デジタル家電、オーディオ機器などに関する世界最大の見本市2009 International CES(Consumer Electronics Show、日本語サイト、以下CES 2009)が1月8~11日の4日間、米国ラスベガスで開催された。会場全体のトレンドについては、Vol.01で報告した。今回のレポートでは、そのトレンドのトップに挙げた「立体視」について、さらに詳しく報告しておこう。

今年のCES 2009で、最も特徴的だったのは「3D立体視環境」の浸透だ。薄型テレビ扱うほとんどのメーカーが立体視テレビを出展していた。各社ともディスプレイの薄型化、大型化の競争から一歩抜け出して、立体視テレビによって、さらに付加価値を産み出そうとしているのが感じ取れた。立体視にはさまざまな方式があるが、CES 2009で主流だったのは、裸眼立体視ではなく、専用のメガネをかけて視聴する方式であった。

RealD方式と液晶シャッター方式が混在する立体視

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NVIDIAの立体視メガネ。キーボードの上に赤外線エミッターがある。

NVIDIAの立体視メガネ。キーボードの上に赤外線エミッターがある。



立体視と言うと、以前流行った赤青メガネを用いたチープなものを想像するかもしれない。あるいは、解像度や視聴位置を犠牲にしつつも、裸眼で立体視できる裸眼立体ディスプレイを思い出すかもしれない。しかし、今回のCESで主流となっていたのは、RealD社の偏光立体視と液晶シャッターを使用する立体視であった。

RealD方式は、映画館の立体視でも使われている。左目右目のレンズに偏光板を使用し、左右の映像に偏光を加えて再生することで、左目右目それぞれの映像を分離する方法だ。立体視用のリサイクルメガネが安価であることが特徴だ。

もう1つの方式は、赤外線信号を受けて、左目右目のレンズが開け閉めされる液晶シャッター方式である。旧来のものと違って、フレームレートを高くできるようになったことで、ちらつきがとても軽減されているのが特徴である。NVIDIA社では液晶シャッター方式の立体視メガネを、主にゲーム用として$199で発売していた。

次世代HDMIは立体視を可能に。その再生環境はBlu-rayが標準

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常に人気だったパナソニックの立体視ブース。北京オリンピック開会式の映像などを上映(上)

常に人気だったパナソニックの立体視ブース。北京オリンピック開会式の映像などを上映(上)


ゲームはCG映像が主流のため、もともと立体視と親和性が高い。ソニーのPS3立体視ゲームコーナー(下)

ゲームはCG映像が主流のため、もともと立体視と親和性が高い。ソニーのPS3立体視ゲームコーナー(下)



最近のHD入出力インタフェースは、HDMI(High-Definition Multimedia Interface)が多く採用されている。1本のケーブルでHD映像も音声信号も入出力ができることから、機器の同士の接続が手軽で、民生機には欠かせないインターフェースとして普及してきている。このHDMIの次世代規格では、4Kクラスの超高解像度映像の伝送だけでなく、3D映像信号の伝送も考慮される予定となっている。右目用左目用の2チャンネル分の映像を同時に伝送できるだけの帯域を確保するもようだ。

映画館で立体視映像を視聴する時は気にならないが、家庭で立体視映像を見るには、どうしたら良いのだろうか? その回答として提示されたのが、立体視用に拡張されたBlu-ray Disk と、PlayStation 3などのゲーム機である。パナソニックは特設シアターで、専用のBlu-ray機器を使用して立体視用の映像を送出してデモを行い、ソニーはブース内でPlayStation 3のゲームを立体視で楽しめるようにしていた。

ハリウッド業界の立体視ブームが追い風に

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立体視映画『Avator』を製作中のジェームズ・キャメロン監督のコメント映像(パナソニックブースにて)

立体視映画『Avator』を製作中のジェームズ・キャメロン監督のコメント映像(パナソニックブースにて)



今年のCES 2009で顕著に感じられた立体視の勢いは、ハリウッド映画業界の立体視ブームも大いに影響している。ソニーの基調講演では DreamWorksのジェフリー・カッツェンバーグ氏が立体視のすばらしさを強調した。パナソニックブースでは、ジェームズ・キャメロン監督が立体視技術を支持すると話す映像が流れていた。映画館で観た映像がBlu-ray、DVD、衛星放送、ケーブルテレビで使用できるようになったと同様に、これからは映画館でしか観ることのできなかった立体視映画が、家庭でも視聴できるようにななっていくはずだ。

立体視の視聴環境と常に対になって議論される「立体視コンテンツ」についても、さまざまなな分野で充実してきている。ハリウッドの大作映画から、フルCG映画、各種ゲーム、ライブ映像、スポーツ観戦、オリンピックの開会式など、立体視してこそ価値のある映像素材が増えつつあるのが現状だ。コンテンツ不在の議論は、もう過去のことである。

パナソニックブースで流されたジェームズ・キャメロン監督の言葉で、「もう何を撮影するのも今は3Dだね。今度の娘の誕生パーティも 3Dで撮るよ」という台詞が印象的だった。

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SIP2100による立体視映像編集画面。左右の映像を調整している

SIP2100による立体視映像編集画面。左右の映像を調整している



映画業界でブームを起こしている立体視だが、実写映像素材のものとフルCG映像素材のものと、大きく2つに分けられる。その制作環境については、CG映像制作については3DCGソフトウェアMayaなどが対応し、立体視コンテンツを確認するためのディスプレイTrue3Diも活用されている。

実写映像の制作環境については、まだまだ立ち遅れている感じもあったが、昨年大きく進展し、編集環境が充実してきた。家電を主とするCESでの展示はなかったが、クォンテル、オートデスク、アビッド テクノロジーといったハイエンド編集製品で立体視への取り組みが加速している。特に3eality Digitalのステレオスコピック分析・較正システムSIP2100は、クォンテルのPablo編集機と連携することで、立体視映画で最前線を行く技術を可能にしている。例えば、映像編集の段階で、立体感の強さ・弱さを調整したり、カット切り替えの際の視差の調整や、片目のみに写り混んだフレアや反射などの消去や緩和など、立体視用に撮影した実写素材を適切に加工するさまざまな機能が用意されている。


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立体視可能なビデオチャット用のWebカムとして、MINORU 3Dが登場した。msn messanger, Skype video などごく普通のビデオチャットで利用できるが、その立体視方式は、赤青メガネを使ったアナグリフ方式だ。

立体視可能なビデオチャット用のWebカムとして、MINORU 3Dが登場した。msn messanger, Skype video などごく普通のビデオチャットで利用できるが、その立体視方式は、赤青メガネを使ったアナグリフ方式だ。

立体視ブームらしきものは、過去にも何度かやってきた。いつも盛り上がっては、クオリティや解像度、制作環境といった制約の中で下火になった。しかし、CES 2009で強く感じたのは、今年から始まる立体視ブームは本物ではないか?ということだ。チープな演出としての立体視ではなく、立体で視聴してこそ楽しめるコンテンツが充実し始め、長時間見続けても疲れない安価で手軽な立体視技術が出揃ってきたからだ。

これからは、劇場だけでなく、さまざまなところで手軽に立体視が楽しめる環境がやってくる。RealD方式であれば、オシャレな自分用の立体視メガネを常に持ち歩く。そんな日が遠からずやって来そうだ。

(安藤幸央)

WRITER PROFILE

安藤幸央

安藤幸央

無類のデジタルガジェット好きである筆者が、SIGGRAPHをはじめ、 国内外の映像系イベントを独自の視点で紹介します。