありながらも、この価格帯は維持している。この価格がユーザーにとって適正かどうかは置いておくとして、3DCGソフトウェアがクリエイティブなプロフェッショナルツールでありながらも、ビジネスソフトより安いという事実は、まさに価格破壊の自殺行為に等しい。Avidにとって、開発コストはかかっても価格を上げることのできないCGアニメーションツールを、開発費と価格のバランスを欠いたまま保有するメリットが見出せなくなったようだ。

Softimageを手に入れたAutodeskは、今後、ハイエンド映像制作環境において3DCG連携をより深めていくことになるだろう。Autodeskは、古くはKinetixを買収して3D Studio MAXを手に入れ(1990年)、最近ではAlias Systemsを買収してMayaを手に入れた(2005年)。そして今回のSoftimage買収でSOFTIMAGE|XSIを手中に収めた。これで、フィルム・映像・ゲームといったエンターテインメント市場で使用されてきたメジャーな3DCGツールの3本をすべて保有することになってしまった。3つのメジャーツールを買収により手に入れたことで寡占状態に近い状況になるのだが、Alias SystemsもSoftimageもカナダ系企業なので、米国内法の独占禁止法にはあたらないようだ。

Alias Systemsと今回のSoftimageの買収では、共通点も見出せる。両者ともに3DCG制作を効率化させる別の製品や新技術を保有していたことだ。Alias SystemsではCGモデルのモーション作成を効率化するためのMotion Builderであったが、SoftimageにはフェイシャルアニメーションソフトウェアのSOFTIMAGE|Face Robotや、キャラクター アニメーション プラグインSOFTIMAGE|CAT、アセット管理のSOFTIMAGE Alienbrainが存在していた。特に、今後3DCGもハイビジョン映像に対応していかねばならないことを考慮すれば、自然な表情のある3DCGアニメーションは欠かせない状況であり、ここ数年にわたってSoftimageが力を入れて開発してきたSOFTIMAGE|Face Robotの存在は魅力的だったに違いない。

Autodeskは、同じような機能を持つ3DCGツール3製品を、どう差別化していくのか? あるいは、買収による企業再編のあとは、保有するソフトウェアの再編を考えているのか? 筆者は、後者になるのではと予想する。既存ユーザーのことを考慮すれば今すぐにというわけではないだろうが、同じような機能を同時に開発して同時に搭載していくのでは、3社分の開発を1社で行うことになり、3製品を保有するメリットは少ない。いずれは必要な機能を絞り込みつつ統合していこうとしているのではないだろうか。

WRITER PROFILE

秋山謙一

秋山謙一

映像業界紙記者、CG雑誌デスクを経て、2001年からフリージャーナリストとして活動中。